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紛い物と姫
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かつてこの世界は一つだった。
魔法の祖、聖王が人々に文明を与え瞬く間に此処は豊かになっていった。
国の名は「レリュード」。聖王の名を冠する教会国家。
聖王の傍らには啓示を受け民の幸せの為奔走する三人の魔術師が服属していた。彼らを民は「賢者」と呼び親しんでいた。しかし一人の賢者が反旗を翻し、人を襲う異形を呼び寄せたが聖王は自らが命と引き換えに異形の手から民を守って見せた。
主を失った賢者たちは散り散りになり各々の国を築いた。
「だってさ」
「ストーリーテラーはお終いか」
「まだ終われないよ。これからが面白いんだから」
「プロパガンダまみれのひどい史実の続きに趣があるとは思えんが」
「悪い魔王の手からお姫様を救いに行くんだ。ワクワクする響きだよね」
「……誰がエスコートするんだ」
「君の可愛いお弟子さんの僕が直々にね」
***
「法皇様、ご連絡申し上げます」
駆けてきた伝令が私たちの歩みを止める。
「今は子供たちが一緒ですしここは公園ですよ。物々しいと民衆が不安がります。後にしなさい」
法皇様が一蹴するも伝令は構わず続ける。
「西の大書庫に賊が入り込みました」
法皇様の顔がほんの一瞬強張った。私に見せたことのない表情、この場の空気の重さを感じた。つかの間法皇様が笑顔で私に語り掛ける。
「リリア、私は用事で少し席を外さなければいけません。子供たちを寄宿舎に送り届けて頂けますか」
今私の目の前の人間は法皇様ではなくレリュードの賢者カルメン。聖王亡き後の統率者。
「わかりました。法皇様」
ただならぬ気迫に二つ返事で答えた。
法皇様から頼まれた務めを終え、自分の寄宿舎に戻るころには月が上っていた。
「ただいま」
扉を開けると真ん中にはクロスの敷かれた小さいテーブル。それを囲むように二台のベッドと二つのクローゼット。そして同室のシーフィ。卓上のロウソクの明かりが優しく私の寄宿舎を照らす。私が腰を下ろす間もなくシーフィは口を開く。
「ねぇ、ついに明日だよ」
「そうだね」
「リリアは法皇様から魔法を授かったら最初に何に使うの?」
「……なんだろう。湯沸かしとかかな」
コートを仕舞う私を横目にシーフィはベッドに仰向けになり大きく息をついた。
「夢ないね」
「うるさい」
この国で魔法はエネルギーとして幅広く使われているけど私たちのような庶民が使う用途は極めて些細な事。それに莫大なエネルギーを消耗する魔法は法皇様など一部の限られた人しか扱うことを許されてはいない。
「シーフィはどうするのさ」
「私も湯沸かしかな」
そんな会話をしているうちに深い眠りについた私達だったが夜はまだ終わらなかった。
ドコン。
クローゼットが開きけたたましい音が聞こえた。恐ろしいほどの風圧、窓が勝手に開きお気に入りのレースのカーテンが暴れる。災害。
「痛い痛い痛いって」
つかの間の静寂の後情けない音が聞こえた。その音の主はクローゼットから転がり落ちた。悶え苦しみながら懐に手を伸ばし鈍く光る小さな宝石を取り出した。
「使いすぎだろって……ピッタリ往復分じゃないか」
月明かりに宝石を照らしながらそう口を開く。声の主もまた月明かりに照らされ露になる。大きなお耳の獣人。背丈も私と変わらない女の子。
少女が身体をこちらに向けたかと思うと息を整え私に語り掛ける。
「ただいまお迎えに上がりました。お姫様」
魔法の祖、聖王が人々に文明を与え瞬く間に此処は豊かになっていった。
国の名は「レリュード」。聖王の名を冠する教会国家。
聖王の傍らには啓示を受け民の幸せの為奔走する三人の魔術師が服属していた。彼らを民は「賢者」と呼び親しんでいた。しかし一人の賢者が反旗を翻し、人を襲う異形を呼び寄せたが聖王は自らが命と引き換えに異形の手から民を守って見せた。
主を失った賢者たちは散り散りになり各々の国を築いた。
「だってさ」
「ストーリーテラーはお終いか」
「まだ終われないよ。これからが面白いんだから」
「プロパガンダまみれのひどい史実の続きに趣があるとは思えんが」
「悪い魔王の手からお姫様を救いに行くんだ。ワクワクする響きだよね」
「……誰がエスコートするんだ」
「君の可愛いお弟子さんの僕が直々にね」
***
「法皇様、ご連絡申し上げます」
駆けてきた伝令が私たちの歩みを止める。
「今は子供たちが一緒ですしここは公園ですよ。物々しいと民衆が不安がります。後にしなさい」
法皇様が一蹴するも伝令は構わず続ける。
「西の大書庫に賊が入り込みました」
法皇様の顔がほんの一瞬強張った。私に見せたことのない表情、この場の空気の重さを感じた。つかの間法皇様が笑顔で私に語り掛ける。
「リリア、私は用事で少し席を外さなければいけません。子供たちを寄宿舎に送り届けて頂けますか」
今私の目の前の人間は法皇様ではなくレリュードの賢者カルメン。聖王亡き後の統率者。
「わかりました。法皇様」
ただならぬ気迫に二つ返事で答えた。
法皇様から頼まれた務めを終え、自分の寄宿舎に戻るころには月が上っていた。
「ただいま」
扉を開けると真ん中にはクロスの敷かれた小さいテーブル。それを囲むように二台のベッドと二つのクローゼット。そして同室のシーフィ。卓上のロウソクの明かりが優しく私の寄宿舎を照らす。私が腰を下ろす間もなくシーフィは口を開く。
「ねぇ、ついに明日だよ」
「そうだね」
「リリアは法皇様から魔法を授かったら最初に何に使うの?」
「……なんだろう。湯沸かしとかかな」
コートを仕舞う私を横目にシーフィはベッドに仰向けになり大きく息をついた。
「夢ないね」
「うるさい」
この国で魔法はエネルギーとして幅広く使われているけど私たちのような庶民が使う用途は極めて些細な事。それに莫大なエネルギーを消耗する魔法は法皇様など一部の限られた人しか扱うことを許されてはいない。
「シーフィはどうするのさ」
「私も湯沸かしかな」
そんな会話をしているうちに深い眠りについた私達だったが夜はまだ終わらなかった。
ドコン。
クローゼットが開きけたたましい音が聞こえた。恐ろしいほどの風圧、窓が勝手に開きお気に入りのレースのカーテンが暴れる。災害。
「痛い痛い痛いって」
つかの間の静寂の後情けない音が聞こえた。その音の主はクローゼットから転がり落ちた。悶え苦しみながら懐に手を伸ばし鈍く光る小さな宝石を取り出した。
「使いすぎだろって……ピッタリ往復分じゃないか」
月明かりに宝石を照らしながらそう口を開く。声の主もまた月明かりに照らされ露になる。大きなお耳の獣人。背丈も私と変わらない女の子。
少女が身体をこちらに向けたかと思うと息を整え私に語り掛ける。
「ただいまお迎えに上がりました。お姫様」
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