側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん

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フェレメン国王太子グレーグが、数多いる女の中でメイリと結婚したのは、自分の好みと全く正反対の容姿と性格をしていたからだ。
周りから見れば『何言ってんの、コイツ』と思われるかもしれないが、グレーグは至って真面目だった。
いつも追い求めている女は、蠱惑的で美しく・・・どちらかと言えば娼婦的な女。
後腐れなく、飽きれば互いに何の遺恨もなく別れる事が出来る女。遊び相手としては、それが理想だったから。
側室に迎えた女たちも、ごくごく普通の女や性的に開放的な女と様々。
平民にも一夜限りの相手もいれば、愛人として囲っている者もいる。
だが、妻となれば自分の好みなどと言ってる場合ではない。いずれは国母となり人々の頂点に立つのだから。
すぐ飽きてしまう女は駄目だ。だからこそ、全く好みではないメイリを娶ったのだ。
彼女は見た目はふわふわと可愛らしく、周りからは『妖精姫』と人気も高かった。
そして人柄も申し分なく、いかにも貴族の令嬢らしかった。
結婚は自分の為ではなく、家の為。夫は絶対であり、自分はあくまでも家を守る者。
何処までも従順な娘だった。
グレーグにはそれすらも都合が良かったのだ。どれだけ外で遊ぼうが、どれだけ女を作ろうが文句ひとつ言わない。ある意味理想の女。
側室は、自分を束縛しないだろうと判断した女だけを入れた。
別に気に入った女が出来れば入れ替えればいいだけの話。だからこそ、妻以外との間に子供を作る事はしなかった。
愛人はこぞって束縛を強要してくる。鬱陶しいが、自分を求めてくる言葉が態度が、グレーグを精神的にも肉体的にも満足させてくれていたのだ。
そんな女達に囲まれて、それなりの幸せを満喫していた所にアウロアが現れたのだから、堪らない。

何もかもが理想的だった。女神の如き美しい容姿。公爵令嬢と言う身分にも関わらず、それを鼻にかけるそぶりもない。
貴賤関係なく公平な立場を貫き、頭の回転も速く話題も豊富。
王族からすれば、正に理想の中の理想。
そんな彼女は言わずもがな、学園ではあっという間に時の人となっていった。
グレーグは王族という立場を笠に、アウロアに近づこうとするが、ことごとく敗退。
思い通りに縮まらないアウロアとの距離にイライラしているうちに、彼女に婚約者が出来てしまったのだ。
あれほど悔しい思いをした事は、後にも先にも一度きり。大いに暴れた事は言うまでもない。
それからというもの、グレーグの嫉妬の矛先は彼女の婚約者へと向けられた。
これといって容姿が優れているわけでもなく、ただ学問の成績が優秀と言うだけの、何の面白みもない男。
まるで自分がその男よりも劣っているのだと言われている様で、憎悪しか抱けなかった。
あの手この手で嫌がらせをし、婚約を辞退させようとしたが、それどころか二人は益々深い絆で結ばれていった。
悔しい思いをしながら指を咥えて見ている事しか出来ないそんな時、アウロアの婚約者が病に倒れた事を知る。
当然、グレーグは喜んだ。そして彼の病状を調べさせ、それが不治の病と知る。

グレーグは、ただ待った。
彼が死ぬのを、待った。
愛する人を失って弱ったアウロアを、優しく慰める自分を想像しながら。

だが、現実はそうはいかなかった。
フロイデンがアウロアとの面会を、全てシャットアウトしたからだ。
だがそれはある意味、アウロアが誰のものにもならないという事でもあった。
定期的に面会の打診はしながらも、グレーグは待った。
その間、何度側室を入れ替え、正妻が何度妊娠した事か。

そして数年後、彼の耳に届いたのは、フロイデンの独立とカスティア国王太子とアウロアの結婚だった。


思い出しても腹立たしい・・と、閉じていた目を開きめ付ける様に空を見上げた。
その時だった。
カサリ、カサリと誰かが近寄ってくる足音が聞こえたのは。
不機嫌さを隠すことなく顔を向ければ、一人の女性が驚いたようにグレーグを見ていた。
視線が合うと少し怯えたように目を見開き『誰もいらっしゃらないと思い・・・申し訳ありません』と頭を下げ立ち去ろうとした。
ホールから洩れる光だけでも見て取れるほど、目の前の女性の表情は疲れ切っていて、思わずグレーグは呼び止めてしまっていた。
彼とてゲスではあっても、弱っている女性に善意で手を差し伸べる事もあるのだ。

「気にしないでくれ。私も少し疲れてね。よかったら少し話さないか?」
「よろしいのですか?・・・では、少しだけ・・・」
しおしおと彼の隣に腰掛ける女性。彼女こそ、イライザその人だった。

そして、グレーグとイライザとの(イライザからの一方的ではあるが)、攻防戦が始まるのだった。
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