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一章

16 私の十年プラン

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■■■レティ視点

 ミルフィーヌさんとは会った時から何処か共感するところがありました。それはズバリお兄ちゃんに対する気持ちです。だからミルフィーヌさんから提案があった時に私は迷わずそれに乗りました。

「レティちゃん、リタさんはスライムとは違って油断出来ないわ。あきらかにレン君に好意を抱いてるもの」

「ですね」

 リタさんを見て確かにそうだと思った。私は妹なのでお兄ちゃんとは結婚することはできない。そんなことはわかっている。でもあと五年、可能なら十年は一緒にいたいと思っている。それぐらいお兄ちゃんのことが好きだ。

 両親は物心がつく頃にはいなかったので、私にとってお兄ちゃんは親であり、身近な異性であり、そうして一緒に暮らしていくうちに兄妹ではなく、まるで夫婦のように感じるようになってしまったのです。

 それはさておき、十年プランを実現するにはお兄ちゃんに変な虫がつかないようにすることと、私に好意を持つ人から距離を置くこと。告白してこようものならこっぴどく振ってあげるつもりでいます。その方が二度と私に告白など出来ないように心をへし折ってあげなきゃならない。

「レティちゃんさえよければアシュレイが暴走しないように私が相談に乗ってあげるわ」

 この言葉が決め手だった。勇者アシュレイは私が何度断っても気にせずプライベートスペースに入りこんでくるタイプだと感じました。こういう話の通じない人は一番苦手といってもいい。その点において一時的にミルフィーヌさんと共闘するのは正解だと思ったのです。

 そう、あくまでも一時的に。

 ミルフィーヌさんが私の相談に乗ることでお兄ちゃんに近づこうとしているのはわかっています。でも私がお兄ちゃんをどう思っているかまでは正確に把握していない。きっと小さな妹が急にお兄ちゃんをとられたくないからぐらいにしか思っていないはず。

 ミルフィーヌさんは聖女様なのでお兄ちゃんと結婚することは出来ません。それに新しく教会が建立されれば多くの付き人や神官様方と暮らすことになるはず。つまり、これは一時の我慢とも言えるのです。身を切って実を取る。これが今回私が共闘を決意した理由でもあります。

 ミルフィーヌさんも自由な時間というのは限られています。同じ人を好きになった情とでも言いましょうか。それぐらいは許してあげる心の度量というのは持ち合わせているのです。


 小さな頃から頼りになるお兄ちゃん。私が病気がちだったこともあって長いこと迷惑をかけてしまいました。そのせいか体が丈夫になってからも過保護なところは変わりません。

 家事や洗濯は私がやっていますが、その補助はかなりの部分でスライムたちが手伝ってくれますし、掃除にいたっては私がやることはほぼ残されていません。

 お兄ちゃんのテイムしたスライムは長い付き合いもあってとても信頼しています。今では私の指示でもある程度理解して動いてくれます。

 でもリタさんは別です。あの人は自ら使役されるためにお兄ちゃんに近づいてきたモンスター。見た目は綺麗な人ですが、実際は蜘蛛のモンスターなのです。絶対にあの二人を仲良くさせてはいけません。

「では、予定通りに部屋割りの話をしましょう。それからリタさんへ人として暮らしていくための躾をしっかり行っていきますよ」

「もちろんです」

 リタさんは人の姿をしているけどモンスターです。今まで深い森の奥で暮らしてきたので人との生活ではわからないことが多いでしょうし、頼りになるのがお兄ちゃんだけという依存性を高めてしまうことは別の意味で危険です。

「リタさんものすごく美人さんだからなー」

「本当です! もう少し不細工に変身すればよかったのに。っと、私としたことが汚い言葉を使ってしまいました。今のは聞かなかったことにしてください」

 こちらがミルフィーヌさんの本音なのでしょう。しかしながら全くの同意見です。

 白と黒に分かれた絹糸のようなサラサラな長髪は背中まで綺麗に整っています。そして透き通るように白くキメの細かい肌。まるで魅了魔法でも使っているかのような美しい碧眼。

 まさか突然お兄ちゃんに好意を持つとんでもない美人さんがこうも立て続けに現れるとは想定外もいいところです。リタさんはさんといい、ミルフィーヌさんといい、お兄ちゃんにモテ期が到来してしまったのでしょうか。

 私はただお兄ちゃんに甘えたいだけなのに、残された時間はそう長くないのかもしれません。

 だからこそ、この時間を大切にしなければならない。私は今、自分の部屋から枕を抱きしめてお兄ちゃんの部屋へと向かっています。ちなみに私の部屋ではミルフィーヌさんがリタさんに異性との適切な距離についての指導を行っていました。

 ミルフィーヌさんが小さな頃に学ばれた神殿で出版されている「淑女たるもの」という教科書があるようで、品位のあるレディへの第一歩と書かれたページを開いていました。ミルフィーヌさんは本気です。いや、あれは自分が教えられてきた理不尽をリタさんに強制するつもりなのかもしれない。

 ちなみに明日は私がリタさんに村での過ごし方や家でやっている仕事について教えることになっています。最近ではお兄ちゃんのお手伝いで農作物の出荷や箱詰め作業などが増えてきています。畑の面積も増えるので人手が増えるのは正直助かります。

 さ、さて。そんなことより、今はドキドキで激しく胸を打っています。暗いからバレないと思うけど、きっと私の顔は真っ赤になっているに違いありません。お兄ちゃんと一緒に寝るのなんて何年ぶりだろう。

「し、失礼しましゅ」
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