竜帝と番ではない妃

ひとみん

文字の大きさ
上 下
6 / 44

6

しおりを挟む
ルリとスイには神力を込めたネックレスを持たせている。
それがないと結界内に入れない仕様にしているのだ。
そして、その神力を目印にその人が居る所に飛ぶ・・ことができる。
いわゆる転移というやつだ。
また、飛びたい場所にあらかじめ印を付けておけば、次からは転移で移動できるという、とても便利な能力である。
魔力が多くてもそうそう転移できる者はいないみたい。
私が簡単にできてしまうのは神力を使っているからで、ルリとスイも転移はできないの。
姉妹は神様に色々教えてもらっていたけど、どちらかといえば戦闘系が多かった気がする。
でも、結界を張る事に関しては私より腕は確かなのよ。魔力を使って・・・に関しては。
私達が飛んだ先は、それこそスイが張った結界の中だった。

スイは私達を見ると、ほっとしたように表情を緩めた。
そこに居たのは巨体を力なく横たわらせている、黒竜。
初めて見る竜に驚き、思わず立ち止まってしまった私に、ルリは安心させるようそっと手を握った。
「エリ様、大丈夫です。どうか、この方を助けてください」
横たわる黒龍を見ると、本来は美しいであろう鱗や翼は傷つき、地面には血痕が広がっている。
かなりの出血量で、一刻を争うのだろうと素人目にもわかる。
「取り合えず家まで連れて帰ろうか」
そう言って転移しようとしたその時、こちらに向かってくる声と足音に緊張が走った。
既に強力な結界が張られているから、居場所がばれることはない。
でも念には念を入れて、スイが張った結界の上にさらに神力で結界を張る。

「なぁ、ここら辺じゃないのか?」
「う~ん・・・そうだと思ったんだけど、途中で匂いが消えてるんだよなぁ。それに血痕どころか死骸すら見つからないなんてな・・・」
「もしかして、攻撃が外れたんじゃないのか?」
「いや、手応えはあった。それにお前だって見ただろ?竜が落ちてくるところを」

その言葉に、私達はさらに警戒を強めた。
目の前に迫ってくるのは顔が狼で身体が人間の、人狼だった。
「・・・あれは、銀狼族です・・・」
「まさか、竜人狩?」
ルリとスイの言葉に、得も言われぬ不安が胸に広がる。
その不安が的中するかのように、銀狼達は気になる言葉を残しこの場を去っていった。

「せっかく、情報をつかんで待ち伏せたってのに」
「あぁ、ガリオン様になんて言ったらいいんだか・・・」
「おい!おいそれと主君の名前を出すな。誰が聞いているかわからんだろうが!」
「あぁ?大丈夫だろ。俺たちの存在に恐れをなして、生き物の気配すらないんだぜ?俺たちの耳と鼻はどんなかすかな気配も逃さないんだから」
「まぁ・・・確かにそうだが。警戒することに越したことはない」
「はいはい、わかったよ。それより何の痕跡も見つからないから、それとなくアーンバル国に探りを入れてもらうしかないな」
「それとなく、な。直球で聞いたらこっちが疑われちまう」

私達がいるすぐ横を通り過ぎ、どんどんと遠ざかる彼らを見ながら「帰ってから詳しいこと聞くわよ」と双子に告げると、彼女らも無言でうなずきそっと竜に身体に触れた。
それを確認し、意外とツルツルする鱗に手をのせ一気に転移した。

取り敢えず世界樹とは反対側の場所に黒龍を移動させた。
「まず先に怪我を治しましょう」
そう言いながら、、黒竜の額に手を置き目を閉じた。
神様達から教えてもらった魔力での回復と、神力での回復。
動物や植物では試した事はあったけど、自分より大きな生き物には初めてで、慎重にまず魔力での回復を試みる事にした。

ゆっくりと身体の隅々に魔力を流し込む。壊れた個所を修復するように。
イメージするのは体中に張り巡らされている、血管。

どのくらいそうしていたのか。黒龍から手を放し一息つくと「もう、大丈夫よ」と、姉妹に笑顔を見せた。
「ありがとうございます!エリ様!」
「私たち、回復魔法が苦手で・・・止血くらいしかできなくて」
「あら、それが良かったのよ。一応、回復はさせたけれど、流れ出た血液までは戻せないから、何か栄養になるものを食べさせないとね」
傷を塞ぎ、汚れた体も洗浄魔法で綺麗にした。
だが、黒龍はまだ目を開かない。それだけ弱っているという事ね。
「このまま外にってわけにいかないわね・・・」
正直なところ、あまり世界樹の傍に置いておきたくない事は変わらないのよね。
でも、回復させたとはいっても体力が戻らない弱っている者を、このまま外に放置する事もできない。
取り敢えずリビングの家具を寄せ、毛布やらクッションやらを敷き詰め、即席の寝床を作り、黒龍を移動させる事にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

処理中です...