職業が魔王なので勇者の村を追放されたけど、幼馴染が女勇者になったので陰ながら手助けしようと思う

つちねこ

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三十八話目 圧倒

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 僕が新しく覚えた暗黒魔法の一つ、カオスドライブ。一瞬で付近が黒い雲に覆われると、雲間からは稲光が見え隠れする。この音だけで、アイミーはかなりビビっていた。カオスドライブは範囲攻撃魔法の中で最強の攻撃力を誇り、そして麻痺の状態異常を与える。

 この魔法はリュカスが襲ってきた時に、僕が使用していたらしいんだけど、実際に使えるようになったのはレベル五十を超えた時だった。

「な、なんだ、そのとてつもない魔力は……。ま、待て、止め、止めてください」

「残念、もう止められないんだ。降りそそげ、雷撃よ!」

 稲光と暗黒魔法が融合されると、激しい爆裂音を伴い一気に目標に突き刺さる。何度も何度も音速を超える雷撃がゴブリンキングの体を突き抜けてはスパークする。

「あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば」


 降り落ちる雷撃をまともに食らい続け、持っていた棍棒もあっさり黒炭と化している。まともに、会話出来ないあたり麻痺の状態異常も入っているとみて間違いなさそうだ。

「四天王と言ってもカリスマ性のスキル効果がないから、やっぱり脅威と呼ぶには程遠いね」

 既に気を失っているのか、白目をむいたまま身動き一つとれない。辛うじて生きているといった感じかな。

 ちょうどいい。過剰に溢れている魔力を消費するのにレーヴァテインの切れ味を検証させてもらおうか。今までまともに魔力を込めたことがなかったからね。ワイルドキラーキングベアですら、ほとんど魔力を込めないままであっさり切断されたからね。曲りなりにも四天王に選ばれたゴブリン族の王なのであれば、それなりの耐久値があってもいいだろう。

「森の主には掌に集まった魔力を少し吸わせた程度だった。それなら、右腕に集まっている魔力を吸わせてみようか。魔力量的にはだいたい五倍ぐらいかな」

 ちょうどそのくらいで過剰に溢れた魔力は全て解消されるはずだ。レーヴァテインを鞘から抜くと、そのまま魔力を吸わせていく。剣は魔力を注ぐごとに紅く輝きを放ち、禍々しさが上昇していく。神剣なのに禍々しいとか、半分ぐらい僕のせいかもしれない。いや、深く考えるのはよそう。


 今は、目の前のゴブリンキング、ガジュマズルを斬ることだけを考える。剣に振り回されないように集中だ。

 シュナちゃんが言っていた言葉。力任せに振り回している間はレーヴァテインの力を引き出しているとはいえない。また、レーヴァテインの力に頼りきっている間も然り。自然体で構え、込めた魔力量に応じ、剣と一体となり振るう。

 ゆっくりと目を瞑る。



 つまり、魔力量に応じて僕の動きもバージョンアップさせる必要がある。剣を振るう力とバランスを身体強化で調整する。うん、これでいいだろう。レーヴァテインも早く斬らせろと言っているような気がする。

 目を開けると辺りはとても静かに感じられて、僕とレーヴァテインとゴブリン王、ガジュマズルしか見えていない。うん、よく集中できている。



「斬るっ!」



 一気に近づき振りかぶると、そのまま首を斬って通り過ぎる。

 確かに斬っているはずなのに斬ったという感覚はなく、手には骨にあたった感触すら感じさせない。

 しばらくして、ガジュマズルの首筋に糸のように線が入るとゆっくりズレて落ちていった。


 レーヴァテインを鞘に納めると、僕の体に膨大なエネルギーが入ってくるのを感じる。今日二回目のレベルアップってやつだ。大分上がりづらくなっていたのに、一日で三つも上がってしまうとはありがたい。

 それにしても、レーヴァテインが思っていた以上に凄すぎるな。あれぐらい魔力消費が必要となると、状況によってはためらってしまうのは否めない。それでも一対一での戦いなら、相当使えるオプションになるだろう。

「さて、そろそろ戻らないとみんなも心配するかな」



※※※



 突如、空が暗くなり稲光が弾ける。アイミーの耳は音を塞ぐようにして垂れ、シュナイダーのお腹に頭を突っ込んで隠れている。アイミーはあの稲光と爆音が苦手らしい。自分で使っている技の方がよっぽどうるさいと思うのだが、稲光は別物らしい。

「ま、また、あの魔法にゃ! ピカドンにゃ!」

 あの魔法というのはレックスの使う暗黒魔法、カオスドライブで間違いない。つまり、ゴブリン王との戦いになっているということだろう。俺の魔力感知では既に他のゴブリンは全て殲滅されていて、残るはガジュマズルのみ。しかも、この魔法で奴が生き残るというのは奇跡に等しい。もう勝負ありだろうな。

「シュナイダー、レックスの分も用意しておいてくれ。間もなく戻ってくるだろう」

「そ、そうか、さすがはレックス殿だな。この短時間で本当にゴブリン族を殲滅してしまうとは、凄まじい成長速度だ。剣も教えてから一か月も経たずに私を超えていったしな」

 シュナイダーはアイミーの頭を優しく撫でながら心底感心しているようだった。確かに、レックスの成長速度は魔王であることを除いても早い。また、魔王では手に入れることのできない力、おかしなドレインや身体強化魔法、そして神剣による剣術まで修めてみせた。これは想定以上に魔王討伐は早いかもしれない。

「ところで、レムリア。あの川辺に浮いているのは何なのだ?」

 あれは王都へと流れが続いているプリテリア川。そして、シュナイダーの言う浮いているというのは……。

「お、おいっ、あれ、ゴーストじゃねぇか。何で昼からゴーストがいるんだよ」
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