側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん

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「全て上手くいきましたね」
顔は疲れを滲ませているものの、どこかすっきりした表情のヴィルト。
「順調すぎて、何だか怖い位なんだけど・・・」
思っていた事が余りにもスムーズに進みすぎて、エルヴィンとしては何処か不安げだ。
「だが、これで我が国やフロイデン国の問題が一気に片付いたのだ。フェレメン国がどう対処するのか分からないが、取り敢えずは大成功と言っていいだろう」
そう言いながら、ブライトは満足げに頷いた。

あの祝賀会から既に一週間が経っていた。
あの晩、イライザがグレーグがいる庭に足を向けたのは、決して偶然ではない。
ブライトを早々に諦め優良物件を探していた彼女の側で、仕込みの令嬢達がわざとグレーグの話題を出したのだ。
『グレーグ様って、素敵よね』
『本当に。久し振りにお顔を拝見したけれど、年齢を重ねるごとに素敵になられて』
『そうね。お妃様が羨ましいわ』
『あなた、側室でも狙ってみたら?側室にも、とてもお優しいという話よ』
などなど、イライザの近くでわざとらしくベタ褒め。
最後に、それとなく庭で休んでいるところを遠目だが見たと言った瞬間、イライザが踵を返したのだ。
その後ろ姿を眺めながら、この計画に関わっている者達が心の中で、イライザにエールを送った事は言うまでもない。

そして、ブライト達の期待を裏切る事無く、イライザは本懐を遂げた。
グレーグの『友好国の女性には手を出さない』という誓いも虚しく、あてがわれた己の部屋へとイライザを招き入れてしまったのだ。

そして当然の事ながら翌朝、とある一角の客室が騒然となった。
勿論、騒ぎを大きくしたのはこれまた仕込みの侍従。
自国のフェレメンでなら、まだ何らかの手を打つことが出来た。だが、相手は友好国のカスティア。
しかも手を出したのが侯爵家の令嬢。すでに噂は広まり揉み消す事は不可能。
同意があったとか、無かったとかは関係ない。謝罪だけでは済まされないほど、騒ぎは大きくなってしまっていた。―――仕込みの者達の所為で。
国王ブライトによる、フェレメン国王への王太子に対する正式な抗議をおこない、謝罪と責任追及要請をすぐにした。
そして表向きは友好の証として、イライザを側室へと迎える旨をもぎ取ったのだ。

ブライト達は、阿婆擦れを隣国フェレメン国第一王子の側室へとねじ込んでしまったのだ。

これには個人的にグレーグに因縁のあるブライトとエルヴィンだけではなく、フロイデン国も大喜び。
フロイデン国は迂闊に手を出せなかった王太子を、カスティア国は国王夫妻に害を及ぼす二人を一気に排除できたのだから。
阿婆擦れとは言え、カスティア国とフロイデン国の役に立ったイライザ。
彼女を始末しなくてよかった、と胸を撫で下ろした者がいた事は内緒である。
カスティアとフロイデンでは邪魔者を排除できて歓喜に沸いていたが、隣国フェレメンでは違っていた。
女好きではあるがそこそこ優秀だった王太子。だが、友好国の高位貴族の令嬢に手を出してしまった事は、笑って済ませる話ではなくなってしまったのだ。
国王も前々から危惧していた事であり、何度も釘を刺していたのにこの始末。
自国でも印象の悪い彼が、他国の令嬢にも手を出した。
その噂は光の如く国内を駆け巡り、庇い立て出来ない状況になっていた。
当然の事ながら、グレーグはその地位を剥奪され、第二王子が王太子へと繰り上がった。
元々、第二王子も優秀で、女好きで問題ばかり起こす第一王子より国民からの人気は高かったのだ。
元王太子も本来であれば身分剥奪位はしたかったが、離縁できない者もいる為(例えばイライザとか)侯爵へと臣籍降下し、表向き当主はグレーグではあるものの、実質動かすのは齢十一才の彼の息子になったのだ。
よって、グレーグの行動は必然的に封じられ、若くして隠居生活へ。
女好きの父親からは到底信じられないほどの真面目で優秀な長男へと、全ての権限をゆだねられたのだった。
いくら優秀とはいえ、成人すらしていない子供であるが、祖父に当たる国王から送られたこれまた優秀な側近達に囲まれ、思いの外才能を発揮しているという。

「成人もしていない子供が、侯爵家を切り盛りしているとは、恐れ入るね」
「まぁ、フェレメン国きっての天才と呼ばれ、祖父でもある国王に一番可愛がられているようだから、将来的には表舞台に駆り出されるかもしれないな」
「その時はその時さ。それに、イーサン様の時代になっているだろうし、殿下達が良い様にやってくれるさ」
エルヴィンとヴィルトの話を聞きながら、ブライトは何処か気の抜けたようにソファーに沈んだ。

これでやっとアウロアやブライトの目の上のタンコブが消えた。
今までもそれほど気にはしていなかったが、アウロアの周りを飛び交う害虫を駆除できたことにブライトはようやく実感が湧いたかのように安堵したのだ。
害虫たちは単に自分らに害を為すだけではなく、恩恵も与えてくれていた。
それは、アウロアとの関係がより近くなった事。

リーズ国のアドルフの功績は大きいな。と、ブライトはほくそ笑む。
彼のおかげでアウロアと寝室を共にする事が出来、今もなお共に寝ている。
未だに触れるお許しは出てはいないが、一緒の部屋で眠る事さえ断られていた時の事を考えれば、かなりの進歩だ。
子供達を交えなくても共に眠ってくれる。
最近では、抱きしめて眠る所までは許してくれるようになった。

―――かなり、理性を試されているがな・・・・

思わず思い出し眉間に皺が寄ってしまうが、自分がこれまで彼女にしてきた事を考えれば我慢できない事もない。
結婚する時もこれといって、好きになってもらおうと努力もしなかった。
政略結婚の延長線上でアウロアに惹かれたのだから。
だが今は違う。例え夫婦であっても、遠い存在になってしまっている。
自分を好きになってもらわなければ、捨てられる。
自分の未来がはっきりしている分、ブライトは努力を惜しむことはない。
周りからどんなに姑息だと非難されようと、アウロアに愛して貰えるように努力するつもりだ。

今日もアウロアをどう口説こうかと考えていると、ノックする音が聞こえアウロアが顔を出した。
愛しい人の事を考えている時に、愛しい人が会いに来てくれる。

ブライトは、締まりのない顔だなと自覚しながらも、隠すことのない愛情を湛えた笑みをアウロアに向けるのだった。
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