上 下
4 / 49

4話 エリーゼ

しおりを挟む
「ここがしばらくあなたが滞在する部屋になります。父上が言われたように、何か必要なものや困ったことがありましたら、何なりとおっしゃってくださいね」

 その少女は、淡々と言葉をつむぎながら私を部屋まで案内してくれた。どこか表情が薄いというか、少し無機質なように感じられる。ひょっとしたら、私に対する警戒心がそうさせているのかもしれないです。しかしながら、その容姿は驚くほど美しく、着物姿も相まってか和風人形を想起させられます。

「年上、いや、同い歳くらいなのかな。私は十四歳なのですが、あなたは?」

「十三歳になります」

 和服姿が大人びて見えるのか、落ち着いているので、そう感じるのかはわからない。

「年下だったですね……。あなたはこの島から出たことはあるのですか?」

 御剣島に住む者は、同じ国でありながらその移動は認められていない。一生をこの島で過ごすというのはどうなのだろうか。きっと私には耐えられないと思うですよ。

星那せなと申します。これからは星那とお呼びくださいませ」

「そうですね、星那。では、私のこともエリーゼと呼んでもらえますですか」

「ええ、エリーゼ。私は、生まれてから一度もこの島を離れたことはありません。外の世界に全く興味が無いわけではございませんが、この島が好きですし、皆もよくしてくださるので特に不満はございませんよ」

 聞いてもいないのに、島に不満がないことを伝えるあたり、こちらの意図を理解しての回答なのかもしれないです。それとも、外に出たいという裏返しなのか。はたまた、相互不可侵を貫いていると言いたいのかもしれません。

「首都にはね、私たちぐらいの年頃が集まる素敵スポットがあるです。そこには、カラフルで映える美味しいスイーツやファッションで溢れているですよ」

「映える?」

「写真映えするってことです。見るですか?」

 スマホにあるデータから、若者の集まるスポットで撮った映えフォルダを開くと星那に渡した。スマホを覗くその表情は、少しだけ和らいだような気がしないでもない。仲良くなれるかな……。

「指でスライドすると、次の写真が見れますです」

「奇抜な色の組み合わせが多いのですね。でも、どれも素敵です。このふわふわなお菓子はとても美味しそうです」

「そのお菓子は今とっても流行っているのです。いつか機会があったら一緒に行きましょう」

「そうですね……」

 それはどこか諦めたような、無理だと知っているような顔に見えた。もちろん、私がそう感じているだけで、本人はそこまで興味がない可能性もある。

「このよく映っている女の子は?」

「あっ、そ、それは変身する前の私なのです。本当の姿はこっちなの。これは秘密にしておいてくださいね」

「やっぱり変身するのですね」

「はい、魔法少女ですから。変身しないとすぐ身バレしちゃうから大変なのです。とりあえず、今度お土産を持ってきます。あっ、私の御剣島での滞在が正式に認められたらになるのですけど」

「そうですね。では、私はこれで失礼いたします。何かありましたら、気軽にお呼びください」

「よ、呼ぶって、どうやってですか?」

「この部屋の中にいる限り、心の中で念じて頂ければすぐに参ります」

 つまり、この場所は魔力によって監視されている部屋ということになるのでしょうか。私に変な動きがあればすぐに伝わるということを言っている? 魔法少女の部屋を覗くなんてとってもハレンチです。

「エリーゼが念じない限り情報は遮断されていますし、私にしか声は届きませんのでご安心ください」

 まるで、心を読まれているような気さえしてくる。この星那という子は、どこか不思議で大人びた雰囲気を感じさせる。

「ひょっとして、あなたも魔法が使えるの?」

「はい。兄ほどではございませんが、多少でしたら」

 少し表情がやわらいだような気がする。魔法のことはやっぱり興味があるのでしょう。ということは、星那も魔法少女になるのですね。

「珍しいのですね。男性の方が魔法が得意なんて。御剣島の人は、魔法摂取薬を打ってないと聞きます。それなのに、何で魔法を使えるのか不思議なのです」

「全ての者が魔法を使えるわけではありません。御剣家の血縁者の一部にのみ引き継がれています」

「それで星那からみて、私とあなたのお兄さんではどちらの方が魔法使いとして優れていると思いますか?」

「どちらが優れているか、ですか。それは比べるまでもありません」

 珍しくニコニコした表情をみせる星那。どうやら、魔法ではなく兄の話になると少し顔の表情が変化するということがよくわかった。大人びた表情から一転、年相応な柔らかい表情に変わる。こやつ、ブラコンですね……。

「そうですよね。魔法少女は特別ですもの。男性で魔法が使えるのは珍しいけど、そこまで期待しちゃいけないですよね」

「エリーゼは魔法少女の中で何番目に強いのですか?」

「わ、私は新人なので弱々です。い、今はまだそんなでもないけど、伸びしろはきっとある……はずなのです」

 私は、何でこんな事まで喋ってしまっているのだろう。本土にいる魔法少女は、魔力溜りとよばれる魔力異常から出現するモンスターの討伐を行うのが主な仕事になっている。当たり前だが、全員が私よりも格段にレベルが高い。というか、私は新人なのでこれから成長していくはず、多分、きっと……です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職業が魔王なので勇者の村を追放されたけど、幼馴染が女勇者になったので陰ながら手助けしようと思う

つちねこ
ファンタジー
「職業は……まおう。レックスの職業は、魔王です」 えっ、魔王って職業だったの!? もちろん、職業が魔王な僕は、そのまま村に居られるはずもなく追放されてしまう。 気掛かりといえば、幼馴染のエリオ。彼女の職業は勇者だったのだ。魔王討伐の旅は簡単なことではない。あれっ、でも魔王って僕? 逃げた先で出会った魔王軍の元四天王に助けられながらも、レックスは魔王の力を想像以上に扱えるようになっていく。 この物語は、器用さだけが売りだった農家の少年が魔王の力に覚醒し、陰の第三勢力となり無双するお話である。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...