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一章
4 王都ルイーンズパレス
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■■■聖女ミルフィーヌ視点
王都ルイーンズパレスでは、今とある噂が街中に広がっている。
モンスターが近づかない聖なる村。作物が美味しく育つ奇跡の村。
「ほーらっ、ルミナス産のトマクの実はこれで最後だよー」
「おっ、最後のひと山かい。よしっ、買った! いくらだい?」
「はい、毎度ありー! ルミナス産の作物はこれでぜーんぶ完売だよー!」
魔王討伐からおおよそ五年。モンスターの数は減少し平和な世界が訪れていた。平和の象徴として噂になっているのが王都近郊にあるルミナス村だった。
「勇者様、これが最後のお仕事になるかと思いますがどうぞよろしくお願いします」
「うん、ミルフィーヌの今後の仕事に関係することだからね。それぐらいは手伝わせてよ」
「ありがとうございます。それよりもテレシア姫のことは本当によかったのですか?」
「テレシア姫だって、ただ強いだけの一般人なんかとは結婚したくないでしょ。僕なんかよりもっとお似合いの人がいるって。……それに僕が好きなタイプはもう少し年齢が低くなくては」
魔王討伐の暁には勇者様とテレシア姫が結婚するのではと聞いていたのですが、勇者様はそれをあっさりお断りしてしまいました。あの時のテレシア姫の悲しそうな顔といったら……。
「そんなことはないと思うんですけど……。うんっ、何か言われましたか?」
「い、いや、なんでもないよ。それよりもこれが勇者パーティ最後の仕事になるんだ。エイルマーもレーベンもしっかり頼むよ」
賢者エイルマーと剣聖レーベン、そして勇者アシュレイ様に聖女であるこの私ミルフィーヌ。この四人が魔王ゼイオンを討伐した勇者パーティのメンバーです。
「少なくとも賢者である私が使う大規模な魔法は出番がないでしょう」
「違いない。前衛を受け持つ自分が少し剣を振るう程度のクエストかな」
そして魔王討伐から五年が経ち、世界に平和が戻ったことでパーティが解散されることとなったのです。
つい先程勇者パーティの引退式が王城で行われ、私の新しい赴任先であるルミナス村周辺調査が完了次第に現地解散。このメンバーでの仕事は終了となります。
本来であればこの仕事もこのメンバーでやるほどのクエストではないのですが、私の新しい職場のことならと勇者様の一声で引き受けることになったのです。
クエストの内容としては、モンスターが寄りつかないというルミナス村の調査と、本当に祝福された土地であるかの調査、その中には何故かここ数年で急激に美味しく人気の出ているルミナス産農作物についても含まれていた。
王都の市場で売られているルミナス産の作物はとても人気で並ぶと同時にすぐ売り切れてしまう。私たちも来るのがもう少し遅かったらこのトマクの実を手に入れることは出来なかったでしょう。
「これがルミナス村のトマクの実か。確かに他のと比べると瑞々しくてサイズも大きいね」
勇者様は袖で軽く土汚れを落とすとトマクの実にそのままかぶりついた。
「うん、甘くて美味しい。それでいてとても上品で濃厚な味わいだね。確かにこれは一般的な作物の基準を超えているかも」
少なくなったとはいえ、王都周辺でさえ小型のモンスターが現れるというのにモンスターがまったく近寄らなくなったルミナス村。
そして、勇者様が食べているこのトマクの実を始めとするルミナス産の農作物。その大きさもさることながら生命力溢れる瑞々しい美味しさは値段が高くても売れていくブランド食材となっています。
農作物まで調べる必要があるのかとも思ったのですが、それが祝福された土地と何かしらの関係があるのであれば、ルミナス村での成功を他のエリアの農作地にも提案ができることでしょう。
そうして最後のクエストに出ようとしたところ、王都の大門の前では大勢の観衆と見送りに来てくれたテレシア姫が待ち構えていました。
「ア、アシュレイ様!」
抱きつきかねない勢いで勇者様の手を握るテレシア姫を見ると、こちらまでその気持ちが伝わってきます。もちろん、そんな気持ちに一切気づかないのが勇者様なのですが……。
「テレシア姫、お見送りありがとうございます。最後のクエストもちゃんとクリアして参りますね」
しかしながら姫も勇者様のこの態度に負けることはありません。腕をぐいぐいと絡めながらも猛アプローチを続けていきます。どうやらまだ勇者様のことを諦めてはいないようですね。
「このクエストの後は、王都で冒険者活動をされるのですよね?」
「うん、エイルマーとレーベンは一度実家に戻るけど僕にはそういう場所がないからね。しばらくは一人の冒険者としてギルドに貢献します」
「まあ、王都のギルドは安泰ですわね。それでしたら私はギルドにアシュレイ様への指名依頼を出そうかしら。それとも私も冒険者としてデビュー可能な年齢になったのですからアシュレイ様にいろいろ教わるのもいいかもしれません」
「えっ、テレシア姫が冒険者に?」
「勇者様方のクエストが終了するまでにはきっとお父様を説得してみせますわ」
十六歳になったばかりのテレシア姫。ギルドでの冒険者登録も可能な年齢ですが、王族は普通ギルドで登録などしません。
王様もテレシア姫の気持ちを知っているが故に最後のチャンスとしてこのアタックを容認する可能性は十分に考えられます。王宮は勇者の血を欲していると聞きますからね。
それにしても、勇者様はこの可愛らしく美しいテレシア姫のどこが気に入らないのでしょうか。
そんなことを考えながら私たち勇者パーティはルミナス村へと向かっていくのでした。
王都ルイーンズパレスでは、今とある噂が街中に広がっている。
モンスターが近づかない聖なる村。作物が美味しく育つ奇跡の村。
「ほーらっ、ルミナス産のトマクの実はこれで最後だよー」
「おっ、最後のひと山かい。よしっ、買った! いくらだい?」
「はい、毎度ありー! ルミナス産の作物はこれでぜーんぶ完売だよー!」
魔王討伐からおおよそ五年。モンスターの数は減少し平和な世界が訪れていた。平和の象徴として噂になっているのが王都近郊にあるルミナス村だった。
「勇者様、これが最後のお仕事になるかと思いますがどうぞよろしくお願いします」
「うん、ミルフィーヌの今後の仕事に関係することだからね。それぐらいは手伝わせてよ」
「ありがとうございます。それよりもテレシア姫のことは本当によかったのですか?」
「テレシア姫だって、ただ強いだけの一般人なんかとは結婚したくないでしょ。僕なんかよりもっとお似合いの人がいるって。……それに僕が好きなタイプはもう少し年齢が低くなくては」
魔王討伐の暁には勇者様とテレシア姫が結婚するのではと聞いていたのですが、勇者様はそれをあっさりお断りしてしまいました。あの時のテレシア姫の悲しそうな顔といったら……。
「そんなことはないと思うんですけど……。うんっ、何か言われましたか?」
「い、いや、なんでもないよ。それよりもこれが勇者パーティ最後の仕事になるんだ。エイルマーもレーベンもしっかり頼むよ」
賢者エイルマーと剣聖レーベン、そして勇者アシュレイ様に聖女であるこの私ミルフィーヌ。この四人が魔王ゼイオンを討伐した勇者パーティのメンバーです。
「少なくとも賢者である私が使う大規模な魔法は出番がないでしょう」
「違いない。前衛を受け持つ自分が少し剣を振るう程度のクエストかな」
そして魔王討伐から五年が経ち、世界に平和が戻ったことでパーティが解散されることとなったのです。
つい先程勇者パーティの引退式が王城で行われ、私の新しい赴任先であるルミナス村周辺調査が完了次第に現地解散。このメンバーでの仕事は終了となります。
本来であればこの仕事もこのメンバーでやるほどのクエストではないのですが、私の新しい職場のことならと勇者様の一声で引き受けることになったのです。
クエストの内容としては、モンスターが寄りつかないというルミナス村の調査と、本当に祝福された土地であるかの調査、その中には何故かここ数年で急激に美味しく人気の出ているルミナス産農作物についても含まれていた。
王都の市場で売られているルミナス産の作物はとても人気で並ぶと同時にすぐ売り切れてしまう。私たちも来るのがもう少し遅かったらこのトマクの実を手に入れることは出来なかったでしょう。
「これがルミナス村のトマクの実か。確かに他のと比べると瑞々しくてサイズも大きいね」
勇者様は袖で軽く土汚れを落とすとトマクの実にそのままかぶりついた。
「うん、甘くて美味しい。それでいてとても上品で濃厚な味わいだね。確かにこれは一般的な作物の基準を超えているかも」
少なくなったとはいえ、王都周辺でさえ小型のモンスターが現れるというのにモンスターがまったく近寄らなくなったルミナス村。
そして、勇者様が食べているこのトマクの実を始めとするルミナス産の農作物。その大きさもさることながら生命力溢れる瑞々しい美味しさは値段が高くても売れていくブランド食材となっています。
農作物まで調べる必要があるのかとも思ったのですが、それが祝福された土地と何かしらの関係があるのであれば、ルミナス村での成功を他のエリアの農作地にも提案ができることでしょう。
そうして最後のクエストに出ようとしたところ、王都の大門の前では大勢の観衆と見送りに来てくれたテレシア姫が待ち構えていました。
「ア、アシュレイ様!」
抱きつきかねない勢いで勇者様の手を握るテレシア姫を見ると、こちらまでその気持ちが伝わってきます。もちろん、そんな気持ちに一切気づかないのが勇者様なのですが……。
「テレシア姫、お見送りありがとうございます。最後のクエストもちゃんとクリアして参りますね」
しかしながら姫も勇者様のこの態度に負けることはありません。腕をぐいぐいと絡めながらも猛アプローチを続けていきます。どうやらまだ勇者様のことを諦めてはいないようですね。
「このクエストの後は、王都で冒険者活動をされるのですよね?」
「うん、エイルマーとレーベンは一度実家に戻るけど僕にはそういう場所がないからね。しばらくは一人の冒険者としてギルドに貢献します」
「まあ、王都のギルドは安泰ですわね。それでしたら私はギルドにアシュレイ様への指名依頼を出そうかしら。それとも私も冒険者としてデビュー可能な年齢になったのですからアシュレイ様にいろいろ教わるのもいいかもしれません」
「えっ、テレシア姫が冒険者に?」
「勇者様方のクエストが終了するまでにはきっとお父様を説得してみせますわ」
十六歳になったばかりのテレシア姫。ギルドでの冒険者登録も可能な年齢ですが、王族は普通ギルドで登録などしません。
王様もテレシア姫の気持ちを知っているが故に最後のチャンスとしてこのアタックを容認する可能性は十分に考えられます。王宮は勇者の血を欲していると聞きますからね。
それにしても、勇者様はこの可愛らしく美しいテレシア姫のどこが気に入らないのでしょうか。
そんなことを考えながら私たち勇者パーティはルミナス村へと向かっていくのでした。
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