職業が魔王なので勇者の村を追放されたけど、幼馴染が女勇者になったので陰ながら手助けしようと思う

つちねこ

文字の大きさ
上 下
33 / 71

三十二話目 剣の修行

しおりを挟む
 翌日から、エルフの里でシュナちゃんから剣の特訓を追加してもらうことになった。アイミーがいったん獣人の国に戻っているので、午前中は剣の特訓、午後からは魔法の特訓というスケジュールになっている。ちなみに、アイミーが戻って来たら早朝、午前中、午後の割り振りになるらしい。

 頑張って強くなろう。

「私も料理は得意な方だからな、レックス殿のお手伝いをさせてもらおう。食材についても、里で用意するから特訓に専念してくれ。本当は料理もこちらに任せてもらいたいと思っていたのだが、レムリアが味付けが気にくわぬらしいのでな」

「お、俺は、レックスの味付けの方がいい。エルフの味付けは薄くて食べた気がしないからな」

「だそうだ」

 レムちゃんは味の濃い煮込み料理とかが好物だからね。調味料もニンニク以外なら何でも大好物と言っていい。それに比べてエルフの料理は素材の味を生かした調理が多く、調味料も最低限しか使われていない。節約の意味もあるのかもしれないけど、レムちゃんには物足りないようだ。

「いえ、料理は気分転換にもなりますし、みんなが美味しそうに食べてくれるから僕も作りがいがあるんです」

「そうか、やはりレックス殿は普通の魔王とは違うのだな。配下の者のために自ら料理を振る舞う魔王など聞いたこともない」

「僕も特訓をただで受けさせてもらってるわけだから、料理程度で交換条件になるならありがたいというか……」

「まぁ、そういうところだ。安心しただろシュナイダー」

「そうだな。これで、我らエルフの民もレックス殿に惜しみない協力を約束できる。レックス殿が強くなることはエルフの里の平和にも繋がるのだからな。早速だが、例の剣を持ってまいれ」

「ははっ」

 シュナちゃんが指示を送ると、エルフの青年が一振りの長剣を持ってきた。

「この剣は、エルフの里に伝えられているもう一つの剣。世界樹より生まれたとされる破滅の剣レーヴァテイン。世界が混乱に包まれた時、その破を打ち払い滅するとされる神剣なのだ。魔剣と称されるファムファタルとは対をなす宝具なのだよ」

「こんな凄いものを……」

「レックス殿がエルフの民の為に剣を振るい続けるかぎり、エルフの民はこの神剣レーヴァテインを授けよう」

「神剣レーヴァテイン……」
「なあ、レックスの職業魔王なんだけど、神剣使えるのか?」

 手渡された剣はずっしりとした重量感とともに、スーッと魔力が吸い付くような手に馴染む感覚があった。鞘から抜き軽く縦に一振りしてみると思っていた以上に軽く、しかしながら凶暴なほどの禍々しさを感じさせる。

「振れるか……。レックス殿、その剣を自分のものとして扱えることが出来るようになれば、この世に斬れぬものはないであろう」

「こんな凄いものをいいのですか?」

「実は、その剣を扱える者は今のエルフの里にはおらぬのだよ。ステータスのアップした私ですら鞘から抜くまでが精一杯なのだ。レックス殿が扱えるのであれば有効活用してもらった方が良いであろう」

 周りで見ていたエルフの人達も、大きな歓声を上げている。この剣を扱えることができるということは、神剣に選ばれた者であるとの証明に他ならない。族長であるシュナイダーとの勝負に勝利し、エルフの民に伝わる宝具までも扱えるとなれば尊敬、いや、それ以上に畏れすら抱かせる。いつしか、その歓声が止むと、全てエルフの民が地面に片膝をついて頭を下げていた。

「えーっと、これはどういうことなのでしょう?」

「レックス殿を王として認めているのだよ。これは私の命令でも何でもない。エルフの民が心から其方を王として認めたのだ」

「獣人の国に続いて、正式にエルフの里も傘下に治めたな。もう、あれじゃねぇか、これ、今の時点で一番大きな勢力になってる気がするぞ」

「確かに、魔王は戦力を削がれており、人族は勇者が引退し、新しい勇者が誕生したばかりだからな。それで、どうするレックス殿?」

「い、いや、勢力ではそうかもしれないけど、僕自身はまだまだ弱いんだ。今はひたすら特訓をしてとにかく鍛えるよ。それから、アイミーが戻って来たらエルフの民と獣人の国とで連携を組んでもらいたい」

 人族、魔王軍とは異なる第三勢力として影響力を持つには二つの種族の協力が必要になる。何も戦うことだけが影響力というわけではない。情報収集、後方支援、政治力など使える部分は活用させてもらいたい。それが、魔王討伐に繋がるのであれば二つの種族も力を貸してくれることだろう。

「レックス殿は面白いことを考えるのだな。それならば場合によっては、エルフの民が外へ出ることも許可しよう」

「うん、ありがとうシュナちゃん」

「それでは、剣の修行をはじめるとしようか。しばらく慣れるまでは木剣にて撃ち合いをしよう」



 その後、木剣を使った剣の特訓をお昼まで行っていたんだけど、剣の動きというのは難しいもので初心者丸出しの僕は、一回たりともシュナちゃんに勝てることはなかった。おそらく身体強化でゴリ押しすれば、きっと勝てるとは思う。でも、それじゃダメなんだよね。剣の型、流れや間合いを読む力、そして力をいなして防御から攻撃に転じる技と技術。これも基礎となる動きを身体に叩きこまなければ上達はないのだろう。

「もう少し慣れてきたら、森にいるワイルドキラーキングベアに戦いを挑みに行くぞ」

 この森にもいるのか、ワイルドキラーキングベア。もはや中級者殺しとかのネーミングに変更した方がいいんじゃないかな。僕は息を切らして転がされ、上空を見上げながらそんなことを考えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

処理中です...