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46話 魔道具研究所

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 首都から少しだけ離れた港町にその研究所はあった。山を切り崩した中にコンクリートの建物があり、その全貌は一部分しか見えていない。

「ここが魔道具研究所なのか?」

「はい、正門は反対側にありますが、セキュリティが厳しいのでこちらから入ります」

 海側から見て、山の壁面にある場所には人が一人立てるぐらいの狭いスペースがあって、奥へと進める道が続いていた。

 と、ここで朔丸から通信が届いた。

『藍之助様、魔道具研究所に到着しました。これから、所長の玉垣という者と会うことになっております。通信はそのままにしておきますので、タイミング等はお任せします』

『わかった。すまないな、サクラちゃん』

『ちょっ、いや、あ、藍之助様!?』

「だ、大丈夫なの?」

「気にするな、こっちの話だ。ぷふっ」

 リリカの話によると、異界の門にいる者を排除してリリカに管理させる予定だったらしく、ドロップアイテムの受け取りなどは魔道具研究所から、おって人が回収に来ることになっていたらしい。

 つまり、このタイミングでリリカが魔道具研究所に戻ってくることはおそらく想定していないはず。

「人の気配は感じないな」

「ここの出入りを許されている者は限られた者だけのはず。しかも、今は魔法少女サクラちゃんが来所しているのだから、警備はそちらに集中するでしょ」

 確かに大きめのボートがあったり、ライフジャケットが用意されていたりするのを見ると、何かあった時の脱出用とみて間違いない。

「なるほど、この場所を封鎖しておけば間違いはないな。それで、サクラちゃんと話をするであろう場所に目星はついているか?」

「多分だけど、私とルリカがいた部屋じゃないかな。あそこの部屋は、魔法が使えないようになっているから」

「そんな部屋があるのか。そこを管理している部屋はわかるか?」

「ごめんなさい、それはわからない」

 となると、朔丸の位置を追いながら、あやしい場所を片っ端から潰していくしかないか。

 別にこちらの姿がバレても構わない。来るものは全員強制的にぶっ倒すだけだし、逃げる奴も全員許すつもりはない。

「よし、それではこちらも行動開始と行こうか。その前に、周辺一帯を囲わせてもらおう。エリアシールド!」

「今の魔法は何?」

「エリアシールド、無色透明の盾だよ。通常は防御目的の魔法なんだけど、少し規模を大きくして研究所全体を囲うようにシールドを展開した。これで、魔法を解かない限り研究所からは誰も逃げられない」

「な、何が少しの規模よ……。研究所全体って何ヘクタールあると思ってるの」

「よし、朔丸の位置は……あっちの方角だな」

「そっちは、私がいた場所。きっとサクラちゃんも薬を飲まされる」

 朔丸なら薬を飲んだふりぐらい出来るだろうし、そんなすぐに効果のある催眠剤はないだろう。リリカの話を聞く限り、何日も掛けて魔法の使えない空間で徐々に洗脳を進めていく流れのようだし。

「とりあえず、上の階から一部屋ずつ潰していくぞ」

「わかった」

 どうやら研究所にはそれなりの数の研究員がいるようで、階段や廊下では結構な頻度ですれ違う。

「だ、誰だ、君は! なっ、お前はリリカ……ふごっ」

「お、お前は、御剣島沖にいるはずでは……ぶふぉっ」

「こ、この不審者めぇぇ……」


「見事に殺さず気を失わせている。藍之助は手慣れている。じぃぃー」

 リリカの目が犯罪者を見るように感じなくもないが、首都へ遊びに行くと割りと絡まれやすい体質のようなのでいい加減慣れてしまった。

 監視カメラの位置だけを確認して、叫び声をあげる前に沈黙させる。秒で片付ければ周囲に人がいてもそう気づかれることはない。

「ほらっ、あの部屋に人の反応がある。二人っぽいな」

「なんで、そんなことがわかるのか聞かないけど、藍之助は敵に回してはいけない人なのだと理解した」

 問答無用で必殺技をぶっぱなしてきたリリカにそんなこと言われたくないが、洗脳されていたのでノーカウントにしてあげよう。

「話し声が聞こえるな」

「聞いてみる」

 リリカが楽しげに髪を揺らしながら扉に耳をつける。こいつ、楽しんでるな。


※※※


『君が魔法少女サクラちゃんだね』

―――あなたが玉垣所長ですか? この部屋は魔力が阻害されているようですが、どういうことでしょうか―――

「ほぉ、さすがは月野雫の妹なだけはありますね。君にはしばらくの間、この部屋で生活してもらうことになっている」

―――姿も現さずに一方的に監禁ですか。ここに来ることは月野政策参与、いや姉にも伝えております。すぐに見つかりますよ―――

『大丈夫ですよ。サクラちゃんはここで卒業証書とステッキを受けとって、帰ったところを何故か御剣家の者に拉致されたことになるんですから』

―――そこで何故、御剣家が出てくるのでしょうね。政府と御剣家の距離が縮まるのが困るということですか。何も考えていない大山元幹事長絡みの派閥とアイテムで儲けたい研究所らしい話ですね―――

『五月蝿いわ小娘。どうせ、お前はここで』
『先生、いけません』
『おおっと、すまない、すまない。生意気な魔法少女は嫌いじゃないよ。ギャップがとてもいい。強気だったリリカも、あっさり堕ちたのだからな』

 どうやら、いきなり当たりの部屋を見つけてしまったらしい。朔丸からの情報の通り、大山派閥と研究所の関係もビンゴだ。

 しかも、黒幕の本人がいる。このやりとりは朔丸の通信を通じて録音されている。あとは、ここへ僕たちが踏みこんで更に証拠を集めていけばいいだけだ。

 こめかみあたりをピクピクさせているリリカが暴走しないように見ておかなきゃならなそうだけど……。
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