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8話 サラマンダー
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開かれた扉から出てきたのは蜥蜴の形をした火の精霊、サラマンダー。体のサイズこそ小さいが、感じられる魔力はエリーゼよりも高い。こんなモンスターが数百体と門から出てくるようだと相当不味いことになる。
「ちょ、ちょっと、藍之助! 大丈夫なのですか?」
エリーゼが何か言っているが、この程度のモンスターなら問題ない。僕はサラマンダーの様子を窺うために門に近づいていた。門周辺には、すでに岩礁で出来たような陸地が広がり始めている。
サラマンダーは一体のみ。今は再び門は閉まっている。大量に出てくるということは今のところなさそうだ。
さて、敵対する意志はあるのか。意思疎通がとれるのか。僕が門の前に降り立つと、サラマンダーはジロリと視線だけ僕の方に向けてその動きを止めた。向こうも様子を窺っているということなのだろう。チロチロと舌を出しながら岩礁の状態を確かめるように舐めている。
「こちらに敵対する意思はないのだが、君の行動次第ではそれも考え直さなければなければならなくなる」
言葉が通じるとは思えないが、話し掛けてみたところ、何と反応がちゃんとあった。サラマンダーは後ろ足で器用に立ち上がるとその姿を人間の少女へと変えてみせたのだ。
「か、かわいいです」
見た目にはエリーゼの言うように可愛らしく見える。僕の方を振り向くと、コテっと首を傾げ、しばらく何かを考えた後、小さな手を広げて走り寄ってくる。まるで子供が、大好きなお兄ちゃんに抱きついてくるかのように。それはとても自然な雰囲気だった。
少女は僕の前まで来ると無邪気な笑顔から一転、目を吊り上げ、顔が膨れ上がり、そして大きくなった口で僕を捕食しようと牙を剥いた。
「なるほど、死ねっ」
頭を吹き飛ばすと、サラマンダーだったモノは炎の勢いが弱まっていき、そのまま消滅していく。
「なっ、なっ、何なのですか、あれ?」
「サラマンダーというモンスターだ。あのように擬態もする厄介な火の精霊。強さとしては、エリーゼより少し上といったところか」
強さが自分より上と知ったことで、さっきのサラマンダーの頭部爆発を思い出したのだろう。自分の身体を抱きしめるようにして、若干怯えている。
「わ、私より上の力を持ったモンスターが出てくる門……ですか……。そ、それって、相当ヤバいんじゃないのかな!?」
その言葉に、赤青黄の信号機のような色合いの魔法少女達も一斉に驚く。単純にオークの力を一とした時、エリーゼとサラマンダーが七、信号機が十といった力関係になるだろう。数字の関係性が全てではないが、それでもサラマンダーが二体出てこようものならエリーゼは限りなく殺される可能性が高いことになる。
「そんなに強いモンスターが出てくる門だなんて聞いてない!」
「この門を管理するために、一体何人の魔法少女が必要になるの!?」
「五人? いや、それだけじゃ足りない……」
「そんな数を回せるわけないわ。他のエリアが手薄になっちゃうじゃん」
こいつらは自分のした事を棚に上げて、まだこの門の管理をどうしようかとか考える余裕があるらしい。ここに門が出来て一番被害を被るのは場所的にも御剣島になるというのに。
「あ、藍之助、お、落ち着いてくださいです。い、息が出来ないですよー。ちょっと威圧感が半端ないから、や、やめてもらえる……かな?」
「あ、ああ、すまないな、エリーゼ。あの信号機共が勝手な妄想を話していたからついイラついてしまった」
「し、信号機って……」
魔法少女達は威圧感から解放されて、冷や汗をかいていたが、自分たちのことを信号機と馬鹿にされていることに気づいて、また、わーわーと騒ぎはじめた。
「お前ごとき、政府が魔法少女を召集したら終わりなんだから」
「解放してくれるなら、罪が軽くなるようにお願いするよ」
「で、でも、この人、すごく強いと思うんだけど。私、手も足も出なかったし……」
「お前らの扱いは捕虜だ。ただ、捕虜だからといって普通の待遇を得られると思うな。本土と御剣島では戦争協定は結ばれていない。その扱いは御剣家次第だと思え。間違って殺してしまわないように、口は軽くしておくことだな」
「そ、そんなぁー」
「相互不可侵条約を破るだけでなく、御剣家の領海内において異界の門を発現をさせようとした動き、全て映像と音声データで押さえてある」
「だ、だから、何よ。あなた政府を敵に回して生きていられるとでも思っているの?」
「新人ちゃんも、私たちのことを早く助けなさいよ!」
「そうだよ。同じ魔法少女なのに、何で御剣家の味方をするの?」
「さ、さっきまで拘置所に入れるとか言ってたですよー!」
「それはあれよ。状況によりけりなんだから、新人ちゃんが味方になるって言うならいろいろ考えるってば」
「わ、私は藍之助の仲間だから、あ、後のことは知らないかなー」
「こ、この、裏切り者ぉー!!」
「新人ちゃん、そのピンク似合ってないからね」
「も、もう、喧嘩はやめなよー」
黄色い魔法少女が少しは力を認めているようだが、他の二人は人数をかければまだ倒せると勘違いしている。まあ、もうどうでもいい。こいつらは転がしながら帰ろう。
「藍之助、サラマンダーを倒したところに何か落ちてない?」
「ん? あれは……ドロップアイテムか」
「ちょ、ちょっと、藍之助! 大丈夫なのですか?」
エリーゼが何か言っているが、この程度のモンスターなら問題ない。僕はサラマンダーの様子を窺うために門に近づいていた。門周辺には、すでに岩礁で出来たような陸地が広がり始めている。
サラマンダーは一体のみ。今は再び門は閉まっている。大量に出てくるということは今のところなさそうだ。
さて、敵対する意志はあるのか。意思疎通がとれるのか。僕が門の前に降り立つと、サラマンダーはジロリと視線だけ僕の方に向けてその動きを止めた。向こうも様子を窺っているということなのだろう。チロチロと舌を出しながら岩礁の状態を確かめるように舐めている。
「こちらに敵対する意思はないのだが、君の行動次第ではそれも考え直さなければなければならなくなる」
言葉が通じるとは思えないが、話し掛けてみたところ、何と反応がちゃんとあった。サラマンダーは後ろ足で器用に立ち上がるとその姿を人間の少女へと変えてみせたのだ。
「か、かわいいです」
見た目にはエリーゼの言うように可愛らしく見える。僕の方を振り向くと、コテっと首を傾げ、しばらく何かを考えた後、小さな手を広げて走り寄ってくる。まるで子供が、大好きなお兄ちゃんに抱きついてくるかのように。それはとても自然な雰囲気だった。
少女は僕の前まで来ると無邪気な笑顔から一転、目を吊り上げ、顔が膨れ上がり、そして大きくなった口で僕を捕食しようと牙を剥いた。
「なるほど、死ねっ」
頭を吹き飛ばすと、サラマンダーだったモノは炎の勢いが弱まっていき、そのまま消滅していく。
「なっ、なっ、何なのですか、あれ?」
「サラマンダーというモンスターだ。あのように擬態もする厄介な火の精霊。強さとしては、エリーゼより少し上といったところか」
強さが自分より上と知ったことで、さっきのサラマンダーの頭部爆発を思い出したのだろう。自分の身体を抱きしめるようにして、若干怯えている。
「わ、私より上の力を持ったモンスターが出てくる門……ですか……。そ、それって、相当ヤバいんじゃないのかな!?」
その言葉に、赤青黄の信号機のような色合いの魔法少女達も一斉に驚く。単純にオークの力を一とした時、エリーゼとサラマンダーが七、信号機が十といった力関係になるだろう。数字の関係性が全てではないが、それでもサラマンダーが二体出てこようものならエリーゼは限りなく殺される可能性が高いことになる。
「そんなに強いモンスターが出てくる門だなんて聞いてない!」
「この門を管理するために、一体何人の魔法少女が必要になるの!?」
「五人? いや、それだけじゃ足りない……」
「そんな数を回せるわけないわ。他のエリアが手薄になっちゃうじゃん」
こいつらは自分のした事を棚に上げて、まだこの門の管理をどうしようかとか考える余裕があるらしい。ここに門が出来て一番被害を被るのは場所的にも御剣島になるというのに。
「あ、藍之助、お、落ち着いてくださいです。い、息が出来ないですよー。ちょっと威圧感が半端ないから、や、やめてもらえる……かな?」
「あ、ああ、すまないな、エリーゼ。あの信号機共が勝手な妄想を話していたからついイラついてしまった」
「し、信号機って……」
魔法少女達は威圧感から解放されて、冷や汗をかいていたが、自分たちのことを信号機と馬鹿にされていることに気づいて、また、わーわーと騒ぎはじめた。
「お前ごとき、政府が魔法少女を召集したら終わりなんだから」
「解放してくれるなら、罪が軽くなるようにお願いするよ」
「で、でも、この人、すごく強いと思うんだけど。私、手も足も出なかったし……」
「お前らの扱いは捕虜だ。ただ、捕虜だからといって普通の待遇を得られると思うな。本土と御剣島では戦争協定は結ばれていない。その扱いは御剣家次第だと思え。間違って殺してしまわないように、口は軽くしておくことだな」
「そ、そんなぁー」
「相互不可侵条約を破るだけでなく、御剣家の領海内において異界の門を発現をさせようとした動き、全て映像と音声データで押さえてある」
「だ、だから、何よ。あなた政府を敵に回して生きていられるとでも思っているの?」
「新人ちゃんも、私たちのことを早く助けなさいよ!」
「そうだよ。同じ魔法少女なのに、何で御剣家の味方をするの?」
「さ、さっきまで拘置所に入れるとか言ってたですよー!」
「それはあれよ。状況によりけりなんだから、新人ちゃんが味方になるって言うならいろいろ考えるってば」
「わ、私は藍之助の仲間だから、あ、後のことは知らないかなー」
「こ、この、裏切り者ぉー!!」
「新人ちゃん、そのピンク似合ってないからね」
「も、もう、喧嘩はやめなよー」
黄色い魔法少女が少しは力を認めているようだが、他の二人は人数をかければまだ倒せると勘違いしている。まあ、もうどうでもいい。こいつらは転がしながら帰ろう。
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