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一章
54 ドラゴンステーキ
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温泉から戻ってきた女性陣は満足気な表情を浮かべている。特にミルフィーヌは満面の笑みで悦びも一入といったところ。問題なく温泉に浸かれたということだろう。
「これからはもうあの痛みを気にせずに温泉に入れるのね」
「お兄ちゃん、私も全然気にせず湯に浸かれたよー。全然痛くなかった」
「そうか。よかったな」
スライムの仕事がまた増えてしまったけど、妹のためならばなんてことはない。またテイムすればいいしね。
「ところでユリイカとブラドちゃんは?」
「村長の奥様が声を掛けてくれて古着の子供服を少し用意してくれることになったの。今頃ミルキーちゃんの家じゃないかな」
なるほど、女の子用の服となるとルミナス村ではミルキーちゃん家にあるぐらいか。レティのおさがりはうちが貧乏だったから使い潰してしまった。
たとえ古着でもリタの糸と合わせて補修すればかなり強化できるだろう。
「あれー、リタさんが料理作ってるの?」
リタはステーキを焼きながらピースサインをしてみせる。最近それよく使うな。誰の影響なのだろうか。
「実はねレティ、クロノスさんから王都で評判の美味しい肉をもらってきたんだ。それでリタにステーキをお願いしたんだよ。たまには贅沢もいいかなって」
「レティ様、ステーキもうちょっとで完成するから待ってて。リタは最高の焼き加減を覚えた。あと、いっぱいあるから聖女の分も用意してる」
「な、何で、私の分がたまたまあるから用意した感じになってるのかなリタさん?」
「聖女は少しダイエットした方がいい。祭礼服を直すのは大変だって神官さんが言ってた」
「し、失礼ね。まだ大丈夫だし、直してもらったことはないのよレン君」
何でそれを僕に言うのか。リタと会話していたと思っていたのだが……。
ミルフィーヌはダイエットが必要ないぐらいに痩せているけど、栄養が全て胸にいっている感じがしないでもない。
「お兄ちゃんどこ見てるの?」
「どこも見てません」
とりあえず何というかブラドちゃんがいなくてよかった。一緒に食べようとかいう話になっても食べられないし、本人も自分の肉を美味しそうに食べられているのはちょっと微妙な空気になるはず。
「それにしても何の肉なのでしょう。肉厚で脂も多いし、かなり大型のモンスターの肉っぽいですよね?」
「何の肉だろうね? 僕も細かい話は聞かなかったからわからないんだ。僕とリタは先にいただいたから二人で食べて。舌がとろけるぐらいに美味しかったんだ」
焼くのにも慣れてきたのかリタのフライパン捌きも上手に見える。既にお肉の焼ける美味しい匂いが部屋中に充満している。
「リタさん、ステーキにする時は臭みをとるのに香草と一緒に焼いた方がいいって言わなかったっけ?」
「もちろん覚えてる。でもこの肉は臭みがないから問題ない。あっ、でもニンニクは使ってる。レティ様きっと驚く」
「う、うん、確かにとてもいい匂い。本当に何の肉なんだろうね。こんなに脂の多いお肉はじめてかも」
そりゃ見たことはないだろう。ドラゴン肉ですから……。しかもさっきまで一緒に温泉に入っていたブラドちゃんの尻尾部分のお肉なんです。
今後食べようと思えば定期的に頂けるのだけど、どうしたものか悩ましい。
「いっただきまーす」
レティとミルフィーヌがステーキをカットして口に入れると、目尻がさがり頬っぺをおさえながら幸せそうな声をあげる。
「ふぁああ!」
「これ味付けは本当に塩胡椒とニンニクだけなの? すっごく美味しい……」
「リタの焼き加減をもっと褒めていい」
「そ、そうね。脂が多いから丁寧に焼かないとすぐに焦げてしまいそうだものね」
「むふぅー」
リタも二人の美味しそうな表情を見て満足気だ。
「私は長らく旅をしていたのですけど、このような肉は食べたことがありません。モンスターの肉だと筋肉質で硬くなりがちなのです。でもこれはとても柔らかく脂の刺しがキメ細かく入ってます。ひよっとして飼育された大型動物なのではないでしょうか」
「へぇー、大型の動物を飼育ですか」
「レティちゃん、可能性は高いです。このお肉の臭みのなさからも飼料にもこだわりを感じます。ハーブ系、もしくはお花や果実などを与えているのではないでしょうか。これは相当高い肉ですね。王宮で秘密裏に飼育されたものがたまたま市場に出回ったのでしょう」
何だかとんでもない肉であるということは伝わったようだ。こうなると気軽に食卓に出す訳にもいかなくなる。出したらすぐにバレてしまうし、どこで手に入れたのかを聞かれることになってしまう。
レティとミルフィーヌには内緒で食べるという手もある。しかしながらお兄ちゃんとしては美味しい料理はレティと一緒に食べたい。
何か良い作戦を考えなくてはならないか。
よし、この肉をみんなで食べられるようにするためにお兄ちゃん頑張ってみようと思う。
「これからはもうあの痛みを気にせずに温泉に入れるのね」
「お兄ちゃん、私も全然気にせず湯に浸かれたよー。全然痛くなかった」
「そうか。よかったな」
スライムの仕事がまた増えてしまったけど、妹のためならばなんてことはない。またテイムすればいいしね。
「ところでユリイカとブラドちゃんは?」
「村長の奥様が声を掛けてくれて古着の子供服を少し用意してくれることになったの。今頃ミルキーちゃんの家じゃないかな」
なるほど、女の子用の服となるとルミナス村ではミルキーちゃん家にあるぐらいか。レティのおさがりはうちが貧乏だったから使い潰してしまった。
たとえ古着でもリタの糸と合わせて補修すればかなり強化できるだろう。
「あれー、リタさんが料理作ってるの?」
リタはステーキを焼きながらピースサインをしてみせる。最近それよく使うな。誰の影響なのだろうか。
「実はねレティ、クロノスさんから王都で評判の美味しい肉をもらってきたんだ。それでリタにステーキをお願いしたんだよ。たまには贅沢もいいかなって」
「レティ様、ステーキもうちょっとで完成するから待ってて。リタは最高の焼き加減を覚えた。あと、いっぱいあるから聖女の分も用意してる」
「な、何で、私の分がたまたまあるから用意した感じになってるのかなリタさん?」
「聖女は少しダイエットした方がいい。祭礼服を直すのは大変だって神官さんが言ってた」
「し、失礼ね。まだ大丈夫だし、直してもらったことはないのよレン君」
何でそれを僕に言うのか。リタと会話していたと思っていたのだが……。
ミルフィーヌはダイエットが必要ないぐらいに痩せているけど、栄養が全て胸にいっている感じがしないでもない。
「お兄ちゃんどこ見てるの?」
「どこも見てません」
とりあえず何というかブラドちゃんがいなくてよかった。一緒に食べようとかいう話になっても食べられないし、本人も自分の肉を美味しそうに食べられているのはちょっと微妙な空気になるはず。
「それにしても何の肉なのでしょう。肉厚で脂も多いし、かなり大型のモンスターの肉っぽいですよね?」
「何の肉だろうね? 僕も細かい話は聞かなかったからわからないんだ。僕とリタは先にいただいたから二人で食べて。舌がとろけるぐらいに美味しかったんだ」
焼くのにも慣れてきたのかリタのフライパン捌きも上手に見える。既にお肉の焼ける美味しい匂いが部屋中に充満している。
「リタさん、ステーキにする時は臭みをとるのに香草と一緒に焼いた方がいいって言わなかったっけ?」
「もちろん覚えてる。でもこの肉は臭みがないから問題ない。あっ、でもニンニクは使ってる。レティ様きっと驚く」
「う、うん、確かにとてもいい匂い。本当に何の肉なんだろうね。こんなに脂の多いお肉はじめてかも」
そりゃ見たことはないだろう。ドラゴン肉ですから……。しかもさっきまで一緒に温泉に入っていたブラドちゃんの尻尾部分のお肉なんです。
今後食べようと思えば定期的に頂けるのだけど、どうしたものか悩ましい。
「いっただきまーす」
レティとミルフィーヌがステーキをカットして口に入れると、目尻がさがり頬っぺをおさえながら幸せそうな声をあげる。
「ふぁああ!」
「これ味付けは本当に塩胡椒とニンニクだけなの? すっごく美味しい……」
「リタの焼き加減をもっと褒めていい」
「そ、そうね。脂が多いから丁寧に焼かないとすぐに焦げてしまいそうだものね」
「むふぅー」
リタも二人の美味しそうな表情を見て満足気だ。
「私は長らく旅をしていたのですけど、このような肉は食べたことがありません。モンスターの肉だと筋肉質で硬くなりがちなのです。でもこれはとても柔らかく脂の刺しがキメ細かく入ってます。ひよっとして飼育された大型動物なのではないでしょうか」
「へぇー、大型の動物を飼育ですか」
「レティちゃん、可能性は高いです。このお肉の臭みのなさからも飼料にもこだわりを感じます。ハーブ系、もしくはお花や果実などを与えているのではないでしょうか。これは相当高い肉ですね。王宮で秘密裏に飼育されたものがたまたま市場に出回ったのでしょう」
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