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一章
62 王都見学2
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■■■リタ視点
私が人形を作っている間、ユリイカはずっと寝たままだった。
「ふぁー、よく寝た」
「ユリイカ姉さん寝過ぎですよー。あんなに揺れる馬車の中で寝てるの姉さんだけでしたからね」
「寝れる時に寝ておく。これはとっても大事なことなの」
そんな格言みたいな感じで言われても説得力はないが、ほんの少しだけ理解できなくもない。
「戦時中でもないんですから普通にお願いします。まあボクも昔はいつ襲撃があるかわからなかったから眠りは浅かったんですけどね。今はそういう危険がないからとっても幸せです」
「うん、これも全部ご主人様のおかげ」
モンスターにとって熟睡するということはない。ご主人様にテイムされて安全だとわかってはいても体が言うことを聞かない。未だに眠は浅く、ちょっとした物音で目を覚ましてしまう。
眠るということは無防備な状態を敵にさらすことであって、どんな強者であってもいとも容易く狩られてしまうのだ。
「攻撃を受ければ嫌でも目が覚めるわよ」
そんなことを言えるのは元魔王軍四天王だからで、周りを部下で固めているからに過ぎない。
「ユリイカはもう少し警戒した方がいい」
「そう? リタが守りを固めてくれているから敵を気にする必要はないもの。私は糸にからまった侵入者を焼き殺すだけ」
確かにそうかもしれない。私も進化したおかげで強くなったし、糸の使い方もレベルにアップしている。今なら住居周辺における勇者の侵入も許さないだろう。
「お二人がいるからボクは安心です。あっ、もちろん一番はレン様がいるからですけど」
「あまり時間もない。早く洋服店に行く」
「あっ、はい」
王都に着くと、すぐにブラドちゃん陽の子供服のデザインを見にいく。子供服なんて売っているのは貴族御用達の高級店しかないらしくて、お店に入れてもらえるかが少し不安。
「レン様から聞いたお店はここね。何だか警備の人がいるけど私たち入れるの?」
予想通りというか、店の前には屈強な警備員が控えていて、簡単に店に入れてくれそうには思えない。
店としてそれはどうなのかと思わなくもないけど、これが貴族御用達店なのだろう。人の世界は難しい。さて、話し掛けてみるか……。
「すまない。この店の店主と話がしたい」
「失礼ですがお約束は?」
「していない。だけど、この糸を見てもらいたい」
糸には自信があるものの、それが貴族受けするかまでは判断できなかった。聖女が高く売れるって言ってたから大丈夫だとは思うんだけど。
「糸ですか? って何ですか、このキメの細かいサラサラの糸は!? お、おいっ」
「はっ、す、すぐにオーナーを連れてまいります!」
「失礼しました。商会のお嬢様方でございましたか。これ程の糸を仕入れられるのでしたら相当な規模の商会なのでしょう」
「そう」
商会って何だろう。よくわからない時は話を合わせておけばいい。慣れていないのかユリイカは会話に入ってくる気配はないし、ブラドちゃんは人見知りを発動している。
ここはリタが頑張らなくてはならない。
「やはりそうでしたか。大手でしたらスールシャルダン商会でしょうか?」
「違うけど、多分似たようなとこ。あまり詮索しないでもらえるとうれしい」
「これは失礼しました。あっ、オーナーがいらっしゃったようです。どうぞこちらへ」
ふぅー。何とかお店の中へ入ることができた。あとは隙をみて子供服のデザインをいろいろ見れれば十分。
ところが、何故か売り場ではなく個室に案内されてしまった。これではデザインが見れない……。
「まあ、なんて素敵な糸なんでしょう。この糸でドレスを作ったら社交界を席巻するに違いありませんわ!」
私の差し出した糸をうっとりした目で見ているマダム。この方がオーナーらしい。
「生地にしたものも少しならある」
「す、素晴らしい……。この手触り、指のまったく引っ掛からないサラっサラの生地。想像以上の仕上がりですわ!」
「この生地を卸す店を探している。店の製品を見せてもらっていい? 出来れば子供服がいい」
「この店は王都で一番の洋服店を自負しております。この生地は是非うちの店にお願いしたいですわ。それから、子供服でございますね。子供服で細かな裁縫技術を確認なさるといあことですわね。かしこまりました、あなた達、今日はもう店を閉めるわ。店にある全ての子供服をこちらに持ってきて頂戴」
よくわからないけど作戦は成功したようだ。これでブラドちゃんの洋服デザインをいっぱい勉強できる。
ユリイカは出されたクッキーと紅茶を堪能しながら私に任せると言わんばかりに手を振っている。ブラドちゃんは胃がクッキーを受けつけないから食べられないけど、どうやら紅茶は飲めるみたい。よかった。
「あ、あの、ちなみになのですが。この生地はどのぐらいの価格を想定しているのでしょうか?」
「値段はそっちが決めていい」
「な、何と! つ、つまり、どのぐらいのお金を支払えるかで卸先が決まるということですわね……」
とても驚いているみたいだけど、値段の設定とか難しくてよくわからない。リタは店が買ってくれる値段で売れれば十分。
そのお金でボタンとかの装飾品をいくつか買うだけだし。
さて、いろいろなデザインの服が運ばれてきた。覚えきれるかな……。
「少しデッサンさせてもらってもいい?」
「も、もちろんでございます。デザインまでされるとは流石でございますわ……」
私が人形を作っている間、ユリイカはずっと寝たままだった。
「ふぁー、よく寝た」
「ユリイカ姉さん寝過ぎですよー。あんなに揺れる馬車の中で寝てるの姉さんだけでしたからね」
「寝れる時に寝ておく。これはとっても大事なことなの」
そんな格言みたいな感じで言われても説得力はないが、ほんの少しだけ理解できなくもない。
「戦時中でもないんですから普通にお願いします。まあボクも昔はいつ襲撃があるかわからなかったから眠りは浅かったんですけどね。今はそういう危険がないからとっても幸せです」
「うん、これも全部ご主人様のおかげ」
モンスターにとって熟睡するということはない。ご主人様にテイムされて安全だとわかってはいても体が言うことを聞かない。未だに眠は浅く、ちょっとした物音で目を覚ましてしまう。
眠るということは無防備な状態を敵にさらすことであって、どんな強者であってもいとも容易く狩られてしまうのだ。
「攻撃を受ければ嫌でも目が覚めるわよ」
そんなことを言えるのは元魔王軍四天王だからで、周りを部下で固めているからに過ぎない。
「ユリイカはもう少し警戒した方がいい」
「そう? リタが守りを固めてくれているから敵を気にする必要はないもの。私は糸にからまった侵入者を焼き殺すだけ」
確かにそうかもしれない。私も進化したおかげで強くなったし、糸の使い方もレベルにアップしている。今なら住居周辺における勇者の侵入も許さないだろう。
「お二人がいるからボクは安心です。あっ、もちろん一番はレン様がいるからですけど」
「あまり時間もない。早く洋服店に行く」
「あっ、はい」
王都に着くと、すぐにブラドちゃん陽の子供服のデザインを見にいく。子供服なんて売っているのは貴族御用達の高級店しかないらしくて、お店に入れてもらえるかが少し不安。
「レン様から聞いたお店はここね。何だか警備の人がいるけど私たち入れるの?」
予想通りというか、店の前には屈強な警備員が控えていて、簡単に店に入れてくれそうには思えない。
店としてそれはどうなのかと思わなくもないけど、これが貴族御用達店なのだろう。人の世界は難しい。さて、話し掛けてみるか……。
「すまない。この店の店主と話がしたい」
「失礼ですがお約束は?」
「していない。だけど、この糸を見てもらいたい」
糸には自信があるものの、それが貴族受けするかまでは判断できなかった。聖女が高く売れるって言ってたから大丈夫だとは思うんだけど。
「糸ですか? って何ですか、このキメの細かいサラサラの糸は!? お、おいっ」
「はっ、す、すぐにオーナーを連れてまいります!」
「失礼しました。商会のお嬢様方でございましたか。これ程の糸を仕入れられるのでしたら相当な規模の商会なのでしょう」
「そう」
商会って何だろう。よくわからない時は話を合わせておけばいい。慣れていないのかユリイカは会話に入ってくる気配はないし、ブラドちゃんは人見知りを発動している。
ここはリタが頑張らなくてはならない。
「やはりそうでしたか。大手でしたらスールシャルダン商会でしょうか?」
「違うけど、多分似たようなとこ。あまり詮索しないでもらえるとうれしい」
「これは失礼しました。あっ、オーナーがいらっしゃったようです。どうぞこちらへ」
ふぅー。何とかお店の中へ入ることができた。あとは隙をみて子供服のデザインをいろいろ見れれば十分。
ところが、何故か売り場ではなく個室に案内されてしまった。これではデザインが見れない……。
「まあ、なんて素敵な糸なんでしょう。この糸でドレスを作ったら社交界を席巻するに違いありませんわ!」
私の差し出した糸をうっとりした目で見ているマダム。この方がオーナーらしい。
「生地にしたものも少しならある」
「す、素晴らしい……。この手触り、指のまったく引っ掛からないサラっサラの生地。想像以上の仕上がりですわ!」
「この生地を卸す店を探している。店の製品を見せてもらっていい? 出来れば子供服がいい」
「この店は王都で一番の洋服店を自負しております。この生地は是非うちの店にお願いしたいですわ。それから、子供服でございますね。子供服で細かな裁縫技術を確認なさるといあことですわね。かしこまりました、あなた達、今日はもう店を閉めるわ。店にある全ての子供服をこちらに持ってきて頂戴」
よくわからないけど作戦は成功したようだ。これでブラドちゃんの洋服デザインをいっぱい勉強できる。
ユリイカは出されたクッキーと紅茶を堪能しながら私に任せると言わんばかりに手を振っている。ブラドちゃんは胃がクッキーを受けつけないから食べられないけど、どうやら紅茶は飲めるみたい。よかった。
「あ、あの、ちなみになのですが。この生地はどのぐらいの価格を想定しているのでしょうか?」
「値段はそっちが決めていい」
「な、何と! つ、つまり、どのぐらいのお金を支払えるかで卸先が決まるということですわね……」
とても驚いているみたいだけど、値段の設定とか難しくてよくわからない。リタは店が買ってくれる値段で売れれば十分。
そのお金でボタンとかの装飾品をいくつか買うだけだし。
さて、いろいろなデザインの服が運ばれてきた。覚えきれるかな……。
「少しデッサンさせてもらってもいい?」
「も、もちろんでございます。デザインまでされるとは流石でございますわ……」
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