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翌日の早朝、カノープス将軍は帝国へと嬉々として帰って行った。
そして私達も城のある王都へと出発。・・・・したんだけど、帰り道にいくつかの町を通るのであれば視察してくるようにと、お父様からのお達し。
取り敢えず隣の町まで行って、視察して泊まってを繰り返し、四日後に王都に着く予定。
視察も結構、仰々しい物になりそう。だって私の近衛騎士がずらりなんだもの。
お忍びが懐かしいわ・・・公式は、疲れるのよね・・・

そして何故か馬車ではなく、馬移動。しかも、アイザックと一緒。
おかしくない?私、乗馬得意なんだけど。
「アイク、何で私と一緒なの?私の乗馬の腕は貴方が一番よく知ってるわよね?」
「知ってますよ。でも、俺と一緒なら襲撃された時、俺が守れるだろ?」
「いや、ダメでしょ。貴方に何かあったら大変じゃない!」
「何言ってるの。近衛騎士は主を守ってなんぼだろ。主に守られてどうするの」
「そうだけど・・・でも・・・」
確かに私を守る為の騎士達だけど・・・・
「―――・・・・わかった。ありがとう」
本当は誰も怪我とかして欲しくない。今の所、この国を狙う不届き者はいなけど、絶対って事はないからね。
私自身が気を付ければいいのよ。
「アイク達に迷惑かけないよう、これからも鍛錬を怠らないわ!」
「イヤ・・そう言う事じゃないんだけど・・・まぁ、いいや。俺も付き合うから」
「ありがとう」
そんな会話をしながら、私達を喜色満面な表情で迎えてくれる町民達に笑顔で手を振る。
何だかいつもより女性達の黄色い悲鳴に似た歓声が多いような気がするわ。

あぁ、そう言えば・・・カル兄様の事で忘れてたけど・・・
「アイクって結婚するの?」
「えっ?な、何言ってんの。結婚なんてしないよ」
「そうなの?将軍が言っていたお見合いの相手って、誰なの?」
「・・・・気になる?」
「気にならないと言えば嘘になるかな。だって、恋多きアイクがとうとう年貢の納め時なのかなって」
「え?恋多き・・・?誰の事?」
「アイクだよ。令嬢達の間で有名よ?」
「・・・・まさか、ビーは信じてないよな?」
何処か顔色が悪いアイザック。
信じてないよな?って言われても・・・・「ちょっと、そうなのかな?って・・・」てへへっ、と誤魔化す様に笑えば、ぎろりと睨まれた。
そして、不本意だとばかりに溜息を吐いた。
「その件に関しては、宿に着いたら話し合おうじゃないか」
「え?別にいいわよ。アイクも男なんだし、花街にだって通うだろうし、彼女の一人や二人いてもおかしくないでしょ?」
私の言葉に、益々顔色を悪くするアイザック。
「やはりちゃんと言葉に出さなくては・・・態度だけでは駄目だったという事か・・・・」
何やら独り言のように呟くその言葉が聞き取れなくて、聞き返したけれど「宿に着いてから」と言われて強制終了されてしまった。

そう言えば、ミラの結婚に関しては考えた事はあったけど、アイザックに関しては考えたこともなかったな・・・
ずっと、このまま傍に居てくれるものだと・・・

・・・・そんなはずないのに―――
これまでも恋人がいたんだから、結婚だっていつしたっておかしくなかったのよ。

そこまで考えて、改めて何でアイザックがずっと側に居てくれると思っていたのか、自分でも不思議だった。
初めてアイザックの恋の噂を聞いた時は、自分が想像する以上にショックを受けた事を覚えている。
何に対してのショックだったのか・・・あの時は、誰か他の人に彼が取られてしまうという、子供っぽい理由だったと思っていた。
だって、相手の女性に対しての嫉妬という感情が無かったから。
それに彼も健全な男性なのだから、そう言う欲も当然あるだろうし。
アイザックの私に対する態度は、ミラを相手にしている時と余り変わらないと感じていたから。
自分ではそう言う対象にならないのだろうと、知りたくもない感情に初めから蓋をしていたのかもしれない。

ふいに、彼の横に知らない女の人が寄り添っている絵が、頭の中に浮かんできた。
途端に「嫌だ!」という、自分でも驚くほどの嫌悪感が沸き上がる。
と同時に、何故そう思ったのだろうと言う、疑問も浮かんでくる。
この感情が、一般に言う恋愛感情なのだとすれば、何てタイミングで自覚することになるのだろうかと溜息が出そうになった。
だって、カノープス将軍は彼に見合い話を持ってきたのだ。
きっと、帝国の貴族令嬢なのかもしれない。
この不確かな感情が、彼に対しての恋愛感情なのであれば、自覚する前に抹殺してしまえばいい。

失恋した上に彼を手放すなんて・・・・きっと死んでしまいそうなくらい、悲しいと思うから。
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