竜帝と番ではない妃

ひとみん

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この話は、瞬く間にアーンバル帝国へと広がっていった。

青年夫婦は、寿命を分けたとはいえ人族よりも遥かに長い時間を生きる事になる。
居住をアーンバル帝国へと移し、子宝にも恵まれ今も幸せに暮らしているという。

『番』は竜人族のみにある習性。他種族から『番』が出る事は無いし、出た事もない。
だから他種族と婚姻をする者達は、全て恋愛結婚なのだ。
人族とも『竜芯』を交換できると分かったが、戦前の異種族婚での懸案が再度持ち上がり、今ではアーンバル帝国とキューオン王国で異種族婚の法律も制定されている。
特に人族との婚姻は、とても厳しく取り締まっていた。
戦前戦後、何も変わっていないのが人族アクアリス王国。戦前よりも貴賤差別と男尊女卑がひどくなっている節があるからだ。
アーンバル帝国は人権問題には特に厳しく、男女平等が根底にある。だから、アクアリス王国の、国の頂点に立つものが率先して弱き者を虐げる事が理解できないし、しようとも思わない。
よって、アーンバル帝国では人族であってもどのような地位にあっても、平等に扱われた。
そしていつしかアクアリス王国に住む女性たちは、キューオン王国へ亡命し自由に暮らす事を、竜人族に見初められアーンバル帝国で溺れるように愛され暮らす事を夢見るようになるのだった。

レインベリィは、『番』に対して嫌悪感は持っていないが、憧れてもいない。
どちらかと言えば、恋愛結婚に憧れていた。
自分が心惹かれ選んだ女性と、結ばれることができたら・・・と、思春期の少年の様な思いを、ずっと変わらず持っていた。
というか、今まで一度も誰かに恋愛的な意味で好意を持ったことがないから、どんなものかもわからないというのが本音なのだが。
『竜芯』交換も、本当に愛し合っていなければ、許されることはない。
『竜芯』は互いの魂を繋ぐようなもので、飽きたから、嫌いになったからなど、どんな状況になっても別れる事はできないからだ。
竜人族は情が深く浮気をする事は無い。だが人族や獣人族はその限りではない。
だから『竜芯』で縛り付ける。
―――これもまた一種の呪いの様なものなのだが・・・互いに納得してという所が『番』と違う所なのだろう。
『番』は相手の気持ちなど無視して、問答無用に番わせようとするのだから。

だからこそ、レインベリィはゆっくりと深く愛し絆を深めたいと願っていた。
最強姉妹が主と仰ぐ江里は、レインベリィにとって、初めてここち良い感情を与えてくれた人。
これが愛かと聞かれればまだわからないが、胸の奥に小さな独占欲が芽生えている事は否めない。
柔らかく微笑む顔も、ちょっと意地悪な顔をしてご飯を食べさせる仕草も、すべてが好ましい。

これが、一目惚れというものなのか?
いや、聞いていた話では身体に雷が落ちたかのような衝撃が走ると聞いた・・・
エリに対しては、そんな現象は起きなかった・・・だが・・・彼女が傍にいると、心臓が落ち着かない。
ゆっくりと、何かに侵食されていくような感覚が広がっていく・・・

今日初めて言葉を交わしたと言ってもいいくらい、浅い付き合いだ。
なのに、気になってしょうがない。
この気持ちが何なのか見極めたいが、そう思っているのはレインベリィだけなのだろう。
江里は、江里達は早くここから彼を追い出したいと思っているはずだから。

いつまでここに居られるのか・・・置いてもらえるのか・・・

溜息を吐きつつ、レインベリィは甘えるように江里の頭に額を擦りつけ、美しい琥珀色の宝石を瞼で隠したのだった。
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