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一章
46 その頃勇者は
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■■■勇者アシュレイ視点
神殿ではA級犯罪者である三人に対する拷問と情報収集を繰り返しながら、少しづつその真実に辿りつこうとしていた。
「ふへっ、く、くれよぉ。その、お薬くれよぉ、ふへっ……ふへへっ」
神殿の用意した自白剤は二日目には強い依存性が確認され、三日目になると薬欲しさに全てをさらけ出すようになっていた。
「薬をやるからレティさんを誘拐するように指示した者の名を言え」
「ふへっ、さ、宰相のダズモンドだ。ふへっ、は、早くくれよぉ。ちゃんと言っただろぉ、ふへへっ」
予想通りというか、王宮のトップが関わっている事件なのだと判明した。宰相自らが動いているというのか。何故王宮がレティさんの誘拐と殺害を指示するのか。
「おそらくですが、勇者様とテレシア姫のご結婚を進めるためでしょう」
「僕とテレシア姫の!? 大司教様、それについては僕はちゃんとお断りをしたはずなのですが」
「それで納得する王宮ではございませんよ。目の前でレティさんを殺害でもすれば傷心の勇者様を取りこめるとでも思ったのでしょう」
「そんな事のためにレティさんを……。ゆ、許せないっ!」
「それだけ勇者の血を王家に取りこみたいということです。勇者様はこれからどういたしますか?」
「僕は王様と直接会って話をしてきます」
僕のせいでレティさんが命を落とす所だったんだ。指示をしたのは宰相ではなく王様で間違いない。何としてでもやめさせねばならない。
最悪の場合は王様を脅してレティさんと愛の逃避行とか、ふひへへへっ。
レティさんの身を守るためであれば、お兄さんもきっと納得してくれるはずだ。南の大陸から船に乗ってのんびり旅をするのもいいかもしれない。
「勇者様、一応ご報告しておきますがレティさんは聖女候補として神殿に入信することが決まっております。彼女の身の安全につきましては今後ミルフィリッタ教会と後見人であるミルフィーヌ様が面倒を見ることになっております」
レティさんが神殿に入信……。
聖女候補として……だと。
ちょっと頭がクラクラしてきた。
聖女候補になるということは身も心も神殿に捧げることを意味する。つまり、恋愛も結婚も許されないということだ。僕たちの明るい未来が全て崩れ去っていく。
「に、入信はまだ止められるのですか?」
「本人の強い意向がありましたので難しいでしょう」
「そ、そんな……」
「勇者様がレティさんを気に入っているのは存じておりますが、彼女の方は残念ながら……」
「わ、わかっているっ!」
わかっているけど止められないのが恋というものだろう。やっと見つけた痺れるような恋心を封印することなんて僕にはできない。
「しょうがありませんね。私からレン君にレティさんに話をする機会をもらえないか聞いてみましょう」
「ほ、本当ですか!」
「聞いてみるだけですよ。断られても怒らないでくださいね」
「でしたら、場所はミルフィリッタ教会でお願いします」
「かしこまりました」
僕一人ではレティさんの家に近づくことも出来ない。いや近づけるのかもしれないけど、もしも、万が一のことではあるけど罠に反応があった場合に僕がレティさんに害をなす者として認定されてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
こんなことで神殿まで敵に回わすのは避けなければならない。
大きな爆発音が聞こえたのはその時だった。
「何やら外が騒がしいようですね」
こんな夜更けに騒ぎとは何ともきな臭い。街の外から聞こえてくるような音ではないのでモンスターの襲撃ではなさそう。となると、火事や闇ギルドによる襲撃などが浮かぶわけなのだけど。
「大司教様、神殿の警備は?」
「ご安心ください。こんな状況ですので最大限に注意を払っております」
「では私は外の様子を窺ってまいります。何かありましたら鐘を鳴らしてください。すぐに戻りますので」
「わかりました。勇者様もお気をつけて」
こんな時間にも関わらず神殿には多くの神官が控えていて聖光魔法による結界が施されている。これを抜けて神殿に入るとなると大規模な魔法を展開するか、地下からでも忍び込むぐらいしかないだろう。
爆発音のあった場所はここから少し離れた飲み屋街のある方角か。煙が立ち上っているのが見える。
「あそこか」
現場では目を覚ました野次馬や多くの騎士が集まっていて火消し作業に追われていた。
「怪我人は?」
「勇者様! 若干ですが……。ただ地下の方でうめき声が聞こえてくるので、これから救護活動をする所でした」
「地下ということは水路ですか。わかりました、私も手伝いましょう」
「ご協力感謝いたします!」
そうして水魔法で身体を覆いながら向かった地下水路はひどい有り様だった。
とんでもない規模の魔法が炸裂した跡のようで規模がこれだけで収まっていたのは場所が水路だったのと飲み屋街が街の外れだったことがせめてもの救いだったのだろう。
少し前までは聞こえていたという、うめき声は今はもう聞こえなくなっており、人だった者が動かぬ屍と化していた。
「このタグは闇ギルドのか……」
もはや熱で変形していて刻まれた名などは判別できないが神殿にいる三人も首から下げていたタグと同じものだ。
つまり、このおびただしい数の死体は全て闇ギルドのメンバーということになる。ここで一体何があったというのか。
神殿ではA級犯罪者である三人に対する拷問と情報収集を繰り返しながら、少しづつその真実に辿りつこうとしていた。
「ふへっ、く、くれよぉ。その、お薬くれよぉ、ふへっ……ふへへっ」
神殿の用意した自白剤は二日目には強い依存性が確認され、三日目になると薬欲しさに全てをさらけ出すようになっていた。
「薬をやるからレティさんを誘拐するように指示した者の名を言え」
「ふへっ、さ、宰相のダズモンドだ。ふへっ、は、早くくれよぉ。ちゃんと言っただろぉ、ふへへっ」
予想通りというか、王宮のトップが関わっている事件なのだと判明した。宰相自らが動いているというのか。何故王宮がレティさんの誘拐と殺害を指示するのか。
「おそらくですが、勇者様とテレシア姫のご結婚を進めるためでしょう」
「僕とテレシア姫の!? 大司教様、それについては僕はちゃんとお断りをしたはずなのですが」
「それで納得する王宮ではございませんよ。目の前でレティさんを殺害でもすれば傷心の勇者様を取りこめるとでも思ったのでしょう」
「そんな事のためにレティさんを……。ゆ、許せないっ!」
「それだけ勇者の血を王家に取りこみたいということです。勇者様はこれからどういたしますか?」
「僕は王様と直接会って話をしてきます」
僕のせいでレティさんが命を落とす所だったんだ。指示をしたのは宰相ではなく王様で間違いない。何としてでもやめさせねばならない。
最悪の場合は王様を脅してレティさんと愛の逃避行とか、ふひへへへっ。
レティさんの身を守るためであれば、お兄さんもきっと納得してくれるはずだ。南の大陸から船に乗ってのんびり旅をするのもいいかもしれない。
「勇者様、一応ご報告しておきますがレティさんは聖女候補として神殿に入信することが決まっております。彼女の身の安全につきましては今後ミルフィリッタ教会と後見人であるミルフィーヌ様が面倒を見ることになっております」
レティさんが神殿に入信……。
聖女候補として……だと。
ちょっと頭がクラクラしてきた。
聖女候補になるということは身も心も神殿に捧げることを意味する。つまり、恋愛も結婚も許されないということだ。僕たちの明るい未来が全て崩れ去っていく。
「に、入信はまだ止められるのですか?」
「本人の強い意向がありましたので難しいでしょう」
「そ、そんな……」
「勇者様がレティさんを気に入っているのは存じておりますが、彼女の方は残念ながら……」
「わ、わかっているっ!」
わかっているけど止められないのが恋というものだろう。やっと見つけた痺れるような恋心を封印することなんて僕にはできない。
「しょうがありませんね。私からレン君にレティさんに話をする機会をもらえないか聞いてみましょう」
「ほ、本当ですか!」
「聞いてみるだけですよ。断られても怒らないでくださいね」
「でしたら、場所はミルフィリッタ教会でお願いします」
「かしこまりました」
僕一人ではレティさんの家に近づくことも出来ない。いや近づけるのかもしれないけど、もしも、万が一のことではあるけど罠に反応があった場合に僕がレティさんに害をなす者として認定されてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。
こんなことで神殿まで敵に回わすのは避けなければならない。
大きな爆発音が聞こえたのはその時だった。
「何やら外が騒がしいようですね」
こんな夜更けに騒ぎとは何ともきな臭い。街の外から聞こえてくるような音ではないのでモンスターの襲撃ではなさそう。となると、火事や闇ギルドによる襲撃などが浮かぶわけなのだけど。
「大司教様、神殿の警備は?」
「ご安心ください。こんな状況ですので最大限に注意を払っております」
「では私は外の様子を窺ってまいります。何かありましたら鐘を鳴らしてください。すぐに戻りますので」
「わかりました。勇者様もお気をつけて」
こんな時間にも関わらず神殿には多くの神官が控えていて聖光魔法による結界が施されている。これを抜けて神殿に入るとなると大規模な魔法を展開するか、地下からでも忍び込むぐらいしかないだろう。
爆発音のあった場所はここから少し離れた飲み屋街のある方角か。煙が立ち上っているのが見える。
「あそこか」
現場では目を覚ました野次馬や多くの騎士が集まっていて火消し作業に追われていた。
「怪我人は?」
「勇者様! 若干ですが……。ただ地下の方でうめき声が聞こえてくるので、これから救護活動をする所でした」
「地下ということは水路ですか。わかりました、私も手伝いましょう」
「ご協力感謝いたします!」
そうして水魔法で身体を覆いながら向かった地下水路はひどい有り様だった。
とんでもない規模の魔法が炸裂した跡のようで規模がこれだけで収まっていたのは場所が水路だったのと飲み屋街が街の外れだったことがせめてもの救いだったのだろう。
少し前までは聞こえていたという、うめき声は今はもう聞こえなくなっており、人だった者が動かぬ屍と化していた。
「このタグは闇ギルドのか……」
もはや熱で変形していて刻まれた名などは判別できないが神殿にいる三人も首から下げていたタグと同じものだ。
つまり、このおびただしい数の死体は全て闇ギルドのメンバーということになる。ここで一体何があったというのか。
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