上 下
48 / 62
一章

48 サプライズプレゼントを

しおりを挟む
■■■ユリイカ視点

 ルミナス村に来てから数日、レン様の家の離れにあった出荷小屋はそのままに、そのすぐ隣に私の家が建てられた。これは早く私をレン様の家から追い出したい聖女の力によるところが大きい。

 翌日から建築工事が始まり、あっという間に完成してしまった。私一人で住むには十分な大きさの家屋であるが、魔族領にある住まいと比べると天と地ほどの差がある。

 村に建てられた一人暮らし用の家の中ではそれなりに大きい部類になるらしいが、部屋が二つにリビングが一つの平屋か。家来もいないのだからこれで十分といえば十分。

「レン君の家は畑エリアだから土地が結構余っているのよね。価値の高い参道沿いは既に土地がないけど、ここらはいくらでもあるものね」

「そんなに急がなくてもよかったのだが、でも家ができるのはありがたいな。礼を言うぞ聖女」

「ミルフィーヌでいいですよ。役職で呼ばれるのもよそよそしいですから」

「うむ、わかったミルフィーヌ」

「それから念のために聞きますけど、二人は本当に上司と部下の関係なのですね?」

「そうだ。昔から尊敬していたし、レン様のためならば命を投げ出す覚悟もある」

「畑仕事で命を投げ出すようなことはないと思いますけど、レン君って巻き込まれ体質じゃないかと思うぐらい危ない目に遭うのよね。そういう意味では何かあった時に私かリタさんに知らせてくれるだけでも助かるわ」

「ハッハッハ、知らせるまでもない。レン様が危険な時は私が全てを吹っ飛ばしてやろう」

「無理は良くないわ。農夫をするぐらいだから力はそこそこありそうですけど、あなたは普通の人なんですから」

「そ、そうだな。私は普通だからな、普通に頑張る」

「これは聖光属性の加護が込められたネックレスになります。少しぐらいなら攻撃から身を守ってくれます」

 聖女の加護か。私には必要のないものだが、何かあった時のために持っていてもいいか。

「貴重な物をありがとう。礼を言う」

「本当なら引越しを手伝ってあげたいのだけど……」

「構わん。仕事があるのだろう」

「何か困ったことがあったら相談に乗りますので何でも言ってくださいね。レン君には言いづらいこともあるでしょ?」

「うむ、わかった」

 あれほど憎たらしかった勇者パーティの聖女が身近にいて、ルミナス村に来たばかりの私に親身になってくれている。というか、レン様は聖女と同じ屋根の下で暮らしているわけで、その心労たるや想像を絶することであろう。

 せめて私と二人きりの時ぐらいはのんびりと羽を伸ばしてもらいたい。

 そういうことで、我が家はレン様がゆっくりとできる居心地のいい場所にしたいと思っている。私的には新魔王城のつもりだ。レン様用に一部屋は全て空けておく。

 レン様が座る椅子はやはり豪華な意匠をめぐらせたものでなければならない。私としては燃え上がるような爆炎をイメージしたものが良いのだけど、レン様が好むものとは少し外れてしまう。

 あー見えて色合いはブラックに艶のあるレザー系を織り交ぜたシックなものを好む傾向にある。今住まわれている家は妹のレティ様の影響なのか明るいパステルカラーが多い。しかしながらあれはレン様が本来好きなものではない。

 そういえばあのブラックメタルスライムはレン様が求めるドンピシャのカラーとデザインかもしれない。

「というわけで、おまえ達にも協力を願いたいのだ」

 すぐに私は畑仕事をしているスライムを見つけて相談することにした。ぷよぷよと縦に横に揺れながら私の話をちゃんと聞いている。

「この辺りでとれるモンスターで漆黒の艶のあるレザー素材を集めたいのだ。何か心当たりはないか?」

 スライムは少し考えると、自らの形を変形しながら返事をしてくれた。

「ふむふむ、森の奥にブラックドラゴンがいるのか。ほほう、糸はリタにお願いした方がいいのだな」

 そういえばあの白黒頭の娘、リタは蜘蛛のモンスターだという話だったな。

「よし、では一緒に素材をとりにいくぞ。ん? そりゃそうだろ。私の得意とするのは爆炎魔法なのだ。私が倒したら素材は焼け焦げてしまうじゃないか」

 どうやらスライムも私のサプライズを手伝ってくれるようで、夜の見回りの時に足をのばすということになった。プレゼントする前にレン様に見つかってしまってはつまらないからな。

「しょうがない。すぐに行こうかと思っていたが夜まで待つか。それまでは私も畑のお世話を手伝うぞ」

 ん? 何やら畑はまだ早いと言っている感じだな。出荷の方から覚えてくれだと。確かにレン様の繊細な魔法の扱いはまだ私には難しい。

「トマクの実とモロッコの実を運べばいいのだな。任せておけ、ミルキーとカールの所だろ?」

 心配なのか、スライムが一匹私についてくることになった。運ぶぐらいならなんてことないのに心配性なスライムだ。まあ、商売というのは信用が大事だと聞くし、そんなものなのかもしれないな。

 何はともあれ、こうしてスライムと私は夜な夜なブラックドラゴンを探しつつ森の奥深くへと探検する毎日を送ることになった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

セラルフィの七日間戦争

炭酸吸い
ファンタジー
 世界と世界を繋ぐ次元。その空間を渡ることができる数少ない高位生命体、《マヨイビト》は、『世界を滅ぼすほどの力を持つ臓器』を内に秘めていた。各世界にとって彼らは侵入されるべき存在では無い。そんな危険生物を排除する組織《DOS》の一人が、《マヨイビト》である少女、セラルフィの命を狙う。ある日、組織の男シルヴァリーに心臓を抜き取られた彼女は、残り『七日間しか生きられない体』になってしまった。

転生貴族の魔石魔法~魔法のスキルが無いので家を追い出されました

月城 夕実
ファンタジー
僕はトワ・ウィンザー15歳の異世界転生者だ。貴族に生まれたけど、魔力無しの為家を出ることになった。家を出た僕は呪いを解呪出来ないか探すことにした。解呪出来れば魔法が使えるようになるからだ。町でウェンディを助け、共に行動をしていく。ひょんなことから魔石を手に入れて魔法が使えるようになったのだが・・。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

闇ガチャ、異世界を席巻する

白井木蓮
ファンタジー
異世界に転移してしまった……どうせなら今までとは違う人生を送ってみようと思う。 寿司が好きだから寿司職人にでもなってみようか。 いや、せっかく剣と魔法の世界に来たんだ。 リアルガチャ屋でもやってみるか。 ガチャの商品は武器、防具、そして…………。  ※小説家になろうでも投稿しております。

アラフォー少女の異世界ぶらり漫遊記

道草家守
恋愛
書籍版が発売しました!旅立ち編から石城迷宮編まで好評レンタル中です! 若返りの元勇者、お忍び休暇を満喫す? 30歳で勇者召喚された三上祈里(女)は、魔王を倒し勇者王(男)として10年間統治していたが、転移特典のせいで殺到する見合いにうんざりしていた。 やさぐれた祈里は酒の勢いで「実年齢にモド〜ル」を飲むが、なぜか推定10歳の銀髪碧眼美少女になってしまう。  ……ちょっとまて、この美少女顔なら誰にも気づかれないのでは??? 溜まりまくった休暇を取ることにした祈里は、さくっと城を抜けだし旅に出た! せっかくの異世界だ、めいいっぱいおいしいもの食べて観光なんぞをしてみよう。 見た目は美少女、心はアラフォーの勇者王(+お供の傭兵)による、異世界お忍び満喫旅。 と、昔に置いてきた恋のあれこれ。

RiCE CAkE ODySSEy

心絵マシテ
ファンタジー
月舘萌知には、決して誰にも知られてならない秘密がある。 それは、魔術師の家系生まれであることと魔力を有する身でありながらも魔術師としての才覚がまったくないという、ちょっぴり残念な秘密。 特別な事情もあいまって学生生活という日常すらどこか危うく、周囲との交友関係を上手くきずけない。 そんな日々を悶々と過ごす彼女だが、ある事がきっかけで窮地に立たされてしまう。 間一髪のところで救ってくれたのは、現役の学生アイドルであり憧れのクラスメイト、小鳩篠。 そのことで夢見心地になる萌知に篠は自身の正体を打ち明かす。 【魔道具の天秤を使い、この世界の裏に存在する隠世に行って欲しい】 そう、仄めかす篠に萌知は首を横に振るう。 しかし、一度動きだした運命の輪は止まらず、篠を守ろうとした彼女は凶弾に倒れてしまう。 起動した天秤の力により隠世に飛ばされ、記憶の大半を失ってしまった萌知。 右も左も分からない絶望的な状況化であるも突如、魔法の開花に至る。 魔術師としてではなく魔導士としての覚醒。 記憶と帰路を探す為、少女の旅程冒険譚が今、開幕する。

学園アルカナディストピア

石田空
ファンタジー
国民全員にアルカナカードが配られ、大アルカナには貴族階級への昇格が、小アルカナには平民としての屈辱が与えられる階級社会を形成していた。 その中で唯一除外される大アルカナが存在していた。 何故か大アルカナの内【運命の輪】を与えられた人間は処刑されることとなっていた。 【運命の輪】の大アルカナが与えられ、それを秘匿して生活するスピカだったが、大アルカナを持つ人間のみが在籍する学園アルカナに召喚が決まってしまう。 スピカは自分が【運命の輪】だと気付かれぬよう必死で潜伏しようとするものの、学園アルカナ内の抗争に否が応にも巻き込まれてしまう。 国の維持をしようとする貴族階級の生徒会。 国に革命を起こすために抗争を巻き起こす平民階級の組織。 何故か暗躍する人々。 大アルカナの中でも発生するスクールカースト。 入学したてで右も左もわからないスピカは、同時期に入学した【愚者】の少年アレスと共に抗争に身を投じることとなる。 ただの学園内抗争が、世界の命運を決める……? サイトより転載になります。

処理中です...