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5 モブ達の裏事情
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セオドアとジョアンが婚約すると、急にカレンは大人しくなってしまった。
ジョアンは当然の事、セオドアにも近寄らなくなってしまったのだ。
婚約の話を聞いた翌日は、セオドアにいつもの様に近づこうとしたのだが、これまでと違い他の令嬢等と同じく冷たい対応をされ、怖気づいてしまったらしい。
これまでは、ジョアンのおかげで親しく声をかける事ができていたのだ。つまりは、その他大勢と同じ対応をされ、改めて己の立場を自覚したのだろう。
カレンにセオドアと婚約をするのかと聞いてきた令嬢達も、実は陰ではカレンを笑い者にしていた。
元々彼女等は、カレンとセオドアが婚約するとは、露程も思ってはいなかった。
セオドアを見ていれば誰だってわかる。目線は常にジョアンを探し、声を掛けようとするもいつもカレンに邪魔をされていたのを、間近で見ていたのだから。
カレンがセオドアの気持ちや、この状況に全く気付いていない事に皮肉を込めて問うた答えが『彼にすべて任せてますの』だった。
ドヤ顔で言われた時には、可笑しくて可笑しくて、誰もいない場所まで走り大笑いしていたくらいだ。
そしてその会話を聞いていた令嬢が、面白可笑しく流した噂が、カレンとセオドアが『婚約間近』というものだったのだ。
ジョアンとカレンの耳には『婚約間近』という部分しか聞こえてこなかったが、その前後には『身の程知らずな勘違い女がセオドア様と』『そんなバカな事を言っている。寝言は寝てから言うべきよね』が付く。そして、それが学園内で流れていたのだ。
正直な所、セオドアとジョアンがくっついてくれると有難いと、大半の生徒達は思っていた。
というのも、セオドアもジョアンも見目麗しく、大変人気がある。
その二人がいつまでも独り身だと皆が二人に群がり、自分達が好きな人とお近づきになるチャンスが巡ってこないからだ。
カレンにセオドアとの事を聞いた令嬢にも好きな令息がいるのだが、彼もジョアンに気があるらしくなかなか自分を見てくれない。
ならばジョアンとセオドアが恋人になるなりしてくれれば、自分達にもチャンスが訪れるはず。あの二人は相思相愛なのだから。
そう思い彼らを応援していたのに、カレンがやたらとセオドアに絡み、セオドアも対応に苦慮している。
これは何とかしなければ・・・という、同志達と共に策をめぐらせていたのだ。
そんななか、手を挙げたのがメリアだった。
彼女は自分が体験した苦い経験もあり、見るからにジョアンはあの頃の自分と同じような立場にあると気づき、助けなくてはと心の底から思ったのだ。
メリアにはわかっていた。セオドアがジョアンの事を今でも好だという事を。
彼女を見る眼差しが変わらず、愛おしそうに追いかけていたから。
誰が見てもわかるのだから、それを邪魔するカレンは学園内でも有名になりつつあった。
―――無神経な女・・・ヒロインになり替わろうとする、悪女・・・・と。
勿論、ヒロインはジョアン。見た目も性格もまさにヒロインそのものだから。
それに対し悪女は言わずもがな、カレンである。ジョアンからセオドアを奪おうとした事の他にも気の強そうな容姿も相まって、周りからは好奇な目で見られるようになっていた。
そして人が集まればカレンの情報も集まりやすくなる。例えばメリアが彼女にされた事。それ以外も過去に、他人の恋人や婚約者を奪おうとしていた事。
全てが事実かはわからないが、メリアがされた事は紛れもない真実。
その事実だけあれば、他の真偽などどうでもいいのだ。
それだけで、カレンは悪女になるのだから。
陰で何を言われ、どのような目で見られているのか、当の本人はセオドアに夢中で周りが見えていない所為で気付かない。その事は、ある意味彼女にとって幸せな事だったのかもしれない。
当然、彼女らは自分をヒロインだとも悪女だとも思ってはいない。
全ては周りの人達の心情と想像力から出来上がった、一つの物語なのだから。
人の不幸は蜜の味・・・とはよく言ったもので、正義と悪が揃えば自然と物語は織り成され、それぞれの配役に誰かを当てはめて進めていく。
それが今回はジョアンでありセオドアであり、カレンだっただけなのだ。
周りの生徒達も、意識して物語を作ったわけでもないし、ジョアンとセオドアの為にと言うよりは、自分達の為に二人の背中を押しただけとしか思っていない。
これも一つの集団心理なのかもしれない。カレンは個で悪を為していたが、周りの者達は確たる同じ思いが存在していた。
皆でその障害となるものを排除しようとしただけなのだが、著しく道徳性が低下していた事は否めないのだから。
ジョアンとセオドアが無事婚約し、結婚の日取りまで早くも決まったのだという。
陰で暗躍していた生徒達はほっと胸を撫でおろし、カレンとの事など忘れたかのように意中の人へと接触していく。
一つの物語がヒロインのハッピーエンドで幕を閉じた。
次の物語の主人公が誰になるのか。
その結末は幸せなものなのか悲しいものなのか、誰にもわからない。
ただ誰もが思う。最後は幸せな物語の、主人公になりたいと。
ジョアンは当然の事、セオドアにも近寄らなくなってしまったのだ。
婚約の話を聞いた翌日は、セオドアにいつもの様に近づこうとしたのだが、これまでと違い他の令嬢等と同じく冷たい対応をされ、怖気づいてしまったらしい。
これまでは、ジョアンのおかげで親しく声をかける事ができていたのだ。つまりは、その他大勢と同じ対応をされ、改めて己の立場を自覚したのだろう。
カレンにセオドアと婚約をするのかと聞いてきた令嬢達も、実は陰ではカレンを笑い者にしていた。
元々彼女等は、カレンとセオドアが婚約するとは、露程も思ってはいなかった。
セオドアを見ていれば誰だってわかる。目線は常にジョアンを探し、声を掛けようとするもいつもカレンに邪魔をされていたのを、間近で見ていたのだから。
カレンがセオドアの気持ちや、この状況に全く気付いていない事に皮肉を込めて問うた答えが『彼にすべて任せてますの』だった。
ドヤ顔で言われた時には、可笑しくて可笑しくて、誰もいない場所まで走り大笑いしていたくらいだ。
そしてその会話を聞いていた令嬢が、面白可笑しく流した噂が、カレンとセオドアが『婚約間近』というものだったのだ。
ジョアンとカレンの耳には『婚約間近』という部分しか聞こえてこなかったが、その前後には『身の程知らずな勘違い女がセオドア様と』『そんなバカな事を言っている。寝言は寝てから言うべきよね』が付く。そして、それが学園内で流れていたのだ。
正直な所、セオドアとジョアンがくっついてくれると有難いと、大半の生徒達は思っていた。
というのも、セオドアもジョアンも見目麗しく、大変人気がある。
その二人がいつまでも独り身だと皆が二人に群がり、自分達が好きな人とお近づきになるチャンスが巡ってこないからだ。
カレンにセオドアとの事を聞いた令嬢にも好きな令息がいるのだが、彼もジョアンに気があるらしくなかなか自分を見てくれない。
ならばジョアンとセオドアが恋人になるなりしてくれれば、自分達にもチャンスが訪れるはず。あの二人は相思相愛なのだから。
そう思い彼らを応援していたのに、カレンがやたらとセオドアに絡み、セオドアも対応に苦慮している。
これは何とかしなければ・・・という、同志達と共に策をめぐらせていたのだ。
そんななか、手を挙げたのがメリアだった。
彼女は自分が体験した苦い経験もあり、見るからにジョアンはあの頃の自分と同じような立場にあると気づき、助けなくてはと心の底から思ったのだ。
メリアにはわかっていた。セオドアがジョアンの事を今でも好だという事を。
彼女を見る眼差しが変わらず、愛おしそうに追いかけていたから。
誰が見てもわかるのだから、それを邪魔するカレンは学園内でも有名になりつつあった。
―――無神経な女・・・ヒロインになり替わろうとする、悪女・・・・と。
勿論、ヒロインはジョアン。見た目も性格もまさにヒロインそのものだから。
それに対し悪女は言わずもがな、カレンである。ジョアンからセオドアを奪おうとした事の他にも気の強そうな容姿も相まって、周りからは好奇な目で見られるようになっていた。
そして人が集まればカレンの情報も集まりやすくなる。例えばメリアが彼女にされた事。それ以外も過去に、他人の恋人や婚約者を奪おうとしていた事。
全てが事実かはわからないが、メリアがされた事は紛れもない真実。
その事実だけあれば、他の真偽などどうでもいいのだ。
それだけで、カレンは悪女になるのだから。
陰で何を言われ、どのような目で見られているのか、当の本人はセオドアに夢中で周りが見えていない所為で気付かない。その事は、ある意味彼女にとって幸せな事だったのかもしれない。
当然、彼女らは自分をヒロインだとも悪女だとも思ってはいない。
全ては周りの人達の心情と想像力から出来上がった、一つの物語なのだから。
人の不幸は蜜の味・・・とはよく言ったもので、正義と悪が揃えば自然と物語は織り成され、それぞれの配役に誰かを当てはめて進めていく。
それが今回はジョアンでありセオドアであり、カレンだっただけなのだ。
周りの生徒達も、意識して物語を作ったわけでもないし、ジョアンとセオドアの為にと言うよりは、自分達の為に二人の背中を押しただけとしか思っていない。
これも一つの集団心理なのかもしれない。カレンは個で悪を為していたが、周りの者達は確たる同じ思いが存在していた。
皆でその障害となるものを排除しようとしただけなのだが、著しく道徳性が低下していた事は否めないのだから。
ジョアンとセオドアが無事婚約し、結婚の日取りまで早くも決まったのだという。
陰で暗躍していた生徒達はほっと胸を撫でおろし、カレンとの事など忘れたかのように意中の人へと接触していく。
一つの物語がヒロインのハッピーエンドで幕を閉じた。
次の物語の主人公が誰になるのか。
その結末は幸せなものなのか悲しいものなのか、誰にもわからない。
ただ誰もが思う。最後は幸せな物語の、主人公になりたいと。
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