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離縁可能まで、あと二週間。

婚姻の時に持ち込んだ私物の半分は既に荷造りを終え、いつでも出発可能だ。
まぁ、直ぐに離縁するのだから元々あまり持ってきてはいない。ただ、何も持って行かないのは世間的に良くない噂が出てしまうからね。
例えば、国が貧乏だとか、娘は愛されてないとか。

この引っ越し計画は全て内密な為、ちょっとした商人を装っての行動になる。勿論、アイザックの部下達がメインにね。
そして二週間後きっかりに神殿に行って、離縁届を発行してもらう予定だ。
白い結婚に限り、相手方の意見は反映されないので、何を言ってこようと離縁は履行される。というか、離縁届を貰った時点で、成立することになる。

「さて、晩餐会に招待する人だけど、こんなもんかな?」
ざっと書き出した名前をアイザックとミラに確認してもらう。
「・・・・そうですね・・・こんなもんでしょう」
「カレン付き使用人達以外は皆、こちらに付いてくれました。招待状に関しても責任もって届けてくれるそうです」
結局、国王と会う事叶わず第三者を頼る事にしたのだ。
「それは良かったわ。皆には後で何か差し入れないとね」
「その必要はありませんわ。これからトリス様がなさろうとしている事は、ある意味彼等の今後が掛かっているようなものなのですから」
「そうだよ、ビー。これまでの最悪だった環境が改善されるかもしれないんだ。何よりのご褒美だと思う」
「そうね・・・でも、そこまで言われると、失敗できないって緊張しちゃうわ」
「ふふふ・・大丈夫ですわ。我々の他にも強い味方がいるではないですか」
ミラの言葉にアイザックも頷くので、も準備は整ったという事なのだろう。
「さてと、じゃあ、おさらいをしましょうか」
脱線する事も多かったが、二週間後に気持ちを馳せながら、そして、国に戻った後の事を楽しく三人で話をしている内に、夜は更けていくのだった。






晩餐会の前日には関係者へと招待状を送った。
当然、欠席は許されない。王妃命令である。
そして、最後の神殿訪問。無事に離縁届を発行してもらった。
思わず緩む口元に、アイザックも今日は何も言ってはこない。いつもは、気持ち悪いだとか、だらしない顔だとか言うのに。

そして今日は、待ちに待った晩餐会当日。
招待状を受け取った人達はきっとビビってるでしょうね。
余りにも心当たりがありすぎて・・・
最後の荷造りもすでに終わっている。
半年とは言え少し馴染んできていた部屋が、空っぽになった様子に少しの寂しさが胸を過るが、それ以上にどこか神聖な気持ちが身体を満たすのだ。
今日の晩餐会で私は、この国の在り方を変えてしまうかもしれない。
恐らく私が何もしなくても、いずれはそう言う何かが起きていたのだと思う。
たまたま私が関わる事案があったから、それがきっかけとなっただけの話だ。
元々この国に来る理由が、理不尽な要求に腹が立って精神的に痛めつけぎゃふんと言わせたいが為だったし、国をひっくり返す(つもり)勢いで乗り込んできた。

まさか本当に、ひっくり返してしまおうと思うなんてね・・・

それほどまでに、この国の上位貴族達は腐れきっていた。そして平民に容赦ない身分制度。国民は疲れきっていた。
神殿に行く為に町を通っていくのだが、王都だと言うのに活気があるのは貴族街だけ。
其処を抜ければ一気に空気が重くなる。
神殿でも話を聞けば、絶対的な身分制度の所為で国民は希望を持てないのだと言っていた。
どれだけ頑張っても、どれだけ優秀でも、平民、下級貴族と言うだけで出世の道が閉ざされてしまうのだから。
「シュルファ国は優秀であれば身分を問わないと聞いた事があります。本当ですか?」
神官に問われ、本当だと頷けば羨ましそうに微笑まれた。
この国で身分関係なく出世の道が開かれているのが、神殿だけだと言われている。
神殿で祀っている主神が、人の命は皆平等である、と説いているからだ。
よって、人が定めた身分は神殿では通用しない。・・・事になってるのだが、現実問題として選民意識が常識の世界で育てば、その意識が根底に植え付けられる。
だからこの神殿も例外ではないのだ。

たまたま私の担当をしてくれていた神官アリソンは伯爵家に生を受けたのだが、貴族に生まれたのにもかかわらず身分を気にしない人だった。
だからこそ、身分制度に傷つき救いを求めて神殿に入ったのに、理想と現実は全く違っていた。
外にいた時よりも神殿内の方が身分にこだわり、この国の縮図そのものだったのだと言う。
それでも慣れて流される事が出来ればそれほど苦しむこともなかったのだろうが、それが出来ないが為に、何の為に、自分は神殿に入ったのか・・・自問自答し苦しんでいるのだと言う。
そう言う神官も多いのだとか。外の世界にいた時よりも苦しいと言っていた。
本音と建前。外面そとづら内面うちづら
彼は本当は分かっている。でも、納得できていないから苦しいのだろう。

賄賂なんて、常習化しているだろうからね。
私だって離縁の為に通っている事に対し、偉い人に袖の下を握らせたもの。一応、寄付って事になっているからか、躊躇わずに懐に入れてたわよ。
だから、役職が高い神官はふくよかなのかも。

神殿の神官達もそうだけど、市民も苦しんでいた。
栄えているのは貴族街のみで、平民街は町の中も汚れていて余り衛生的にも良くなさそうだった。
だから私は神殿に来るたび、アイザックとミラを連れて買い物をするの。
食べ物にしてもアクセサリーにしても、意外と美味しくて良い物が多かったのよ。
それ以来、私が行かなくてもアイザックかミラに買い物を頼んで、お土産を買ってきてもらう事にしたわ。
まずは、彼等の為にお金を使う事が大事。全てのお店は無理でも、なるべくたくさんのお店を回る事にしたの。
購入したお土産は、ミラを通じて使用人達に配ってもらっている。なかなか、好評みたいよ。
月一回でも毎回通えば、羽振りの良い女だと、顔を覚えてくれる人達もいて、結構友好的にお付き合いさせてもらってるわ。

だからこそ尚更、失敗は許されないのよ。

完全武装した私は、贔屓目なく綺麗だ。・・・・こんな事言ったら又、アイザックに『調子に乗るな』と怒られそうだけど。
でも、ドレスアップは私の戦闘服。ずっと母から耳が痛くなるほど言われても、その時はいまいち実感が無かった。けれど、今ならわかる。
ミラも気合を入れて、私を綺麗にしてくれた。
アイザックもシュルファ国王女近衛騎士の騎士服を纏う。

姿見の前でクルリと回り、チェック。
そして、差し出されたアイザックの手を握り返し、心を落ち着ける。

「それでは、行きますか!」

私達は気合を入れ直し、招待客が待つ食堂へと向かうのだった。

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