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4巻
4-2
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「あ、あの、勝手に住む場所を決めるのはダメだからね」
「もちろんなの。こちらの希望をお伝えして検討してもらいたいの。風の精霊はこの牧場の草原がお気に入りなの。大地の精霊はきっとこの畑が好きなはずなの」
地図の上で楽しそうにダンスを披露しながら住む気満々のご様子。ここにはいない大地の精霊まで呼ぶつもりのようだ……。
「大地の精霊とは仲が良いみたいですね」
「精霊にも相性があるの。風の精霊は大地の精霊と仲がいいの」
すると、アルニマルが説明してくれる。
「クロウ殿、説明すると、火→風→大地→水→火といった感じで繋がりが深いのです」
「つまり、火の精霊は風の精霊と仲が良くて風の精霊は大地の精霊と仲が良いと」
「その通りでございます」
「なるほど、それでアルニマルは風の精霊に助けを求めたわけか。で、風の精霊は相性の良い大地の精霊を引き入れようとしていると」
あと、金目の物を用意できるのが大地の精霊しかいないから呼んでそうな気がしないでもない。ミスリルの相場を、ドワーフのアル中兄弟やセバスに確認しなければならないな。
ところで水の精霊は呼ばなくてもいいのだろうか――そんな僕の考えはお見通しとばかりに風の女王、それに続いてアルニマルが言う。
「水の精霊はね、大地の精霊が必要なら呼ぶんじゃないかと思うの」
「そうですな、我々の誘いなど受けはしないでしょう」
「そういうものなんだね……。とりあえず、みんなに相談しなきゃいけないから、移住してくる風の精霊と大地の精霊の数を教えてくれるかな。あと希望する住処は……もう聞いたか。あとは必要な設備?」
数はどちらも火の精霊と同じぐらいらしく、百人弱といったところ。風の精霊が希望する場所は牧場エリアで火の精霊のように囲いや温泉を用意することはないとのこと。
「風の精霊は自由なの。自由に飛び回って自由にお昼寝するの」
牧草の生い茂るエリアで十分らしい。羊たちの邪魔もしないとのこと。なるほど、僕も風の精霊になりたい。
ちなみに、大地の精霊は畑の中に埋まって終日過ごすだろうとのこと。なんとも省エネな精霊だと思ったのだけど、ミスリルなどの鉱物を集める時には大地の精霊たちが協力して精霊魔法を唱えるらしい。
「クロウ殿、我々精霊たちはそれぞれネスト村のために役立つ仕事を請け負いましょう」
アルニマルによると、火の精霊は温泉の温度管理やピザ窯やバーベキューの炎の調整をしてくれるそうだ。そして、風の精霊は牧場の臭いを散らしてくれたりチーズの発酵をお手伝いしてくれたりするのだとか。
それから、まだ話はしていないけど大地の精霊は畑や牧草の成長を手伝ってくれるはずとのこと。あと、ミスリルね。
「なるほど、村の人や錬金術師の仕事が軽減されるのは助かるかも。それでいてミスリルとBランクポーションの物々交換をするということだね」
火の精霊を受け入れた時点でもう断る理由がないな。マイダディへの報告でいろんな精霊が住むようになりましたとか言うのがあれだけど、そこはセバスに丸投げしよう。
◇
風の女王の精霊魔法によって眠っていた火の女王の目が覚めたのは翌日のことだった。
「ここは、いったい……」
「女王! 心配しておりました!」
アルニマルをはじめとする火の精霊たちが女王を囲んで喜んでたり泣いたり安心したりで、アトリエはとても騒がしい。
「女王は龍脈に吞み込まれ、今まで気を失っていたのです。ここにいるクロウ殿が作ったポーションと風の女王の精霊魔法によって目覚めたのでございます」
アルマニルがそう言うと、火の女王は僕に顔を向ける。
「あなたが……クロウ? 私が眠っている間に起こったことは多少ですが覚えております。いろいろとご迷惑をおかけいたしました」
「いえ、こちらも知らないうちにご迷惑をおかけしていたようでしたので。助けられてよかったです」
どうやら女王は自分が龍脈に操られていた時の記憶も多少あるらしく、申し訳なさそうにしている。
アルニマルが女王に言う。
「女王、我々は今このネスト村に新しい集落を作り住まわせてもらっております。風の精霊と大地の精霊も合流する予定です」
「まあ、精霊が三種族も合流するとは……」
それからアルニマルがポーションの効能と龍脈が移動してきたネスト村の状況を説明すると、女王はようやく事情を理解したようだった。
「龍脈を元に戻そうと思うこと自体が傲慢な考えだったのでしょう。我らは龍脈より生まれし精霊。龍脈が移動をするなら迷わずついていけばよかったのです」
「女王のおっしゃる通りかもしれません」
アルニマルがそう口にすると、女王は再び僕の方を見る。
「クロウ、改めて火の精霊を代表してお願い申し上げます。我らをこの村で受け入れてもらえないでしょうか」
「もちろんです」
昨日の今日だけどマイダディの許可はセバスが取ってきてあるし、まもなく風の精霊と大地の精霊も来てしまうのだから断る理由などない。
マイダディも精霊とか急に言われたにもかかわらず迷わずに許可を出したところに、慣れというものを感じさせる。
まあ、精霊を敵に回したら人になす術はないので仕方ないとも言えるのだけど……。
おそらくセバスの説明においても、そのような危険性は伝えられているだろう。元々火の精霊たちは、女王が行方不明になった途端、ネスト村へ攻め込もうとしていたのだ。ここは対立せずに穏便に、可能なら恩を売っておこうという打算的かつ消極的な許可であろうことは一目瞭然。
相談の手紙と言いつつも事後承諾に近い内容だったかもしれないね。ごめんなさい、マイダディ。
アルニマルが尋ねてくる。
「クロウ殿、女王を集落に案内してもよいでしょうか?」
「うん、大丈夫じゃないかな。風の女王ももう問題ないって帰っていったしね」
ちなみに風の女王は引っ越しの準備やら大地の精霊の説得で、前日にネスト村をあとにしている。当初部下に指示して自分はネスト村に残ろうとしていたのだけど、大地の精霊への説明は風の女王でなければ無理だということで渋々向かうことになったらしい。
「では女王、新しい集落へご案内いたします」
そういえば火の精霊の集落はちゃんと見たことがなかったけど、今のところドワーフとも揉めていないし、酔っ払ったドワーフが行方知らずになった話とか聞いていないので問題はないだろう。
むしろ火の精霊が広場で火の管理をしてくれているおかげで村人はみんな助かっているし、温泉も適温が維持されていて温度の調整とかしなくて済むからとっても楽ちんなのだ。
「あっ、これ一応ポーションを渡しておきます。もう大丈夫だとは思いますが、体調が優れなかったら飲んでください」
「何から何まですみません。このお礼はいつか必ず」
「いえいえ」
よしっ、女王に恩を売れた気がする。何かあっても、この貸し一つがあるのは大きいはず。
さて、ようやく久しぶりに面倒ごとが片付いた気がする。ここ何日かは女王の看病とかAランクポーションの増産で忙しかったからね。こういう時はゆっくりお昼寝するか、ラヴィと散歩するに限る。
火の女王を新しい集落に案内して戻ってきたあと。
「ラヴィ」
「きゃう!」
最近は忙しくて相手をしてあげられなかったものの、ラヴィは大人しく僕のそばで控えていてくれた。ラヴィも少しは成長しているのかもしれない。
「散歩行くよ」
「きゃう!」
そうして、久しぶりの休日を満喫するかのように僕とラヴィは散歩にお出かけすることにした。といってもどこへ向かったらいいものか。
ラヴィが好きな所といえば牧場か、ご飯をもらえたり骨を投げてもらえたりする広場だ。
でも、僕としては村の外へ行きたい気分だ。しばらく篭もりっきりだったからなのか、なんとなくそういう気分なのだ。
「ラヴィ、今日は外へ行こうか。あんまり遠出したら怒られちゃうから近くまでだけどね」
「きゃう、きゃうっ!」
出かける前に、マリカに声をかけておく。
「マリカ、女王が目覚めた件だけどセバスへの報告は任せるよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
ちなみに、マリカには新人の教育とかネスト村でのバリスタの配置をお願いしている。今日ぐらいは休んでもいいと伝えたんだけど、最近は錬成にはまってきているらしく問題ないと言われてしまった。
きっとあのピンクミニスカギガントゴーレムの錬成で何かに目覚めてしまったのだろう。
戻ってきてバリスタがピンクだったらどうしようか。というか、ゴーレムの元になったはずの腐葉土は黒い土なのにギガントがなんでピンク色になってるんだよ。まったく意味がわからないってば……。
2 精霊魔法を勉強しよう
僕たちは王都でそこそこ有名な冒険者パーティの三人組、ミルキートスの集いと言えば王都で、最もAランクに近いパーティとして知られている。
そんな僕たちはダンジョンが発見されたというエルドラド領に拠点を移すことにした。豊かな生活を送るなら王都での暮らしを続けた方がいいに決まっているが、僕たちの目標はAランクになることだ。
だからこそ、ダンジョンが発見された話を聞いた時に迷いはなかった。もちろん、ギルドの調査が終わらなければダンジョンには入れないというのは聞いている。それでも近くには魔の森と呼ばれる魔境があるので、討伐した素材の売買だけでも十分やっていけると踏んでいる。
そしてギルドの調査が終わったらすぐにダンジョンに入り最下層で力をつけようと思っているのだ。
「ね、ねぇ、ルーク。あの遠くに見えているのがダンジョンかしら?」
僕にそう声をかけてきたのは魔法使いのシルビアだ。
僕たちの前方にはとても大きな塔のような物が見えている。ネスト村を目指していたはずだったのにどうやら迷ってしまったらしい。
「あんなに大きな建造物が辺境の地にあるわけないよね。きっと、ネスト村じゃなくてダンジョンに来てしまったみたいね、はあー」
そう相槌を打つのが同じくパーティメンバーで僧侶のアイリーンだ。
僕たちはミルキートス村出身の幼馴染でパーティを組んでおり、剣士である僕ルークと後衛の魔法使いシルビアに僧侶のアイリーンといった組み合わせでやっている。
前衛が僕しかいないけど、アイリーンの補助魔法があれば、問題なく魔物を引き受けられる。そうして時間を稼ぎ、シルビアの土魔法で一気に魔物を片付けるというのが僕たちの戦い方。多少の怪我はすぐにアイリーンが治してくれるし、パーティとしてはかなり安定しているといっていい。
「でも、ダンジョンは森の中に発生したというのがギルドの情報だったはずだよね。あれは森じゃなくて湖に囲まれていないか?」
「ほ、本当だわ。塔だけじゃなくてとっても大きな壁で覆われているわよ!?」
「ちょっと、とんでもない規模の壁じゃないかな! こんな場所に都市なんてあったっけ?」
シルビアとアイリーンも驚いている。近づくにつれてはっきりしてくる、そのありえない光景に僕も正直驚きを隠せないでいた。
「ね、ねぇ、ひょっとして、あれがネスト村なんじゃない?」
その壁は王都ベルファイアと比べても遜色のない高さで、周辺にはまたとんでもない規模の湖がある。まさか、湖のある場所を埋め立てて都市を造り上げたとでもいうのだろうか。
「辺境の村だと聞いていたのに……まるで水の都じゃないか……」
僕たちはしばらくぼう然とネスト村の姿に魅入ってしまっていた。美しい湖に囲まれた都市。壁の規模から、中もとんでもない広さだということが想像できる。
「い、行こうか」
「ルーク! 見て、魔物がいるわ!」
アイリーンが前方に見つけたのは小さなファング系の魔物。おそらくはあれが魔の森によく現れると噂のワイルドファングなのだろう。
「アイリーン、防御魔法とスピードアップを頼む!」
「うん、わかったルーク」
「二人とも、ま、待って! 小さな子供がいるわ。は、早く助けないと」
村から出たところを魔物に襲われてしまったのだろう。あれだけ堅固に守っていても一歩外に出てしまえば、ここは魔の森に近い辺境の地なのだ。
「シルビア、すぐに魔法を放ってワイルドファングの意識をこっちに向けさせるんだ!」
「もうやってるわ! ストーンバレット!」
シルビアの土魔法ではこの遠距離を届かせることはできない。それでも小さな子供を救えるのであればやれることをやるしかない。あのワイルドファングがこちらを警戒すればいい。
シルビアもそれをわかって魔法を目立つように上方へ向けて放っている。あとは僕がいち早く駆けつけてあの子を守ってみせる!
ところが、魔法はまるで失敗したかのように、すぐに地面へと落とされてしまう。
まさか、シルビアが失敗したのか!?
後ろを振り返ってシルビアを確認するも、本人も自分の失敗が信じられないようで、首を横に振りながらすぐに次の魔法の準備を進めていた。
「くっ、こうなったら僕が行くしかない!」
襲われていた子供も両手を振ってこちらに何か叫んでいる。まだ距離があってよく聞こえないものの、子供の後を追うようにワイルドファングもついてきている。まずい、ま、間に合わないのか……。
「ルーク、ちょっと待って。様子がおかしいわ」
見ると子供の横に銀色のワイルドファングが大人しくおすわりしている。そして子供の手はワイルドファングの頭を優しく撫でるようにしているではないか。
「ま、まさか召喚獣なの?」
「よく見て、魔物に鎧が着けられてるわ」
「じゃあやっぱり召喚獣なのか。あんな小さな子が召喚魔法を操るとは……」
警戒しつつも近づくと、その小さな男の子は慣れた感じで話しかけてきた。
「あー、新しく来た冒険者の方ですね。すぐにゴーレム隊が来ると思うので指示に従って入村願います」
「は、はあ……」
するとすぐにゴーレムと馬に乗った人が、二人で並んで駆けてくるのが見えた。
「ゴーレムを操りながら騎乗ですって……。信じられない」
土属性魔法を操るシルビアも、ゴーレム召喚は発動できない高位の魔法だと言っていた。
ゴーレムを操りながら騎乗までするとは相当難易度の高いことをしているのは間違いない。
男の子が、その熟練者と思しき者たちに命令する。
「あとのことはお願いね。鑑定はしてるから大丈夫」
「はっ、かしこまりました!」
「では、皆さんをネスト村へご案内いたします。どうぞこちらへ」
「は、はい……」
まるで意味がわからなかったが、今はとにかくこのゴーレムを操る天才土属性魔法使いたちとこの男の子に従うしかない。
「では、僕は散歩の途中なのでここで失礼します」
「は、はい……えっ、そ、外で散歩!?」
子供なのに辺境の地を気軽に散歩してしまうとは恐れ入る。やはりあの召喚獣がいるから守ってもらえるということなのだろう。
というか、ネスト村に近づくにつれて魔物の姿を見なくなっている。理由はわからないが、この周辺では魔物は滅多に現れず、魔の森から出てこないのかもしれない。
「この辺りは魔物が少ないのですね」
「そんなことはありませんよ。我々ゴーレム隊でパトロールをしていますが、それでもゴブリンやワイルドファングはそれなりにいます。以前と比べたら減ってはいると思いますけど」
「ええっ! そ、そうだったんですね」
ゴーレム隊というのはこの目の前の二人組のことなのだろう。ゴーレムと馬を同時に操る天才がこんな辺境にいるとは思わなかったが、いったい何人いるのだろう。
「あ、あの、少し聞きたいのですけど、ゴーレム隊は何名ぐらいいるのかしら? 隊と言うぐらいですから、やはり五、六名はいらっしゃるのでしょうか」
やはり気になるのか、土魔法を扱うシルビアが問う。自分が望んでもたどり着けない高みにいる人がここには数名もいるということに驚きを隠せないのだろう。
「そうですね、前回の試験で通ったのが三十名だったよな」
「ああ、だから今は五十名ぐらいでしょうか。もう少ししたら錬金術師八十名全員が操れるようになるはずです」
ゴーレム隊の二人の答えにシルビアが声を上げる。
「えっ、魔法使いではなくて錬金術師なんですか! ゴーレム召喚って土属性魔法ですよね?」
「あ、ああ、一般的にはそうですね。でもネスト村でゴーレムを操るのは錬金術師ですよ」
シルビアが信じられないといった表情で固まってしまった。ちょっと話題を変えた方がいいかもしれない。
「それにしても、ここの湖はとても綺麗ですね。ユーグリット川が流れているのは知っていましたが、このように大きな湖まであるとは知りませんでした」
「この湖は領主であるクロウ様が造られました。あっ、それを言うなら村を囲う土壁も、我々が住む家、あとあの大きなネシ子様の塔もですね」
「そ、そ、それは領主様が指示して大勢で造らせたって意味だよね? まさか、一人で造ったなんて言わないよね?」
「そのまさかですよ。我々も最初は驚きましたが、今はもうなんていうか慣れてしまいましたね」
「だな。いちいち驚いていたらここではやっていけません」
シルビアに続いてアイリーンまでも放心状態になってしまった。信じられないことだが、ここの領主様はとんでもないレベルの魔法使いらしい。
しかしながら驚くのはまだまだ早かった。村の中へ入ると、いきなり巨大なピンク色のゴーレムが鎮座していたり、村人が次々にお供え物を持参してはお祈りを捧げていたのだ。
「あ、あのゴーレムはさすがに動きませんよね?」
「あれはマリカ様が錬成された新しいギガントゴーレムですね。もちろん動きますよ。このゴーレムよりも素早くパワーも段違いです!」
「ルーク、シルビアが倒れちゃったよ!」
よくわからない光景の連続で、ついにシルビアの頭がパンクしてしまったらしい。
「そ、そうか。僕が背負うよ……」
「それならゴーレムでお運びしましょう。宿までご案内しますよ」
「あ、ありがとうございます」
ゴーレムは滑らかな動きでシルビアを抱えると僕たちの後ろをついてくる。戦闘だけでなく、こういったことにも対応できるのか。
よく見たらそこかしこでゴーレムが働いている。畑から野菜を運んでいるゴーレム。荷物の積み込みをしているゴーレム。本当にたくさんのゴーレムが目に入ってくる。
「あのゴーレムが運んでいるのはヒーリング草ですか?」
「そうですね。朝摘みのヒーリング草はラリバード用と錬金術師のアトリエに運ばれます」
聞き間違いだろうか。今、朝摘み、そしてラリバード用と言っていたような気がする。
「あちらで育てているのがヒーリング草ですね。ラリバードはヒーリング草が大好物なんですよ」
目の前ではヒーリング草が畑で育てられている。しかも摘みたてをラリバード用に与えているとかちょっともう意味がわからない。
そもそも薬草が畑で育つなんて話は聞いたことがない。誰もが一度は試して失敗しているはずだ。それぐらい薬草はお金になるし、簡単に育てることなどできないと言われてきたのだ。
「森で採るヒーリング草より葉も大きくて元気ですね……」
「ポーションにした時の効果は倍近くまで変わってきますね。やはり栄養たっぷりですし朝摘みは最高です。ほらっ、ラリバード鶏舎がもう騒がしいでしょ。あいつらも匂いですぐわかるんですよ」
さっきまで静かだった鶏舎が途端に騒がしくなった。あそこに魔物が……。本当にラリバードを飼育しているらしい……。あいつら火を噴くはずなんだけど、大丈夫なのだろうか。
その時だった。急に地面が暗くなり陽の光を覆うように現れたのは紛うことなきドラゴン。
こ、殺される……。
「あー、ネシ子様のお帰りですね。今日はロックスコーピオンを狩ってきたようですね」
頭がフラフラするし、空にはドラゴンだけでなくキラービーまで見えるような……。お、おかしい、そんなはずはない……のに。
「あ、あれっ、どうしました? 大丈夫ですか! しっかりしてください!」
◆
次に気がついた時、僕は宿屋のベッドの上にいた。
「何このベッド。ふかふかなんですけど! 軽くて暖かくてふかふかなんですけど!」
この僕の叫び声と同じような叫び声は隣の部屋からも聞こえてきた。どうやらシルビアとアイリーンは隣の部屋にいるようだ。
「もちろんなの。こちらの希望をお伝えして検討してもらいたいの。風の精霊はこの牧場の草原がお気に入りなの。大地の精霊はきっとこの畑が好きなはずなの」
地図の上で楽しそうにダンスを披露しながら住む気満々のご様子。ここにはいない大地の精霊まで呼ぶつもりのようだ……。
「大地の精霊とは仲が良いみたいですね」
「精霊にも相性があるの。風の精霊は大地の精霊と仲がいいの」
すると、アルニマルが説明してくれる。
「クロウ殿、説明すると、火→風→大地→水→火といった感じで繋がりが深いのです」
「つまり、火の精霊は風の精霊と仲が良くて風の精霊は大地の精霊と仲が良いと」
「その通りでございます」
「なるほど、それでアルニマルは風の精霊に助けを求めたわけか。で、風の精霊は相性の良い大地の精霊を引き入れようとしていると」
あと、金目の物を用意できるのが大地の精霊しかいないから呼んでそうな気がしないでもない。ミスリルの相場を、ドワーフのアル中兄弟やセバスに確認しなければならないな。
ところで水の精霊は呼ばなくてもいいのだろうか――そんな僕の考えはお見通しとばかりに風の女王、それに続いてアルニマルが言う。
「水の精霊はね、大地の精霊が必要なら呼ぶんじゃないかと思うの」
「そうですな、我々の誘いなど受けはしないでしょう」
「そういうものなんだね……。とりあえず、みんなに相談しなきゃいけないから、移住してくる風の精霊と大地の精霊の数を教えてくれるかな。あと希望する住処は……もう聞いたか。あとは必要な設備?」
数はどちらも火の精霊と同じぐらいらしく、百人弱といったところ。風の精霊が希望する場所は牧場エリアで火の精霊のように囲いや温泉を用意することはないとのこと。
「風の精霊は自由なの。自由に飛び回って自由にお昼寝するの」
牧草の生い茂るエリアで十分らしい。羊たちの邪魔もしないとのこと。なるほど、僕も風の精霊になりたい。
ちなみに、大地の精霊は畑の中に埋まって終日過ごすだろうとのこと。なんとも省エネな精霊だと思ったのだけど、ミスリルなどの鉱物を集める時には大地の精霊たちが協力して精霊魔法を唱えるらしい。
「クロウ殿、我々精霊たちはそれぞれネスト村のために役立つ仕事を請け負いましょう」
アルニマルによると、火の精霊は温泉の温度管理やピザ窯やバーベキューの炎の調整をしてくれるそうだ。そして、風の精霊は牧場の臭いを散らしてくれたりチーズの発酵をお手伝いしてくれたりするのだとか。
それから、まだ話はしていないけど大地の精霊は畑や牧草の成長を手伝ってくれるはずとのこと。あと、ミスリルね。
「なるほど、村の人や錬金術師の仕事が軽減されるのは助かるかも。それでいてミスリルとBランクポーションの物々交換をするということだね」
火の精霊を受け入れた時点でもう断る理由がないな。マイダディへの報告でいろんな精霊が住むようになりましたとか言うのがあれだけど、そこはセバスに丸投げしよう。
◇
風の女王の精霊魔法によって眠っていた火の女王の目が覚めたのは翌日のことだった。
「ここは、いったい……」
「女王! 心配しておりました!」
アルニマルをはじめとする火の精霊たちが女王を囲んで喜んでたり泣いたり安心したりで、アトリエはとても騒がしい。
「女王は龍脈に吞み込まれ、今まで気を失っていたのです。ここにいるクロウ殿が作ったポーションと風の女王の精霊魔法によって目覚めたのでございます」
アルマニルがそう言うと、火の女王は僕に顔を向ける。
「あなたが……クロウ? 私が眠っている間に起こったことは多少ですが覚えております。いろいろとご迷惑をおかけいたしました」
「いえ、こちらも知らないうちにご迷惑をおかけしていたようでしたので。助けられてよかったです」
どうやら女王は自分が龍脈に操られていた時の記憶も多少あるらしく、申し訳なさそうにしている。
アルニマルが女王に言う。
「女王、我々は今このネスト村に新しい集落を作り住まわせてもらっております。風の精霊と大地の精霊も合流する予定です」
「まあ、精霊が三種族も合流するとは……」
それからアルニマルがポーションの効能と龍脈が移動してきたネスト村の状況を説明すると、女王はようやく事情を理解したようだった。
「龍脈を元に戻そうと思うこと自体が傲慢な考えだったのでしょう。我らは龍脈より生まれし精霊。龍脈が移動をするなら迷わずついていけばよかったのです」
「女王のおっしゃる通りかもしれません」
アルニマルがそう口にすると、女王は再び僕の方を見る。
「クロウ、改めて火の精霊を代表してお願い申し上げます。我らをこの村で受け入れてもらえないでしょうか」
「もちろんです」
昨日の今日だけどマイダディの許可はセバスが取ってきてあるし、まもなく風の精霊と大地の精霊も来てしまうのだから断る理由などない。
マイダディも精霊とか急に言われたにもかかわらず迷わずに許可を出したところに、慣れというものを感じさせる。
まあ、精霊を敵に回したら人になす術はないので仕方ないとも言えるのだけど……。
おそらくセバスの説明においても、そのような危険性は伝えられているだろう。元々火の精霊たちは、女王が行方不明になった途端、ネスト村へ攻め込もうとしていたのだ。ここは対立せずに穏便に、可能なら恩を売っておこうという打算的かつ消極的な許可であろうことは一目瞭然。
相談の手紙と言いつつも事後承諾に近い内容だったかもしれないね。ごめんなさい、マイダディ。
アルニマルが尋ねてくる。
「クロウ殿、女王を集落に案内してもよいでしょうか?」
「うん、大丈夫じゃないかな。風の女王ももう問題ないって帰っていったしね」
ちなみに風の女王は引っ越しの準備やら大地の精霊の説得で、前日にネスト村をあとにしている。当初部下に指示して自分はネスト村に残ろうとしていたのだけど、大地の精霊への説明は風の女王でなければ無理だということで渋々向かうことになったらしい。
「では女王、新しい集落へご案内いたします」
そういえば火の精霊の集落はちゃんと見たことがなかったけど、今のところドワーフとも揉めていないし、酔っ払ったドワーフが行方知らずになった話とか聞いていないので問題はないだろう。
むしろ火の精霊が広場で火の管理をしてくれているおかげで村人はみんな助かっているし、温泉も適温が維持されていて温度の調整とかしなくて済むからとっても楽ちんなのだ。
「あっ、これ一応ポーションを渡しておきます。もう大丈夫だとは思いますが、体調が優れなかったら飲んでください」
「何から何まですみません。このお礼はいつか必ず」
「いえいえ」
よしっ、女王に恩を売れた気がする。何かあっても、この貸し一つがあるのは大きいはず。
さて、ようやく久しぶりに面倒ごとが片付いた気がする。ここ何日かは女王の看病とかAランクポーションの増産で忙しかったからね。こういう時はゆっくりお昼寝するか、ラヴィと散歩するに限る。
火の女王を新しい集落に案内して戻ってきたあと。
「ラヴィ」
「きゃう!」
最近は忙しくて相手をしてあげられなかったものの、ラヴィは大人しく僕のそばで控えていてくれた。ラヴィも少しは成長しているのかもしれない。
「散歩行くよ」
「きゃう!」
そうして、久しぶりの休日を満喫するかのように僕とラヴィは散歩にお出かけすることにした。といってもどこへ向かったらいいものか。
ラヴィが好きな所といえば牧場か、ご飯をもらえたり骨を投げてもらえたりする広場だ。
でも、僕としては村の外へ行きたい気分だ。しばらく篭もりっきりだったからなのか、なんとなくそういう気分なのだ。
「ラヴィ、今日は外へ行こうか。あんまり遠出したら怒られちゃうから近くまでだけどね」
「きゃう、きゃうっ!」
出かける前に、マリカに声をかけておく。
「マリカ、女王が目覚めた件だけどセバスへの報告は任せるよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
ちなみに、マリカには新人の教育とかネスト村でのバリスタの配置をお願いしている。今日ぐらいは休んでもいいと伝えたんだけど、最近は錬成にはまってきているらしく問題ないと言われてしまった。
きっとあのピンクミニスカギガントゴーレムの錬成で何かに目覚めてしまったのだろう。
戻ってきてバリスタがピンクだったらどうしようか。というか、ゴーレムの元になったはずの腐葉土は黒い土なのにギガントがなんでピンク色になってるんだよ。まったく意味がわからないってば……。
2 精霊魔法を勉強しよう
僕たちは王都でそこそこ有名な冒険者パーティの三人組、ミルキートスの集いと言えば王都で、最もAランクに近いパーティとして知られている。
そんな僕たちはダンジョンが発見されたというエルドラド領に拠点を移すことにした。豊かな生活を送るなら王都での暮らしを続けた方がいいに決まっているが、僕たちの目標はAランクになることだ。
だからこそ、ダンジョンが発見された話を聞いた時に迷いはなかった。もちろん、ギルドの調査が終わらなければダンジョンには入れないというのは聞いている。それでも近くには魔の森と呼ばれる魔境があるので、討伐した素材の売買だけでも十分やっていけると踏んでいる。
そしてギルドの調査が終わったらすぐにダンジョンに入り最下層で力をつけようと思っているのだ。
「ね、ねぇ、ルーク。あの遠くに見えているのがダンジョンかしら?」
僕にそう声をかけてきたのは魔法使いのシルビアだ。
僕たちの前方にはとても大きな塔のような物が見えている。ネスト村を目指していたはずだったのにどうやら迷ってしまったらしい。
「あんなに大きな建造物が辺境の地にあるわけないよね。きっと、ネスト村じゃなくてダンジョンに来てしまったみたいね、はあー」
そう相槌を打つのが同じくパーティメンバーで僧侶のアイリーンだ。
僕たちはミルキートス村出身の幼馴染でパーティを組んでおり、剣士である僕ルークと後衛の魔法使いシルビアに僧侶のアイリーンといった組み合わせでやっている。
前衛が僕しかいないけど、アイリーンの補助魔法があれば、問題なく魔物を引き受けられる。そうして時間を稼ぎ、シルビアの土魔法で一気に魔物を片付けるというのが僕たちの戦い方。多少の怪我はすぐにアイリーンが治してくれるし、パーティとしてはかなり安定しているといっていい。
「でも、ダンジョンは森の中に発生したというのがギルドの情報だったはずだよね。あれは森じゃなくて湖に囲まれていないか?」
「ほ、本当だわ。塔だけじゃなくてとっても大きな壁で覆われているわよ!?」
「ちょっと、とんでもない規模の壁じゃないかな! こんな場所に都市なんてあったっけ?」
シルビアとアイリーンも驚いている。近づくにつれてはっきりしてくる、そのありえない光景に僕も正直驚きを隠せないでいた。
「ね、ねぇ、ひょっとして、あれがネスト村なんじゃない?」
その壁は王都ベルファイアと比べても遜色のない高さで、周辺にはまたとんでもない規模の湖がある。まさか、湖のある場所を埋め立てて都市を造り上げたとでもいうのだろうか。
「辺境の村だと聞いていたのに……まるで水の都じゃないか……」
僕たちはしばらくぼう然とネスト村の姿に魅入ってしまっていた。美しい湖に囲まれた都市。壁の規模から、中もとんでもない広さだということが想像できる。
「い、行こうか」
「ルーク! 見て、魔物がいるわ!」
アイリーンが前方に見つけたのは小さなファング系の魔物。おそらくはあれが魔の森によく現れると噂のワイルドファングなのだろう。
「アイリーン、防御魔法とスピードアップを頼む!」
「うん、わかったルーク」
「二人とも、ま、待って! 小さな子供がいるわ。は、早く助けないと」
村から出たところを魔物に襲われてしまったのだろう。あれだけ堅固に守っていても一歩外に出てしまえば、ここは魔の森に近い辺境の地なのだ。
「シルビア、すぐに魔法を放ってワイルドファングの意識をこっちに向けさせるんだ!」
「もうやってるわ! ストーンバレット!」
シルビアの土魔法ではこの遠距離を届かせることはできない。それでも小さな子供を救えるのであればやれることをやるしかない。あのワイルドファングがこちらを警戒すればいい。
シルビアもそれをわかって魔法を目立つように上方へ向けて放っている。あとは僕がいち早く駆けつけてあの子を守ってみせる!
ところが、魔法はまるで失敗したかのように、すぐに地面へと落とされてしまう。
まさか、シルビアが失敗したのか!?
後ろを振り返ってシルビアを確認するも、本人も自分の失敗が信じられないようで、首を横に振りながらすぐに次の魔法の準備を進めていた。
「くっ、こうなったら僕が行くしかない!」
襲われていた子供も両手を振ってこちらに何か叫んでいる。まだ距離があってよく聞こえないものの、子供の後を追うようにワイルドファングもついてきている。まずい、ま、間に合わないのか……。
「ルーク、ちょっと待って。様子がおかしいわ」
見ると子供の横に銀色のワイルドファングが大人しくおすわりしている。そして子供の手はワイルドファングの頭を優しく撫でるようにしているではないか。
「ま、まさか召喚獣なの?」
「よく見て、魔物に鎧が着けられてるわ」
「じゃあやっぱり召喚獣なのか。あんな小さな子が召喚魔法を操るとは……」
警戒しつつも近づくと、その小さな男の子は慣れた感じで話しかけてきた。
「あー、新しく来た冒険者の方ですね。すぐにゴーレム隊が来ると思うので指示に従って入村願います」
「は、はあ……」
するとすぐにゴーレムと馬に乗った人が、二人で並んで駆けてくるのが見えた。
「ゴーレムを操りながら騎乗ですって……。信じられない」
土属性魔法を操るシルビアも、ゴーレム召喚は発動できない高位の魔法だと言っていた。
ゴーレムを操りながら騎乗までするとは相当難易度の高いことをしているのは間違いない。
男の子が、その熟練者と思しき者たちに命令する。
「あとのことはお願いね。鑑定はしてるから大丈夫」
「はっ、かしこまりました!」
「では、皆さんをネスト村へご案内いたします。どうぞこちらへ」
「は、はい……」
まるで意味がわからなかったが、今はとにかくこのゴーレムを操る天才土属性魔法使いたちとこの男の子に従うしかない。
「では、僕は散歩の途中なのでここで失礼します」
「は、はい……えっ、そ、外で散歩!?」
子供なのに辺境の地を気軽に散歩してしまうとは恐れ入る。やはりあの召喚獣がいるから守ってもらえるということなのだろう。
というか、ネスト村に近づくにつれて魔物の姿を見なくなっている。理由はわからないが、この周辺では魔物は滅多に現れず、魔の森から出てこないのかもしれない。
「この辺りは魔物が少ないのですね」
「そんなことはありませんよ。我々ゴーレム隊でパトロールをしていますが、それでもゴブリンやワイルドファングはそれなりにいます。以前と比べたら減ってはいると思いますけど」
「ええっ! そ、そうだったんですね」
ゴーレム隊というのはこの目の前の二人組のことなのだろう。ゴーレムと馬を同時に操る天才がこんな辺境にいるとは思わなかったが、いったい何人いるのだろう。
「あ、あの、少し聞きたいのですけど、ゴーレム隊は何名ぐらいいるのかしら? 隊と言うぐらいですから、やはり五、六名はいらっしゃるのでしょうか」
やはり気になるのか、土魔法を扱うシルビアが問う。自分が望んでもたどり着けない高みにいる人がここには数名もいるということに驚きを隠せないのだろう。
「そうですね、前回の試験で通ったのが三十名だったよな」
「ああ、だから今は五十名ぐらいでしょうか。もう少ししたら錬金術師八十名全員が操れるようになるはずです」
ゴーレム隊の二人の答えにシルビアが声を上げる。
「えっ、魔法使いではなくて錬金術師なんですか! ゴーレム召喚って土属性魔法ですよね?」
「あ、ああ、一般的にはそうですね。でもネスト村でゴーレムを操るのは錬金術師ですよ」
シルビアが信じられないといった表情で固まってしまった。ちょっと話題を変えた方がいいかもしれない。
「それにしても、ここの湖はとても綺麗ですね。ユーグリット川が流れているのは知っていましたが、このように大きな湖まであるとは知りませんでした」
「この湖は領主であるクロウ様が造られました。あっ、それを言うなら村を囲う土壁も、我々が住む家、あとあの大きなネシ子様の塔もですね」
「そ、そ、それは領主様が指示して大勢で造らせたって意味だよね? まさか、一人で造ったなんて言わないよね?」
「そのまさかですよ。我々も最初は驚きましたが、今はもうなんていうか慣れてしまいましたね」
「だな。いちいち驚いていたらここではやっていけません」
シルビアに続いてアイリーンまでも放心状態になってしまった。信じられないことだが、ここの領主様はとんでもないレベルの魔法使いらしい。
しかしながら驚くのはまだまだ早かった。村の中へ入ると、いきなり巨大なピンク色のゴーレムが鎮座していたり、村人が次々にお供え物を持参してはお祈りを捧げていたのだ。
「あ、あのゴーレムはさすがに動きませんよね?」
「あれはマリカ様が錬成された新しいギガントゴーレムですね。もちろん動きますよ。このゴーレムよりも素早くパワーも段違いです!」
「ルーク、シルビアが倒れちゃったよ!」
よくわからない光景の連続で、ついにシルビアの頭がパンクしてしまったらしい。
「そ、そうか。僕が背負うよ……」
「それならゴーレムでお運びしましょう。宿までご案内しますよ」
「あ、ありがとうございます」
ゴーレムは滑らかな動きでシルビアを抱えると僕たちの後ろをついてくる。戦闘だけでなく、こういったことにも対応できるのか。
よく見たらそこかしこでゴーレムが働いている。畑から野菜を運んでいるゴーレム。荷物の積み込みをしているゴーレム。本当にたくさんのゴーレムが目に入ってくる。
「あのゴーレムが運んでいるのはヒーリング草ですか?」
「そうですね。朝摘みのヒーリング草はラリバード用と錬金術師のアトリエに運ばれます」
聞き間違いだろうか。今、朝摘み、そしてラリバード用と言っていたような気がする。
「あちらで育てているのがヒーリング草ですね。ラリバードはヒーリング草が大好物なんですよ」
目の前ではヒーリング草が畑で育てられている。しかも摘みたてをラリバード用に与えているとかちょっともう意味がわからない。
そもそも薬草が畑で育つなんて話は聞いたことがない。誰もが一度は試して失敗しているはずだ。それぐらい薬草はお金になるし、簡単に育てることなどできないと言われてきたのだ。
「森で採るヒーリング草より葉も大きくて元気ですね……」
「ポーションにした時の効果は倍近くまで変わってきますね。やはり栄養たっぷりですし朝摘みは最高です。ほらっ、ラリバード鶏舎がもう騒がしいでしょ。あいつらも匂いですぐわかるんですよ」
さっきまで静かだった鶏舎が途端に騒がしくなった。あそこに魔物が……。本当にラリバードを飼育しているらしい……。あいつら火を噴くはずなんだけど、大丈夫なのだろうか。
その時だった。急に地面が暗くなり陽の光を覆うように現れたのは紛うことなきドラゴン。
こ、殺される……。
「あー、ネシ子様のお帰りですね。今日はロックスコーピオンを狩ってきたようですね」
頭がフラフラするし、空にはドラゴンだけでなくキラービーまで見えるような……。お、おかしい、そんなはずはない……のに。
「あ、あれっ、どうしました? 大丈夫ですか! しっかりしてください!」
◆
次に気がついた時、僕は宿屋のベッドの上にいた。
「何このベッド。ふかふかなんですけど! 軽くて暖かくてふかふかなんですけど!」
この僕の叫び声と同じような叫び声は隣の部屋からも聞こえてきた。どうやらシルビアとアイリーンは隣の部屋にいるようだ。
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