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5巻

5-3

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「あ、あの、インベントリ内に空気がないんですけど、というか時が止まっているっぽいんですけど!」

 僕のイメージするインベントリは、ゲームやラノベにあるようなもの。勝手に時間の経過しないものをイメージして、それが奇跡的に完成してしまったのかもしれない。

「す、すみません。そんなつもりはなかったんですけど」
「あっ、いえ、こちらこそ、とり乱しました。それにしても、これはすごいことですよ。衝撃ですっ! まるで不遇な闇属性魔法に光が差しているというかですね、とにかく闇なのに光差しちゃってるんですよ!」

 急に早口になったダークネスドラゴンがすごく前のめりだ。

「そうですね。食料や魔物の素材なんかを保存できますもんね」

 すると、違うとばかりに手を広げるダークネスドラゴン。

「いえ、このシャドウインベントリは簡単に魔物を殺すことができます。クロウさんが広げた影のエリアにいる魔物は一瞬で空気のないインベントリ内に閉じ込められ、数分以内に息を吸えずに死に絶えるでしょう」
「えっ?」
「中に入ったのがたまたま私だったからなんとか脱出できましたけど、誰か人を入れていたら危険だったかもしれませんね。今の脱出に要した魔力は私の約半分です。ドラゴンの半分近くもの魔力がある人なんてクロウさん以外ではいませんよね?」

 僕の魔力はドラゴンの半分ぐらいあるらしい。ここしばらく魔力が切れたことはないけど、かなり増えていたようだ。
 実のところ、まだ増えていきそうな気がしないでもない。僕まだ十二歳だしね、ネシ子との契約効果で寿命もたっぷり延びてるから伸びしろもかなりあるだろう。

「知らなかったとはいえ、申し訳ございませんでした」
「あっ、いえ、クロウさんも知らなかったことなのですからしょうがないです。いやー、久し振りに死ぬかと思いましたよー。ははっ、ははは」

 シャドウインベントリから脱出するには、インベントリの広さと作った本人の魔力量とが関係し、出られたり出れなかったりするとのこと。クネス大師のシャドウインベントリの場合、僕なら二十パーセント程度の魔力で出ることが可能らしい。
 仕組みはよくわからないけど、僕のシャドウインベントリには人を入れたらダメということがわかった。

「さっきも言いましたけど、インベントリ内の時間が止まっているということは、食材や討伐した魔物素材の保管に使えますよね」
「はい、言われてみれば確かにそうですね。新鮮なまま保存されますね。そもそも、魔物は倒さなくてもインベントリに収納してしまえば勝手に死にますけどね。私の半分以上の魔力を持った魔物以外ですけど」

 このドラゴンは、どうしても時の止められるシャドウインベントリで魔物を殺したいらしい。
 まあ、影を踏んだら殺されるとか、大抵の魔物がなすすべもなく討伐可能だろう。空を飛べる魔物とかはインベントリに納めるのは難しそうだけど、地上の魔物であれば確かに一網打尽いちもうだじんにできるかもしれない。

「でも、素早いタイプの魔物だと気味悪がってすぐに逃げちゃうかもしれないね」
「危機意識の高い魔物なら考えられなくもないですが、大抵の場合、魔物って脳筋タイプが多いですからね……。それに、昼なら多少は警戒するでしょうが、夜だと闇に紛れて自分が捕獲されたことにも気づかずに、いつの間にか死に絶えることでしょう」

 そう言ってドラゴンからクネス大師の姿に戻ると、僕の手をとって懇願してきた。

師匠ししょう、私に時の止まるシャドウインベントリを教えてください」
「ちょ、ちょっと待ってください」

 闇属性魔法を教えてもらうのは僕であって、どちらかというとクネス大師の方が師匠なわけで。
 そもそも、まだ魔法一つしか教わってないんだってば!

「師匠、ともに闇属性を盛り上げていきましょう。この属性にこんな可能性があったなんて! 私、今とっても感激しております!」
「そ、そうですか……」


 それからもう一つだけ闇属性魔法を教えてもらったあと、今日のところは解散することになった。
 クネス大師もシャドウインベントリの時間を止める練習をしたいとのことで、今後も定期的に勉強会を行うことが決定している。

「じゃあ、師匠。またのお越しをお待ちしています」
「いや、師匠って……」

 手をぶんぶん振り、出会ってから一番の笑みを見せるクネス大師。
 僕に教えられることとか本当にあるのだろうか。まあ、いいか。難しければそのうち諦めるだろう。気長きながに考えればいい。ドラゴンの時間というのは流れる早さがのんびりしてそうだからね。

「それじゃあ、また! シャドウハイド」

 この魔法はクネス大師がサイレントダークネスのアジトからゴズラー教の総本山へと逃げる際に使用した闇属性魔法で、シャドウインベントリとも近いことから教えてもらった二番目の魔法。
 闇を広げてインベントリ化したものがシャドウインベントリなら、こちらのシャドウハイドは自らの体を闇に潜り込ませて高速で移動することができる魔法だ。
 二つの魔法の違いは、インベントリが物などをそのままを倉庫のように保管するのに対して、ハイドの方は自分自身を闇に溶け込ませるとでも言えばいいだろうか。体をスライムのようになめらかでふにゃふにゃな物に変えて影に潜む魔法なのだ。
 シャドウハイドを使用すると自分の影の中に入ることができ、まるで水の中を高速で動くような感じで素早い移動が可能になる。もちろん息もできるし、影の中から周辺の景色も見えている。

「と言っても、慣れるまでは時間がかかりそうだよね」

 今まで感じたことのないローアングルのせいで道に慣れていないと自分がどこにいるのかわからなくなってしまうのだ。
 クネス大師は「こればっかりは慣れですね」とか言ってたから、しばらく移動はこれで慣れていこうと思う。そして何より楽だというのもある。僕が走るより何倍も早く動けるのだ。その分、魔力の消費は大きくなるけど、魔力量が多い僕にとってはなんの問題もない。
 錬金術師にとって土や風という属性が扱いやすいものだったのだけど、闇もなかなか使用頻度が増えそうな魔法だ。影のない場所なんてないのだからね。
 全体的に魔力消費量が欠点と言えるものの、魔力量をそこまで気にしない僕にはうってつけとも言える。
 そんなことよりも、僕の欠点でもあった点を改善してくれるスピード移動やインベントリによる倉庫機能の方が何倍も喜ばしい。闇属性魔法万歳ばんざい
 やはり魔法は体力を使わなくていいから最高だ。これからは敵に囲まれても闇の中に逃げ込めるし、回り込んで魔物の後ろから魔法を放つことも可能。
 ただ、ネシ子みたいに魔力の流れを敏感に感じるタイプは、僕の影がどこにいてどこへ移動しているかまでわかってしまうようなので楽観はできない。普通に魔法攻撃や物理攻撃もダメージは入ってしまうようなのだ。
 できるかどうかわからないけど、ギガントゴーレムの操縦だって闇の中から行えば僕の安全性はかなり増すことだろう。
 ただ、問題があるとしたら視点の確保か。このローアングルからギガントを動かすというのはどうしても無理がある。いつだったか、オークの軍勢を相手にした時のように群れの中へハリケーンするだけとかなら問題ないと思うけど。


 ◇


 ということで、いろいろと考えごとをしていたら自治区まで戻ってきていた。まだ夜ご飯の時間には早そうなので、ドワーフたちの鍛冶の様子でも見てこようか。
 何気にドワーフが来てから結構な日数が経つけど、僕の方から鍛冶場へお邪魔したことはない。酒臭さとかドワーフの体臭が染みついた工房に行くのがなんとなく嫌だったのだ。


 広場から少し入って木々の間を抜けると、その場所は見える。消音のための土壁がいくつか建てられているものの、近づくと鉱物を叩く音が聞こえてくる。

「お邪魔するよー」

 工房の入口辺りで声をかけるものの反応はもちろんない。
 カーン、カーンと高い音があちらこちらから響いているせいで、誰も僕の声なんて聞こえていないのだろう。
 工房へ入ると、熱気と酒臭さが充満していて一気に気持ち悪くなる。
 今世こんせの僕はアルコールが苦手なのだろうか。というか、なぜ換気をしないのか。錬金術師の工房との違いがありすぎるな。
 そうして、一番奥にある鍛冶場に到達すると、ノルドとベルドが一心不乱にインゴッドを叩いていた。

「ぬ、小僧か?」
「珍しいな、小僧がここに来るなんてのう」
「それは?」
「これはドラゴンの鱗とミスリルを合わせてみたものじゃよ」

 ダークネスドラゴンの鱗の影響なのか、その石は漆黒につややかに輝く美しい色をしている。

「それで加工はできそうなの?」
「まだ配合の調整中じゃ」
「これだと鱗の分量が多すぎて上手くハンマーが入っていかん」

 どうやらダークネスドラゴンの鱗が硬すぎて加工に苦戦しているようだ。
 こんな時こそ僕の鑑定の出番なのではなかろうか。いいタイミングで来れて良かった。鱗もミスリルも数に限りがあるのだからね。

「鑑定、そこのインゴッド」


【インゴッドの失敗作】
 ダークネスドラゴンの鱗二十パーセントとミスリル鉱石八十パーセントを混ぜ合わせたインゴッドの失敗作。加工に適した割合は鱗十六パーセントに対してミスリル八十四パーセント。


「どうなんじゃ?」
「もう少しでいける気はしているんじゃがのう」
「惜しかったね。鱗十六パーセントの重量に対してミスリル八十四パーセントの割合らしいよ。もう少しミスリルの分量を増やしてみて」
「そんなことがわかるのか! ベルド」
「おう、やるぞ、ノルド」


 新しいインゴッドはそれからすぐに完成して、ノルドが叩いていく。そのすぐ後ろにはベルドが控えていて、取り囲むように全ドワーフが見守っている。
 カーン、カーン、カーン、カーン。
 無言の空気の中、ノルドの叩くハンマーの音が高らかに響いていく。
 叩いたり伸ばしたりを繰り返しながら徐々にその形が剣の姿へと変わっていく。

「ふぅー、かなり硬度が高いのう」
「これなら少し細くなっても耐久性に問題はないじゃろう。とにかく伸ばせるだけ伸ばすんじゃ」
「わかっとるわい」

 カーン、カーン、カーン、カーン。
 熱が下がると、ベルドが高温の火の中へ入れて再びノルドが叩いて伸ばしていく。
 軽くて硬いとか、筋力のない僕とかにはもってこいだろう。僕が剣を使うつもりはこれっぽっちもないけども。
 それでも単純な軽さで言えばローズが使っている剣が一番軽いようだ。鱗の硬度の分だけ、こちらの方が重みがあるのだろう。

「完成したらすぐに持っていく。それまで待っておれ」
「そうじゃのう。今は鍛冶に集中する時じゃ。ここからは小僧にできることは何もない」
「うん、わかった。楽しみにしてるよ」

 ノルドとベルドの眼光が真っ赤に輝いている。これはアルコールで目が充血しているのか、それとも二徹目を迎えて目が死に始めているのか。いや、きっとこのミスリルの加工に心を燃やしているのだろう。そう信じたい……。
 それにしても、ミスリルの剣についてはアル中兄弟のおかげですぐにウォーレン王へ三振りをお渡しできそうだ。
 もう少し時間がかかるかと思ったけど、風の精霊さんからもらえるミスリルの量も増加傾向にあるらしい。いや、正確には大地の精霊さんからのだけど。
 聞くところでは、かなりの本数のBランクポーションを購入しているとのこと。それによってミスリルの量も増えているのだとか。このペースでミスリルを提供してもらえるのであれば、オウル兄様とアドニス王太子の分もすぐに用意できそうだ。


 そんなことを考えながら広場に戻ってくると、風の精霊が列をなして錬金術師の工房の前に並んでいた。そこではマリカが何人かの錬金術師とともに応対しているところだった。

「またすごい行列だね」
「あっ、クロウ様、おはようございます。風の精霊さんがポーションのまとめ買いをさせてほしいって」
「ま、まだ買うんだね。Bランクならいくらでも渡しちゃって構わないよ」
「はい、そのつもりです」

 その分、錬金術師たちの仕事が増えるわけだけど、今は人数も増えたし、王都組も戻ってきたので再び量産体制に入れるだろう。

「クロウ、いつもポーションありがとうなの」

 朝から元気な風の精霊の女王エルアリムがやってきた。

「こんなに買い込んでどうするの?」
「これからはこれぐらいのペースで買うから準備よろしくなの。今までは少し様子を見てたんだけど、大地の精霊も火の精霊も、もちろん風の精霊も自治区のことを正式に信用することになったのよ」

 正式に信用とは、これまた一体どういうことだろうか。

「精霊と人は長い間お付き合いをしてこなかったの。だから引っ越しはしたものの、こちらはこちらでここの人たちやクロウのことを観察してたの」

 なんでも精霊さんが引っ越しをしてから、火と大地と風の三者間会議をたびたび行っていたらしく、この度正式にゴーが出たとのことらしい。

「そ、それはありがとう。で、いいのかな?」
「勝手に観察してて、ごめんなさいなの。王都にも一緒に観察部隊を派遣してたの。ほらっ、ポーションがあるから長旅も可能なの」
「へ、へぇー、そうだったんだ」
「報告では、この国の王との関係性も良好だし、国としてもネスト村を自治区として他の貴族が手を出せないようにしてくれたの。だから私たちはこの関係が変わらない限りこの自治区への協力を惜しまないの。あと、旅にも出たいからポーションをいっぱい購入して代わりにミスリルを提供することにしたの」

 なるほど、ミスリルを渡したことで悪いことをしないかとか見定めていたのかもしれない。あと、風の精霊さんが単純に旅をしたいからな気がしないでもない。この精霊さんは常に自由を求めているからね。
 火の管理や子供向けのジェットコースターなどで、ここで暮らす人々や冒険者との関係性も良い。大地の精霊さんのおかげで作物の質も向上してるみたいだし、こちらとしてもかなり助かっている。僕としてもこの関係はこのまま維持していきたい。

「じゃあ、またねなの」
「うん、またね」

 なんだか平和でいい感じになってきてる気がしないでもない。これがスローライフというやつなのかもしれない。生活水準も向上して、食にも困らない。お金はいくらでも稼げる状況だし、自治区としての仕事の管理はアドニスがしてくれる。僕のポジション、絶妙すぎるな。
 そんな平和ボケな考えがダメだったのか。それともそんなことは関係なく巻き込まれてしまう体質なのかはわからない。さっき別れたばかりのクネス大師が急に僕の後ろから現れた。

「師匠、大変です。ゴズラー教の情報網にかかった問題を報告したところ、ウォーレン王から師匠に依頼が入りました!」
「ちょっ、クネス大師、急に後ろから現れるのはやめてよ」
「あー、ごめんなさい。いつもの癖で……そ、それよりも聞いてください、大変なんですよ」




 3 獣人族の争い



 クネス大師の話によると、獣人族同士の争いが激化してしまい、リッテンバーグ伯爵領内の街道が封鎖されてしまっているとのこと。
 リッテンバーグ伯爵領といえば、敵対勢力であるヴィルトール侯爵派の急先鋒きゅうせんぽうである。海運で財を成した豊かな領で、発言においても影響力の高い貴族だ。
 そもそも、伯爵領周辺における揉め事なので外部がとやかく言う話ではないのだけど、ことリッテンバーグ伯爵領の街道が封鎖されることは王国としても見過ごせない問題が噴出することになる。
 そう、塩や胡椒こしょう、そしてスパイスの流通が止まってしまうのだ。食にいろどりをもたらすスパイスはすべての民にとって必要不可欠なもの。誰も味のしないスープでパンを食べたくない。

「まあ、スパイスの流通がとどこおるのは困るよね」

 物が入ってこないということは、うちの自治区にもスパイスが回ってこなくなるということ。それは僕としても困る。

「問題はそれだけではありません。現在揉めている辺りですが、魔法学校の生徒たちが実習で入っている森があるそうでして、身動きがとれなくなっているそうなんです」

 ウォーレン王も他種族の争いなので介入すべきか悩んでいたところ、魔法学校の生徒の危機という口実こうじつを手に入れたことでゴーが出たらしい。

「で、なんで騎士じゃなくて僕に話が回ってくるのかな?」
「騎士を動かすと大事おおごとになるから獣人族も警戒してしまうだろうと。なので、あくまでも旅の途中に騒動に巻き込まれた感じで獣人族たちの問題を上手く解決して、ついでに魔法学校の生徒の救出も頼むとのことです」
「ついでって……。というか、魔法学校の生徒って、もしかして」
「はい、師匠のお兄様であられるホーク様もその森で足止めされているとのことです」
「なるほど……」

 身内も巻き込まれているのだから手伝いなさいということなのだろう。

「対立している獣人族はひつじ族とおおかみ族です。クロウ様は先に魔法学校の生徒と合流してから、問題を解決するようにとのことです」
「ところで、どんなメンバーで向かえばいいのかな?」
「できる限り少人数でとのこと、ちなみに私はウォーレン王と情報の共有をするので不参加です。現地に分身体は向かわせますが、戦力にはなりません」

 旅となる以上、魔力供給の契約をしているネシ子は連れていくことになる。あまり刺激したくないから、ギガントは持っていくわけにもいかない。
 となると、ラヴィとあと一人ぐらいかな。

「わかったよ。アドニスやオウル兄様と相談してから決めることにする。急いだ方がいいんだよね?」
「はい、王都に近づかなければ空を飛んでもオッケーです。あと、街道沿いはなるべく避けてもらえればとのことです」

 うん、高いところを飛べば大丈夫だね。
 対立している羊族と狼族。そのエリアは大きな山と大きな川を挟み、雄大に広がる草原に分かれているらしい。問題となっている封鎖された道は深く切り立った渓谷けいこくの街道らしく、回り道のない一本道なのだそうだ。
 山エリアは狼族のブラスト一族、草原は羊族のテンペスト一族が古くから縄張りにしているらしい。
 テンペスト一族といえば、そう、ミルカ・テンペストだ。ローズと決勝で戦った双剣の獣人剣士。おそらくは彼女の故郷なのだろう。
 狼族と羊族の争いと聞くと狼族が圧倒的有利に思えてしまうが、ここは異世界に住む獣人。羊族であるミルカの強さは相当なものだったと思うし、草食とか肉食とかあんまり関係ないのかもしれない。


 というわけで、さっそく出発することになった。
 話し合いの結果、僕が離れる以上アドニスは自治区にいなければならないため除外。
 そして、まだ騎士団に入隊していないものの自治区での近衛騎士団のリーダー的な役割を担っているオウル兄様も除外。来たばかりだから、いろいろやることが多いんだよね。

「ローズお嬢様、ディアナはとても悲しいです」

 結果として、ドラゴン以外の人たちはローズとラヴィだけとなった。今回に限っては人数を絞らなければならなかったので、ディアナはお留守番なのだ。

「しょうがないじゃない。疾風しっぷう射手しゃしゅに話をしておいたから、一緒にダンジョンへ行ってなさい。しっかり稼いでくるのよ」
「どうか、どうか、お早めのご帰還を」
「わ、わかったから、じゃあね」

 急ぎの案件なので、すぐにドラゴンに乗っての出発となる。ネシ子の準備は万端のようで、早く乗れと言わんばかりに翼をバッサバッサさせている。
 お見送りはオウル兄様とアドニス。あと、後ろの方にセバスが控えている。

「俺たちは行けないけど、ホーク兄がいるんだから問題ないだろ。まぁ、森だと火の扱いは微妙かもしれねぇけどさ」
「戻ってきたばかりなのに王室の依頼で申し訳ないね。でもスパイス関連は影響力が強いから上手く解決できることを祈ってるよ」
「はい、僕に何ができるかわかりませんが、ホーク兄様もいますし、最終手段としてネシ子もいるのでとりあえず頑張ってみます」

 ネシ子頼みの解決はあくまでも最終手段だ。そういうゴリ押しでの解決はどこかで不平不満であったりゆがみであったりが出てしまうからね。わだかまりが残ったままだと再び問題が発生してしまう。そうならずに解決できることを僕も祈っている。

「では、行ってきます」


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