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三十一話目 三人目の四天王

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 前方には再びその数を増やしたレイピア。後ろを振り返っても、僕を囲うようにして数十のレイピアが狙いを定めている。掠っただけで膝をついてしまう魔剣がいっぱい……。

 魔剣、おそるべし。

「さて、何本まで避けきれるかな?」

 どうやら、僕もそろそろ作戦を開始しなければ負けてしまう。というか、負ける未来しか浮かばない。

 二人と打ち合わせした通り、三十パーセントまでセーブしたドレインを発動させよう。上手くいくかはわからないけど、魔剣の魔気をドレインすることが出来れば、僕に勝機が訪れるはずだ。

「ほう、目つきが変わったな。何かするつもりなのだな。ならば、勝負だ、行けっ! ファムファタル!」

「吸い尽くせ、ドレイン!」

 糸状のドレインが僕を中心として前後左右に伸びていく。三十パーセントといっても、その数と勢いは強烈なわけで、シュナちゃんが出した向かってくるレイピアを全てを吸い尽くし一瞬で消滅させた。

「は、はぁあ!? な、何なのだ! そのドレインは……。くっ、ファムファタル、もう一度展開するぞ!」

「シュナちゃん残念だけど、もう遅いかな」

 ドレインの一つが本体であるファムファタルに既に食らいついている。そこから得られる情報からも魔剣の力は底を尽きかけているのがわかった。魔気にはシュナちゃんの魔力も変換されているのか……。つまり、四天王のステータスでシュナちゃんの魔力がもっと大量にあれば、更に多彩な攻撃が出来たということなのだろう。


 そして、全てのエネルギーが僕の体に集まってくる。


 体に留めておくとロクなことが起らなそうなので、すぐさま剣を形どったドレインをシュナちゃんの周りに展開する。その数、百振り。

 それを見たシュナちゃんはあきらめたかのように手から魔剣を離した。

「ま、参った……」


「はい、そこまで、主様の勝ちにゃ」

 エルフの里はシーンと静まり返っている。冴えない人族の少年にエルフ族の代表でもあるシュナちゃんが魔剣を使用して負けるとは思っていなかったのだろう。なんか、空気の読めない人族でごめんなさい。

 僕も、本気を出してくれたシュナちゃんに応えたかったし、数日の間だけでも剣を教わるかもしれない人に、僕の現在の実力を知ってもらいたかったというのもあるのだ。

「レックス殿に聞こう。そなたは、何のために強くありたいと願うのだ」

「今はみんなを守るためでもあるし、自分自身のためにも、いち早く魔王を倒したい。僕がこの職業を授かったことで迷惑をかけた場所がある。悲しませた人たちがいるんだ。僕はその人たちのためにも必ず強くなる」

「そうか、わかった」

 シュナちゃんは、広場の中央までゆっくり歩いて周りを見渡すようにして喋りはじめた。それは、吊り橋から見ていたエルフの民に向けて。

「みんな、聞いてもらいたい。今、エルフの里に危機が迫っている。あの魔王が復活して、私をまた四天王にしようと画策しているようなのだ」

 シュナちゃんの言葉にエルフの人々は、驚き、そして心配そうにしながらも静かにその言葉を聞こうとしている。

「そして、近いうちに四天王が一人、竜王リュカスがここへ来る可能性が高い。私は、あの魔王の元で再び四天王になるつもりはないのだが、断ることで里に迷惑をかけるかもしれぬ」

 里を守るために自らを犠牲にしようとしているシュナちゃんを悲しそうに見ているエルフの民。その姿を見るだけでシュナちゃんがみんなから愛されているのがよくわかる。

「そこで、族長としてみなに相談したい。私は、新しく魔王の職業を授かったというレックス殿の配下になろうと思う。あの魔王と戦うための力を取り戻すため、再び四天王の力を取り戻そうと思うのだがどうであろう?」

 魔王を倒すために魔王の配下になるとか、聞いている人の頭が混乱しそうだけど、何とか話は通じてるっぽい。魔力の高いと言われるエルフの民だ。アイミーやレムちゃんの爆上げステータスを感じているのかもしれない。というか、シュナちゃん、族長だったのかよ。偉い人かなとは雰囲気で感じてはいたけどもびっくりだよ。

「魔王の配下となり苦しまれたのはシュナイダー様でございます。我らエルフの民は、族長の判断を尊重して、世界樹とこの里を守るだけでございます」
「レックス様の戦いは、見事なものでございました。気持ちよく真っ向からシュナイダー様を破ってみせたのです。きっと共に魔王討伐を果たせますことでしょう」

「よいのか? まあ、アイミーだけならまだしも、レムリアも四天王になっておるのだ。新しい魔王レックス殿は私も信じてもよいと思っている」

 どうやら、決まりのようだ。三人目の四天王に魔剣シュナイダーが加わる。

「そういうことで、私を四天王にしてもらえないだろうか」

「わかりました」

 その時、シュナちゃんの言葉に動揺したのか、はたまた逃げようとして足を引っ掛けたのかはわからない。木々の揺れと共に何処かで聞いたことのある声が響いた。


「魔剣シュナイダーとエルフの民よ。お前たちの反逆の意志は魔王様へ伝えよう。誰を敵に回したのか思い知るがいい!」



「な、何者だ! 姿をあらわせ」

 声が聞こえた方角からは、最早何の気配も音も感じない。逃げたということだろう。

「どうやらアイミー達が里に入ってきた時に一緒に紛れ込んでしまったようだな……」

「も、申し訳ございませぬ」
「構わぬ……。あの声、魔法はリュカスであろう。追ったところで逃げられてしまう」
「し、しかし!」

「もう、宣戦布告はしたのだ。今後は里の外部にも見張りの数を増やす。それに、元四天王を三人も敵にまわして、簡単に攻め込んでは来れぬであろう。あの魔王も今は自分のレベルを上げるのと味方を集めるのに必死なはずだ」

「そうだな、俺もそう思う。ここにリュカスが来ている時点で相当に焦っていると見ていい。アイミーも一度獣人の国に戻った方がいいんじゃねぇか」

「わかったにゃ。魔王との戦いに備えるよう伝えてくるにゃ」


 こうして元魔王軍の内、三人もの四天王を早々に押さえることとなってしまった。これ、戦力的には相当な勢力になりつつあるのかもしれない。 獣人族、エルフ族の長を配下にしているという時点で、とんでもない勢力になってきてるよね……。
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