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3巻
3-3
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キラービーとともにゆっくりとネスト村に向かっていくと、当然のごとく、ネスト村ではゴーレム隊と狩人チームが警戒して臨戦態勢を整えていた。大量のキラービーが村に飛んでくるとあっては驚きもひとしおだろう。
僕がいなくてもしっかり警戒態勢が取れる状況になったのは喜ばしいことだ。というか、ちゃんと説明せずに出掛けてしまった領主が一方的に悪いよね。本当にごめんなさい。
「ネシ子、村へ先に行って安全だということを伝えよう」
「うむ、そうだな。弓を射られたらせっかくの蜂蜜……いや、キラービーが逃げてしまうからな」
魔の森における真の最弱の称号は伊達ではない。みんな蜂蜜のためにもキラービーと仲良くしようじゃないか。というか、そろそろどこら辺がキラーなのか問いただしたいところでもある。
僕とネシ子が先導するようにキラービーを誘導しているのを見て、ようやくみんなも緊張が取れたように見える。弓を下ろし警戒を解いてくれたのでもう大丈夫だろう。
とりあえず、キラービーは畑の方に誘導するか。
「クロウお坊ちゃま、これはいったい何事でございますか?」
「セバス、すまない。相談しなかったけど、キラービーと交渉して蜂蜜を提供してもらうことになった」
「は、蜂蜜でございますか。しかしながら、そのキラービーは人や小さい子供を襲うことはないのでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ。ネシ子が通訳をしてクイーンと交渉してくれたんだ。こちらからは安全な住まいと魔力供給を提供する。その見返りとして蜂蜜をもらえるんだよ」
巣を襲撃して蜂蜜を採取するのが、この世界の一般的な蜂蜜の採り方だと思う。ネシ子のおかげで魔物とコミュニケーションが取れたことはかなり大きい。
「となると、安全に定期的に高級な蜂蜜が手に入るということですな。それは願ってもないことでございます」
「畑に見張り台兼キラービーの家を建てる。セバスはこのことについて村人に説明を頼みたい」
「かしこまりました。ワグナー他、周辺の代表者に伝えてまいりましょう」
「ネシ子、キラービーの住居に関しての要望は何かありそう?」
「なるべく静かな所、あと暑いのは苦手だから日陰のある場所がいいらしい」
今は冬だから暑くはないけど、春になり夏を迎えれば日差しも厳しくなる。そうなると、見張りの塔の下に日差し避けを造り、キラービーの居住スペースを設ければいいか。
「了解だよ。錬成、見張り台兼キラービーの家!」
現在ネスト村には土壁に弓を射るための足場はあるけど、遠くを見るための見張り台はない。せっかくだからこの機会に造ろうと思ったのだ。
高さはとりあえず十メートルぐらいにしておこうか。階段で登れるようにしておいて、上では二名が立っても十分な広さを確保しておく。
あとは、日除けを付けたキラービーの住居を造れば完成だ。階段からは離れるように反対側を入口にしておけばいいか。壁の厚さも十分に確保してあるから、お互いに音が気になることもないだろう。
「ネシ子、キラービーの様子はどうかな?」
何匹かのキラービーが住居状況を確認している。気に入ってくれるといいんだけど。
何やらネシ子とクイーンの話が盛り上がっている気がしないでもない。気になることでもあるのだろうか。
「あー、これは見張り台と言ってだな、遠くから敵がやって来てもすぐに把握できるように高い場所を造ったのだ。うん? そんなことをしてくれるのか。それはクロウも喜ぶと思うが……。わかった。一応、聞いてみよう」
「ネシ子どうしたの?」
「それがだな。キラービーならこんな見張り台がなくても、同胞のネットワークを使って周辺の情報が簡単に取れる。周辺に何か異常があれば、すぐにクロウに伝えることができると言っておるのだ」
蜂蜜の提供だけではドラゴンがお気に召さないかもしれない、とか思ってるのだろうか。
周辺の警備はゴーレム隊にお願いをしているけど、実際問題として数が足りていないし、手間がかかっているのも事実。
「それなら周辺の情報提供もお願いしてもいいかな? でもクイーンとは会話できないから、何か合図を決めておこうか」
「会話なら我が通訳をするぞ」
「いや、ネシ子だって常にこの村にいるわけじゃないでしょ。午前中はだいたい魔の森に行ってるし、戻っても温泉で長湯してるしさ」
「むむっ、確かに露天風呂にキラービーがやって来たら子供たちが怖がるかもしれぬな。致し方ないか」
キラービーもネシ子もなぜか仕事をしたがる傾向がある。なんでそんな働きたいのだろうか。僕がドラゴンだったら絶対働かないと思うんだけど。
「クイーン、何かしら合図を決めたい」
すると、クイーンがキラービーに指示を出して空中に絵を描いてみせた。矢印と魔物っぽいマークだ。
「す、すごいね。これは、あっちの方角に魔物がいるって意味なのかな?」
これなら言葉が通じなくてもわかる。あとは細かいところを調整して危険度や対象との距離などが伝われば文句ない。
「そ、そんなこともできるのか! クロウ、クイーンからなのだが、キラービーはこの周辺の村や川を下った先にある大きな街に、手紙程度なら運べるらしいぞ。まあ、我に任せれば数分で完了してみせるがな」
「手紙をバーズガーデンに運べるだって! それはセバスも喜ぶと思うよ。お父様との話し合いが今まで以上にスムーズになるからね」
働き蜂というぐらいだから、動いていないと不安にでもなってしまうのだろうか。魔物チームの仕事意欲が強すぎて心配になる。もっとラリバードぐらいにゆるい感じだと、こちらも気を遣わずに楽なんだけどな。
とりあえず住む場所には問題がないとのことで、緊急時以外は広場や居住区にはなるべく現れないようにしてもらって話がついた。
明日からは、キラービーの好きな蜜のある果物の樹木を集めて村に植え替えしようと思う。
どうやら季節ごとに様々な種類があるらしく、いろいろと紹介してくれるらしい。冬なら林檎とか蜜柑のような物があるのだろうかと期待に胸を膨らませている。
◇
それは置いておいて、今はお菓子作りだ。
「クロウ、蜂蜜はそのまま食べるのではないのか?」
「そのままでも美味しかったけど、お菓子にするとネシ子も、もっと気に入ると思うんだ」
「お菓子か、我は甘すぎるのは苦手だぞ」
最近舌が肥えてきたドラゴン。ここらで、甘味の素晴らしさというものを教えてあげてもいいだろう。
チーズバーガー好きのネシ子はこってりした料理を好む傾向にある。しょっぱいポテチも好物だ。そうなると、用意する材料は塩とたっぷりの溶かしバターに、小麦とラリバードの卵。それをまぜて濃厚な蜂蜜クッキーを作ることにした。
「みんなも手伝ってくれたらご馳走するよ」
もちろん周辺に集まった子供たちも巻き込んでいく。
何気にローズも一緒に集まってきているのはいつものことなので気にしない方向でいこう。貴族ではあるがローズもギリギリ子供枠なのだ。
「クロウ様、これを混ぜればいいの?」
「うん、ある程度生地がまとまるまでしっかり混ぜてね」
生地を完成させたら一口サイズに型抜きしてピザ窯で焼成していく。オーブンがないネスト村ではピザ窯が大活躍している。
しばらくすると、バターの焼ける匂いにふんわりとした蜂蜜の甘い香りが漂ってくる。
「ディアナ、人数分の紅茶を用意してきなさい」
「かしこまりました、ローズ様」
王都の貴族が食べるようなお菓子にはさすがに程遠いだろうけど、焼きたてのクッキーはそれを凌駕する。
作りたての焼き菓子は最高なんだから。
サックサクの食感とバターと蜂蜜の濃厚な味のバランスが上手くいったようだ。久し振りに食べる甘いお菓子に思わず笑顔がこぼれてしまう。
「クロウ、我にも早く食べさせろ」
「クロウ様、お腹空いたよー」
「僕もちゃんとお手伝いしたでしょ?」
「食べたーい」
わかっているよ。子供たちも僕の表情でこのお菓子の成功を確信したようだ。いや、甘い匂いが広がっている時点で涎が出ていたか。
ネスト村で生まれ育った子供たちが甘味を知るわけがない。砂糖や蜂蜜などの甘い食材は高級品になるので、ここで暮らそうと思う人が簡単に手に入れられる代物ではない。たとえ手に入れたとしても、売るか、小麦と交換することだろう。
「はい、順番に並んでね。全員の分はちゃんとあるから慌てないでよ」
この光景も慣れたもので、子供たちは大人しく列を作って静かに並んでいく。もちろん、ネシ子もローズもちゃんと並んでいる。新作料理を発表するたびに並ばせていたからなのか、はたまた、ここ数か月に及ぶ食料事情の改善からなのか、落ち着いて並んでいる。
きっと王都のスラム街だったら、今頃すべての蜂蜜クッキーが消滅していることだろう。
しかしながら、初めて食べるであろう甘味に対する期待に並びながらも涎は止まらない様子。早く食べさせてあげないと可哀想だね。
「はい、どうぞ。ディアナが紅茶を淹れてるからもらってくるんだよ。このお菓子は紅茶と一緒に食べるともっと美味しく感じるから」
「うん! クロウ様ありがとー。ディアナにもちゃんとお礼言うね」
子供はそう言って、蜂蜜クッキーを一口頬張ると目を大きくして動きが止まってしまう。感じたことのない甘くとろけるような舌触り。驚いてどうリアクションをとればいいのかわからないのだろう。
やはり辺境のスローライフにおいて食料事情の改善と甘味は大事。蜂蜜は定期的にもらえることになったし、もう少しで果物も砂糖も手に入る。スイーツのレシピをもっと増やしていってもいいかもしれない。
「クロウ様、は、早く。僕も蜂蜜クッキー!」
「あー、うんうん。ごめんね。はい、どうぞ」
「わーい!」
もらう時は元気いっぱいながら、一口食べた瞬間に時が止まってしまう。子供たちでこれなら大人が食べたら泣いてしまうかもしれない。今日は甘味記念日だな。どんどん蜂蜜クッキーを焼いていこう。
「お、おい、クロウ、我の蜂蜜クッキーを早く」
「うん、ネシ子もお手伝いありがとうね」
「う、美味いっ! 美味いぞ、クロウ。なんなのだ、このまろやかな甘さとサクサクの食感は! 一つでは足らんぞ、おかわりを所望する!」
「はいはい、またすぐに作るから手伝ってくれたら最初にあげるね」
「わ、わかった。さっきの分量で混ぜればいいんだな。すぐに準備するぞ」
食べ終わった子供たちがネシ子に続いてお手伝いにやって来た。これでクッキー作りの人手は十分だな。
「あ、あのね、お母さんにも蜂蜜クッキーをあげたいの。次に作ったのを渡してもいい?」
「うん、もちろんだよ。みんなで食べられるようにいっぱい作ろうね」
「うん!」
心優しい子供たちだ。ローズやネシ子も、子供たちの面倒を見ながらクッキーを作っては焼き上げている。
食べ物が充実することでちょっとした争いごとはなくなる。お腹がいっぱいになれば心も満たされるのだろう。特に移民組ではない村人は開拓当初の苦しい頃を知っているだけに、より充足感があるのかもしれない。
開拓村においてこういう仲間意識や団結力というのはとても大事なものだ。この情景を忘れないように覚えておこうと思う。
◇
さて、翌日からはキラービーとともに美味しい蜜の採れる花や樹木を集めに行く。
クイーンの話では甘い実のなる果実の樹があるとのこと。畑エリアを拡張しつつ、ネス湖の脇に果樹園を作る準備はもう整っている。
それから、忘れてはならないダンジョン関連の情報も集めてもらっているのだけど、引っ越しをした同胞とはまだ会えていないらしく、引き続き頑張るとのことだった。
「キラービーは飛ぶのが遅いから退屈だな。もっとビューンと行けないものか」
魔の森における真の最弱が、ドラゴンと飛行スピードを比べられるのも可哀想というもの。
それに、ネシ子的に遅いというだけであって、決してそのスピードはゆっくりではない。馬を走らせるよりも全然速いスピードだし、それなりに持久力もあるとのこと。バーズガーデンの往復ぐらいはなんてことないそうだ。
「まあまあ、ネシ子。慌てさせるよりも、美味しい果実の樹を見つけてもらうことの方が大事なんだ。変にプレッシャーを与えるよりも、伸び伸びといつも通りに蜜を探してもらう方がいい」
キラービーが向かった方角は、魔の森の中腹に差しかかるエリア。この辺りは、普段ローズや疾風の射手が足を踏み入れていない場所になる。
「クロウがそう言うならしょうがないな。ところでおやつはまだ食べたらダメなのか?」
「お昼ご飯も食べてないんだから、おやつはまだだよ」
ペネロペからお昼用にチーズバーガーを用意してもらったのだけど、昨日食べた蜂蜜クッキーが気になって仕方がないドラゴン。やはり甘味の威力は抜群らしい。おやつには冷やした紅茶の水筒も持参して準備万端だ。
「むう。しかし、この待っている時間と空腹感が美味しさを増すのかもしれぬな」
よくわからない理論だけど納得してくれたようで良かった。
セバス曰く、村にキラービーが住むことに怖がっている村人も多少はいたのだけど、蜂蜜の甘さに全員やられたようで、反対する者はゼロになったらしい。
甘味の前ではすべての者がひれ伏すのだ。キラービー自体が大人しい魔物っぽいし、良い関係を築けていけるのではないかと思っている。
今回探している果実の樹だったり、周辺の調査、手紙の配達など、こんなに役に立つ魔物だとは思わなかった。といっても、魔物であることには変わらないので、活用していくにはそれなりに相互理解を深めていく必要があるのも事実。
早速だけど、セバスが手紙配達のテストを行うとのこと。ドラゴンやダンジョンのこともあるし、これから情報共有の頻度も高くなってくるだろう。
「ネシ子、あの辺りはどんな魔物がいるの?」
「あそこは確かジャイアントスパイダーの棲息地だな。キラービーの天敵といっても過言ではない」
すると、キラービーたちがネシ子の近くにやって来ては何やら話をしている。
「ふむふむ。やはり、このままだとキラービー部隊は全滅するか。オランジの樹を手に入れるためにはジャイアントスパイダーに巣から離れてもらわねばならぬ。よし、任せろ。我とクロウで蜘蛛狩りをしようではないか」
「えーっと、どういう話になってるのかな?」
「ジャイアントスパイダーが巣を張っているのがオランジの樹なのだ。このオランジの花の蜜は春から夏にかけて採れる最高品質の蜜だから外せないそうなのだが、蜜を集めている時にジャイアントスパイダーに襲われてしまうらしいのだ」
「なるほど、確かに橙色の果実がいっぱい生っているね。それにしても、ドラゴンが近くに来ているのにジャイアントスパイダーは逃げないの?」
「魔物にもいろいろなタイプがいると言っただろ。ジャイアントスパイダーは狡猾で獰猛な魔物だ。擬態もするし巣の奥に逃げられると手を出しづらい。あの粘着力のある糸が厄介なのだ。そして、幼生体の子供たちを多く抱えて、自らの食料兼後継者として育てている」
「幼生体なんているんだ。しかも食料兼って……」
魔物の生態はよくわからないものだ。
「実はその幼生体がさらに厄介でな。小さいが数も多くて体が透明なので、どこにいるのかわかりづらい。キラービーのほとんどはこの幼生体にやられている」
こんな危険な所に蜜を採りに来るキラービーも頭がおかしいけど、それだけこのオランジの樹というのは高品質な蜜が採れるということなのだろう。
「それで、何か作戦はあるの?」
「とりあえず、近くいるジャイアントスパイダーは我が吹っ飛ばして奥に追い払う。それからオランジの樹を根元から掘り起こしてだな」
「掘り起こして?」
「樹の表面を燃えない程度に火で炙る!」
「炙っちゃうの!」
「幼生体がどこに張り付いているかわからぬからな。生き残って村でジャイアントスパイダーになったら大変だろう。そういうことだから、丁寧に炙らなければならない。我は火を扱えぬからクロウが頼みだぞ」
「責任重大だね。わかったよ。樹の根を傷めないように、掘り起こしも僕が錬金術でやるよ」
「ならば、我はジャイアントスパイダーを退かすか」
こうして、オランジの樹を無事獲得することに成功した。
その後、レモーヌの樹、ピーチツリー、ベリベリー、ビッグマンゴー、ルルザクロ、季節の野草などを集めて、今日のところは村に戻ることにした。
春や夏にならないと採れない草花もあるようなので、またその時期に再び採取しようと思う。
◆
ユーグリット川を下ってきたセバスが、手紙の配達テストのために、急きょバーズガーデンの私、フェザントのもとにやって来た。
なんでも、もう少ししたら魔物であるキラービーが手紙を持ってくるというではないか。
「セバス、魔物が人間の指示を聞くのだろうか?」
「ドラゴンのネシ子様が間に入って通訳をしております。キラービーがドラゴンの言葉に逆らうことはないかと思われます。また、キラービー自体も攻撃的な性格ではないようで働くことに前向きでございます」
魔物が働くことに前向きというのは、いったいどういったことなのか。
まあ、それはいい。いったん置いておこう。問題があるとしたらそのドラゴンだ。なぜ、ネスト村にドラゴンが住み着くことになったのか……。
「フェザント様、キラービーからもたらされた情報で、ネスト村周辺にダンジョンがあるかもしれないとのことでございます」
「そうか、ダンジョンか……。ダ、ダンジョンだと!?」
「さすがに春を待ってのご報告とするには、いささか問題が大きすぎることが立て続けに起きておりまして、川リザードマンの力を借りて急ぎ参りました」
蜥蜴人族の川リザードマンは、ポーションや卵などの割れやすい商材を丁寧に素早く配送してくれる川下りのスペシャリストだ。彼らは、領都バーズガーデンでも野菜などを大量に購入して戻っていく。
このようにエルドラド領では、ネスト村の良い影響が徐々に広がり始めている。
中でもポーションの売上が一番大きいのだが、その予算を使って、春からは大々的に畑やユーグリット川の拡張工事を進めていくことになった。
辺境の地を任されているエルドラド家において、開拓は最重要事項である。クロウのおかげで予算に余裕をもって当たることができる。
クロウにここまでの才能があったとは驚きだ。しかしながらその才能は、様々なものを引き付けるようで問題も多い。
「はあ……。まずは、ドラゴンについての説明から頼む」
「はい、ネシ子様は魔の森の頂点に君臨していた伝説のアイスドラゴンでございます。魔の森を調査していた際にクロウお坊ちゃまと戦闘をしたことで……」
「ちょ、ちょっと待て。ク、クロウはその伝説のドラゴンと戦ったのか!?」
「申し訳ございません。まさか、ドラゴンがいるとは思っておりませんでした」
「そうではなく、無事なのであろうな?」
「……はい、無事でございます」
むっ、少し間があったようだが気のせいか?
セバスの話では、魔の森を正常化するためにはアイスドラゴンが頂点に君臨することが良くないということらしい。
増えすぎた魔物を間引きながら、魔素が豊富な場所を探しているのだとか。
「その魔素の代わりに、クロウがドラゴンに魔力供給をしているというのだな。つまり関係性は悪くないということか」
「はい、クロウお坊ちゃまの左手には召喚紋が刻まれ、ピンチの際にはいつでもネシ子様を呼び出すことが可能です。ネシ子様にとっても魔力供給してくれるクロウお坊ちゃまの存在はなくてはならないものなのでしょう。村人との関係性も良好で目立った問題は起きておりません。人間社会に興味があるようでございまして、ネスト村の開拓を手伝ってくれております」
安全に過ごせているのであればいいが……。
我が息子は、いつの間にドラゴンを召喚するまでの成長を遂げてしまったのだろうか……。
僕がいなくてもしっかり警戒態勢が取れる状況になったのは喜ばしいことだ。というか、ちゃんと説明せずに出掛けてしまった領主が一方的に悪いよね。本当にごめんなさい。
「ネシ子、村へ先に行って安全だということを伝えよう」
「うむ、そうだな。弓を射られたらせっかくの蜂蜜……いや、キラービーが逃げてしまうからな」
魔の森における真の最弱の称号は伊達ではない。みんな蜂蜜のためにもキラービーと仲良くしようじゃないか。というか、そろそろどこら辺がキラーなのか問いただしたいところでもある。
僕とネシ子が先導するようにキラービーを誘導しているのを見て、ようやくみんなも緊張が取れたように見える。弓を下ろし警戒を解いてくれたのでもう大丈夫だろう。
とりあえず、キラービーは畑の方に誘導するか。
「クロウお坊ちゃま、これはいったい何事でございますか?」
「セバス、すまない。相談しなかったけど、キラービーと交渉して蜂蜜を提供してもらうことになった」
「は、蜂蜜でございますか。しかしながら、そのキラービーは人や小さい子供を襲うことはないのでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ。ネシ子が通訳をしてクイーンと交渉してくれたんだ。こちらからは安全な住まいと魔力供給を提供する。その見返りとして蜂蜜をもらえるんだよ」
巣を襲撃して蜂蜜を採取するのが、この世界の一般的な蜂蜜の採り方だと思う。ネシ子のおかげで魔物とコミュニケーションが取れたことはかなり大きい。
「となると、安全に定期的に高級な蜂蜜が手に入るということですな。それは願ってもないことでございます」
「畑に見張り台兼キラービーの家を建てる。セバスはこのことについて村人に説明を頼みたい」
「かしこまりました。ワグナー他、周辺の代表者に伝えてまいりましょう」
「ネシ子、キラービーの住居に関しての要望は何かありそう?」
「なるべく静かな所、あと暑いのは苦手だから日陰のある場所がいいらしい」
今は冬だから暑くはないけど、春になり夏を迎えれば日差しも厳しくなる。そうなると、見張りの塔の下に日差し避けを造り、キラービーの居住スペースを設ければいいか。
「了解だよ。錬成、見張り台兼キラービーの家!」
現在ネスト村には土壁に弓を射るための足場はあるけど、遠くを見るための見張り台はない。せっかくだからこの機会に造ろうと思ったのだ。
高さはとりあえず十メートルぐらいにしておこうか。階段で登れるようにしておいて、上では二名が立っても十分な広さを確保しておく。
あとは、日除けを付けたキラービーの住居を造れば完成だ。階段からは離れるように反対側を入口にしておけばいいか。壁の厚さも十分に確保してあるから、お互いに音が気になることもないだろう。
「ネシ子、キラービーの様子はどうかな?」
何匹かのキラービーが住居状況を確認している。気に入ってくれるといいんだけど。
何やらネシ子とクイーンの話が盛り上がっている気がしないでもない。気になることでもあるのだろうか。
「あー、これは見張り台と言ってだな、遠くから敵がやって来てもすぐに把握できるように高い場所を造ったのだ。うん? そんなことをしてくれるのか。それはクロウも喜ぶと思うが……。わかった。一応、聞いてみよう」
「ネシ子どうしたの?」
「それがだな。キラービーならこんな見張り台がなくても、同胞のネットワークを使って周辺の情報が簡単に取れる。周辺に何か異常があれば、すぐにクロウに伝えることができると言っておるのだ」
蜂蜜の提供だけではドラゴンがお気に召さないかもしれない、とか思ってるのだろうか。
周辺の警備はゴーレム隊にお願いをしているけど、実際問題として数が足りていないし、手間がかかっているのも事実。
「それなら周辺の情報提供もお願いしてもいいかな? でもクイーンとは会話できないから、何か合図を決めておこうか」
「会話なら我が通訳をするぞ」
「いや、ネシ子だって常にこの村にいるわけじゃないでしょ。午前中はだいたい魔の森に行ってるし、戻っても温泉で長湯してるしさ」
「むむっ、確かに露天風呂にキラービーがやって来たら子供たちが怖がるかもしれぬな。致し方ないか」
キラービーもネシ子もなぜか仕事をしたがる傾向がある。なんでそんな働きたいのだろうか。僕がドラゴンだったら絶対働かないと思うんだけど。
「クイーン、何かしら合図を決めたい」
すると、クイーンがキラービーに指示を出して空中に絵を描いてみせた。矢印と魔物っぽいマークだ。
「す、すごいね。これは、あっちの方角に魔物がいるって意味なのかな?」
これなら言葉が通じなくてもわかる。あとは細かいところを調整して危険度や対象との距離などが伝われば文句ない。
「そ、そんなこともできるのか! クロウ、クイーンからなのだが、キラービーはこの周辺の村や川を下った先にある大きな街に、手紙程度なら運べるらしいぞ。まあ、我に任せれば数分で完了してみせるがな」
「手紙をバーズガーデンに運べるだって! それはセバスも喜ぶと思うよ。お父様との話し合いが今まで以上にスムーズになるからね」
働き蜂というぐらいだから、動いていないと不安にでもなってしまうのだろうか。魔物チームの仕事意欲が強すぎて心配になる。もっとラリバードぐらいにゆるい感じだと、こちらも気を遣わずに楽なんだけどな。
とりあえず住む場所には問題がないとのことで、緊急時以外は広場や居住区にはなるべく現れないようにしてもらって話がついた。
明日からは、キラービーの好きな蜜のある果物の樹木を集めて村に植え替えしようと思う。
どうやら季節ごとに様々な種類があるらしく、いろいろと紹介してくれるらしい。冬なら林檎とか蜜柑のような物があるのだろうかと期待に胸を膨らませている。
◇
それは置いておいて、今はお菓子作りだ。
「クロウ、蜂蜜はそのまま食べるのではないのか?」
「そのままでも美味しかったけど、お菓子にするとネシ子も、もっと気に入ると思うんだ」
「お菓子か、我は甘すぎるのは苦手だぞ」
最近舌が肥えてきたドラゴン。ここらで、甘味の素晴らしさというものを教えてあげてもいいだろう。
チーズバーガー好きのネシ子はこってりした料理を好む傾向にある。しょっぱいポテチも好物だ。そうなると、用意する材料は塩とたっぷりの溶かしバターに、小麦とラリバードの卵。それをまぜて濃厚な蜂蜜クッキーを作ることにした。
「みんなも手伝ってくれたらご馳走するよ」
もちろん周辺に集まった子供たちも巻き込んでいく。
何気にローズも一緒に集まってきているのはいつものことなので気にしない方向でいこう。貴族ではあるがローズもギリギリ子供枠なのだ。
「クロウ様、これを混ぜればいいの?」
「うん、ある程度生地がまとまるまでしっかり混ぜてね」
生地を完成させたら一口サイズに型抜きしてピザ窯で焼成していく。オーブンがないネスト村ではピザ窯が大活躍している。
しばらくすると、バターの焼ける匂いにふんわりとした蜂蜜の甘い香りが漂ってくる。
「ディアナ、人数分の紅茶を用意してきなさい」
「かしこまりました、ローズ様」
王都の貴族が食べるようなお菓子にはさすがに程遠いだろうけど、焼きたてのクッキーはそれを凌駕する。
作りたての焼き菓子は最高なんだから。
サックサクの食感とバターと蜂蜜の濃厚な味のバランスが上手くいったようだ。久し振りに食べる甘いお菓子に思わず笑顔がこぼれてしまう。
「クロウ、我にも早く食べさせろ」
「クロウ様、お腹空いたよー」
「僕もちゃんとお手伝いしたでしょ?」
「食べたーい」
わかっているよ。子供たちも僕の表情でこのお菓子の成功を確信したようだ。いや、甘い匂いが広がっている時点で涎が出ていたか。
ネスト村で生まれ育った子供たちが甘味を知るわけがない。砂糖や蜂蜜などの甘い食材は高級品になるので、ここで暮らそうと思う人が簡単に手に入れられる代物ではない。たとえ手に入れたとしても、売るか、小麦と交換することだろう。
「はい、順番に並んでね。全員の分はちゃんとあるから慌てないでよ」
この光景も慣れたもので、子供たちは大人しく列を作って静かに並んでいく。もちろん、ネシ子もローズもちゃんと並んでいる。新作料理を発表するたびに並ばせていたからなのか、はたまた、ここ数か月に及ぶ食料事情の改善からなのか、落ち着いて並んでいる。
きっと王都のスラム街だったら、今頃すべての蜂蜜クッキーが消滅していることだろう。
しかしながら、初めて食べるであろう甘味に対する期待に並びながらも涎は止まらない様子。早く食べさせてあげないと可哀想だね。
「はい、どうぞ。ディアナが紅茶を淹れてるからもらってくるんだよ。このお菓子は紅茶と一緒に食べるともっと美味しく感じるから」
「うん! クロウ様ありがとー。ディアナにもちゃんとお礼言うね」
子供はそう言って、蜂蜜クッキーを一口頬張ると目を大きくして動きが止まってしまう。感じたことのない甘くとろけるような舌触り。驚いてどうリアクションをとればいいのかわからないのだろう。
やはり辺境のスローライフにおいて食料事情の改善と甘味は大事。蜂蜜は定期的にもらえることになったし、もう少しで果物も砂糖も手に入る。スイーツのレシピをもっと増やしていってもいいかもしれない。
「クロウ様、は、早く。僕も蜂蜜クッキー!」
「あー、うんうん。ごめんね。はい、どうぞ」
「わーい!」
もらう時は元気いっぱいながら、一口食べた瞬間に時が止まってしまう。子供たちでこれなら大人が食べたら泣いてしまうかもしれない。今日は甘味記念日だな。どんどん蜂蜜クッキーを焼いていこう。
「お、おい、クロウ、我の蜂蜜クッキーを早く」
「うん、ネシ子もお手伝いありがとうね」
「う、美味いっ! 美味いぞ、クロウ。なんなのだ、このまろやかな甘さとサクサクの食感は! 一つでは足らんぞ、おかわりを所望する!」
「はいはい、またすぐに作るから手伝ってくれたら最初にあげるね」
「わ、わかった。さっきの分量で混ぜればいいんだな。すぐに準備するぞ」
食べ終わった子供たちがネシ子に続いてお手伝いにやって来た。これでクッキー作りの人手は十分だな。
「あ、あのね、お母さんにも蜂蜜クッキーをあげたいの。次に作ったのを渡してもいい?」
「うん、もちろんだよ。みんなで食べられるようにいっぱい作ろうね」
「うん!」
心優しい子供たちだ。ローズやネシ子も、子供たちの面倒を見ながらクッキーを作っては焼き上げている。
食べ物が充実することでちょっとした争いごとはなくなる。お腹がいっぱいになれば心も満たされるのだろう。特に移民組ではない村人は開拓当初の苦しい頃を知っているだけに、より充足感があるのかもしれない。
開拓村においてこういう仲間意識や団結力というのはとても大事なものだ。この情景を忘れないように覚えておこうと思う。
◇
さて、翌日からはキラービーとともに美味しい蜜の採れる花や樹木を集めに行く。
クイーンの話では甘い実のなる果実の樹があるとのこと。畑エリアを拡張しつつ、ネス湖の脇に果樹園を作る準備はもう整っている。
それから、忘れてはならないダンジョン関連の情報も集めてもらっているのだけど、引っ越しをした同胞とはまだ会えていないらしく、引き続き頑張るとのことだった。
「キラービーは飛ぶのが遅いから退屈だな。もっとビューンと行けないものか」
魔の森における真の最弱が、ドラゴンと飛行スピードを比べられるのも可哀想というもの。
それに、ネシ子的に遅いというだけであって、決してそのスピードはゆっくりではない。馬を走らせるよりも全然速いスピードだし、それなりに持久力もあるとのこと。バーズガーデンの往復ぐらいはなんてことないそうだ。
「まあまあ、ネシ子。慌てさせるよりも、美味しい果実の樹を見つけてもらうことの方が大事なんだ。変にプレッシャーを与えるよりも、伸び伸びといつも通りに蜜を探してもらう方がいい」
キラービーが向かった方角は、魔の森の中腹に差しかかるエリア。この辺りは、普段ローズや疾風の射手が足を踏み入れていない場所になる。
「クロウがそう言うならしょうがないな。ところでおやつはまだ食べたらダメなのか?」
「お昼ご飯も食べてないんだから、おやつはまだだよ」
ペネロペからお昼用にチーズバーガーを用意してもらったのだけど、昨日食べた蜂蜜クッキーが気になって仕方がないドラゴン。やはり甘味の威力は抜群らしい。おやつには冷やした紅茶の水筒も持参して準備万端だ。
「むう。しかし、この待っている時間と空腹感が美味しさを増すのかもしれぬな」
よくわからない理論だけど納得してくれたようで良かった。
セバス曰く、村にキラービーが住むことに怖がっている村人も多少はいたのだけど、蜂蜜の甘さに全員やられたようで、反対する者はゼロになったらしい。
甘味の前ではすべての者がひれ伏すのだ。キラービー自体が大人しい魔物っぽいし、良い関係を築けていけるのではないかと思っている。
今回探している果実の樹だったり、周辺の調査、手紙の配達など、こんなに役に立つ魔物だとは思わなかった。といっても、魔物であることには変わらないので、活用していくにはそれなりに相互理解を深めていく必要があるのも事実。
早速だけど、セバスが手紙配達のテストを行うとのこと。ドラゴンやダンジョンのこともあるし、これから情報共有の頻度も高くなってくるだろう。
「ネシ子、あの辺りはどんな魔物がいるの?」
「あそこは確かジャイアントスパイダーの棲息地だな。キラービーの天敵といっても過言ではない」
すると、キラービーたちがネシ子の近くにやって来ては何やら話をしている。
「ふむふむ。やはり、このままだとキラービー部隊は全滅するか。オランジの樹を手に入れるためにはジャイアントスパイダーに巣から離れてもらわねばならぬ。よし、任せろ。我とクロウで蜘蛛狩りをしようではないか」
「えーっと、どういう話になってるのかな?」
「ジャイアントスパイダーが巣を張っているのがオランジの樹なのだ。このオランジの花の蜜は春から夏にかけて採れる最高品質の蜜だから外せないそうなのだが、蜜を集めている時にジャイアントスパイダーに襲われてしまうらしいのだ」
「なるほど、確かに橙色の果実がいっぱい生っているね。それにしても、ドラゴンが近くに来ているのにジャイアントスパイダーは逃げないの?」
「魔物にもいろいろなタイプがいると言っただろ。ジャイアントスパイダーは狡猾で獰猛な魔物だ。擬態もするし巣の奥に逃げられると手を出しづらい。あの粘着力のある糸が厄介なのだ。そして、幼生体の子供たちを多く抱えて、自らの食料兼後継者として育てている」
「幼生体なんているんだ。しかも食料兼って……」
魔物の生態はよくわからないものだ。
「実はその幼生体がさらに厄介でな。小さいが数も多くて体が透明なので、どこにいるのかわかりづらい。キラービーのほとんどはこの幼生体にやられている」
こんな危険な所に蜜を採りに来るキラービーも頭がおかしいけど、それだけこのオランジの樹というのは高品質な蜜が採れるということなのだろう。
「それで、何か作戦はあるの?」
「とりあえず、近くいるジャイアントスパイダーは我が吹っ飛ばして奥に追い払う。それからオランジの樹を根元から掘り起こしてだな」
「掘り起こして?」
「樹の表面を燃えない程度に火で炙る!」
「炙っちゃうの!」
「幼生体がどこに張り付いているかわからぬからな。生き残って村でジャイアントスパイダーになったら大変だろう。そういうことだから、丁寧に炙らなければならない。我は火を扱えぬからクロウが頼みだぞ」
「責任重大だね。わかったよ。樹の根を傷めないように、掘り起こしも僕が錬金術でやるよ」
「ならば、我はジャイアントスパイダーを退かすか」
こうして、オランジの樹を無事獲得することに成功した。
その後、レモーヌの樹、ピーチツリー、ベリベリー、ビッグマンゴー、ルルザクロ、季節の野草などを集めて、今日のところは村に戻ることにした。
春や夏にならないと採れない草花もあるようなので、またその時期に再び採取しようと思う。
◆
ユーグリット川を下ってきたセバスが、手紙の配達テストのために、急きょバーズガーデンの私、フェザントのもとにやって来た。
なんでも、もう少ししたら魔物であるキラービーが手紙を持ってくるというではないか。
「セバス、魔物が人間の指示を聞くのだろうか?」
「ドラゴンのネシ子様が間に入って通訳をしております。キラービーがドラゴンの言葉に逆らうことはないかと思われます。また、キラービー自体も攻撃的な性格ではないようで働くことに前向きでございます」
魔物が働くことに前向きというのは、いったいどういったことなのか。
まあ、それはいい。いったん置いておこう。問題があるとしたらそのドラゴンだ。なぜ、ネスト村にドラゴンが住み着くことになったのか……。
「フェザント様、キラービーからもたらされた情報で、ネスト村周辺にダンジョンがあるかもしれないとのことでございます」
「そうか、ダンジョンか……。ダ、ダンジョンだと!?」
「さすがに春を待ってのご報告とするには、いささか問題が大きすぎることが立て続けに起きておりまして、川リザードマンの力を借りて急ぎ参りました」
蜥蜴人族の川リザードマンは、ポーションや卵などの割れやすい商材を丁寧に素早く配送してくれる川下りのスペシャリストだ。彼らは、領都バーズガーデンでも野菜などを大量に購入して戻っていく。
このようにエルドラド領では、ネスト村の良い影響が徐々に広がり始めている。
中でもポーションの売上が一番大きいのだが、その予算を使って、春からは大々的に畑やユーグリット川の拡張工事を進めていくことになった。
辺境の地を任されているエルドラド家において、開拓は最重要事項である。クロウのおかげで予算に余裕をもって当たることができる。
クロウにここまでの才能があったとは驚きだ。しかしながらその才能は、様々なものを引き付けるようで問題も多い。
「はあ……。まずは、ドラゴンについての説明から頼む」
「はい、ネシ子様は魔の森の頂点に君臨していた伝説のアイスドラゴンでございます。魔の森を調査していた際にクロウお坊ちゃまと戦闘をしたことで……」
「ちょ、ちょっと待て。ク、クロウはその伝説のドラゴンと戦ったのか!?」
「申し訳ございません。まさか、ドラゴンがいるとは思っておりませんでした」
「そうではなく、無事なのであろうな?」
「……はい、無事でございます」
むっ、少し間があったようだが気のせいか?
セバスの話では、魔の森を正常化するためにはアイスドラゴンが頂点に君臨することが良くないということらしい。
増えすぎた魔物を間引きながら、魔素が豊富な場所を探しているのだとか。
「その魔素の代わりに、クロウがドラゴンに魔力供給をしているというのだな。つまり関係性は悪くないということか」
「はい、クロウお坊ちゃまの左手には召喚紋が刻まれ、ピンチの際にはいつでもネシ子様を呼び出すことが可能です。ネシ子様にとっても魔力供給してくれるクロウお坊ちゃまの存在はなくてはならないものなのでしょう。村人との関係性も良好で目立った問題は起きておりません。人間社会に興味があるようでございまして、ネスト村の開拓を手伝ってくれております」
安全に過ごせているのであればいいが……。
我が息子は、いつの間にドラゴンを召喚するまでの成長を遂げてしまったのだろうか……。
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