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頭が真っ白になるとは、正にこの事を言うのだろう・・・

まさか、求婚されるとは思っていなかった。してくれたらいいな・・・位には思ってはいたけれど。
だって、一度は背を向けてしまったのよ、家族に、レン兄様に。
あの時は『杉田有栖』としての生活があったのだから仕方がないと言ってくれるけれど、私自身が納得できないところがある。
今の私に対する優しさは、家族としての、次期侯爵としての義務の様なものだとどこかで思っていた。
だから本当は別邸の事だって、レン兄様が妻を迎える為の準備なのだと、頭では分かっていたのだ。

固まったままで動かない私に、レン兄様は不安そうに瞳を揺らす。
「やはり、僕では駄目か?」
「ち、違うの!とても嬉しい、嬉しい・・・の。だけど・・・」
いいのだろうか・・・私で、いいのだろうか・・・・そんな言葉がグルグル回る。
「ねぇ、アリス・・・いや、アリスティア。『スギタ アリス』と出会ってから、僕はね、ずっとずっと君が好きだった」
アリスティアとアリスが一つになれればといつも願っていた事。
例え一つになれなくても、アリスティアを、アリスを愛していた事。
会えなくなって寂しくて、この気持ちが負担になったとしても告白していればよかったと、ずっと後悔していた事。
アリスティアが殺されそうになったのに、アリスが戻ってきた事が嬉しいと思ってしまった事。
まるで懺悔するかの様に、淡々と語るレン兄様。

「綺麗な想いばかりじゃないこんな僕は、アリスに求婚する資格はないのかもしれない。でも、もう後悔はしたくないんだ」
「そんなの!私の方が綺麗じゃない!一度はこの世界に背を向けたのに・・・こんな都合が良い事に、嬉しくて、嬉しくて・・・・」
そう、こんな自分に都合がいい事が起きて、嬉しくて幸せで仕方がないんだ・・・・

ポロポロと涙が零れ「ごめんなさい」を連呼する私にレン兄様はそっと抱きしめてくれた。
「ねぇ、アリス。僕はもう二度と後悔はしたくない。次に会った時はどんな手を使ってでも、アリスを手に入れるつもりでいたんだ。物わかりの良いふりをして、大事なものを二度と失いたくないから。だからね、アリスが嫌だと言っても僕の奥さんになる事は、決定事項なんだよ」
温和を絵に描いた様なレン兄様からは想像もつかない言葉に、涙が止まるほど驚き彼を凝視した。
「幻滅したかい?」
何処か吹っ切れたように笑うレン兄様は、今まで以上にかっこよく見えて言葉が出なくなる。
きっと今の私は、恥ずかしい位に顔が真っ赤に違いない。
「決定事項だけど、一応返事を聞いておこうかな?」
私に罪悪感を持たせないよう、ちょっとだけ悪ぶった聞き方をするけれど、その眼差しは何処までも優しい。

あぁ・・・やっぱり好きだわ。大好き・・・・

「ふふふ・・・レン兄様、私を奥さんにしてください。兄様は私の初恋なの。大好きよ」
まるで秘密を打ち明けるかのように、ひっそりと返事を返せば、何故か驚いた様な顔をして今度は彼が固まってしまった。
「レン兄様?」
顔を覗き込めば、私に負けず劣らず真っ赤になっている。
そんな彼が可愛くて愛しくてしょうがない。

人を愛するって、こう言う事なのかもしれない。
どんな表情も、愛しくて想いが溢れ出るのを止める事が出来ないから。

「レン兄様、ありがとう。私を好きでいてくれて・・・ありがとう」
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