側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん

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アウロアが抱く不安。それはアドルフに対してなのは間違いないのだが、その意味合いがブライトが考えていたものとは大きく違っていた。

「寝室に忍び込まれるのは大したことではないのですが・・・・」
「え?」
夜這いされる事が、大したことではない?―――ブライトは首を傾げた。
「嬲り殺してしまうのではと、不安だったのです」
「・・・・・・・・・」
「だって、アドルフ殿下のあの体格。まるで女性のようではありませんか!正直、女性の尊厳を踏みにじる様な行為に対し、手加減は出来ないと思いますの」

あー・・・つまりは全力で叩きのめすと・・・

ブライトはアウロアの不安が何を示していたのかが分かり、一気に虚脱感に襲われた。
「陛下、何処までが正当防衛として許されるのでしょう?ただのゴロツキであれば半殺しまでは許されると思うんですの。でも、相手は王太子殿下でしょ?顔面はまずいですわよね?見えない所で腹パン?それとも、急所潰し?一発で落としたほうが、相手方のダメージも最低限だと思うのですが・・・」

最低限のダメージってなに?全力で潰しに行くんだよね?

思わず心の中でツッコミを入れてしまう。
女神の様な顔で物騒な事を口走る妻に、ブライトは改めて彼女の二つ名の意味を知ることになる。

『女神の皮を被ったゴロツキ』

そういう事だったのか・・・・
恐らく故郷に戻れば口調もかなり乱れるのだろうな・・・

毎日の剣の稽古の時の口調も、美しい顔に似合わずかなり砕けた・・・もの言いだった。だが、まだまだどでかい猫を被っているとエルヴィンは言っていた事を思えば、目の前のアウロアもかなり気をつかって話してくれているのだろう。
「アウロアの不安は、相手を半殺しにしてしまうかもしれないという事なの?」
「えぇ。いくらあちらに非があろうと、それが原因で戦になっては困りますもの」
「―――確かに、そうだね・・・うん。君の本質をほんの少しだけでも知ることができて、嬉しいよ・・・」
思わず漏れた本音に、アウロアは首を傾げながら「陛下?」と見上げてくるのだが・・・その顔は、どう見ても女神。
彼女がゴロツキであろうが何だろうが、ブライトにはどうでもよかった。
「アウロア、何も心配する事はない。俺が一緒にいればアウロアが手を下すこともないだろ?」
「えぇ・・・・」
それでも不安そうに表情を曇らせる愛しい妻に、これはチャンスではないのか?とブライトの目が光った。
あのおバカ二人は、恐らく明日も何らかの理由を付けてこの国に居座る筈だ。
長くこの国に置いておくつもりはない。だが、彼等が此処に居る間は妻との仲を進展させる為に、精々利用させてもらおうと思う。
「大丈夫。彼等がこの国に滞在している間は、俺がアウロアを守るよ。朝も昼も夜も、ずっと側に居るから」
「・・・・陛下」
「正直な所、アウロアが彼等に鉄拳を振るう所を見てみたい気もするけど、奴らの穢れた血で愛しい妻が汚れてしまうのは見たくはないかな」
「まぁ・・・陛下も仰いますわね」
クスクスと笑うその表情は可愛らしく、ブライトの胸がギュッとなる。
そしてここ最近ずっと思っていた事を、ようやく言葉にした。
「ブライトと・・・呼んでくれないか?」
結婚してからの五年間。ブライトは一度も名前を呼ばれた事が無かった。そして、愚かな事にそれを気にした事も無かったのだ。
だが、アウロアに恋焦がれ欲だけが募っていくにつれ、独占したい気持ちの他に独占して欲しいと思うようになった。
名を呼びたい。名を呼ばれたい。ささやかな願いであるはずなのに、とても贅沢な願いでもある。
その可憐な唇から己の名を呼ばれたらと・・・想像しただけで舞い上がってしまいそうだ。
そんなブライトの心など想像すらしていないアウロアは、深く考えることなく彼の名を呼んだ。

「ブライト様」

名前を呼ばれただけなのに、こんなにも心浮き立つものなのかと、締まりのない幸せな笑みを浮かべるブライトなのだった。
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