エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~

つちねこ

文字の大きさ
上 下
13 / 49

13話 魔女

しおりを挟む
 目の前には自らを魔女と名乗った月野雫が少しゆったりめのソファに座っていた。見た目には二十代半ばぐらい、スーツ姿ではなく魔法使いが着用する白いローブを身にまとっている。その姿は魔法少女とは違い、かなり落ち着いた大人の女性といった雰囲気だ。

 この場所には、藍之助様に連れてきてもらってから、探りを入れすぐにたどり着いている。おそらく、御剣家から何かしらアプローチがあることを想定していたのだろう。敵対する派閥もあるなか、見事な統率ぶりを見せてくれている。

「その、朔丸さんとおっしゃいましたか。あなたが連絡役になってくれるのですね。失礼ですけど、以前に会ったことがなかったかしら? 私、十年ほど前に一度、御剣島へご挨拶に行ったことがあるのですよ」

「それはおそらく、私ではなく藍之助様でしょう」

「藍之助様?」

「次期当主、御剣藍之助でございます。私はその時、海岸周辺の警護に駆り出されておりましたので、お会いしておりません」

「あらっ、そうだったのね。年齢的にひょっとしたらと思ったのだけど。確かに魔力の質が違うかしら」

「魔力の質ですか? そのようなこともおわかりになるのですね」

「ええ、冬獅郎様に会った時も、その魔力に驚きましたけど、会見の際に、此方を覗くように見ていた少年の魔力の方が私には驚きで、一人冷や汗をかいていたわ」

「藍之助様は別次元の魔力をお持ちになられておりますからね」

「そ、そうなのね。やはり私の見間違いではなかったのね……」

 月野様は、藍之助様の強さを理解している。これならば、話し合いをする上でも優位に進められるのかもしれない。

「それにしても、エリーゼを行かせてからそんなに時間も経ってないのに、あっさりとこの場所まで来てしまうのね。流石は御剣家の方といったところかしら。どのようにしてここまで来たのかは分かりませんが、お互いに政府には内緒にしておきましょう」

 エリーゼに相互不可侵条約を破らせたことと、私が本土に来て同様に条約を破っていることを、一旦相殺しようと言っているのだろう。

「それで、首都にはどうやって来たの?」
「秘密です」

「あらっ、つれないのね。まぁ、いいわ。あなたには、こちらでも動きやすいように私の弟として活動してもらうわね」

「お、弟ですか……。そのようなことが?」

「こう見えてそれなりに多方面に顔が利くのよ。それに近い将来、御剣家と政府の間にあったわだかまりも解消したいとも思っているのよね。その為にも、朔丸には双方の力になってもらいたいわ」

「私にはそのような未来があるとは思えないのですが、冬獅郎様と月野様の連絡役はしっかりと、つとめさせてもらいます」

「なるわ、きっと。エリーゼを御剣家が引き受けてくれているようにね。それから私のことは今後、お姉さまと呼ぶように」

 それはまた違うような気がしないでもない。今回の異界の門騒動がなければ、あの魔法少女は普通に追い返していただろう。ただ、もしも門が海上で開いてしまったら、両者にとっても見過ごせない事態になるのは理解できる。

「は、はあ……」

「それで、あなたから見て、藍之助君と私ではどちらの方が魔力は上かしら? これでもまだ魔力は成長しているのよ」

「そのようなことを聞くのですか? どちらが優れているか、ですか。それは比べるまでもありません」


 すると、扉の外が急に騒がしくなる。何人かが言い争うような雰囲気が聞こえてくる。すぐに扉がノックされ声をかけられる。

「月野様、よろしいでしょうか!」

「来客中よ、後にしなさい」

「それが、緊急事態なのです」


「ふうー、わかったわ。朔丸、少しだけ待っててもらえる?」

「はい、私のことはお構いなく」

 外に出て近くの部屋に入って行ったのだろう。普通なら声が聞こえない場所に移動したようだ。おそらく、向かいの会議室。もちろん防音設備が整っているのだろう。僕には無意味なんだけどね。

聴力ヒアリング強化アンハンスメント




「はああ? 魔法少女が三名、御剣島沖に向かっているですって!」
「巴村大臣の命令で榊原事務次官が指示を出しているようです。目的はおそらく、異界の門に魔力エネルギーを供給して早期に門を開かせることにあるかと」

「今、御剣家と揉めるわけにはいかないわ。不味いわね……」

「我々の関知しえないところまでは致し方ありません。今はこの情報をいち早くお伝えすることが誠意となりましょう」

「そ、そうね。念のため、今後の魔法少女派遣については、追加法案をまとめておくようにしておきなさい。少なくとも私の許可は必須にするように」

「かしこまりました」

「それにしても巴村の奴、勝手なことを……」
「こちらの動きが知られている可能性があります」

「同じ省庁内なのだからしょうがないわ。全部を疑うのは無理があるもの」



 なるほど、面倒なことになっているようですね。とはいえ、門にはすぐに藍之助様が向かうことになるでしょうから大丈夫でしょう。

 しかしながら、御剣島に住むものとして、御剣に連なるものとしても、政府のこの動きは到底許せるものではありませんね。御剣家に対する畏怖と感謝を完全に忘れてしまっているとしか思えません。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最凶変態カメラ使いタカフミ 〜狙われた魔法少女たち〜 ミュー編

小説エルフたん❤
恋愛
魔法少女になりたい――ただ、それだけの夢だった。 けれど、手にした魔法は“闇”だった。 内気なエルフ少女・ミュー は、親友であるエルルンに憧れていた。 魔法少女見習いとして戦う彼女は、自分とは違う「特別な存在」に思えた。 「私も魔法が使えたらな……」 そんな淡い憧れから、彼女は友人の家にあった魔導書を手に取る。 ――軽い気持ちで唱えた呪文“チャーム・ウィスパー”。 だが、それはただの魅了魔法ではなかった。 相手の心を縛り、己の感情すら狂わせる“闇の魔法” だったのだ。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

田舎者の俺が貴族になるまで

satomi
ファンタジー
見た目は麗しの貴公子の公爵令息だが長期間田舎暮らしをしていたため、強い田舎訛りと悪い姿勢が板についてしまった。 このままでは王都で社交などとんでもない!公爵家の長男がこのままでは! ということで、彼は努力をするのです。 わりと都合主義です。

処理中です...