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一章
48 サプライズプレゼントを
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■■■ユリイカ視点
ルミナス村に来てから数日、レン様の家の離れにあった出荷小屋はそのままに、そのすぐ隣に私の家が建てられた。これは早く私をレン様の家から追い出したい聖女の力によるところが大きい。
翌日から建築工事が始まり、あっという間に完成してしまった。私一人で住むには十分な大きさの家屋であるが、魔族領にある住まいと比べると天と地ほどの差がある。
村に建てられた一人暮らし用の家の中ではそれなりに大きい部類になるらしいが、部屋が二つにリビングが一つの平屋か。家来もいないのだからこれで十分といえば十分。
「レン君の家は畑エリアだから土地が結構余っているのよね。価値の高い参道沿いは既に土地がないけど、ここらはいくらでもあるものね」
「そんなに急がなくてもよかったのだが、でも家ができるのはありがたいな。礼を言うぞ聖女」
「ミルフィーヌでいいですよ。役職で呼ばれるのもよそよそしいですから」
「うむ、わかったミルフィーヌ」
「それから念のために聞きますけど、二人は本当に上司と部下の関係なのですね?」
「そうだ。昔から尊敬していたし、レン様のためならば命を投げ出す覚悟もある」
「畑仕事で命を投げ出すようなことはないと思いますけど、レン君って巻き込まれ体質じゃないかと思うぐらい危ない目に遭うのよね。そういう意味では何かあった時に私かリタさんに知らせてくれるだけでも助かるわ」
「ハッハッハ、知らせるまでもない。レン様が危険な時は私が全てを吹っ飛ばしてやろう」
「無理は良くないわ。農夫をするぐらいだから力はそこそこありそうですけど、あなたは普通の人なんですから」
「そ、そうだな。私は普通だからな、普通に頑張る」
「これは聖光属性の加護が込められたネックレスになります。少しぐらいなら攻撃から身を守ってくれます」
聖女の加護か。私には必要のないものだが、何かあった時のために持っていてもいいか。
「貴重な物をありがとう。礼を言う」
「本当なら引越しを手伝ってあげたいのだけど……」
「構わん。仕事があるのだろう」
「何か困ったことがあったら相談に乗りますので何でも言ってくださいね。レン君には言いづらいこともあるでしょ?」
「うむ、わかった」
あれほど憎たらしかった勇者パーティの聖女が身近にいて、ルミナス村に来たばかりの私に親身になってくれている。というか、レン様は聖女と同じ屋根の下で暮らしているわけで、その心労たるや想像を絶することであろう。
せめて私と二人きりの時ぐらいはのんびりと羽を伸ばしてもらいたい。
そういうことで、我が家はレン様がゆっくりとできる居心地のいい場所にしたいと思っている。私的には新魔王城のつもりだ。レン様用に一部屋は全て空けておく。
レン様が座る椅子はやはり豪華な意匠をめぐらせたものでなければならない。私としては燃え上がるような爆炎をイメージしたものが良いのだけど、レン様が好むものとは少し外れてしまう。
あー見えて色合いはブラックに艶のあるレザー系を織り交ぜたシックなものを好む傾向にある。今住まわれている家は妹のレティ様の影響なのか明るいパステルカラーが多い。しかしながらあれはレン様が本来好きなものではない。
そういえばあのブラックメタルスライムはレン様が求めるドンピシャのカラーとデザインかもしれない。
「というわけで、おまえ達にも協力を願いたいのだ」
すぐに私は畑仕事をしているスライムを見つけて相談することにした。ぷよぷよと縦に横に揺れながら私の話をちゃんと聞いている。
「この辺りでとれるモンスターで漆黒の艶のあるレザー素材を集めたいのだ。何か心当たりはないか?」
スライムは少し考えると、自らの形を変形しながら返事をしてくれた。
「ふむふむ、森の奥にブラックドラゴンがいるのか。ほほう、糸はリタにお願いした方がいいのだな」
そういえばあの白黒頭の娘、リタは蜘蛛のモンスターだという話だったな。
「よし、では一緒に素材をとりにいくぞ。ん? そりゃそうだろ。私の得意とするのは爆炎魔法なのだ。私が倒したら素材は焼け焦げてしまうじゃないか」
どうやらスライムも私のサプライズを手伝ってくれるようで、夜の見回りの時に足をのばすということになった。プレゼントする前にレン様に見つかってしまってはつまらないからな。
「しょうがない。すぐに行こうかと思っていたが夜まで待つか。それまでは私も畑のお世話を手伝うぞ」
ん? 何やら畑はまだ早いと言っている感じだな。出荷の方から覚えてくれだと。確かにレン様の繊細な魔法の扱いはまだ私には難しい。
「トマクの実とモロッコの実を運べばいいのだな。任せておけ、ミルキーとカールの所だろ?」
心配なのか、スライムが一匹私についてくることになった。運ぶぐらいならなんてことないのに心配性なスライムだ。まあ、商売というのは信用が大事だと聞くし、そんなものなのかもしれないな。
何はともあれ、こうしてスライムと私は夜な夜なブラックドラゴンを探しつつ森の奥深くへと探検する毎日を送ることになった。
ルミナス村に来てから数日、レン様の家の離れにあった出荷小屋はそのままに、そのすぐ隣に私の家が建てられた。これは早く私をレン様の家から追い出したい聖女の力によるところが大きい。
翌日から建築工事が始まり、あっという間に完成してしまった。私一人で住むには十分な大きさの家屋であるが、魔族領にある住まいと比べると天と地ほどの差がある。
村に建てられた一人暮らし用の家の中ではそれなりに大きい部類になるらしいが、部屋が二つにリビングが一つの平屋か。家来もいないのだからこれで十分といえば十分。
「レン君の家は畑エリアだから土地が結構余っているのよね。価値の高い参道沿いは既に土地がないけど、ここらはいくらでもあるものね」
「そんなに急がなくてもよかったのだが、でも家ができるのはありがたいな。礼を言うぞ聖女」
「ミルフィーヌでいいですよ。役職で呼ばれるのもよそよそしいですから」
「うむ、わかったミルフィーヌ」
「それから念のために聞きますけど、二人は本当に上司と部下の関係なのですね?」
「そうだ。昔から尊敬していたし、レン様のためならば命を投げ出す覚悟もある」
「畑仕事で命を投げ出すようなことはないと思いますけど、レン君って巻き込まれ体質じゃないかと思うぐらい危ない目に遭うのよね。そういう意味では何かあった時に私かリタさんに知らせてくれるだけでも助かるわ」
「ハッハッハ、知らせるまでもない。レン様が危険な時は私が全てを吹っ飛ばしてやろう」
「無理は良くないわ。農夫をするぐらいだから力はそこそこありそうですけど、あなたは普通の人なんですから」
「そ、そうだな。私は普通だからな、普通に頑張る」
「これは聖光属性の加護が込められたネックレスになります。少しぐらいなら攻撃から身を守ってくれます」
聖女の加護か。私には必要のないものだが、何かあった時のために持っていてもいいか。
「貴重な物をありがとう。礼を言う」
「本当なら引越しを手伝ってあげたいのだけど……」
「構わん。仕事があるのだろう」
「何か困ったことがあったら相談に乗りますので何でも言ってくださいね。レン君には言いづらいこともあるでしょ?」
「うむ、わかった」
あれほど憎たらしかった勇者パーティの聖女が身近にいて、ルミナス村に来たばかりの私に親身になってくれている。というか、レン様は聖女と同じ屋根の下で暮らしているわけで、その心労たるや想像を絶することであろう。
せめて私と二人きりの時ぐらいはのんびりと羽を伸ばしてもらいたい。
そういうことで、我が家はレン様がゆっくりとできる居心地のいい場所にしたいと思っている。私的には新魔王城のつもりだ。レン様用に一部屋は全て空けておく。
レン様が座る椅子はやはり豪華な意匠をめぐらせたものでなければならない。私としては燃え上がるような爆炎をイメージしたものが良いのだけど、レン様が好むものとは少し外れてしまう。
あー見えて色合いはブラックに艶のあるレザー系を織り交ぜたシックなものを好む傾向にある。今住まわれている家は妹のレティ様の影響なのか明るいパステルカラーが多い。しかしながらあれはレン様が本来好きなものではない。
そういえばあのブラックメタルスライムはレン様が求めるドンピシャのカラーとデザインかもしれない。
「というわけで、おまえ達にも協力を願いたいのだ」
すぐに私は畑仕事をしているスライムを見つけて相談することにした。ぷよぷよと縦に横に揺れながら私の話をちゃんと聞いている。
「この辺りでとれるモンスターで漆黒の艶のあるレザー素材を集めたいのだ。何か心当たりはないか?」
スライムは少し考えると、自らの形を変形しながら返事をしてくれた。
「ふむふむ、森の奥にブラックドラゴンがいるのか。ほほう、糸はリタにお願いした方がいいのだな」
そういえばあの白黒頭の娘、リタは蜘蛛のモンスターだという話だったな。
「よし、では一緒に素材をとりにいくぞ。ん? そりゃそうだろ。私の得意とするのは爆炎魔法なのだ。私が倒したら素材は焼け焦げてしまうじゃないか」
どうやらスライムも私のサプライズを手伝ってくれるようで、夜の見回りの時に足をのばすということになった。プレゼントする前にレン様に見つかってしまってはつまらないからな。
「しょうがない。すぐに行こうかと思っていたが夜まで待つか。それまでは私も畑のお世話を手伝うぞ」
ん? 何やら畑はまだ早いと言っている感じだな。出荷の方から覚えてくれだと。確かにレン様の繊細な魔法の扱いはまだ私には難しい。
「トマクの実とモロッコの実を運べばいいのだな。任せておけ、ミルキーとカールの所だろ?」
心配なのか、スライムが一匹私についてくることになった。運ぶぐらいならなんてことないのに心配性なスライムだ。まあ、商売というのは信用が大事だと聞くし、そんなものなのかもしれないな。
何はともあれ、こうしてスライムと私は夜な夜なブラックドラゴンを探しつつ森の奥深くへと探検する毎日を送ることになった。
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