8 / 71
七話目 獣人の少女
しおりを挟む
しばらくは、舟に乗りながらも後ろを気にしていたが、どうやらもうドゥマーニ様は追ってこないようだった。小一時間は川を下っているので、さすがにもう大丈夫だろう。バッカス兄ちゃん、大丈夫だったかな……。というか、村のみんな、僕なんかのために無理しすぎだよね。ドゥマーニ様にみつかってしまっている以上、神官様には何て誤魔化すつもりなんだろう。
景色は村周辺にあった木々から草原へと変わり、川幅も徐々に広がっている。流れも緩やかになっており、僕の気持ちにも少しだけ余裕が出てきた。
行き着く先に獣人の国があるとして、僕は獣人の国に入ることが出来るのだろうか。人との間に交流は進められていると聞いたことはある。まだ貿易などの物の交流が多いのだろうけど、大きい街に行くと獣人が普通に人と暮らしていることもあるそうだ。それならば、逆のパターンもあり得るのかもしれない。というか、それが無理だとしたら、僕は初日からピンチをむかえることになるんだけどね。
「村を離れれば離れるほど、別の意味で危険が多くなるよね……」
いくら街や村の周辺だったとしてもモンスターはいる。今現在だって、僕の見える範囲には草原を駆け回るオオカミ、ラウンドウルフの群れが見えている。そういうことなので、小舟は川の中央をキープしながら、決して川辺には近づかないように注意しているのだ。あんなのに襲われたら、僕なんか一瞬で骨になってしまう。たまにゴブリンが川辺で威嚇してくることもあるけど、お手製の弓は、僕のところまでは届かないらしく、ギャーギャーと叫びわめいているだけで済んでいる。
「そろそろ、食事をとっておこうかな。いつもお昼に食べていたエリオ特製のサンドイッチを手にとる。このサンドイッチを食べるのもこれが最後か……」
コンッ、コツン
「まだ少しパンが温かい。作り立てに食べるのはまた格別に美味しいな……」
コツン、ゴツン
「あ、あれっ、何か、船底から音がするような」
ガツン! ドゴーン!
小舟の船底にはひびが入っており、水が染み込んでくる。いや、何が起こってるの!? まずいまずい! あわてて水の侵入を防ごうと荷物から適当な服を取って押さえつけてみるけど、水の勢いが止まらない。僕が船底ばかりに気をとられていたからだろう。川の中から小舟に手を掛けてこようとするモンスターを見逃してしまった。
「なっ!? ゴブリン!」
そう、小舟に乗り込んできたのは小さな緑色の小鬼、ゴブリン二匹が両脇から乗り込んできていた。小舟の上を小さく飛び上がるようにしながら僕を威嚇してくる。目当ては食料か? いや、僕かな……。
この二匹が相手なら僕もまだ戦おうという気もあったのだけど、水面に浮かぶゴブリンの頭は数十匹ですでに囲まれていた。ゴブリン、泳げるらしい……これはまさに万事休すってやつだ。僕の手には小舟を操る少し長めの棒のみ。少しでも数を減らさなければ本当にヤバい。
目の前にいるゴブリンに見せるようにエリオのサンドイッチを川の方へ向かって投げると、ゴブリンも釣られて空中でキャッチ。もちろん、そのまま川へ落ちていく。頭の弱いゴブリンで助かった。一匹ぐらいなら押し出してやる!
「えいっ!」
残った一匹のゴブリンを、持っていた棒で何とか押し出すことに成功するけど、小舟の周囲は完全に包囲されてしまっている。
「背に腹は代えられない! 持っていけ、これが僕の持っている食料全部だ」
僕はゴブリンが離れてくれることを願って、持っていた食料を全て川に投げ込んだ。
匂いで気づいているのか、小舟にとりついていたゴブリンも次々に離れていく。も、もう大丈夫……。
そう僕が油断した時に後ろから、木の棒を振りかぶっているゴブリンを見たのが覚えている最後の記憶だ。
どうやら、僕の命もここまでらしい。せっかく逃がしてくれた村のみんなにも申し訳ない。
それからしばらくして目を覚ますと、何故か知らないんだけど、僕は絶賛ペロペロと舐められていた。
あれから、どうやって生き残ったのかはよくわからない。記憶がないのだから。棒で殴られた後、奇跡的に小舟から落ちずに流れ着いたのか死んだと思って見逃されたのかはわからない。とりあえず、まだ僕は生きているということはわかった。
「あ、あのー、僕は食べ物ではないので、そろそろペロペロしないでもらえると助かるのですが……」
「気がついたかにゃ? アイミーは、主様が目を覚ますまで看病していたのにゃ」
改めてその姿を見ると、獣人の女の子で間違いないようだ。はじめて獣人の子を見たのだけど、ピクピクと動くもっふりとした猫耳、ふんわりとした毛並みの尾は、彼女が猫人族の獣人であることを示していた。
「アイミーっていったかな? 僕はレックス。ここまでどうやって来たのか全然覚えていないんたけど、助けてくれてありがとう」
「主様を助けることが出来て光栄だにゃ。私はアイミー、猫人族のアイミーにゃ」
景色は村周辺にあった木々から草原へと変わり、川幅も徐々に広がっている。流れも緩やかになっており、僕の気持ちにも少しだけ余裕が出てきた。
行き着く先に獣人の国があるとして、僕は獣人の国に入ることが出来るのだろうか。人との間に交流は進められていると聞いたことはある。まだ貿易などの物の交流が多いのだろうけど、大きい街に行くと獣人が普通に人と暮らしていることもあるそうだ。それならば、逆のパターンもあり得るのかもしれない。というか、それが無理だとしたら、僕は初日からピンチをむかえることになるんだけどね。
「村を離れれば離れるほど、別の意味で危険が多くなるよね……」
いくら街や村の周辺だったとしてもモンスターはいる。今現在だって、僕の見える範囲には草原を駆け回るオオカミ、ラウンドウルフの群れが見えている。そういうことなので、小舟は川の中央をキープしながら、決して川辺には近づかないように注意しているのだ。あんなのに襲われたら、僕なんか一瞬で骨になってしまう。たまにゴブリンが川辺で威嚇してくることもあるけど、お手製の弓は、僕のところまでは届かないらしく、ギャーギャーと叫びわめいているだけで済んでいる。
「そろそろ、食事をとっておこうかな。いつもお昼に食べていたエリオ特製のサンドイッチを手にとる。このサンドイッチを食べるのもこれが最後か……」
コンッ、コツン
「まだ少しパンが温かい。作り立てに食べるのはまた格別に美味しいな……」
コツン、ゴツン
「あ、あれっ、何か、船底から音がするような」
ガツン! ドゴーン!
小舟の船底にはひびが入っており、水が染み込んでくる。いや、何が起こってるの!? まずいまずい! あわてて水の侵入を防ごうと荷物から適当な服を取って押さえつけてみるけど、水の勢いが止まらない。僕が船底ばかりに気をとられていたからだろう。川の中から小舟に手を掛けてこようとするモンスターを見逃してしまった。
「なっ!? ゴブリン!」
そう、小舟に乗り込んできたのは小さな緑色の小鬼、ゴブリン二匹が両脇から乗り込んできていた。小舟の上を小さく飛び上がるようにしながら僕を威嚇してくる。目当ては食料か? いや、僕かな……。
この二匹が相手なら僕もまだ戦おうという気もあったのだけど、水面に浮かぶゴブリンの頭は数十匹ですでに囲まれていた。ゴブリン、泳げるらしい……これはまさに万事休すってやつだ。僕の手には小舟を操る少し長めの棒のみ。少しでも数を減らさなければ本当にヤバい。
目の前にいるゴブリンに見せるようにエリオのサンドイッチを川の方へ向かって投げると、ゴブリンも釣られて空中でキャッチ。もちろん、そのまま川へ落ちていく。頭の弱いゴブリンで助かった。一匹ぐらいなら押し出してやる!
「えいっ!」
残った一匹のゴブリンを、持っていた棒で何とか押し出すことに成功するけど、小舟の周囲は完全に包囲されてしまっている。
「背に腹は代えられない! 持っていけ、これが僕の持っている食料全部だ」
僕はゴブリンが離れてくれることを願って、持っていた食料を全て川に投げ込んだ。
匂いで気づいているのか、小舟にとりついていたゴブリンも次々に離れていく。も、もう大丈夫……。
そう僕が油断した時に後ろから、木の棒を振りかぶっているゴブリンを見たのが覚えている最後の記憶だ。
どうやら、僕の命もここまでらしい。せっかく逃がしてくれた村のみんなにも申し訳ない。
それからしばらくして目を覚ますと、何故か知らないんだけど、僕は絶賛ペロペロと舐められていた。
あれから、どうやって生き残ったのかはよくわからない。記憶がないのだから。棒で殴られた後、奇跡的に小舟から落ちずに流れ着いたのか死んだと思って見逃されたのかはわからない。とりあえず、まだ僕は生きているということはわかった。
「あ、あのー、僕は食べ物ではないので、そろそろペロペロしないでもらえると助かるのですが……」
「気がついたかにゃ? アイミーは、主様が目を覚ますまで看病していたのにゃ」
改めてその姿を見ると、獣人の女の子で間違いないようだ。はじめて獣人の子を見たのだけど、ピクピクと動くもっふりとした猫耳、ふんわりとした毛並みの尾は、彼女が猫人族の獣人であることを示していた。
「アイミーっていったかな? 僕はレックス。ここまでどうやって来たのか全然覚えていないんたけど、助けてくれてありがとう」
「主様を助けることが出来て光栄だにゃ。私はアイミー、猫人族のアイミーにゃ」
0
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
魔法少女マヂカ
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
マヂカは先の大戦で死力を尽くして戦ったが、破れて七十数年の休眠に入った。
やっと蘇って都立日暮里高校の二年B組に潜り込むマヂカ。今度は普通の人生を願ってやまない。
本人たちは普通と思っている、ちょっと変わった人々に関わっては事件に巻き込まれ、やがてマヂカは抜き差しならない戦いに巻き込まれていく。
マヂカの戦いは人類の未来をも変える……かもしれない。
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
つちねこ
ファンタジー
モンスターが現れるようになってから百年。ドロップアイテムの研究が進んだ結果、抽出された魔法接種薬により世に魔法少女が誕生していた。
魔法少女はモンスターから街の平和を守るため活躍し全ての少女達の憧れとなっている。
そんなある日、最低ランクのFランク魔法少女としてデビューをむかえるエリーゼに緊急の指令が命じられる。それは、政府と距離を置いていた魔法一族との共同事業だった。
この物語は、最強の魔法使いがFランク新人魔法少女をしょうがなく育成していく物語である。
うちの兄がヒロインすぎる
ふぇりちた
ファンタジー
ドラモンド伯爵家の次女ソフィアは、10歳の誕生日を迎えると共に、自身が転生者であることを知る。
乙女ゲーム『祈りの神子と誓いの聖騎士』に転生した彼女は、兄ノアがメインキャラの友人────つまり、モブキャラだと思い出す。
それもイベントに巻き込まれて、ストーリー序盤で退場する不憫な男だと。
大切な兄を守るため、一念発起して走り回るソフィアだが、周りの様子がどうもおかしい。
「はい、ソフィア。レオンがお花をくれたんだ。
直接渡せばいいのに。今度会ったら、お礼を言うんだよ」
「いや、お兄様。それは、お兄様宛のプレゼントだと思います」
「えっ僕に? そっか、てっきりソフィアにだと………でも僕、男なのに何でだろ」
「う〜ん、何ででしょうね。ほんとに」
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる