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一章
43 僕の正体
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水路に飛び込んだとはいえ、その爆炎には当たり前のように巻き込まれているわけで、今の僕では、はっきりいって生きてるのが不思議なぐらいのずたぼろ状態。
半分ぐらい意識が飛んでいるところをユリイカが水路から僕を引き上げてくれたわけなんだけど、見つけられていなかったら僕はこのまま溺れ死んでいた可能性すらある。お前のせいなのだけど今は感謝を言うべきか……。
「あれっ、お前はレンか。何でこんな所で寝ているのだ?」
お前のせいだよこんちくしょう。そんなことよりも、早く回復魔法を使わなければ本当に死んでしまう……。
「だ、ダークネスヒール」
「その暗黒魔法……やはり」
うっ、バレてしまったか。いや、今はそんなことを言っている場合ではない。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。
暗黒魔法を操る人間というだけでも怪しいのに、地下水路全体に濃密なまでに広げた僕の暗黒属性の魔力はどう言い訳しても難しそう。まあ、やれるだけやってみるけど……。
「落し物を探していたら急に爆発があって気を失っていました。ユリイカさん、危ないところを助けていただきありがとうございます」
「深夜こんな所に落とし物か……。それよりも私はレンに自分の名を告げただろうか? こう見えて少しは名が知れた者なのでな、名乗るのは気をつけていたはずなのだが……」
「そ、そうだったんですね。会ったのは畑のど真ん中でしたし、僕以外に誰もいなかったからでしょうかね」
「まあいい。ところでゼイオン様は何故そのような格好をしておられるのですか?」
バレているのか。
それともカマをかけられているのか。
いや、ほぼバレているとみていいのか……。
「ゼイオンって誰ですか? 僕はレンですけど」
「そうですね。見た目は確かに人間です。でも一瞬ですが、この地下水路にはゼイオン様を彷彿とさせる濃厚な暗黒属性の魔力が溢れていました。この私がゼイオン様の魔力を忘れるとでもお思いですか? この辺りに魔族は私以外にいません。暗黒魔法を操れるのはあなたしかいないのですよレン、いや、ゼイオン様」
さすがにもう隠すのは無理があるか。僕が魔王ゼイオンだとユリイカにバレることでどんなデメリットがあるだろう。魔族領に連れ戻されるのか?
魔王の時も部下の無策な突撃とか聞いている時は、こめかみの辺りを人差し指でコンコンと叩きながら悩んでいたものだ。
僕がどう回答しようかと頭を悩ませていると、ユリイカは膝まづいて魔族ならではの臣下の礼をとる。
そして、その瞳には大粒の涙が浮かんでは落ちて、ボロボロと泣き始めてしまった。
「その表情と仕草は、ぐすっ、や、やっぱり、ゼイオン様ですっ!」
魔族での臣下の礼は主君への深い臣従を意味する。これを人間に対してとるようなことはどうあっても考えられない。ユリイカは笑顔で泣きながら昔と変わらず僕に忠誠を誓ってくれているのだ。
「ユリイカ、すまなかった」
「謝らないでくださいゼイオン様。あんな状況で援軍も出せずに駆けつけることもできなかった私にどうか罰をお与えください」
「確かに誰も来なかったわけだけど、僕はそうなることを見越して魂を移動させる魔法を使ったんだ。つまり、何とかして駆けつけようとしていたユリイカと違って僕は最初から逃げるつもりでいたんだよ」
「それでもです。私がみんなを早く説得して援軍を連れて来ていればゼイオン様も勇者と戦っていたでしょう」
「ユリイカがそう言ってくれるだけで僕は救われている。あとね、もう魔王ではないんだから頭を上げてくれ」
「し、しかしっ!」
「いいから」
しぶしぶといった表情で顔をあげるユリイカはやっぱり泣いていて、自分でもよくわからない感情になっているのだろう。
と、ここでスライムがやってくる。
「ご主人様ー、急がないとまずいですよー」
「あ、ああ。スライムは平気だったのか?」
「スライムは水分多いから割と炎に強いのー」
「そ、そうなんだ」
水分というよりメタルな肌が火を弾きそうにも見える。
「あのね、凄い音がしたから地上で騎士とかいっぱい集まってるってカメレオンフロッグが言ってるー」
僕が気を失ったりユリイカと話をしている間に地上では結構な人が集まってしまったらしい。
闇ギルドのメンバーはそのほとんどがユリイカの爆炎魔法で死んでしまった。ひょっとしたら何人かは生きてるかもしれないけど瀕死なことに変わりはない。犯罪者集団だって言うし、このまま騎士に任せておけばいいか。
「僕たちはこのまま地下水路を進んで街の外へ出よう。カメレオンフロッグとはそこで合流するように伝えておいてくれ。じゃあ行くよユリイカ、スライム」
「は、はいっ!」
「了解だよー」
結果としては闇ギルドの壊滅には成功した。僕ではなく主にユリイカの爆炎魔法でだけども。実際僕も死にそうになった訳だけど、きっとこれは逃げた魔王の罰みたいななものだと考えよう。
ユリイカはどうするのだろう。僕を探して旅をしていたとか言ってたけど、さすがに農家になっていたのは想定外だろう。一緒に畑を耕してくれるイメージはない。しかも同じ屋根の下に聖女がいるのは拒否反応が凄そうな気がする。
「ユリイカはこれからどうしたい?」
「もちろん、ゼイオン様と共に。ちなみに、今日は何をされていたのですか?」
地下水路を進みながら事情を説明すると、勇者や聖女が身近にいることに驚きつつも、おおむね納得してもらえた。
「それなら闇ギルドと神殿で争わせた方がよかったのではないでしょうか。私が盛大に爆炎したのは失敗でしたか」
「僕が死にそうになったから失敗であることは間違いないけど、妹の仇ぐらいは僕自身でとりたかったのと、勇者とはなるべく近づきたくなかったんだよ」
「それでは私が倒してしまったのは……」
「ユリイカは知らなかったんだし気にしなくていいよ。僕も敵のボスは倒せたしこれで闇ギルドは壊滅したんだからね」
「そう言ってもらえると、あ、あと、ゼイオン様を殺してしまいそうになったことお詫び申し上げます」
「それもまあ、知らなかったわけだしね。僕は以前の魔王ゼイオンではないから気をつけてもらえれば助かる。割と簡単に死ぬからね」
ユリイカだって魔王ゼイオンであれば怪我すらしまいと放った爆炎魔法のはずだ。
「ふへへっ、弱い魔王様かわいい」
「な、なに?」
「な、何でもございません。今後は私が魔王様をお守りいたします」
「魔王じゃなくてレンね」
「は、はい。レン様」
半分ぐらい意識が飛んでいるところをユリイカが水路から僕を引き上げてくれたわけなんだけど、見つけられていなかったら僕はこのまま溺れ死んでいた可能性すらある。お前のせいなのだけど今は感謝を言うべきか……。
「あれっ、お前はレンか。何でこんな所で寝ているのだ?」
お前のせいだよこんちくしょう。そんなことよりも、早く回復魔法を使わなければ本当に死んでしまう……。
「だ、ダークネスヒール」
「その暗黒魔法……やはり」
うっ、バレてしまったか。いや、今はそんなことを言っている場合ではない。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。
暗黒魔法を操る人間というだけでも怪しいのに、地下水路全体に濃密なまでに広げた僕の暗黒属性の魔力はどう言い訳しても難しそう。まあ、やれるだけやってみるけど……。
「落し物を探していたら急に爆発があって気を失っていました。ユリイカさん、危ないところを助けていただきありがとうございます」
「深夜こんな所に落とし物か……。それよりも私はレンに自分の名を告げただろうか? こう見えて少しは名が知れた者なのでな、名乗るのは気をつけていたはずなのだが……」
「そ、そうだったんですね。会ったのは畑のど真ん中でしたし、僕以外に誰もいなかったからでしょうかね」
「まあいい。ところでゼイオン様は何故そのような格好をしておられるのですか?」
バレているのか。
それともカマをかけられているのか。
いや、ほぼバレているとみていいのか……。
「ゼイオンって誰ですか? 僕はレンですけど」
「そうですね。見た目は確かに人間です。でも一瞬ですが、この地下水路にはゼイオン様を彷彿とさせる濃厚な暗黒属性の魔力が溢れていました。この私がゼイオン様の魔力を忘れるとでもお思いですか? この辺りに魔族は私以外にいません。暗黒魔法を操れるのはあなたしかいないのですよレン、いや、ゼイオン様」
さすがにもう隠すのは無理があるか。僕が魔王ゼイオンだとユリイカにバレることでどんなデメリットがあるだろう。魔族領に連れ戻されるのか?
魔王の時も部下の無策な突撃とか聞いている時は、こめかみの辺りを人差し指でコンコンと叩きながら悩んでいたものだ。
僕がどう回答しようかと頭を悩ませていると、ユリイカは膝まづいて魔族ならではの臣下の礼をとる。
そして、その瞳には大粒の涙が浮かんでは落ちて、ボロボロと泣き始めてしまった。
「その表情と仕草は、ぐすっ、や、やっぱり、ゼイオン様ですっ!」
魔族での臣下の礼は主君への深い臣従を意味する。これを人間に対してとるようなことはどうあっても考えられない。ユリイカは笑顔で泣きながら昔と変わらず僕に忠誠を誓ってくれているのだ。
「ユリイカ、すまなかった」
「謝らないでくださいゼイオン様。あんな状況で援軍も出せずに駆けつけることもできなかった私にどうか罰をお与えください」
「確かに誰も来なかったわけだけど、僕はそうなることを見越して魂を移動させる魔法を使ったんだ。つまり、何とかして駆けつけようとしていたユリイカと違って僕は最初から逃げるつもりでいたんだよ」
「それでもです。私がみんなを早く説得して援軍を連れて来ていればゼイオン様も勇者と戦っていたでしょう」
「ユリイカがそう言ってくれるだけで僕は救われている。あとね、もう魔王ではないんだから頭を上げてくれ」
「し、しかしっ!」
「いいから」
しぶしぶといった表情で顔をあげるユリイカはやっぱり泣いていて、自分でもよくわからない感情になっているのだろう。
と、ここでスライムがやってくる。
「ご主人様ー、急がないとまずいですよー」
「あ、ああ。スライムは平気だったのか?」
「スライムは水分多いから割と炎に強いのー」
「そ、そうなんだ」
水分というよりメタルな肌が火を弾きそうにも見える。
「あのね、凄い音がしたから地上で騎士とかいっぱい集まってるってカメレオンフロッグが言ってるー」
僕が気を失ったりユリイカと話をしている間に地上では結構な人が集まってしまったらしい。
闇ギルドのメンバーはそのほとんどがユリイカの爆炎魔法で死んでしまった。ひょっとしたら何人かは生きてるかもしれないけど瀕死なことに変わりはない。犯罪者集団だって言うし、このまま騎士に任せておけばいいか。
「僕たちはこのまま地下水路を進んで街の外へ出よう。カメレオンフロッグとはそこで合流するように伝えておいてくれ。じゃあ行くよユリイカ、スライム」
「は、はいっ!」
「了解だよー」
結果としては闇ギルドの壊滅には成功した。僕ではなく主にユリイカの爆炎魔法でだけども。実際僕も死にそうになった訳だけど、きっとこれは逃げた魔王の罰みたいななものだと考えよう。
ユリイカはどうするのだろう。僕を探して旅をしていたとか言ってたけど、さすがに農家になっていたのは想定外だろう。一緒に畑を耕してくれるイメージはない。しかも同じ屋根の下に聖女がいるのは拒否反応が凄そうな気がする。
「ユリイカはこれからどうしたい?」
「もちろん、ゼイオン様と共に。ちなみに、今日は何をされていたのですか?」
地下水路を進みながら事情を説明すると、勇者や聖女が身近にいることに驚きつつも、おおむね納得してもらえた。
「それなら闇ギルドと神殿で争わせた方がよかったのではないでしょうか。私が盛大に爆炎したのは失敗でしたか」
「僕が死にそうになったから失敗であることは間違いないけど、妹の仇ぐらいは僕自身でとりたかったのと、勇者とはなるべく近づきたくなかったんだよ」
「それでは私が倒してしまったのは……」
「ユリイカは知らなかったんだし気にしなくていいよ。僕も敵のボスは倒せたしこれで闇ギルドは壊滅したんだからね」
「そう言ってもらえると、あ、あと、ゼイオン様を殺してしまいそうになったことお詫び申し上げます」
「それもまあ、知らなかったわけだしね。僕は以前の魔王ゼイオンではないから気をつけてもらえれば助かる。割と簡単に死ぬからね」
ユリイカだって魔王ゼイオンであれば怪我すらしまいと放った爆炎魔法のはずだ。
「ふへへっ、弱い魔王様かわいい」
「な、なに?」
「な、何でもございません。今後は私が魔王様をお守りいたします」
「魔王じゃなくてレンね」
「は、はい。レン様」
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