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二十八話目 エルフの里2
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エルフの里は、木々の上にツリーハウスのように家が建てられていて、自然の中に村があるような感じだ。木々の間には吊り橋が掛けられていて、普段から必要以上に地面には降りない生活をしているらしい。
物珍しそうに、吊り橋の上から隠れるようにこちらを見てくる若いエルフ。見た目には十歳ぐらいだけど、実際の年齢はきっと僕よりも高いにだろう。何しろエルフは長命種としても有名だ。人族の五倍から十倍もの長い時を生きると言われている。
吊り橋にいる若いエルフに向かって軽く手を振ると、恥ずかしいのか、驚いたのか隠れるように逃げてしまった。嫌われていないことを祈りたい。
「主様、エルフの住人はとてもシャイにゃ。そもそも、エルフ族はこの里から出ることがほとんどないのにゃ。外部の者に対して興味津々だけど、内気な性格の者が多く向こうから話し掛けることはめったにない、とっても恥ずかしがり屋なのにゃ」
「そうかもしれませんね。我々は里の外の警備も任されておりますので、外界との交流も少なからず持ちますが、ほとんどの者はここで育って、そして里を出ることはありません」
「外の世界に興味がないのでしょうか?」
「そういうわけでもありませんが、エルフ族の信仰が大きく影響を与えています。エルフの民は世界樹の恩恵を受けて生きています。豊かな森と植物を与えてくださる世界樹を御守りし、世界樹と共に生きていくのがエルフの民なのです」
「つまり、レムちゃんに負けずとも劣らない、究極の引き籠り種族なのにゃ」
「お、おいっ」
「はははっ、これは手厳しい。アイミー様、シュナイダー様は世界樹の祠におります。現在、お祈りの最中なのですが、いかがいたしましょうか」
「お祈りの邪魔をするわけにはいかないにゃ。終わるまで待ってるにゃ」
「かしこまりました。それでは、族長の間へご案内いたします。少ししたらシュナイダー様も参られると思いますので、今しばらくお待ちくださいませ」
「ありがとにゃ」
「そういえば、三人は幼馴染なんでしょ。シュナちゃんは、里の外へ遊びに行ってたってこと?」
「シュナちゃんと会ったのは偶然だったにゃ。あれは、寝ているレムちゃんを棺ごと運んで、森に遊びに来てた時にゃ……」
勝手に連れ出されてしまうレムちゃんよ……。
※※※
「ア、アイミー、か、勝手に連れ出すなよ。お、俺の棺が汚れちゃうだろ」
「だってレムちゃん、何度呼んでも起きないにゃ」
「……お、お前がうるさいから、寝たふりをしていたんだよ」
「そんなことより、あっちから泣き声が聞こえるのにゃ。面白そうだから助けに行くにゃ!」
「ちょ、ちょっと待てよー。な、何だよ面白そうって、そんなの放っておけよ」
声を頼りに、その場所まで駆けつけると、木にもたれかかるようにして小さな女の子が泣いているのが見えた。
「ああ、あれはちょっと不味そうにゃ」
「何だよ、もう死にそうじゃねぇか」
木の上からは大型の毒蛇ポイズンヴァイパーが、女の子の正面からはワイルドボアが喜色の表情で牙を震わせている。どうやら女の子は足を怪我しているらしく、身動きがとれないようだ。
「レムちゃんはポイズンヴァイパーを頼むにゃ。アイミーはあの美味しそうなボア肉を頂くにゃ」
「アイミーは、あれをモンスターとしてでなく、食材として見ているんだな……。了解した」
突進してくるワイルドボアを横から強引に蹴り飛ばして気絶させると、続けざまに脳天に掌底を喰らわせて絶命させる。
「ふわっ! な、何!? き、きゃああああ!!」
そして、突然のことに驚く女の子を容赦なく上から襲おうとしていた大蛇の頭をレムちゃんの魔法が撃ち抜く。
女の子は、木の上にポイズンヴァイパーがいたことにはじめて気づいたようで驚きの叫び声を上げていた。頭を落とされたポイズンヴァイパーはその場で絶命したのだが、女の子の上に覆いかぶさるように落ちてきて、そのまま血まみれにされてしまう。
「レムちゃん、それはないにゃ。助けてあげてもそれじゃあ、減点にゃ。大幅減点にゃ」
「し、しょうがないだろ。上にいるんだから、そりゃ落ちてくるだろう。そもそも、そこまで猶予がなかったんだ。助けてやっただけでも、ありがたいと思ってもらいたいところだ」
「あ、あの、助けていただきありがとうございます。誤って里を出てしまったらしく、その、戻れなくなってしまって……」
見た目には同じぐらいの歳のように思える。綺麗なサラサラの金髪に細く長く伸びた耳。
「私はアイミー、よろしくにゃ。その耳は、エルフかにゃ?」
「は、はい。ご挨拶が遅れました。私はエルフの里、族長が一番目の娘、シュナイダーでしゅ!」
白い衣装を着ているせいか、血まみれの姿が余計に目立ち、泣き顔から急に笑顔に変わったことで、より狂気的な雰囲気になってしまっていた。
「でしゅ、にゃ」
「噛んだな。決めのセリフで見事に噛んだな……」
「うわぁぁぁぁ! い、今のなし。今のなしです!」
「な、何か聞こえたぞ! あっちだ! シュナイダー様を早くお探しすのだっ!」
「お、おいっ、アイミー。ヤバくないか?」
「何がにゃ?」
「こいつのこの姿を見たら、俺たち絶対疑われるだろ……」
「レ、レムちゃんの減点のせいにゃ!?」
「い、いや、そうだけど。いや、俺を面倒なことに巻き込むなよ」
「と、とりあえず、ここは引くにゃ! シュナちゃん、また遊びにくるにゃ」
「は、はいっ。お待ちしています。アイミー様、レムちゃん様……」
物珍しそうに、吊り橋の上から隠れるようにこちらを見てくる若いエルフ。見た目には十歳ぐらいだけど、実際の年齢はきっと僕よりも高いにだろう。何しろエルフは長命種としても有名だ。人族の五倍から十倍もの長い時を生きると言われている。
吊り橋にいる若いエルフに向かって軽く手を振ると、恥ずかしいのか、驚いたのか隠れるように逃げてしまった。嫌われていないことを祈りたい。
「主様、エルフの住人はとてもシャイにゃ。そもそも、エルフ族はこの里から出ることがほとんどないのにゃ。外部の者に対して興味津々だけど、内気な性格の者が多く向こうから話し掛けることはめったにない、とっても恥ずかしがり屋なのにゃ」
「そうかもしれませんね。我々は里の外の警備も任されておりますので、外界との交流も少なからず持ちますが、ほとんどの者はここで育って、そして里を出ることはありません」
「外の世界に興味がないのでしょうか?」
「そういうわけでもありませんが、エルフ族の信仰が大きく影響を与えています。エルフの民は世界樹の恩恵を受けて生きています。豊かな森と植物を与えてくださる世界樹を御守りし、世界樹と共に生きていくのがエルフの民なのです」
「つまり、レムちゃんに負けずとも劣らない、究極の引き籠り種族なのにゃ」
「お、おいっ」
「はははっ、これは手厳しい。アイミー様、シュナイダー様は世界樹の祠におります。現在、お祈りの最中なのですが、いかがいたしましょうか」
「お祈りの邪魔をするわけにはいかないにゃ。終わるまで待ってるにゃ」
「かしこまりました。それでは、族長の間へご案内いたします。少ししたらシュナイダー様も参られると思いますので、今しばらくお待ちくださいませ」
「ありがとにゃ」
「そういえば、三人は幼馴染なんでしょ。シュナちゃんは、里の外へ遊びに行ってたってこと?」
「シュナちゃんと会ったのは偶然だったにゃ。あれは、寝ているレムちゃんを棺ごと運んで、森に遊びに来てた時にゃ……」
勝手に連れ出されてしまうレムちゃんよ……。
※※※
「ア、アイミー、か、勝手に連れ出すなよ。お、俺の棺が汚れちゃうだろ」
「だってレムちゃん、何度呼んでも起きないにゃ」
「……お、お前がうるさいから、寝たふりをしていたんだよ」
「そんなことより、あっちから泣き声が聞こえるのにゃ。面白そうだから助けに行くにゃ!」
「ちょ、ちょっと待てよー。な、何だよ面白そうって、そんなの放っておけよ」
声を頼りに、その場所まで駆けつけると、木にもたれかかるようにして小さな女の子が泣いているのが見えた。
「ああ、あれはちょっと不味そうにゃ」
「何だよ、もう死にそうじゃねぇか」
木の上からは大型の毒蛇ポイズンヴァイパーが、女の子の正面からはワイルドボアが喜色の表情で牙を震わせている。どうやら女の子は足を怪我しているらしく、身動きがとれないようだ。
「レムちゃんはポイズンヴァイパーを頼むにゃ。アイミーはあの美味しそうなボア肉を頂くにゃ」
「アイミーは、あれをモンスターとしてでなく、食材として見ているんだな……。了解した」
突進してくるワイルドボアを横から強引に蹴り飛ばして気絶させると、続けざまに脳天に掌底を喰らわせて絶命させる。
「ふわっ! な、何!? き、きゃああああ!!」
そして、突然のことに驚く女の子を容赦なく上から襲おうとしていた大蛇の頭をレムちゃんの魔法が撃ち抜く。
女の子は、木の上にポイズンヴァイパーがいたことにはじめて気づいたようで驚きの叫び声を上げていた。頭を落とされたポイズンヴァイパーはその場で絶命したのだが、女の子の上に覆いかぶさるように落ちてきて、そのまま血まみれにされてしまう。
「レムちゃん、それはないにゃ。助けてあげてもそれじゃあ、減点にゃ。大幅減点にゃ」
「し、しょうがないだろ。上にいるんだから、そりゃ落ちてくるだろう。そもそも、そこまで猶予がなかったんだ。助けてやっただけでも、ありがたいと思ってもらいたいところだ」
「あ、あの、助けていただきありがとうございます。誤って里を出てしまったらしく、その、戻れなくなってしまって……」
見た目には同じぐらいの歳のように思える。綺麗なサラサラの金髪に細く長く伸びた耳。
「私はアイミー、よろしくにゃ。その耳は、エルフかにゃ?」
「は、はい。ご挨拶が遅れました。私はエルフの里、族長が一番目の娘、シュナイダーでしゅ!」
白い衣装を着ているせいか、血まみれの姿が余計に目立ち、泣き顔から急に笑顔に変わったことで、より狂気的な雰囲気になってしまっていた。
「でしゅ、にゃ」
「噛んだな。決めのセリフで見事に噛んだな……」
「うわぁぁぁぁ! い、今のなし。今のなしです!」
「な、何か聞こえたぞ! あっちだ! シュナイダー様を早くお探しすのだっ!」
「お、おいっ、アイミー。ヤバくないか?」
「何がにゃ?」
「こいつのこの姿を見たら、俺たち絶対疑われるだろ……」
「レ、レムちゃんの減点のせいにゃ!?」
「い、いや、そうだけど。いや、俺を面倒なことに巻き込むなよ」
「と、とりあえず、ここは引くにゃ! シュナちゃん、また遊びにくるにゃ」
「は、はいっ。お待ちしています。アイミー様、レムちゃん様……」
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