絶望魔王のやり直し~畑を耕していたら村に観光産業の波が押し寄せてきた~

つちねこ

文字の大きさ
上 下
46 / 62
一章

46 その頃勇者は

しおりを挟む
■■■勇者アシュレイ視点

 神殿ではA級犯罪者である三人に対する拷問と情報収集を繰り返しながら、少しづつその真実に辿りつこうとしていた。

「ふへっ、く、くれよぉ。その、お薬くれよぉ、ふへっ……ふへへっ」

 神殿の用意した自白剤は二日目には強い依存性が確認され、三日目になると薬欲しさに全てをさらけ出すようになっていた。

「薬をやるからレティさんを誘拐するように指示した者の名を言え」

「ふへっ、さ、宰相のダズモンドだ。ふへっ、は、早くくれよぉ。ちゃんと言っただろぉ、ふへへっ」

 予想通りというか、王宮のトップが関わっている事件なのだと判明した。宰相自らが動いているというのか。何故王宮がレティさんの誘拐と殺害を指示するのか。

「おそらくですが、勇者様とテレシア姫のご結婚を進めるためでしょう」

「僕とテレシア姫の!? 大司教様、それについては僕はちゃんとお断りをしたはずなのですが」

「それで納得する王宮ではございませんよ。目の前でレティさんを殺害でもすれば傷心の勇者様を取りこめるとでも思ったのでしょう」

「そんな事のためにレティさんを……。ゆ、許せないっ!」

「それだけ勇者の血を王家に取りこみたいということです。勇者様はこれからどういたしますか?」

「僕は王様と直接会って話をしてきます」

 僕のせいでレティさんが命を落とす所だったんだ。指示をしたのは宰相ではなく王様で間違いない。何としてでもやめさせねばならない。

 最悪の場合は王様を脅してレティさんと愛の逃避行とか、ふひへへへっ。

 レティさんの身を守るためであれば、お兄さんもきっと納得してくれるはずだ。南の大陸から船に乗ってのんびり旅をするのもいいかもしれない。

「勇者様、一応ご報告しておきますがレティさんは聖女候補として神殿に入信することが決まっております。彼女の身の安全につきましては今後ミルフィリッタ教会と後見人であるミルフィーヌ様が面倒を見ることになっております」

 レティさんが神殿に入信……。
 聖女候補として……だと。
 ちょっと頭がクラクラしてきた。

 聖女候補になるということは身も心も神殿に捧げることを意味する。つまり、恋愛も結婚も許されないということだ。僕たちの明るい未来が全て崩れ去っていく。

「に、入信はまだ止められるのですか?」

「本人の強い意向がありましたので難しいでしょう」

「そ、そんな……」

「勇者様がレティさんを気に入っているのは存じておりますが、彼女の方は残念ながら……」

「わ、わかっているっ!」

 わかっているけど止められないのが恋というものだろう。やっと見つけた痺れるような恋心を封印することなんて僕にはできない。

「しょうがありませんね。私からレン君にレティさんに話をする機会をもらえないか聞いてみましょう」

「ほ、本当ですか!」

「聞いてみるだけですよ。断られても怒らないでくださいね」

「でしたら、場所はミルフィリッタ教会でお願いします」

「かしこまりました」

 僕一人ではレティさんの家に近づくことも出来ない。いや近づけるのかもしれないけど、もしも、万が一のことではあるけど罠に反応があった場合に僕がレティさんに害をなす者として認定されてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。

 こんなことで神殿まで敵に回わすのは避けなければならない。


 大きな爆発音が聞こえたのはその時だった。

「何やら外が騒がしいようですね」

 こんな夜更けに騒ぎとは何ともきな臭い。街の外から聞こえてくるような音ではないのでモンスターの襲撃ではなさそう。となると、火事や闇ギルドによる襲撃などが浮かぶわけなのだけど。

「大司教様、神殿の警備は?」

「ご安心ください。こんな状況ですので最大限に注意を払っております」

「では私は外の様子を窺ってまいります。何かありましたら鐘を鳴らしてください。すぐに戻りますので」

「わかりました。勇者様もお気をつけて」

 こんな時間にも関わらず神殿には多くの神官が控えていて聖光魔法による結界が施されている。これを抜けて神殿に入るとなると大規模な魔法を展開するか、地下からでも忍び込むぐらいしかないだろう。

 爆発音のあった場所はここから少し離れた飲み屋街のある方角か。煙が立ち上っているのが見える。

「あそこか」

 現場では目を覚ました野次馬や多くの騎士が集まっていて火消し作業に追われていた。

「怪我人は?」

「勇者様! 若干ですが……。ただ地下の方でうめき声が聞こえてくるので、これから救護活動をする所でした」

「地下ということは水路ですか。わかりました、私も手伝いましょう」

「ご協力感謝いたします!」

 そうして水魔法で身体を覆いながら向かった地下水路はひどい有り様だった。

 とんでもない規模の魔法が炸裂した跡のようで規模がこれだけで収まっていたのは場所が水路だったのと飲み屋街が街の外れだったことがせめてもの救いだったのだろう。

 少し前までは聞こえていたという、うめき声は今はもう聞こえなくなっており、人だった者が動かぬ屍と化していた。

「このタグは闇ギルドのか……」

 もはや熱で変形していて刻まれた名などは判別できないが神殿にいる三人も首から下げていたタグと同じものだ。

 つまり、このおびただしい数の死体は全て闇ギルドのメンバーということになる。ここで一体何があったというのか。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。 戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。 で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...