上 下
25 / 49

25話 閣議1

しおりを挟む
 その日の夜に、内閣からの呼び出しがあった。間違いなく、異界の門のことと、御剣家との交渉結果についてだろう。
 一応、上司である巴村大臣には報告済みではある。何年もの間、話し合いの場すら得られなかった御剣家との関係が少しだけ動いた。それだけでも今回の一件は収穫だと思える。

 そして、私たちが思っている以上に御剣家の魔法使いは強い。

「魔法省政策参与月野です」

「あー、待っていましたよ。入りなさい」

 会議室で待ち受けていたのは内閣官房長官の西條さんだった。黒川総理を支えるブレーンであり、派閥での立ち回りも上手く次期総理の呼び声も高い方だ。

「すみません、遅れましたでしょうか?」

 部屋に入るとすでに主だった大臣が席についており、会議の途中といった雰囲気を感じさせていた。
 資料を捲る音と、説明する官僚の声が聞こえている。

「いえ、時間前ですよ。少し問題が発生していましたので、先にその説明を各大臣にしておりました。月野さんには前情報なく御剣家との会談で感じたことを話してもらいたいと思いましてね」

 問題が発生か。ここのところ政府内でも独断による行動が多く、信頼に欠けるところがある。魔法省内でも敵と味方が入り混じっているような状況なのだから、他も似たり寄ったりなのでしょう。

「みなさん、月野さんが参られましたので一度情報共有をさせて頂きますね。御剣島周辺海域における異界の門発生について、魔法省におきまして独断で魔法少女を派遣し、門を開かせたとの報告が入りました。巴村さん、これはあなたの指示であると報告が上がっておりますがいかがですかな?」

「知らん。事務次官の暴走であろう。まあ、二つ目の異界の門を開かせたいという気持ちは私も常に話していた通りであるからして、私の意を汲んで勝手に動いた可能性はあるかもしれんがな」

「あなたの指示であるというのは、その事務次官榊原氏からの報告なのですが」

「奴が仕事のできる人間だったことは私も知っているが、彼の暴走を知っていち早く特別警察を向かわせたのはこの私だ。わざわざ仲間を見殺しにするようなことはしませんよ」

「この狸め……」

「何かおっしゃいましたか? 西條さん」


「ええ、それから魔導哨戒機が出動しておりますがこれは魔法省は把握されておりますか?」

「知らん。それも事務次官が勝手にやったことだろう」
「それは私も初耳です。出動の目的は何でしょうか?」

「巴村さんも月野さんも知らないということですね。目的は御剣島沖に派遣した魔法少女三名がロストしたため、その調査に向かったということになっています。この指示は榊原元事務次官です」

「奴の犯行なのだからそうだろうよ。それで、それがどうしたというのだ」

「その魔導哨戒機以下パイロットが行方不明なのです。月野さんは何かご存じではありませんか? 例えば、御剣家で救命活動をしていたとか」

「い、いえ、そのような話はなかったです。行方不明になった時間を教えてください。御剣家に聞いてみましょう」

「ほぅ、月野さんは御剣家と連絡がとれるのですか?」

「魔法を媒介にして話し合いができる環境が整いました。今後も御剣家とは異界の門の管理やドロップアイテムについて情報共有する必要がありますので」

「それはよかった。電波が通じないので、この時代に手紙でやり取りするというのもね……。では、哨戒機とパイロットのことを頼めますか?」

「は、はい、お任せください」

「そんなことより、門の管理について話をしたい。なぜ、御剣家と共同で管理する必要があるのかね? それではアイテムの取り分が減ってしまうのではないか?」

「それについては、国防総省としても疑問ですね。せっかく開いた異界の門なのですから、政府主導で管理するべきです。御剣島もこの国の一部なのですから」

「そのことについては、月野さんに使者として話をしてもらっております。そもそも、こちらから一方的に相互不可侵条約を破っておりますし、さすがに難しいのではないかと。ねぇ月野さん」

「西條さんのおっしゃるとおりです。こちらから一方的に条約を破棄しており、さらに魔法少女三名の捕虜交換が条件だったのです。共同管理という名目がとれただけでも御の字ではないかと」

 その言葉にすぐ反応したのは巴村大臣だった。他にも不服そうな顔は何名かいる。こういうのはちゃんと覚えておいた方がいいだろう。

「これだから、女に交渉などさせるべきではなかったのだよ。こんな交渉はやり直しだ! わしが仕切り直してやろう」

 そもそも私たちであの異界の門の管理はできない。彼らがいるから任せられるのであって、こちらが主導して管理することなどありえない。

 もしも場所が違ければ、国が滅びていた可能性すらあるのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

処理中です...