70 / 71
六十九話目 エルフの秘術
しおりを挟む
「エリオ、家の方へ退くぞ。少しでもシュナイダーとの距離を縮めたい。それから、ついでだ、例の魔法を撃ち込んじまえ」
俺の魔法を受けたばかりで、多少は身構えているはず。ここで、何とか少しでもダメージを与えたい。聖光魔法が当たれば可能性はあるかもしれない。
こちらの動きを察したのか、ウサ吉とラビ子が木陰から顔を出して、これ見よがしにリュカスの前に姿を現している。あいつら、危ない真似しやがって。でも、助かったよ。
「バインド!! 今だ、エリオっ」
「わ、わかったわ! 魔力濃度を高めて、一気に放出する……ディバインストライク!」
少しは発動まで早くなったか。実戦でここまでやれてしまうのだから、やはり勇者というのは末恐ろしい。リュカスの動きも押さえているので、あの光はまともに直撃している。これで少しは時間が稼げればいいのだが……。
光の爆発の跡を確認しながら退避を続けていると、シュナイダーの魔力が近づいてくるのを感知した。よしっ、これで更に時間を稼げるはずだ。
「レムリア、エリオ! リュカスは?」
「今のところは大丈夫だ。ただ、奴の戦闘力がおかしい。レックスが来るまで、砦には近づかせず防御に徹するしかないぞ」
「ど、どうやらそのようだな……。来るぞっ!」
「そ、そんな……」
「おいおい、無傷かよ。これは本当にヤバいんじゃねぇか」
エリオも信じられないといった表情をしている。自分が撃てる最大の攻撃魔法を防御態勢をとれずにまともに食らったはずなのに、結果が数秒程度の足止めだったのだ。リュカスは森の木々を豪快に倒しながら、こちらに真直ぐ向かってきている。
「レムリア、これだと森の中はかえって危険かもしれぬ」
倒された木が周囲を巻き込みながら、まるで津波のようになって押し寄せてくる。隠れても無駄だろうし、足場も悪いとなれば戦闘場所には向かない。アイミーのようなタイプなら上手く活用して戦えるのだろうが、俺やシュナイダーでは難しい。
「レックスは北の山脈の方に行ったんだよな」
「私が少し時間を稼ごう、二人は先に行っててくれ」
「お、おいっ、大丈夫かよ」
「エルフの民としては、こう何も考えずに森を荒らされるのは許せぬのだよ。あの木々がここまで成長するのに何年、何百年掛かっていると思っているのだ」
「任せていいんだな?」
「ああ、以前のリュカスならまだしも、あのドラゴンは力の割にかなり頭が弱いようだから、可能性はあると思う。エリオのことを頼むぞ」
「無理はするなよ。エリオ、行くぞ」
「は、はい」
さすがはシュナイダーだ。この一瞬で敵をよく観察し、自分の役割をどう活かせるか考えている。それに忘れていたが、エルフは森の民。周囲の植物やその環境を活用しながら戦うことはシュナイダーにとっても得意な分野か。
魔剣ファムファタルを地面に突き刺すと、静かに目を瞑り、突進してくるドラゴンを真正面から見据えている。心を落ち着かせ、まるで森と会話をするように穏やかな表情をみせる。
「森よ、樹木たちよ、どうか私の声を聞いてほしい。森を荒らす不届き者に天誅を、世界樹の名のもとに命ずる、『森羅万象』」
シュナイダーを囲うようにして多くの植物たちが成長していくと、目の前に迫っていたドラゴンの行く手を阻むようにして樹木がその動きを遮る。上から押さえつけるようにして幾本もの樹木がドラゴンを覆う。地面に張っていた根が移動するとその場所は陥没し、落とし穴にはめるかのようにドラゴンを地中へと埋めていく。
暴れるドラゴンを力でねじ伏せる、圧倒的な自然の猛威。しかしながら、その力は永続的なものではない。加速的に成長した植物たちはその役目を終えたかのように動きを止めていく。残念ながら、ここまでのようだ。
「力を貸してくれてありがとう。みんなの気持ちは、しかと受け取った」
これで、少しだけ時間を稼げたか。何故、リュカスがここまでの力を手にしているのか。四天王の時とは比べ物にならない暴力的な力。私たちでは少しの時間を足止めすることで精一杯だ。この分だと、あの魔王にも何かあったと考えるべきだろう。
「なんだ、ウサ吉とラビ子も残っていたのか。リュカスは間もなくここを脱出してくる。我々もレムリアを追ってここを離れるぞ」
他のウサ吉軍団はレムリア達に着いて行ったようだが、この二羽は私を心配して残ってくれたようだ。
リュカスは狂ったかのように暴れている。直に脱出してしまうだろう。
おそらく、倒すことができるのはレックス殿しかおるまい。其方だけに頼らざるを得ない、不甲斐ない四天王を許してくれ。しかし、私たちはあなたの盾となり鉾となり、あなたが守りたいものをきっと守ってみせよう。
俺の魔法を受けたばかりで、多少は身構えているはず。ここで、何とか少しでもダメージを与えたい。聖光魔法が当たれば可能性はあるかもしれない。
こちらの動きを察したのか、ウサ吉とラビ子が木陰から顔を出して、これ見よがしにリュカスの前に姿を現している。あいつら、危ない真似しやがって。でも、助かったよ。
「バインド!! 今だ、エリオっ」
「わ、わかったわ! 魔力濃度を高めて、一気に放出する……ディバインストライク!」
少しは発動まで早くなったか。実戦でここまでやれてしまうのだから、やはり勇者というのは末恐ろしい。リュカスの動きも押さえているので、あの光はまともに直撃している。これで少しは時間が稼げればいいのだが……。
光の爆発の跡を確認しながら退避を続けていると、シュナイダーの魔力が近づいてくるのを感知した。よしっ、これで更に時間を稼げるはずだ。
「レムリア、エリオ! リュカスは?」
「今のところは大丈夫だ。ただ、奴の戦闘力がおかしい。レックスが来るまで、砦には近づかせず防御に徹するしかないぞ」
「ど、どうやらそのようだな……。来るぞっ!」
「そ、そんな……」
「おいおい、無傷かよ。これは本当にヤバいんじゃねぇか」
エリオも信じられないといった表情をしている。自分が撃てる最大の攻撃魔法を防御態勢をとれずにまともに食らったはずなのに、結果が数秒程度の足止めだったのだ。リュカスは森の木々を豪快に倒しながら、こちらに真直ぐ向かってきている。
「レムリア、これだと森の中はかえって危険かもしれぬ」
倒された木が周囲を巻き込みながら、まるで津波のようになって押し寄せてくる。隠れても無駄だろうし、足場も悪いとなれば戦闘場所には向かない。アイミーのようなタイプなら上手く活用して戦えるのだろうが、俺やシュナイダーでは難しい。
「レックスは北の山脈の方に行ったんだよな」
「私が少し時間を稼ごう、二人は先に行っててくれ」
「お、おいっ、大丈夫かよ」
「エルフの民としては、こう何も考えずに森を荒らされるのは許せぬのだよ。あの木々がここまで成長するのに何年、何百年掛かっていると思っているのだ」
「任せていいんだな?」
「ああ、以前のリュカスならまだしも、あのドラゴンは力の割にかなり頭が弱いようだから、可能性はあると思う。エリオのことを頼むぞ」
「無理はするなよ。エリオ、行くぞ」
「は、はい」
さすがはシュナイダーだ。この一瞬で敵をよく観察し、自分の役割をどう活かせるか考えている。それに忘れていたが、エルフは森の民。周囲の植物やその環境を活用しながら戦うことはシュナイダーにとっても得意な分野か。
魔剣ファムファタルを地面に突き刺すと、静かに目を瞑り、突進してくるドラゴンを真正面から見据えている。心を落ち着かせ、まるで森と会話をするように穏やかな表情をみせる。
「森よ、樹木たちよ、どうか私の声を聞いてほしい。森を荒らす不届き者に天誅を、世界樹の名のもとに命ずる、『森羅万象』」
シュナイダーを囲うようにして多くの植物たちが成長していくと、目の前に迫っていたドラゴンの行く手を阻むようにして樹木がその動きを遮る。上から押さえつけるようにして幾本もの樹木がドラゴンを覆う。地面に張っていた根が移動するとその場所は陥没し、落とし穴にはめるかのようにドラゴンを地中へと埋めていく。
暴れるドラゴンを力でねじ伏せる、圧倒的な自然の猛威。しかしながら、その力は永続的なものではない。加速的に成長した植物たちはその役目を終えたかのように動きを止めていく。残念ながら、ここまでのようだ。
「力を貸してくれてありがとう。みんなの気持ちは、しかと受け取った」
これで、少しだけ時間を稼げたか。何故、リュカスがここまでの力を手にしているのか。四天王の時とは比べ物にならない暴力的な力。私たちでは少しの時間を足止めすることで精一杯だ。この分だと、あの魔王にも何かあったと考えるべきだろう。
「なんだ、ウサ吉とラビ子も残っていたのか。リュカスは間もなくここを脱出してくる。我々もレムリアを追ってここを離れるぞ」
他のウサ吉軍団はレムリア達に着いて行ったようだが、この二羽は私を心配して残ってくれたようだ。
リュカスは狂ったかのように暴れている。直に脱出してしまうだろう。
おそらく、倒すことができるのはレックス殿しかおるまい。其方だけに頼らざるを得ない、不甲斐ない四天王を許してくれ。しかし、私たちはあなたの盾となり鉾となり、あなたが守りたいものをきっと守ってみせよう。
0
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。
鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~
月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。
目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。
「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」
突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。
和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。
訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。
「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」
だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!?
================================================
一巻発売中です。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。

モブな私の学園生活
結々花
ファンタジー
白山 椿(現在ミルフィー)は、異世界のモブに転生した。
ミルフィーは、学園に就職し生徒がおこす出来事を目撃。なんとなく助けたり、助けなかったりする物語。
ミルフィー「あれっ?これ乙女ゲームのイベントに似てないか?」
同僚「何やってんですか、あんた」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる