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ホールから聞こえてくる喧騒を遠くに聞きながら、グレーグとイライザは穏やかな雰囲気の中、他愛無い話をしていた。
イライザは、グレーグがフェレメン国王太子である事に驚き恐縮していたが、彼の警戒心を取り払う様な気さくな言葉に次第に緊張感も薄れていった。
グレーグとしては、いつも女性を口説き落とす時と同様に、親しみやすさを全面に出しただけなのだが、それが彼女の真骨頂ともいえる話術に拍車をかける事となる。
そして彼は、知らず知らず彼女の言葉に、仕草に、面白い様に絡めとられていった。
いつもであれば、彼が女性を口説き落としにかかるのだが、今宵は反対に女性に口説き落とされようとしていた。
それも、本人の気付かぬうちに。
全く盾らしい盾もなく、イライザに攻め入られるままにグレーグは会話にのめり込んでいく。
始めはグレーグも警戒していた。
女好きではあるが、此処は友好国という事もあり、問題を起こしてはまずいと、アウロアを狙っていることなど棚に上げ、例え言い寄られても拒否するつもりでいたのだ。
今更ではあるが、グレーグはモテる。王太子としての外面だけを見ていれば、かなりモテる。
人当たりの良い笑顔。柔らかな話術。金髪碧眼で目鼻立ちのはっきりとした美しい容姿。
彼の本性を知らない女達がコロリと騙される位は、外面だけは完璧なのだ。
女好きのクズでさえなければ、かなりの優良物件だっただろう。
だが、彼はクズなのだ。天性の女好きなのだ。この手の病は、一生治らないのだろう。

先ほどまで疲れ切ったような顔のイライザだったが、今は安心したような穏やかな表情でグレーグと話していた。
そんなイライザを、失礼にならない程度に観察し始める。
柔らかそうな茶色の髪に、垂れ目がちな青い瞳。
雰囲気は可愛らしいのに、左の目元の泣き黒子と、豊満な胸がアンバランスでなんとも言えない危うい色気を醸し出している。
これまで付き合ってきた女性にはいないタイプで、グレーグの目線は自然と胸に吸い寄せられていった。
下品にならず、控えめながら胸の谷間を強調するドレス。
豊満な身体なのに、清楚さを全面に出す装い。今日のイライザは正にそんな感じだった。
ドレスの下に隠れている淫らな身体を暴きたい・・・グレーグの病が発症し始めた瞬間だった。

イライザは、グレーグに関する情報は一切持っていない。精々、結婚しているという程度しか知らなかった。
ただ、彼が遊び慣れている事は何となく分かった。
それは話の内容であったり、仕草であったりと、彼女から見ればとてもわかりやすい人間だった。
なので、あからさまには触れることなく、ちょっとした距離を保ちながら男心をくすぐる言葉や仕草で距離を詰めていったのだが・・・その効果はてき面。
ブライトに言い寄った時もチョロイと思っていたが、目の前の王子の方がブライト以上にチョロかった。
ブライトは話には乗ってきたが、触れ合う事を拒む雰囲気を全面に出していた。たが、目の前の隣国の王子は話にも乗るが、わかりやすいほど欲に塗れた視線を向けてくるのだから。

隣国の王子は確か既婚者よね。でも、上手くいけば側室になれるかもしれないわ!
グレーグ様も満更でもなさそうだし・・・ブライト様に見込みがない以上、ターゲットを変える事も致し方無い事よ。
それに、フェレメン国の王子様の側室だもの。今以上の生活が望めるはず!

イライザは、今現在の生活水準を下げようとは思っていない。
出来るなら、今以上を望んでいた。
かと言って王妃になりたいとは思っていない。顔も知らない国民全ての為に働くなど、考えたこともないし、したいとも思わない。
自分の事だけで手一杯なのに、何故他人の事まで考えないといけないのか。
要は、自分だけが楽に贅沢できればいいのだ。
そうなれば、最高権力者の愛人あたりが一番気楽だと思うイライザ。
そして今目の前に、優良物件が厭らしい目で自分を見つめているではないか。
ならば、遠慮する事はない。全力で落としにかかるのみ。
イライザはブライトを攻略しようとした時以上に気合を入れ、清純さを全面に押し出しつつ蠱惑的で婀娜な笑みをグレーグに向ける。

異性に対しての手練手管は、グレーグもイライザも似たり寄ったりなのかもしれない。
だがこの度の軍配は、蛇の様に未だにアウロアを諦めていないフェレメン国王太子ではなく、ただひたすら自分の豊かな生活の為だけに攻め続けた、イライザへと上がったのだった。
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