上 下
29 / 71

二十八話目 エルフの里2

しおりを挟む
 エルフの里は、木々の上にツリーハウスのように家が建てられていて、自然の中に村があるような感じだ。木々の間には吊り橋が掛けられていて、普段から必要以上に地面には降りない生活をしているらしい。

 物珍しそうに、吊り橋の上から隠れるようにこちらを見てくる若いエルフ。見た目には十歳ぐらいだけど、実際の年齢はきっと僕よりも高いにだろう。何しろエルフは長命種としても有名だ。人族の五倍から十倍もの長い時を生きると言われている。

 吊り橋にいる若いエルフに向かって軽く手を振ると、恥ずかしいのか、驚いたのか隠れるように逃げてしまった。嫌われていないことを祈りたい。

「主様、エルフの住人はとてもシャイにゃ。そもそも、エルフ族はこの里から出ることがほとんどないのにゃ。外部の者に対して興味津々だけど、内気な性格の者が多く向こうから話し掛けることはめったにない、とっても恥ずかしがり屋なのにゃ」

「そうかもしれませんね。我々は里の外の警備も任されておりますので、外界との交流も少なからず持ちますが、ほとんどの者はここで育って、そして里を出ることはありません」

「外の世界に興味がないのでしょうか?」

「そういうわけでもありませんが、エルフ族の信仰が大きく影響を与えています。エルフの民は世界樹の恩恵を受けて生きています。豊かな森と植物を与えてくださる世界樹を御守りし、世界樹と共に生きていくのがエルフの民なのです」

「つまり、レムちゃんに負けずとも劣らない、究極の引き籠り種族なのにゃ」
「お、おいっ」

「はははっ、これは手厳しい。アイミー様、シュナイダー様は世界樹の祠におります。現在、お祈りの最中なのですが、いかがいたしましょうか」

「お祈りの邪魔をするわけにはいかないにゃ。終わるまで待ってるにゃ」

「かしこまりました。それでは、族長の間へご案内いたします。少ししたらシュナイダー様も参られると思いますので、今しばらくお待ちくださいませ」

「ありがとにゃ」

「そういえば、三人は幼馴染なんでしょ。シュナちゃんは、里の外へ遊びに行ってたってこと?」

「シュナちゃんと会ったのは偶然だったにゃ。あれは、寝ているレムちゃんを棺ごと運んで、森に遊びに来てた時にゃ……」

 勝手に連れ出されてしまうレムちゃんよ……。


※※※


「ア、アイミー、か、勝手に連れ出すなよ。お、俺の棺が汚れちゃうだろ」

「だってレムちゃん、何度呼んでも起きないにゃ」

「……お、お前がうるさいから、寝たふりをしていたんだよ」

「そんなことより、あっちから泣き声が聞こえるのにゃ。面白そうだから助けに行くにゃ!」

「ちょ、ちょっと待てよー。な、何だよ面白そうって、そんなの放っておけよ」

 声を頼りに、その場所まで駆けつけると、木にもたれかかるようにして小さな女の子が泣いているのが見えた。

「ああ、あれはちょっと不味そうにゃ」
「何だよ、もう死にそうじゃねぇか」

 木の上からは大型の毒蛇ポイズンヴァイパーが、女の子の正面からはワイルドボアが喜色の表情で牙を震わせている。どうやら女の子は足を怪我しているらしく、身動きがとれないようだ。

「レムちゃんはポイズンヴァイパーを頼むにゃ。アイミーはあの美味しそうなボア肉を頂くにゃ」
「アイミーは、あれをモンスターとしてでなく、食材として見ているんだな……。了解した」

 突進してくるワイルドボアを横から強引に蹴り飛ばして気絶させると、続けざまに脳天に掌底を喰らわせて絶命させる。

「ふわっ! な、何!? き、きゃああああ!!」

 そして、突然のことに驚く女の子を容赦なく上から襲おうとしていた大蛇の頭をレムちゃんの魔法が撃ち抜く。

 女の子は、木の上にポイズンヴァイパーがいたことにはじめて気づいたようで驚きの叫び声を上げていた。頭を落とされたポイズンヴァイパーはその場で絶命したのだが、女の子の上に覆いかぶさるように落ちてきて、そのまま血まみれにされてしまう。

「レムちゃん、それはないにゃ。助けてあげてもそれじゃあ、減点にゃ。大幅減点にゃ」

「し、しょうがないだろ。上にいるんだから、そりゃ落ちてくるだろう。そもそも、そこまで猶予がなかったんだ。助けてやっただけでも、ありがたいと思ってもらいたいところだ」

「あ、あの、助けていただきありがとうございます。誤って里を出てしまったらしく、その、戻れなくなってしまって……」

 見た目には同じぐらいの歳のように思える。綺麗なサラサラの金髪に細く長く伸びた耳。

「私はアイミー、よろしくにゃ。その耳は、エルフかにゃ?」

「は、はい。ご挨拶が遅れました。私はエルフの里、族長が一番目の娘、シュナイダーでしゅ!」

 白い衣装を着ているせいか、血まみれの姿が余計に目立ち、泣き顔から急に笑顔に変わったことで、より狂気的な雰囲気になってしまっていた。

「でしゅ、にゃ」
「噛んだな。決めのセリフで見事に噛んだな……」

「うわぁぁぁぁ! い、今のなし。今のなしです!」


「な、何か聞こえたぞ! あっちだ! シュナイダー様を早くお探しすのだっ!」


「お、おいっ、アイミー。ヤバくないか?」
「何がにゃ?」

「こいつのこの姿を見たら、俺たち絶対疑われるだろ……」
「レ、レムちゃんの減点のせいにゃ!?」
「い、いや、そうだけど。いや、俺を面倒なことに巻き込むなよ」
「と、とりあえず、ここは引くにゃ! シュナちゃん、また遊びにくるにゃ」

「は、はいっ。お待ちしています。アイミー様、レムちゃん様……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜

I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。 レベル、ステータス、その他もろもろ 最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。 彼の役目は異世界の危機を救うこと。 異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。 彼はそんな人生で何よりも 人との別れの連続が辛かった。 だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。 しかし、彼は自分の強さを強すぎる が故に、隠しきることができない。 そしてまた、この異世界でも、 服部隼人の強さが人々にばれていく のだった。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

世界最強の底辺ダンジョン配信者、TS転生した後に配信した結果あまりの強さと可愛さに大バズりしてしまう

リヒト
ファンタジー
冥層。それは現代に突然現れたダンジョンの中で人類未踏の地として定められている階層のこと。 だが、そんな階層で一人の高校生である影入秋斗が激闘を繰り広げていた。地力では敵のドラゴンよりも勝っていたもの、幾つかのアクシデントが重なった為に秋斗はドラゴンと相打ちして、その命を閉ざしてしまう。 だが、その後に秋斗はまさかの美少女としてTS転生してしまう!? 元は唯の陰キャ。今は大人気陰キャ女子。 配信でも大バズり、女子高にまで通い始めることになった彼、もとい彼女の運命は如何にっ!

処理中です...