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30話 首都デート

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「それで、お兄さまとエリーゼは、なぜ目を合わせないのですか?」

「そ、そんなことはない」
「そ、そうです……。たまたまです」

 とりあえず早々にお風呂から上がったものの、朝食ですぐにエリーゼと顔を合わせてしまうわけで、お互いにちょっと気まずい感じを出していたらすぐに星那に気づかれてしまった。

「エリーゼ、髪が濡れておりますけど朝風呂に入られたのですか?」

「うぇっ! い、いや、そのですね、星那……」

「私がちゃんと説明をしていなかったのも悪いのですが、二人の様子をみるに、お風呂場でお兄さまと会ってしまったということでしょうか」

「ごめんなさいです」

「エリーゼが謝る必要はありません。私の伝え忘れがそもそもの原因なのです」

「で、でも、星那、怒ってるです?」

「怒ってません」

「は、はい」

 あきらかに星那の機嫌が悪くなってしまった。星那が感情を露わにするというのも珍しい。

 これも、エリーゼがうちに来たことで変化が起きているのだろう。

 僕としてはそういう妹の変化というのは悪くないというか、いい傾向なのではないかと思う。星那はどうも僕にべったりすぎるところがあるから。

「お兄さまも家の中だからと油断しすぎです。今は緊急事態なのですから、もう少し気を張ってください」

 普段なら星那から怒られるということはあまりないのだが、ここはちゃんと謝っておいた方がよさそうだ。

「す、すまん」

「とりあえず謝ればいいと思っている感じがしないでもないですがいいでしょう。罰として、私の言うことを一つ聞いていただきます」


※※※


 というわけで、なかば強引に約束をさせられてしまった。

 その後、何事も無かったかのように父さんから月野さん宛の用事を頼まれ首都へ向かうことになったのだが、星那も一緒についてくることになってしまったのだ。

「エリーゼに案内してもらうか?」

「大丈夫です」
「空気読めですよボス」

「とりあえずエリーゼは朱里姉さんと門の管理な」

「ボスの次にヤバい人じゃないですか!」

 まったく失礼な奴だ。確かに朱里姉さんは趣味のことになると止まらなくなる人だけど僕は違う。魔法が得意な至って普通の人だ。

 それにまだ本格的にエリーゼを鍛えている訳でもないのに僕をヤバい人扱いするとは……なかなか鍛えがいがありそうだ。

「お兄さま、ステッキがすぐに見つかってよかったですね」

「あ、ああ……。替えの品ぐらいいくらでもあるのかと思っていたのだが、意外に大事なものだったらしいな」

 エリーゼがステッキを心配しているのが少しだけ理解できた気がする。

 月野さんからの依頼というのは、信号機トリオの魔法のステッキを探してもらいたいということだった。Bランク魔法少女のステッキということでそれなりに高価な代物らしく、また、ステッキがないため必殺技が使えない三人は魔法少女としての活動ができていないらしい。


 僕がいつも見ていた大型ビジョンには、なぜか新人の魔法少女サクラちゃんが地味にモンスターを倒していた。

「魔法少女サクラちゃんですか……」
「朔丸も大変なことに巻きこまれているな……」

 信号機トリオの尻拭いとして、女装した朔丸が魔法少女サクラちゃんとして大活躍していた。

 首都圏を守る新しい魔法少女として注目を集めている。戦い方に華はないが、堅実で玄人受けする戦いぶりはコアなファンからの支持を集めているそうだ。

「サクラちゃん、目が死んでますね」
「あの目が逆にコアなファンにはたまらないと更に評価が高まっているらしい……」

 ステッキを回収してお届けするまでは朔丸が頑張ることで、少ない魔法少女ローテを回そうとしているらしい。朔丸すまん……。

「お兄さま、そんなことより目的の場所に行きましょう」

 小さな頃のように僕の腕をとって引っ張られる。島育ちの星那にとっては、人混みの多い首都は苦手なのかもしれない。

 ちなみに目的の場所は魔法省ではなく、あんみつ屋だ。

 魔法のステッキは急がなくても魔法少女サクラちゃんがいる限り、信号機トリオよりも安心安全に解決してれるので、先に可愛い妹との約束を果たそうと思う。

「エリーゼが言うには、本土の少女達に大人気なフォトジェニックなあんみつだそうです」

「そうなのか」

 あんみつにフォトジェニックを求めるのは、如何なものだろうと思わなくもないが、星那が嬉しそうな顔をしているので、喜んで付き合おうと思う。

 エリーゼの影響なのか、星那は今までこういった流行りものには全く興味のなかったのはずなのに珍しい。

 うさぎ屋という暖簾のれんをくぐると、うさ耳キャップをつけた若い店員が声を揃えて迎えてくれた。どうやら席に座っている客も若い女性が多い。

「ようこそ、うさぎ屋へ! いらっしゃいぴょん」

 自分が年寄りだという感覚はないのだが、最近の若い人の感覚にはとてもついていけない気がする。

 僕の衝撃を受けた様子を全く気にすることもなく、星那は指を二つ見せ、奥の個室席の案内を頼んでいた。

「二名様でカップルシートだぴょん。こちらまでどうぞぴょん」

 耳をぴょこぴょこさせた店員に案内されるがままに個室のカップルシートに到着すると、星那はすぐに限定のうさぎあんみつセットを注文していた。

「すごい店だな……」
「かわいいお店です」

 そして、出てきたあんみつは想像を超えてきた。

「はい、特製の限定うさぎあんみつセットぴょん」

「星那、これは本当にあんみつなのか?」

 レインボーの生クリームが大量にうさぎの形にホイップされたそれは、あんみつと呼んでいい代物か悩まされる。

「あの、撮ってもらってもいいですか?」
「オッケーぴょん! はい、男性の方、もっと顔を近づけるぴょん」

 パシャッ。

 何はともあれ、星那がご機嫌なようなので来てよかったのかもしれない。大事そうに何度も画像を繰り返し見る星那は歳相応に可愛らしい。
 どうやら星那の新しい一面を見れた気がする。

 ちなみに、生クリームあんみつは予想外に美味しかったので、家族とエリーゼ用にお土産を買っていくことにした。
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