竜帝と番ではない妃

ひとみん

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「はい、口開けて。あ~ん」

切った『生命の実』をフォークに刺し、レイの口元に差し出した。
何故か、狼狽える様にのけぞるレイ。
「何、恥ずかしがってるの?今更じゃない。それに、思ったほど体動かないんでしょ?ちゃんと食べなきゃ治らないわよ?」
『いや・・一人で・・・うぐっ!』
レイが口を開けた瞬間、問答無用で『生命の実』を突っ込んだ。
驚きに綺麗な琥珀色の瞳を瞬かせた彼だったが、どこか諦めたように私が差し出す食事に大人しく口を開くようになった。
『後でどうなっても知らないからな・・・』
ぽそっと呟いた言葉が聞き取れなくて「え?何か言った?」と聞き返したけど、あからさまに話を逸らされた。
『いや・・なんか、不思議だなと思って』
「ん?」
『『生命の実』だよ。急激にではないが、じわじわと効いている事がわかるんだ』
「それは良かった。あれは一日に一個しか食べちゃダメなのよ。はい、これで最後」
そう言いながら『生命の実』の最後の一切れを口に入れた。

当然、レイは竜の姿。大きく口を開ければ、私の頭なんてパックリ食われちゃいそうだ。
でも、気を使って食べてくれる姿は、とても可愛らしい。
竜の姿の時に何を食べるのか聞いたら、人の姿の時と同じだと言われてホッとしたわ。
てっきり、生肉とか言われたらどうしようと思っていたからね。
レイに食べさせながら、私とスイも食事を済ませる。
人間食欲が満たされれば次は睡眠欲を満たしたくなるもの。
ましてや、三人とも寝不足である。
特に、レイとスイは徹夜。
「徹夜で走ってるルリには悪いけれど・・・ひと眠りしましょうか」
スイには部屋で寝てもらい、私はレイの傍で眠ることにした。
というのも、私は数時間とはいえ一応睡眠を取っているからね。
レイが何か行動を起こした時に、すぐに起きて対応できる、はず。・・・多分。
まぁ、とどのつまりは、竜帝とは言え心から信用していないという事なのよ。
だって、昨日初めて会ったばかりなんだもの。ずっとこの世界で生きてきたルリ達とは違い、そう簡単にすべてを受け入れることはできないわ。
初めて見た黒龍は、かっこいいけどね!それとこれとは別って事。

気丈に対応していたレイだったけど、相当無理をしていたようで、すぐに眠ってしまった。
穏やかな寝息に、ほっと息を吐きながら恐る恐るその頭を撫でてみる。
身体にある鱗とは違い、額はほんのりとだが温もりを感じた。
もしかしたら私の手の温かさでそう感じたのかもしれないけど。
この短時間で色々ありすぎて、頭の中は未だに真っ白。
でも、ほっと一息入れる事ができた今、改めて「竜って存在するんだ」なんて、今更実感している。
レイが眠ってることを良い事に、鼻から額にかけて撫でてみたり身体の鱗を触ってみたりと、ちょっと変態チックだが竜の身体を観察しまくった。
ルリやスイの時も似たような事をして、ドン引きされた事は内緒である。
だって気になるんだもの・・・仕方ないよね。
私の知っている生き物に似ているものはいないかとか、脳内検索してしまうのは自己防衛に似ている。この現実を受け入れるためのね。
そうやって私は兎人族のルリとスイを受け入れることができた。だからこれは竜人族を私が受け入れるための大事な儀式みたいなものなのよ。うん!単に興味からだけじゃないからね!
心の中で、見えない誰かに言い訳しつつ、心行くまでレイを観察し、彼の顔の傍にコロンと寝転がった。

なんだか、作り物みたい・・・・
動いて言葉を話す事が、不思議。
あぁ、確かルリ達みたいに人型にもなれるのよね。年齢も三百才って言ってたなぁ。まさにファンタジー。現実味、無さすぎ!
竜人族で三百才は人の二十代半ばくらいみたい。
どんな容姿をしているのか興味はあるけど・・・あまり親しくすると別れが辛くなるし・・・ほどほどの距離をとってないとね。

そんなことをつらつら考えていると、だんだん眠くなってきた。
じっと彼を見ながらゆっくりと目を閉じれば、一瞬にして眠りの淵へと沈んだ私は気付かない。
綺麗な琥珀色の瞳がうっすらと開き、私を見ていたという事を。
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