上 下
3 / 49

3話 御剣家

しおりを挟む
「可愛らしい子でしたね。魔法少女と言いましたか」

「母上、私はどうもあの魔法少女特有のキラキラの衣装や容姿が苦手なのです。魔法省も、もう少し普通の人を寄越せばいいものを」

「この島には、お前が張った結界があるのだ。魔力を持たぬ、普通の人間は入ることすら出来ぬだろう」

 確かに言われてみればそうか……。

「お母さんは、嫌いじゃないですよ。魔法少女」

 応接室には、父と母と僕が残されていた。朱里あかり姉さんが寛人ひろひと叔父さんとその息子朔丸さくまるを呼びに行っている。

「それで、どこかに所属する前の新人魔法少女を派遣してきたというのは何故なのでしょう?」

「件の魔力反応であるが、本土における同様の状況から鑑みても、おそらく、異界の門が出現する前触れとみて間違いないだろうと判断をしているようだ。政府は門を開きたい、しかし、月野女史はそれに反対をして無所属の魔法少女をこちらに派遣したということらしい」

 異界の門とは、今のところ本土に一つだけ確認されている。東北地方の内海沖に出現しているもので、海上に現れた門からは普通の魔力溜りから出現するモンスターとは比べ物にならない強さのモンスターが現れている。

 陸上であれば早期に発見することができ魔力溜りを霧散させることもできるし、普通はモンスターが出現して魔力溜まりは消滅するものだ。

 一方、場所が海上の場合では発見が遅れる。海底で発生した魔力溜りを感知するのは難しいのだ。魔力溜りを感じた時には、すでに成長しきっているケースが多く、そしてこれが異界の門になる場合がある。

「異界の門ですか。そうなると、島から近すぎますね。早めに対処する必要がありますか」

「うむ。しかしながら、場所が微妙な位置にあるようでな、御剣島と本土の領海を跨ぐように反応があるようなのだ」

 なるほど、こちらの都合だけで動いてしまうわけにもいかないということらしい。魔法省が魔法少女を派遣した理由の一つがそれか。

「政府では異界の門の出現を喜んでいる節がある。育ててきた魔法少女で押さえ込めるとの判断らしい。そいつらからしたら、門が出来る前に潰そうとする御剣家は邪魔になるのだろうな」

 異界の門が出現すると、そのエリアを中心として大規模な管理体制下に置かれることになる。出現するモンスター対策は勿論のこと、強いモンスターを討伐することで手に入れることができるドロップアイテムが高額で取引されるからだ。

「利権と人の命を天秤にかけるとは情けない話ですね」

 どんな門が開くのかわからない以上、迂闊に増やすべきではない。もしも高難度の門が開いた場合、逆に国自体が滅ぼされることもあるだろう。それでも目が眩んでしまうのは強いモンスターから得られるドロップアイテムと、魔法少女の数がそれなりに増えたことが慢心に繋がっているのだろう。

「月野女史の一派だが、それなりに影響力のある派閥だそうだが、政府からよく思われていないようだ。現場はモンスターの危険性をよく理解しているが、政府はアイテムを魔法少女の更なる強化にと思っているらしい」

 更に言えば政府は、御剣家に門の利権を奪われたくないし、何か問題があっても御剣家が盾になるということも想定している可能性すらある。



「失礼いたします」

冬獅郎とうしろう様、お呼びでございますか?」

「寛人、朔丸、急にすまないな。緊急事態だ、朔丸にはすぐに首都へ行ってもらいたい。ある方へ手紙を届けてもらいたいのだ」

「かしこまりました」

「ここだけの話にしておいてもらいたいのだが、島の周辺に異界の門が出来る可能性がある」

「な、なんと、誠でございますか」

「政府は、門が出来るのを心待ちにしているようだが、魔法省のある一派が反対していてな、御剣家とともに門ができる前に潰したいと言ってきている」

「正確に言うと、情報は出すから御剣家で門が出来る前に対処してくれということでしょうか」

「まあ、その通りだろう。とはいえ一応、新人の魔法少女を派遣してきた。名をエリーゼさんという。しばらくは食客として御剣家に置くことになったので、島の皆にも、そのことを伝えておいてもらいたい」

 不法侵入してから、御剣家の門を入るまで、数名の者にあの姿を見られている。島の者以外が訪れることなど珍しいので、皆も気になっていることだろう。

「かしこまりました。しかし、何と伝えましょうか。実は、島の若い女性が若干殺気立っております」

「目立つ容姿だから、すでに噂が広まっていたか……。ん? で、何故、殺気立っているんだ?」

「姿が魔法少女だったものですから、藍之助様の婚約者として、本土から呼び寄せたのではないかとの噂が回っております」

「ぬぉっ!?」

「お母さんはそれでも構いませんよ。魔力のある女性との婚姻は、御剣家にとっても良い話ですからね。もちろん、エリーゼちゃんが可愛いのが一番の理由ですけど」

「は、母上!?」

「そうか、藍之助も、もうそんな歳頃になるのだったな」

「父上!?」

「藍之助様は、人気がございますので島の若い女性が嫉妬しているのでしょう」

「それは、朔丸も同じです。皆は御剣家に入ることを目的としているのですから」

 島に住む人にとっては御剣家との関係が深くなることは喜ばしいことであり、婚姻前の人間は狙われている。

「私の場合はそうでしょうが、藍之助様の場合は違うかと。容姿端麗、魔法に関しては歴代随一の腕まえ、面倒見も良いとなれば、人気にならない方がおかしいかと」

「朔丸、私を褒めても何も出ないぞ」

「申し訳ございません」

 先日、十八歳の誕生日を迎えたばかりではあるが、御剣家の次期当主であることを考えると、婚姻というのをそろそろ考える年齢になるのだろう。島の誰かと結婚するのだろうと漠然と考えていたものだが、外部からという考えもあるのか……。

「藍之助、取り急ぎ朔丸を首都まで送ってやれ。朔丸、書状を届けるだけがお前の仕事ではない。わかっているな?」

「敵対する派閥の調査でございますね。心得ました。何か情報が入り次第ご連絡致します」

「それから、手紙にも書いておくが朔丸。お前にはしばらく魔法省にいて欲しいのだ。情報を収集しながら、月野女史との連絡役になってもらいたい」

「はっ、かしこまりました」

 その後、手紙の準備が整ったタイミングで、朔丸を連れて瞬間移動で首都へと移動した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

聖人様は自重せずに人生を楽しみます!

紫南
ファンタジー
前世で多くの国々の王さえも頼りにし、慕われていた教皇だったキリアルートは、神として迎えられる前に、人としての最後の人生を与えられて転生した。 人生を楽しむためにも、少しでも楽に、その力を発揮するためにもと生まれる場所を神が選んだはずだったのだが、早々に送られたのは問題の絶えない辺境の地だった。これは神にも予想できなかったようだ。 そこで前世からの性か、周りが直面する問題を解決していく。 助けてくれるのは、情報通で特異技能を持つ霊達や従魔達だ。キリアルートの役に立とうと時に暴走する彼らに振り回されながらも楽しんだり、当たり前のように前世からの能力を使うキリアルートに、お供達が『ちょっと待て』と言いながら、世界を見聞する。 裏方として人々を支える生き方をしてきた聖人様は、今生では人々の先頭に立って駆け抜けて行く! 『好きに生きろと言われたからには目一杯今生を楽しみます!』 ちょっと腹黒なところもある元聖人様が、お供達と好き勝手にやって、周りを驚かせながらも世界を席巻していきます!

処理中です...