25 / 62
一章
25 勇者アシュレイ
しおりを挟む
■■■勇者アシュレイ視点
ミルフィーヌがレティさんの家に住んでいるとは、なんてうらやましいんだ。レティさんの手料理を食べてレティさんと一緒に温泉に入り、レティさんと一緒に寝て、しかもミルフィーヌお姉さまとか呼ばせている。それはさすがにズルすぎるだろミルフィーヌ!
もしや僕のためを思ってレティさんと仲良くしているのかと思って見ていたら、食事を一緒にとる機会すら与えてもらえない。強引にお願いをしようとしたら神官にまで止められてしまった。
仲間だと思っていたミルフィーヌに裏切られるとは想像もしていなかったよ。いや、これは神殿からの強い意志を感じさせる。まさか僕とレティさんの恋路を妨害するつもりではないだろうな。
しかし、わかっていないな。恋は障害があるほどに燃えるものなのだよ。レティさんと一緒に僕は燃え上がりたいっ!
「あー、早く二人でデートをしたいな。二人きりで話をする機会さえあれば何とかなるはずなんだ。なんと言っても僕は世界を救った勇者なのだからね」
せっかく同じ村にいるというのにまだ会話すら出来ていない。レティさんは今何をしているのだろう。そんなことを考えていたらいつの間にかレティさんの住む家の近くに足が向かっていた。
「ここはお兄さんのテイムしたスライムが守っているからこれ以上は近づけないんだよね」
このスライムが優秀で、ある一定の距離に近づくとすぐに反応をしてくる。これではレティさんの声すら聞こえない。
小さな頃に読んだ絵本を思い出す。魔王に連れ去られたお姫様を救う勇者の物語だ。これを乗り越えた先に僕たちの幸せが待っているんだね。
「いやいや、それじゃあレティさんのお兄さんが魔王になってしまうじゃないか。はははっ」
それからしばらくして深夜となり僕の警備も終了しようかと思っていた所で動きがあった。
「あれはお兄さんとスライム……。こんな夜更けにどこへ行くのだろう」
不思議に思いながら見つからないように気配を消していたら、一瞬で目の前から消え去ってしまった。いや、これは身体強化魔法か!?
「テイマーであるお兄さんが他の魔法まで使えるなんて、そんなこと普通の農民でありえるのか? い、いや、これだけ広大な畑を一人で管理しているんだ。可愛いレティさんのお兄さんならそれぐらいはやれるのかもしれない」
突然のことに驚いていたらお兄さんの気配を完全に見失ってしまった。多分だけど王都に向かう街道に向かったような気がするんだけど。
「今僕には二つの選択肢がある。深夜にお出かけしたお兄さんの後を追うべきか、それとも防御力の減った魔王城もとい、レティさんの家に侵入してより高度な情報を入手すべきかだ」
お兄さんと一緒に数匹のスライムがついて行ったのは確認している。把握できているのは家の外に見えている三匹と家の中にいる二匹の計五匹か。僕ならいける。むしろ何の問題もない。
いや、ちょっと待て。落ち着くんだアシュレイ。よくよく考えてみたらあの家には現在ミルフィーヌと神殿が認定した神獣がいるのだった。これではスライムの包囲網を抜けたとしても夜這いは成功しない。くっ、何と忌々しい。やはり神殿は僕の敵なのか。
「こんな夜更けに王子様が現れたらレティさんを驚かせてしまうね。であるならば今日のところはお兄さんの後を追ってみよう」
農民が使うブースト魔法なのですぐ近くにいるだろうと思っていたら、何故か王都近くの中間地点まで来てしまった。
「どこかでお兄さんを追い越してしまったのだろうか」
そんなことを考えていたら、すぐ近くで大きな魔力の奔流を感じた。王都に近いこのような場所では考えられないような魔力だ。
まさか、こんな場所で魔族が現れたのか!?
僕は慌てて反応のあった場所へと走り始めていた。勇者としての気持ちが勝っていたのだろう。普通に考えれば魔族相手に僕一人で立ち向かうのはリスクがある。相手が上位魔族の可能性があるのなら、せめて聖女と向かうべきだったかもしれない。
そうすれば合法的に寝顔のレティさんを拝める可能性もあったのだ。僕としたことがとんだ失敗を犯してしまったのではないか……。
まあ悔やんでもしょうがない。いくら僕の身体強化魔法が速くてもルミナス村の往復なんかしていたら既に魔族はいなくなるか、王都へ攻撃を始めるかもしれないのだ。
「このあたりの……はず」
その場所にはお兄さんが一人で立っていて、湿地帯に広がっている風景をただ眺めているだけだった。それはどこか哀愁のある背中で、男として憧れるような格好良い姿だった。
不思議なことに周辺にあったはずのモンスターの反応は一切なく、あの大きな魔力反応は一体なんだったのかと思うほどに静かだった。
「驚きました、お兄さん身体強化魔法を使えたんですね。一瞬で見失ってしまって探すの苦労しましたよ。この辺りで急に大きな魔力反応があったので駆けつけたのですが……何もいませんね」
お兄さんは僕の姿を見て少し驚いたようにしながら涼し気な顔で首を竦めてみせた。
やはり格好良い。美しいレティさんのお兄さんなだけはある。僕が女性だったら放って置かないだろうな。
ミルフィーヌがレティさんの家に住んでいるとは、なんてうらやましいんだ。レティさんの手料理を食べてレティさんと一緒に温泉に入り、レティさんと一緒に寝て、しかもミルフィーヌお姉さまとか呼ばせている。それはさすがにズルすぎるだろミルフィーヌ!
もしや僕のためを思ってレティさんと仲良くしているのかと思って見ていたら、食事を一緒にとる機会すら与えてもらえない。強引にお願いをしようとしたら神官にまで止められてしまった。
仲間だと思っていたミルフィーヌに裏切られるとは想像もしていなかったよ。いや、これは神殿からの強い意志を感じさせる。まさか僕とレティさんの恋路を妨害するつもりではないだろうな。
しかし、わかっていないな。恋は障害があるほどに燃えるものなのだよ。レティさんと一緒に僕は燃え上がりたいっ!
「あー、早く二人でデートをしたいな。二人きりで話をする機会さえあれば何とかなるはずなんだ。なんと言っても僕は世界を救った勇者なのだからね」
せっかく同じ村にいるというのにまだ会話すら出来ていない。レティさんは今何をしているのだろう。そんなことを考えていたらいつの間にかレティさんの住む家の近くに足が向かっていた。
「ここはお兄さんのテイムしたスライムが守っているからこれ以上は近づけないんだよね」
このスライムが優秀で、ある一定の距離に近づくとすぐに反応をしてくる。これではレティさんの声すら聞こえない。
小さな頃に読んだ絵本を思い出す。魔王に連れ去られたお姫様を救う勇者の物語だ。これを乗り越えた先に僕たちの幸せが待っているんだね。
「いやいや、それじゃあレティさんのお兄さんが魔王になってしまうじゃないか。はははっ」
それからしばらくして深夜となり僕の警備も終了しようかと思っていた所で動きがあった。
「あれはお兄さんとスライム……。こんな夜更けにどこへ行くのだろう」
不思議に思いながら見つからないように気配を消していたら、一瞬で目の前から消え去ってしまった。いや、これは身体強化魔法か!?
「テイマーであるお兄さんが他の魔法まで使えるなんて、そんなこと普通の農民でありえるのか? い、いや、これだけ広大な畑を一人で管理しているんだ。可愛いレティさんのお兄さんならそれぐらいはやれるのかもしれない」
突然のことに驚いていたらお兄さんの気配を完全に見失ってしまった。多分だけど王都に向かう街道に向かったような気がするんだけど。
「今僕には二つの選択肢がある。深夜にお出かけしたお兄さんの後を追うべきか、それとも防御力の減った魔王城もとい、レティさんの家に侵入してより高度な情報を入手すべきかだ」
お兄さんと一緒に数匹のスライムがついて行ったのは確認している。把握できているのは家の外に見えている三匹と家の中にいる二匹の計五匹か。僕ならいける。むしろ何の問題もない。
いや、ちょっと待て。落ち着くんだアシュレイ。よくよく考えてみたらあの家には現在ミルフィーヌと神殿が認定した神獣がいるのだった。これではスライムの包囲網を抜けたとしても夜這いは成功しない。くっ、何と忌々しい。やはり神殿は僕の敵なのか。
「こんな夜更けに王子様が現れたらレティさんを驚かせてしまうね。であるならば今日のところはお兄さんの後を追ってみよう」
農民が使うブースト魔法なのですぐ近くにいるだろうと思っていたら、何故か王都近くの中間地点まで来てしまった。
「どこかでお兄さんを追い越してしまったのだろうか」
そんなことを考えていたら、すぐ近くで大きな魔力の奔流を感じた。王都に近いこのような場所では考えられないような魔力だ。
まさか、こんな場所で魔族が現れたのか!?
僕は慌てて反応のあった場所へと走り始めていた。勇者としての気持ちが勝っていたのだろう。普通に考えれば魔族相手に僕一人で立ち向かうのはリスクがある。相手が上位魔族の可能性があるのなら、せめて聖女と向かうべきだったかもしれない。
そうすれば合法的に寝顔のレティさんを拝める可能性もあったのだ。僕としたことがとんだ失敗を犯してしまったのではないか……。
まあ悔やんでもしょうがない。いくら僕の身体強化魔法が速くてもルミナス村の往復なんかしていたら既に魔族はいなくなるか、王都へ攻撃を始めるかもしれないのだ。
「このあたりの……はず」
その場所にはお兄さんが一人で立っていて、湿地帯に広がっている風景をただ眺めているだけだった。それはどこか哀愁のある背中で、男として憧れるような格好良い姿だった。
不思議なことに周辺にあったはずのモンスターの反応は一切なく、あの大きな魔力反応は一体なんだったのかと思うほどに静かだった。
「驚きました、お兄さん身体強化魔法を使えたんですね。一瞬で見失ってしまって探すの苦労しましたよ。この辺りで急に大きな魔力反応があったので駆けつけたのですが……何もいませんね」
お兄さんは僕の姿を見て少し驚いたようにしながら涼し気な顔で首を竦めてみせた。
やはり格好良い。美しいレティさんのお兄さんなだけはある。僕が女性だったら放って置かないだろうな。
1
お気に入りに追加
739
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スキルテスター!本来大当たりなはずの数々のスキルがハズレ扱いされるのは大体コイツのせいである
騎士ランチ
ファンタジー
鑑定やアイテム増資といったスキルがハズレ扱いされるのは何故だろうか?その理由はまだ人類がスキルを持たなかった時代まで遡る。人類にスキルを与える事にした神は、実際にスキルを与える前に極少数の人間にスキルを一時的に貸し付け、その効果を調査する事にした。そして、神によって選ばれた男の中にテスターという冒険者がいた。魔王退治を目指していた彼は、他の誰よりもスキルを必要とし、効果の調査に協力的だった。だが、テスターはアホだった。そして、彼を担当し魔王退治に同行していた天使ヒースもアホだった。これは、声のでかいアホ二人の偏った調査結果によって、有用スキルがハズレと呼ばれていくまでの物語である。
アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-(挿し絵有り)
くまのこ
ファンタジー
これは、此処ではない場所と今ではない時代の御伽話。
滅びゆく世界から逃れてきた放浪者たちと、楽園に住む者たち。
二つの異なる世界が混じり合い新しい世界が生まれた。
そこで起きる、数多の国や文明の興亡と、それを眺める者たちの物語。
「彼」が目覚めたのは見知らぬ村の老夫婦の家だった。
過去の記憶を持たぬ「彼」は「フェリクス」と名付けられた。
優しい老夫婦から息子同然に可愛がられ、彼は村で平穏な生活を送っていた。
しかし、身に覚えのない罪を着せられたことを切っ掛けに村を出たフェリクスを待っていたのは、想像もしていなかった悲しみと、苦難の道だった。
自らが何者かを探るフェリクスが、信頼できる仲間と愛する人を得て、真実に辿り着くまで。
完結済み。ハッピーエンドです。
※7話以降でサブタイトルに「◆」が付いているものは、主人公以外のキャラクター視点のエピソードです※
※詳細なバトル描写などが出てくる可能性がある為、保険としてR-15設定しました※
※昔から脳内で温めていた世界観を形にしてみることにしました※
※あくまで御伽話です※
※固有名詞や人名などは、現代日本でも分かりやすいように翻訳したものもありますので御了承ください※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様でも掲載しています※
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!
京衛武百十
ファンタジー
異世界で何で魔法がやたら発展してるのか、よく分かったわよ。
戦争の為?。違う違う、トイレよトイレ!。魔法があるから、地球の中世ヨーロッパみたいなトイレ事情にならずに済んだらしいのよ。
で、偶然現地で見付けた微生物とそれを操る魔法によって、私、宿角花梨(すくすみかりん)は、立身出世を計ることになったのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故
ラララキヲ
ファンタジー
ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。
娘の名前はルーニー。
とても可愛い外見をしていた。
彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。
彼女は前世の記憶を持っていたのだ。
そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。
格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。
しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。
乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。
“悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。
怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。
そして物語は動き出した…………──
※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。
※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。
◇テンプレ乙女ゲームの世界。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!
hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。
ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。
魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。
ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる