62 / 62
一章
62 王都見学2
しおりを挟む
■■■リタ視点
私が人形を作っている間、ユリイカはずっと寝たままだった。
「ふぁー、よく寝た」
「ユリイカ姉さん寝過ぎですよー。あんなに揺れる馬車の中で寝てるの姉さんだけでしたからね」
「寝れる時に寝ておく。これはとっても大事なことなの」
そんな格言みたいな感じで言われても説得力はないが、ほんの少しだけ理解できなくもない。
「戦時中でもないんですから普通にお願いします。まあボクも昔はいつ襲撃があるかわからなかったから眠りは浅かったんですけどね。今はそういう危険がないからとっても幸せです」
「うん、これも全部ご主人様のおかげ」
モンスターにとって熟睡するということはない。ご主人様にテイムされて安全だとわかってはいても体が言うことを聞かない。未だに眠は浅く、ちょっとした物音で目を覚ましてしまう。
眠るということは無防備な状態を敵にさらすことであって、どんな強者であってもいとも容易く狩られてしまうのだ。
「攻撃を受ければ嫌でも目が覚めるわよ」
そんなことを言えるのは元魔王軍四天王だからで、周りを部下で固めているからに過ぎない。
「ユリイカはもう少し警戒した方がいい」
「そう? リタが守りを固めてくれているから敵を気にする必要はないもの。私は糸にからまった侵入者を焼き殺すだけ」
確かにそうかもしれない。私も進化したおかげで強くなったし、糸の使い方もレベルにアップしている。今なら住居周辺における勇者の侵入も許さないだろう。
「お二人がいるからボクは安心です。あっ、もちろん一番はレン様がいるからですけど」
「あまり時間もない。早く洋服店に行く」
「あっ、はい」
王都に着くと、すぐにブラドちゃん陽の子供服のデザインを見にいく。子供服なんて売っているのは貴族御用達の高級店しかないらしくて、お店に入れてもらえるかが少し不安。
「レン様から聞いたお店はここね。何だか警備の人がいるけど私たち入れるの?」
予想通りというか、店の前には屈強な警備員が控えていて、簡単に店に入れてくれそうには思えない。
店としてそれはどうなのかと思わなくもないけど、これが貴族御用達店なのだろう。人の世界は難しい。さて、話し掛けてみるか……。
「すまない。この店の店主と話がしたい」
「失礼ですがお約束は?」
「していない。だけど、この糸を見てもらいたい」
糸には自信があるものの、それが貴族受けするかまでは判断できなかった。聖女が高く売れるって言ってたから大丈夫だとは思うんだけど。
「糸ですか? って何ですか、このキメの細かいサラサラの糸は!? お、おいっ」
「はっ、す、すぐにオーナーを連れてまいります!」
「失礼しました。商会のお嬢様方でございましたか。これ程の糸を仕入れられるのでしたら相当な規模の商会なのでしょう」
「そう」
商会って何だろう。よくわからない時は話を合わせておけばいい。慣れていないのかユリイカは会話に入ってくる気配はないし、ブラドちゃんは人見知りを発動している。
ここはリタが頑張らなくてはならない。
「やはりそうでしたか。大手でしたらスールシャルダン商会でしょうか?」
「違うけど、多分似たようなとこ。あまり詮索しないでもらえるとうれしい」
「これは失礼しました。あっ、オーナーがいらっしゃったようです。どうぞこちらへ」
ふぅー。何とかお店の中へ入ることができた。あとは隙をみて子供服のデザインをいろいろ見れれば十分。
ところが、何故か売り場ではなく個室に案内されてしまった。これではデザインが見れない……。
「まあ、なんて素敵な糸なんでしょう。この糸でドレスを作ったら社交界を席巻するに違いありませんわ!」
私の差し出した糸をうっとりした目で見ているマダム。この方がオーナーらしい。
「生地にしたものも少しならある」
「す、素晴らしい……。この手触り、指のまったく引っ掛からないサラっサラの生地。想像以上の仕上がりですわ!」
「この生地を卸す店を探している。店の製品を見せてもらっていい? 出来れば子供服がいい」
「この店は王都で一番の洋服店を自負しております。この生地は是非うちの店にお願いしたいですわ。それから、子供服でございますね。子供服で細かな裁縫技術を確認なさるといあことですわね。かしこまりました、あなた達、今日はもう店を閉めるわ。店にある全ての子供服をこちらに持ってきて頂戴」
よくわからないけど作戦は成功したようだ。これでブラドちゃんの洋服デザインをいっぱい勉強できる。
ユリイカは出されたクッキーと紅茶を堪能しながら私に任せると言わんばかりに手を振っている。ブラドちゃんは胃がクッキーを受けつけないから食べられないけど、どうやら紅茶は飲めるみたい。よかった。
「あ、あの、ちなみになのですが。この生地はどのぐらいの価格を想定しているのでしょうか?」
「値段はそっちが決めていい」
「な、何と! つ、つまり、どのぐらいのお金を支払えるかで卸先が決まるということですわね……」
とても驚いているみたいだけど、値段の設定とか難しくてよくわからない。リタは店が買ってくれる値段で売れれば十分。
そのお金でボタンとかの装飾品をいくつか買うだけだし。
さて、いろいろなデザインの服が運ばれてきた。覚えきれるかな……。
「少しデッサンさせてもらってもいい?」
「も、もちろんでございます。デザインまでされるとは流石でございますわ……」
私が人形を作っている間、ユリイカはずっと寝たままだった。
「ふぁー、よく寝た」
「ユリイカ姉さん寝過ぎですよー。あんなに揺れる馬車の中で寝てるの姉さんだけでしたからね」
「寝れる時に寝ておく。これはとっても大事なことなの」
そんな格言みたいな感じで言われても説得力はないが、ほんの少しだけ理解できなくもない。
「戦時中でもないんですから普通にお願いします。まあボクも昔はいつ襲撃があるかわからなかったから眠りは浅かったんですけどね。今はそういう危険がないからとっても幸せです」
「うん、これも全部ご主人様のおかげ」
モンスターにとって熟睡するということはない。ご主人様にテイムされて安全だとわかってはいても体が言うことを聞かない。未だに眠は浅く、ちょっとした物音で目を覚ましてしまう。
眠るということは無防備な状態を敵にさらすことであって、どんな強者であってもいとも容易く狩られてしまうのだ。
「攻撃を受ければ嫌でも目が覚めるわよ」
そんなことを言えるのは元魔王軍四天王だからで、周りを部下で固めているからに過ぎない。
「ユリイカはもう少し警戒した方がいい」
「そう? リタが守りを固めてくれているから敵を気にする必要はないもの。私は糸にからまった侵入者を焼き殺すだけ」
確かにそうかもしれない。私も進化したおかげで強くなったし、糸の使い方もレベルにアップしている。今なら住居周辺における勇者の侵入も許さないだろう。
「お二人がいるからボクは安心です。あっ、もちろん一番はレン様がいるからですけど」
「あまり時間もない。早く洋服店に行く」
「あっ、はい」
王都に着くと、すぐにブラドちゃん陽の子供服のデザインを見にいく。子供服なんて売っているのは貴族御用達の高級店しかないらしくて、お店に入れてもらえるかが少し不安。
「レン様から聞いたお店はここね。何だか警備の人がいるけど私たち入れるの?」
予想通りというか、店の前には屈強な警備員が控えていて、簡単に店に入れてくれそうには思えない。
店としてそれはどうなのかと思わなくもないけど、これが貴族御用達店なのだろう。人の世界は難しい。さて、話し掛けてみるか……。
「すまない。この店の店主と話がしたい」
「失礼ですがお約束は?」
「していない。だけど、この糸を見てもらいたい」
糸には自信があるものの、それが貴族受けするかまでは判断できなかった。聖女が高く売れるって言ってたから大丈夫だとは思うんだけど。
「糸ですか? って何ですか、このキメの細かいサラサラの糸は!? お、おいっ」
「はっ、す、すぐにオーナーを連れてまいります!」
「失礼しました。商会のお嬢様方でございましたか。これ程の糸を仕入れられるのでしたら相当な規模の商会なのでしょう」
「そう」
商会って何だろう。よくわからない時は話を合わせておけばいい。慣れていないのかユリイカは会話に入ってくる気配はないし、ブラドちゃんは人見知りを発動している。
ここはリタが頑張らなくてはならない。
「やはりそうでしたか。大手でしたらスールシャルダン商会でしょうか?」
「違うけど、多分似たようなとこ。あまり詮索しないでもらえるとうれしい」
「これは失礼しました。あっ、オーナーがいらっしゃったようです。どうぞこちらへ」
ふぅー。何とかお店の中へ入ることができた。あとは隙をみて子供服のデザインをいろいろ見れれば十分。
ところが、何故か売り場ではなく個室に案内されてしまった。これではデザインが見れない……。
「まあ、なんて素敵な糸なんでしょう。この糸でドレスを作ったら社交界を席巻するに違いありませんわ!」
私の差し出した糸をうっとりした目で見ているマダム。この方がオーナーらしい。
「生地にしたものも少しならある」
「す、素晴らしい……。この手触り、指のまったく引っ掛からないサラっサラの生地。想像以上の仕上がりですわ!」
「この生地を卸す店を探している。店の製品を見せてもらっていい? 出来れば子供服がいい」
「この店は王都で一番の洋服店を自負しております。この生地は是非うちの店にお願いしたいですわ。それから、子供服でございますね。子供服で細かな裁縫技術を確認なさるといあことですわね。かしこまりました、あなた達、今日はもう店を閉めるわ。店にある全ての子供服をこちらに持ってきて頂戴」
よくわからないけど作戦は成功したようだ。これでブラドちゃんの洋服デザインをいっぱい勉強できる。
ユリイカは出されたクッキーと紅茶を堪能しながら私に任せると言わんばかりに手を振っている。ブラドちゃんは胃がクッキーを受けつけないから食べられないけど、どうやら紅茶は飲めるみたい。よかった。
「あ、あの、ちなみになのですが。この生地はどのぐらいの価格を想定しているのでしょうか?」
「値段はそっちが決めていい」
「な、何と! つ、つまり、どのぐらいのお金を支払えるかで卸先が決まるということですわね……」
とても驚いているみたいだけど、値段の設定とか難しくてよくわからない。リタは店が買ってくれる値段で売れれば十分。
そのお金でボタンとかの装飾品をいくつか買うだけだし。
さて、いろいろなデザインの服が運ばれてきた。覚えきれるかな……。
「少しデッサンさせてもらってもいい?」
「も、もちろんでございます。デザインまでされるとは流石でございますわ……」
0
お気に入りに追加
739
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(7件)
あなたにおすすめの小説
セラルフィの七日間戦争
炭酸吸い
ファンタジー
世界と世界を繋ぐ次元。その空間を渡ることができる数少ない高位生命体、《マヨイビト》は、『世界を滅ぼすほどの力を持つ臓器』を内に秘めていた。各世界にとって彼らは侵入されるべき存在では無い。そんな危険生物を排除する組織《DOS》の一人が、《マヨイビト》である少女、セラルフィの命を狙う。ある日、組織の男シルヴァリーに心臓を抜き取られた彼女は、残り『七日間しか生きられない体』になってしまった。
サフォネリアの咲く頃
水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。
人と人ではないものたちが存在する世界。
若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。
それは天使にあるまじき災いの色だった…。
※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も?
※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/50469933
転生貴族の魔石魔法~魔法のスキルが無いので家を追い出されました
月城 夕実
ファンタジー
僕はトワ・ウィンザー15歳の異世界転生者だ。貴族に生まれたけど、魔力無しの為家を出ることになった。家を出た僕は呪いを解呪出来ないか探すことにした。解呪出来れば魔法が使えるようになるからだ。町でウェンディを助け、共に行動をしていく。ひょんなことから魔石を手に入れて魔法が使えるようになったのだが・・。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
アラフォー少女の異世界ぶらり漫遊記
道草家守
恋愛
書籍版が発売しました!旅立ち編から石城迷宮編まで好評レンタル中です!
若返りの元勇者、お忍び休暇を満喫す?
30歳で勇者召喚された三上祈里(女)は、魔王を倒し勇者王(男)として10年間統治していたが、転移特典のせいで殺到する見合いにうんざりしていた。
やさぐれた祈里は酒の勢いで「実年齢にモド〜ル」を飲むが、なぜか推定10歳の銀髪碧眼美少女になってしまう。
……ちょっとまて、この美少女顔なら誰にも気づかれないのでは???
溜まりまくった休暇を取ることにした祈里は、さくっと城を抜けだし旅に出た!
せっかくの異世界だ、めいいっぱいおいしいもの食べて観光なんぞをしてみよう。
見た目は美少女、心はアラフォーの勇者王(+お供の傭兵)による、異世界お忍び満喫旅。
と、昔に置いてきた恋のあれこれ。
闇ガチャ、異世界を席巻する
白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。
寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。
いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。
リアルガチャ屋でもやってみるか。
ガチャの商品は武器、防具、そして…………。
※小説家になろうでも投稿しております。
RiCE CAkE ODySSEy
心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。
それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。
特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。
そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。
間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。
そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。
【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】
そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。
しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。
起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。
右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。
魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。
記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
第1章19
暗黒の湯は(聖女にとっては)、強酸性の酸ヶ湯温泉か電気風呂のキツイヤツみたいな感じでしょうか?
そのようなイメージです
入れなくもないけど痛い
憲兵さん!この人(勇者)です!あ・・・憲兵じゃ抑えられない。
護ろうとした妹が自分を滅ぼす害悪に無自覚に成っていくのほんとすき、やっぱつれぇわ……
つらい……