竜帝と番ではない妃

ひとみん

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「フェロモンとは違うと思うが・・・」
と前置きをし、レインベリィは帝国に伝わる今は失われた不思議な力の話をした。

遥か昔の竜人達は、どれだけ遠く離れていても「会話」ができていたのだという。
念話のようなものなのか、古文書には「心気」という言葉で記されている。
恐らく、当時の竜人達にもどのような仕組みで言葉が伝わっていたのか、わからなかったのだと思う。
今ではそのような力を使える竜人は一人もおらず、真偽は検証できない。
だが、その「心気」と呼ばれているものが『番』を呼び寄せる原因の一端を担っているのではと、レインベリィは思ったのだ。
「その、「心気」の使い方などは伝わっていないのですか?」
「使い方だが、残念ながらわからない。当時は息を吸うように出来ていたらしいから、不思議に思ってもいなかったらしい」
千年以上前の戦争で環境は一変し、今では「心気」を使える者も覚えている者もいないのだそうだ。
「当時の「心気」の名残が何らかの形で残っているのかもしれませんね・・・」
「戦争前は『番』は普通に現れていたのですか?」
「今よりはいくらかは・・・という感じかな。だからなのか、当時は異種族婚が流行っていたようだ」
「え?そうなんですか?異種族婚した人達には『番』は現れなかったのかしら・・・」
「帝国に残っている記録では、現れてはおらず天寿を全うした伴侶を看取ったらしい」
「・・・・詳しく残っているんですね」
「あぁ。竜人族は長命だが子宝に恵まれにくい。その対策で一時異種族婚を勧めていて、その記録が残っているんだ」
「なるほど。今は確かそういうのは勧めてないですよね?」
「竜人族は愛情深い。たとえ異種族であろうと、愛する人にすべてを捧げる。その最愛が自分を置いて逝ってしまう事に耐えられなくて、自然と廃れてしまったらしい」
「・・・・同じ異種族婚なのに、『番』が現れないなんて・・・やはり「心気」が何らかの形で影響しているのかもしてませんね・・・」
はっきりしたことも分からず、ただ「心気」は何らかの形で関係しているだろうと、ふわっとした、しかもあくまで仮定でしかないそれに納得せざるを得ない所に、スイがふとした疑問を投げかけた。
「因みに、当時はすべての竜人が「心気」を使えたのですか?」
「ごく少数ではあるが、できない者もいたらしい」
その言葉にスイは少し考える様に目を伏せた。

「その「心気」が使えた竜人達は『番』であっても単に惹かれあうみたいに結婚していた可能性もありますね」
「・・・・と言うと?」
「『番』が現れる兆候は聞きました。それは恐らく「心気」が使えないから。「心気」で会話している竜人達はそもそも兆候なんて必要なかったのではないでしょうか?」
「あぁ、そうか。「心気」がどのようなものかはわからないが、それらが『番』を見つける手助けをしていたという事か」
「えぇ。当時も『番』の出現率が少なかったようですが、「心気」が使えない人が少なかった為にだと思うのです」

三人顔を突き合わせ意見を言い合うも、やはり仮定の域を抜け出すことはない。
「まぁ、どちらにしろ『番』を撃退するには『竜芯』を飲ませるしかないという事ね」
「今の所『番』が出てきていない事もわかったから、エリ様を一日も早く落とす事が最重要事項ですよ」
「最終的な対策としては、それ一択だという事だな」
「取り敢えず、協力はしますが」
「我が主を悲しませるようなことはしないでくださいね」
ニッコリと笑う姉妹の顔が怖い。
「わ・・わかってる」
レインベリィはコクコクと頷く。
江里に何かあれば、きっと神が黙っていないだろう。
勿論、そんなことにならない様、全力で江里を愛するつもりだ。

「さて、家に帰ってエリを口説かないとな」
「そろそろ、目を覚ます頃かもしれませんね」
「目を覚ましても、陛下の猛攻に又、気を失うかもですが」
「エリには慣れてもらわないとな。全力で落としにいくし、竜人族の愛は非常に重いのだ」

見上げた空は青く、森の緑の隙間から木漏れ日が柔らかに降り注ぐ。
身体が慣れたのか、重く感じていた空気は馴染み、不思議な事に懐かしささえ感じる。

―――あぁ・・早くエリの顔が見たい。声が聞きたい。抱きしめたい。

レインベリィは消えかかる江里の温もりに心の中の焦りも加わり、彼女の許にへと向かうその足は自然と早くなるのだった。
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