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六十六話目 サイクロプス

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「この距離にもうトロールがいるにゃ」

 ここから砦までトロールの遅い足でも半日も掛からないのではないだろうか。トロールの表情からは何も窺い知ることは出来ないけど、スリーザーからの情報を鑑みるとサイクロプスから追われて来ていることになる。

「トロールは放っておこう。多少数が増えても砦がある限り勇者パーティや王国兵でも対処できる。それよりも……」

「サイクロプスとその後ろにいるリュカスにゃ」

「うん、今日は様子見までね。四天王の力を失っているはずのリュカスなら、例えドラゴンの姿になっていようとも敵ではない、よね?」

「問題ないにゃ。今のアイミー、一人でも圧倒して見せるにゃ」

「それは、リュカスもわかっているはずなんだよね……。一体何を企んでいるのか。理性を失ってまで僕を殺したいというのか。何か勝てる可能性、手段があるというのか」

 正直言って、僕自身もあの頃よりも格段に成長している自信があるし、リュカスがドラゴン形態になっているからといっても、的が大きくなるだけで、どちらかというと倒しやすくなるのではないかと思っているぐらいだ。

 鈍重なトロールは僕らを見つけては追い掛けてこようとするが、スピードについて来れずにしばらくすると諦めてしまう。このままゆっくりと寄り道をしながらも砦の方向へと向かっていくのだろう。

 それよりも、この先にいるサイクロプスだ。一体でも砦に行ってしまえば簡単に破壊されてしまうらしい。まあ、サイズ的にも砦と同じ高さはあるってアイミーが言ってたから絶対に行かせちゃダメなやつだろう。


「主様、見えてきたにゃ。あれが、サイクロプスにゃ」

 遠目にもそのサイズが尋常ではないのがよくわかる。結構離れているはずなのに、地響きが聞こえてくるし、トロールがまるで虫のように投げられている。無邪気に遊んでいるようにも見えるけど、トロールからしたら、たまったものではないだろう。投げられてもよくわからなそうに立ち上がっては、また歩き始めるトロールも大概だが……。

「とりあえず、傷だらけのトロールは無視して、サイクロプス狩りをスタートしようか」

「了解にゃ」

 サイクロプスは一つ目の巨人。つまり、視界がそこまで広くない。基本的には後方から、またサイドからの攻撃が通りやすい。それに、トロール程ではないが動きも緩慢なので、身体強化魔法を使っている僕やアイミーが捕まることはない。

 気をつけるとしたら、複数のサイクロプスに挟まれること。大型のモンスターなので、一体でも倒すのにそれなりの時間が掛かってしまう。倒すのに気をとられていると他のサイクロプスが近寄ってきてしまう。

「獣王激烈掌!!!!」

 回り込んではサイクロプスの足目掛けて必殺技を繰り出しているアイミー。片足を負傷して倒れ込むまでは想定通り。しかしながら、その激しい戦闘に周囲にいるサイクロプス達もゆっくり近寄ってくる。アイミーはすぐにその場を離れ、近寄ってくるサイクロプスへと向かっていく。どうやら先に機動力を奪う作戦でいくようだ。あのスピードなら囲まれることもないだろう。

「さて、僕もしっかり討伐させてもらおうかな、ドレイン!」

 近くにいたサイクロプスを消滅させる勢いでドレインを放った。といっても大きさが大きさなので、全てを消し去るほどの魔力エネルギーは無理がある。それでも、今の僕が出せる精一杯のエネルギーをぶつけた。単体でのドレイン発動は、僕も慣れたものでその扱い方も熟知してきている。奪ったエネルギーは即変換で次のサイクロプスに向けて撃ち続ければいい。

 シュパンッ!

「え、えぐい威力のドレインにゃ……」

 上半身の一部を残して頭から上全てを消滅させたドレインは、そのエネルギーを次のドレインとして変換し、次の標的へと向かって飛んでいく。一度動き始めてしまえば、僕は戻ってくるエネルギーの変換と次の標的を選ぶだけでいい。これはサイクロプスという的の大きさと、動きの遅さがあって出来る狩り方であって、このレベルの上げ方はエリオが見ていたら呆れてしまうかもしれない。それぐらいに酷い狩り方だった。

「近くにいたサイクロプスがあっという間にいなくなっちゃったね。ヘルウインド!」

 最後の一体をドレインした後は、戻ってきた魔力エネルギーの一部を上空へ別の魔法に変換して放ち終了となった。全部で七体のサイクロプスを討伐できた。

「アイミー、一体も倒してないにゃ……。主様、レベルは?」

「うん、一つだけ上がったみたい。リュカスに気をつけながら、もう少し奥へ行ってみよう。試してみたいこともあるんだ」

 この調子ならもう少しレベルを上げることも可能だろう。経験値的にも美味しいサイクロプス狩りはレベル上げには丁度いい。

「主様はサイクロプスをドレインで操るつもりにゃ?」

「よくわかったね。オークをドレインで繋げすぎて結果的に魔力過剰になっちゃたけど、どのぐらいまでなら大丈夫なのか、少しづつ数を増やしながら把握しようと思ってね」

「最悪、気を失ってもアイミーが主様の魔力のはけ口になるから大丈夫にゃ」

「変な言い方しないでよね。そ、そうならないように自分の魔力量を把握しようとしてるんだから」

 そうして、さらに奥へと進んでいく僕とアイミーだったが、様子がおかしいことに気がついたのはしばらく経ってからだった。
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