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13話 魔女
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目の前には自らを魔女と名乗った月野雫が少しゆったりめのソファに座っていた。見た目には二十代半ばぐらい、スーツ姿ではなく魔法使いが着用する白いローブを身にまとっている。その姿は魔法少女とは違い、かなり落ち着いた大人の女性といった雰囲気だ。
この場所には、藍之助様に連れてきてもらってから、探りを入れすぐにたどり着いている。おそらく、御剣家から何かしらアプローチがあることを想定していたのだろう。敵対する派閥もあるなか、見事な統率ぶりを見せてくれている。
「その、朔丸さんとおっしゃいましたか。あなたが連絡役になってくれるのですね。失礼ですけど、以前に会ったことがなかったかしら? 私、十年ほど前に一度、御剣島へご挨拶に行ったことがあるのですよ」
「それはおそらく、私ではなく藍之助様でしょう」
「藍之助様?」
「次期当主、御剣藍之助でございます。私はその時、海岸周辺の警護に駆り出されておりましたので、お会いしておりません」
「あらっ、そうだったのね。年齢的にひょっとしたらと思ったのだけど。確かに魔力の質が違うかしら」
「魔力の質ですか? そのようなこともおわかりになるのですね」
「ええ、冬獅郎様に会った時も、その魔力に驚きましたけど、会見の際に、此方を覗くように見ていた少年の魔力の方が私には驚きで、一人冷や汗をかいていたわ」
「藍之助様は別次元の魔力をお持ちになられておりますからね」
「そ、そうなのね。やはり私の見間違いではなかったのね……」
月野様は、藍之助様の強さを理解している。これならば、話し合いをする上でも優位に進められるのかもしれない。
「それにしても、エリーゼを行かせてからそんなに時間も経ってないのに、あっさりとこの場所まで来てしまうのね。流石は御剣家の方といったところかしら。どのようにしてここまで来たのかは分かりませんが、お互いに政府には内緒にしておきましょう」
エリーゼに相互不可侵条約を破らせたことと、私が本土に来て同様に条約を破っていることを、一旦相殺しようと言っているのだろう。
「それで、首都にはどうやって来たの?」
「秘密です」
「あらっ、つれないのね。まぁ、いいわ。あなたには、こちらでも動きやすいように私の弟として活動してもらうわね」
「お、弟ですか……。そのようなことが?」
「こう見えてそれなりに多方面に顔が利くのよ。それに近い将来、御剣家と政府の間にあったわだかまりも解消したいとも思っているのよね。その為にも、朔丸には双方の力になってもらいたいわ」
「私にはそのような未来があるとは思えないのですが、冬獅郎様と月野様の連絡役はしっかりと、つとめさせてもらいます」
「なるわ、きっと。エリーゼを御剣家が引き受けてくれているようにね。それから私のことは今後、お姉さまと呼ぶように」
それはまた違うような気がしないでもない。今回の異界の門騒動がなければ、あの魔法少女は普通に追い返していただろう。ただ、もしも門が海上で開いてしまったら、両者にとっても見過ごせない事態になるのは理解できる。
「は、はあ……」
「それで、あなたから見て、藍之助君と私ではどちらの方が魔力は上かしら? これでもまだ魔力は成長しているのよ」
「そのようなことを聞くのですか? どちらが優れているか、ですか。それは比べるまでもありません」
すると、扉の外が急に騒がしくなる。何人かが言い争うような雰囲気が聞こえてくる。すぐに扉がノックされ声をかけられる。
「月野様、よろしいでしょうか!」
「来客中よ、後にしなさい」
「それが、緊急事態なのです」
「ふうー、わかったわ。朔丸、少しだけ待っててもらえる?」
「はい、私のことはお構いなく」
外に出て近くの部屋に入って行ったのだろう。普通なら声が聞こえない場所に移動したようだ。おそらく、向かいの会議室。もちろん防音設備が整っているのだろう。僕には無意味なんだけどね。
「聴力強化」
「はああ? 魔法少女が三名、御剣島沖に向かっているですって!」
「巴村大臣の命令で榊原事務次官が指示を出しているようです。目的はおそらく、異界の門に魔力エネルギーを供給して早期に門を開かせることにあるかと」
「今、御剣家と揉めるわけにはいかないわ。不味いわね……」
「我々の関知しえないところまでは致し方ありません。今はこの情報をいち早くお伝えすることが誠意となりましょう」
「そ、そうね。念のため、今後の魔法少女派遣については、追加法案をまとめておくようにしておきなさい。少なくとも私の許可は必須にするように」
「かしこまりました」
「それにしても巴村の奴、勝手なことを……」
「こちらの動きが知られている可能性があります」
「同じ省庁内なのだからしょうがないわ。全部を疑うのは無理があるもの」
なるほど、面倒なことになっているようですね。とはいえ、門にはすぐに藍之助様が向かうことになるでしょうから大丈夫でしょう。
しかしながら、御剣島に住むものとして、御剣に連なるものとしても、政府のこの動きは到底許せるものではありませんね。御剣家に対する畏怖と感謝を完全に忘れてしまっているとしか思えません。
この場所には、藍之助様に連れてきてもらってから、探りを入れすぐにたどり着いている。おそらく、御剣家から何かしらアプローチがあることを想定していたのだろう。敵対する派閥もあるなか、見事な統率ぶりを見せてくれている。
「その、朔丸さんとおっしゃいましたか。あなたが連絡役になってくれるのですね。失礼ですけど、以前に会ったことがなかったかしら? 私、十年ほど前に一度、御剣島へご挨拶に行ったことがあるのですよ」
「それはおそらく、私ではなく藍之助様でしょう」
「藍之助様?」
「次期当主、御剣藍之助でございます。私はその時、海岸周辺の警護に駆り出されておりましたので、お会いしておりません」
「あらっ、そうだったのね。年齢的にひょっとしたらと思ったのだけど。確かに魔力の質が違うかしら」
「魔力の質ですか? そのようなこともおわかりになるのですね」
「ええ、冬獅郎様に会った時も、その魔力に驚きましたけど、会見の際に、此方を覗くように見ていた少年の魔力の方が私には驚きで、一人冷や汗をかいていたわ」
「藍之助様は別次元の魔力をお持ちになられておりますからね」
「そ、そうなのね。やはり私の見間違いではなかったのね……」
月野様は、藍之助様の強さを理解している。これならば、話し合いをする上でも優位に進められるのかもしれない。
「それにしても、エリーゼを行かせてからそんなに時間も経ってないのに、あっさりとこの場所まで来てしまうのね。流石は御剣家の方といったところかしら。どのようにしてここまで来たのかは分かりませんが、お互いに政府には内緒にしておきましょう」
エリーゼに相互不可侵条約を破らせたことと、私が本土に来て同様に条約を破っていることを、一旦相殺しようと言っているのだろう。
「それで、首都にはどうやって来たの?」
「秘密です」
「あらっ、つれないのね。まぁ、いいわ。あなたには、こちらでも動きやすいように私の弟として活動してもらうわね」
「お、弟ですか……。そのようなことが?」
「こう見えてそれなりに多方面に顔が利くのよ。それに近い将来、御剣家と政府の間にあったわだかまりも解消したいとも思っているのよね。その為にも、朔丸には双方の力になってもらいたいわ」
「私にはそのような未来があるとは思えないのですが、冬獅郎様と月野様の連絡役はしっかりと、つとめさせてもらいます」
「なるわ、きっと。エリーゼを御剣家が引き受けてくれているようにね。それから私のことは今後、お姉さまと呼ぶように」
それはまた違うような気がしないでもない。今回の異界の門騒動がなければ、あの魔法少女は普通に追い返していただろう。ただ、もしも門が海上で開いてしまったら、両者にとっても見過ごせない事態になるのは理解できる。
「は、はあ……」
「それで、あなたから見て、藍之助君と私ではどちらの方が魔力は上かしら? これでもまだ魔力は成長しているのよ」
「そのようなことを聞くのですか? どちらが優れているか、ですか。それは比べるまでもありません」
すると、扉の外が急に騒がしくなる。何人かが言い争うような雰囲気が聞こえてくる。すぐに扉がノックされ声をかけられる。
「月野様、よろしいでしょうか!」
「来客中よ、後にしなさい」
「それが、緊急事態なのです」
「ふうー、わかったわ。朔丸、少しだけ待っててもらえる?」
「はい、私のことはお構いなく」
外に出て近くの部屋に入って行ったのだろう。普通なら声が聞こえない場所に移動したようだ。おそらく、向かいの会議室。もちろん防音設備が整っているのだろう。僕には無意味なんだけどね。
「聴力強化」
「はああ? 魔法少女が三名、御剣島沖に向かっているですって!」
「巴村大臣の命令で榊原事務次官が指示を出しているようです。目的はおそらく、異界の門に魔力エネルギーを供給して早期に門を開かせることにあるかと」
「今、御剣家と揉めるわけにはいかないわ。不味いわね……」
「我々の関知しえないところまでは致し方ありません。今はこの情報をいち早くお伝えすることが誠意となりましょう」
「そ、そうね。念のため、今後の魔法少女派遣については、追加法案をまとめておくようにしておきなさい。少なくとも私の許可は必須にするように」
「かしこまりました」
「それにしても巴村の奴、勝手なことを……」
「こちらの動きが知られている可能性があります」
「同じ省庁内なのだからしょうがないわ。全部を疑うのは無理があるもの」
なるほど、面倒なことになっているようですね。とはいえ、門にはすぐに藍之助様が向かうことになるでしょうから大丈夫でしょう。
しかしながら、御剣島に住むものとして、御剣に連なるものとしても、政府のこの動きは到底許せるものではありませんね。御剣家に対する畏怖と感謝を完全に忘れてしまっているとしか思えません。
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