側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん

文字の大きさ
上 下
32 / 40

32

しおりを挟む
ブライトの挨拶が終わり、引切り無しに各国の要人たちが国王夫妻に挨拶に訪れていた。

相変わらずフェレメン国王太子は、厭らしい熱の籠った舐めるような視線でアウロアを見ているが、そんな視線を投げてくるのは何もグレーグだけではない。
好色貴族など各国に捨てるほどいるのだ。他国でもグレーグ並にゲスな国王も存在する。
そんな彼等が、傾国並みのアウロアを見て何も思わないわけがない。
子を産んでもなお、いや、産んで今まで以上の美しさと妖艶さとを醸しだすアウロアに、誰もが彼女の目に留まりたいと秋波を送ってくる。
そんな彼等にブライトは、表面上はにこやかではあるが牽制する事を決して忘れない。
相変わらず国王と王妃の椅子は近く常に手を握り、みるからに距離が近い。
毎年この祝賀に参加している者達は、国王夫妻のこれまでにない距離感に『まるで新婚のようだ』と口を揃えて噂した。
アウロアだけにではなく勿論、ブライトに対してもあからさまに媚びてくる令嬢はたくさんいる。
だが、皆アウロアを前にすると、その美しさに及び腰になり目の前から静かに消えていくのだ。
そんな令嬢たちの中で、ただ一人自信満々にブライトの前に立つのが、イライザだった。

彼女はブライトを諦めてはいなかった。

お礼の品を腹の中に納めたにも関わらず、接触してこようと必死になっていた。
だが当のブライトはアウロア以外、眼中にない。
あれだけ逢瀬を重ねたイライザの事など、まるで覚えていないかの様な態度に彼女はどうしたものかと考える。
振り向いてくれない男を必死に追いかけても、建設的ではない。
王宮からの使者の言葉が信じられず、確かめるために舞踏会に参加したのだが・・・どうやら、本当にようだと肩を落とした。
だが、すぐに顔を上げ周りを見渡す。
今、この会場にいるのは他国の高位貴族達だ。中には国王や王太子などもいる。
イライザとしては別に国内の貴族と限定しているわけではない。他国でもいいのだ。金にさえ苦労しなければ愛人でも側室でも構わない。
この変わり身の早さが、彼女の長所でもある。
そして、示し合わせたわけではないのに、ブライト側とイライザの思惑が一致した瞬間でもあった。


イライザが他国の男達に目を向けた事は、ある意味正解だった。何故なら、国内では彼女を娶ってくれるまともで心の広い人がいないからだ。
例え国内でいなくても、他国では貰ってくれる人がいるかもしれない。
例え彼女が阿婆擦れでも、バレなければ大丈夫かもしれない。
何故なら、彼女は腐っても高位貴族である事には変わりないのだから。
中身さえバレなければ、政治的利用価値は、一応ある。
そして静かに、ブライト達の計画は進んでいった。


フェレメン国王太子グレーグは、賑わう会場を離れ中庭のベンチに一人座っていた。
約一年以上ぶりに会うアウロアは、これまで以上に美しく光り輝いていた。
その美しさの余韻に浸るかのように、うっとりとした表情で目を閉じる。
学生の頃に比べ艶も出て、正に理想の女性そのものである。その全てを形作らせているのがブライトであるというのには腹が立つが、致し方無いと飲み込んだ。
彼女との出会いは、カスティア国からの留学生として、そして、親交の深いフロイデン次期公爵として王城に挨拶に来た時だった。
人とは思えない美しさに、その場に居た全ての人が息をする事も忘れ、彼女に目を奪われた事は言うまでもない。
彼もまたその一人で、一瞬で彼の心の中はアウロアで満たされ、ただただ彼女が欲しいとそれしか考えられなくなってしまっていた。
瞬時に彼の頭の中で、アウロアを娶る算段が繰り広げられる。
次期フロイデン公爵でもあり、カスティア国内でも一番の友好的な付き合いのある領土の令嬢。
武のフロイデンでもある為、余り波風を立てるのは好ましくない。
彼女には弟がいる為、他国に嫁いだとしても問題はないはずだ。
それらの問題がクリアされたとしても、彼女を娶るとなれば側室になってしまう。
出来るなら正妻として迎えたい。

あぁ・・・何故、昨年結婚してしまったのか・・・

グレーグはアウロアと知り合う前の年、十四才にして侯爵令嬢でもあるメイリと結婚したばかりだった。
そして妻となった彼女は、現在妊娠中。しかも先日、側室を増やしてしまい満杯状態。
アウロアを迎えるには、全てを一度手放さなくてはならないと考えていた。
彼女を迎える為ならば、全てを手放してもいいとグレーグは思っている。
だが欲深い彼は、彼女を手に入れてからでも遅くはないだろうと、そんな風にも考えてもいた。
アウロアを迎える為に全てを手放すのであれば、今この時を満喫しなくてはいけないとも。
今思えば、それはグレーグ的には正解だったが、アウロアを娶ろうとするならば、愚かとしか言いようがなかった。
だが当時の彼は、引く手数多な自分を一人占めできるアウロアは幸せ者だと、真実に目を向けることなく、正に妄想の中で一人幸せを満喫していたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【短編】可愛い妹の子が欲しいと婚約破棄されました。失敗品の私はどうなっても構わないのですか?

五月ふう
恋愛
「お姉様。やっぱりシトラ様は、お姉様ではなく私の子供が産みたいって!」 エレリアの5歳下の妹ビアナ・シューベルはエレリアの婚約者であるシトラ・ガイゼルの腕を組んでそう言った。 父親にとって失敗作の娘であるエレリアと、宝物であるビアナ。妹はいつもエレリアから大切なものを奪うのだ。 ねぇ、そんなの許せないよ?

【溺愛のはずが誘拐?】王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!

五月ふう
恋愛
ザルトル国に来てから一ヶ月後のある日。最愛の婚約者サイラス様のお母様が突然家にやってきた。 「シエリさん。あなたとサイラスの婚約は認められないわ・・・!すぐに荷物をまとめてここから出ていって頂戴!」 「え・・・と・・・。」 私の名前はシエリ・ウォルターン。17歳。デンバー国伯爵家の一人娘だ。一ヶ月前からサイラス様と共に暮らし始め幸せに暮していたのだが・・・。 「わかったかしら?!ほら、早く荷物をまとめて出ていって頂戴!」 義母様に詰め寄られて、思わずうなずきそうになってしまう。 「な・・・なぜですか・・・?」 両手をぎゅっと握り締めて、義母様に尋ねた。 「リングイット家は側近として代々ザルトル王家を支えてきたのよ。貴方のようなスキャンダラスな子をお嫁さんにするわけにはいかないの!!婚約破棄は決定事項です!」 彼女はそう言って、私を家から追い出してしまった。ちょうどサイラス様は行方不明の王子を探して、家を留守にしている。 どうしよう・・・ 家を失った私は、サイラス様を追いかけて隣町に向かったのだがーーー。 この作品は【王子様に婚約破棄された令嬢は引きこもりましたが・・・お城の使用人達に可愛がられて楽しく暮らしています!】のスピンオフ作品です。 この作品だけでもお楽しみいただけますが、気になる方は是非上記の作品を手にとってみてください。

王子様は王妃の出産後すぐ離縁するつもりです~貴方が欲しいのは私の魔力を受け継ぐ世継ぎだけですよね?~

五月ふう
恋愛
ここはロマリア国の大神殿。ロマリア歴417年。雪が降りしきる冬の夜。 「最初から……子供を奪って……離縁するつもりだったのでしょう?」  ロマリア国王子エドワーズの妃、セラ・スチュワートは無表情で言った。セラは両手両足を拘束され、王子エドワーズの前に跪いている。 「……子供をどこに隠した?!」  質問には答えず、エドワーズはセラを怒鳴りつけた。背が高く黒い髪を持つ美しい王子エドワードの顔が、醜く歪んでいる。  「教えてあげない。」  その目には何の感情も浮かんでいない。セラは魔導士達が作る魔法陣の中央に座っていた。魔法陣は少しずつセラから魔力を奪っていく。 (もう……限界ね)  セラは生まれたときから誰よりも強い魔力を持っていた。その強い魔力は彼女から大切なものを奪い、不幸をもたらすものだった。魔力が人並み外れて強くなければ、セラはエドワーズの妃に望まれることも、大切な人と引き離されることもなかったはずだ。  「ちくしょう!もういいっ!セラの魔力を奪え!」    「良いのかしら?魔力がすべて失われたら、私は死んでしまうわよ?貴方の探し物は、きっと見つからないままになるでしょう。」    「魔力を失い、死にたくなかったら、子供の居場所を教えろ!」  「嫌よ。貴方には……絶対見つけられない場所に……隠しておいたから……。」  セラの体は白く光っている。魔力は彼女の生命力を維持するものだ。魔力がなくなれば、セラは空っぽの動かない人形になってしまう。  「もういいっ!母親がいなくなれば、赤子はすぐに見つかるっ。さあ、この死にぞこないから全ての魔力を奪え!」  広い神殿にエドワーズのわめき声が響いた。耳を澄ませば、ゴゴオオオという、吹雪の音が聞こえてくる。  (ねえ、もう一度だけ……貴方に会いたかったわ。)  セラは目を閉じて、大切な元婚約者の顔を思い浮かべる。彼はセラが残したものを見つけて、幸せになってくれるだろうか。  「セラの魔力をすべて奪うまで、あと少しです!」  魔法陣は目を開けていられないほどのまばゆい光を放っている。セラに残された魔力が根こそぎ奪われていく。もはや抵抗は無意味だった。  (ああ……ついに終わるのね……。)  ついにセラは力を失い、糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。  「ねえ、***…………。ずっと貴方を……愛していたわ……。」  彼の傍にいる間、一度も伝えたことのなかった想いをセラは最後にそっと呟いた。  

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

処理中です...