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四話目 職業、魔王って!?
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「ゴ、ゴホン! みな、静粛に。まだ一人職業を授かっていない者がいるのですよ」
神官様、気を使っていただきまして、ありがとうございます。なんなら今日は宴会にして、明日、神官様が帰る前にでも占ってもらおうかと少し考えておりました。
「そ、そうだった……そういえば、レックスがまだだったな」
「す、すまんのぉ、レックス」
「順番的にレックスを先に占ってもらった方がよかったんじゃねぇか? いや、その、可哀想だろう」
「とはいっても、みんなエリオの職業を気にしてたじゃねぇかよ!」
「あ、あのー、気にしないでください。今日はめでたい日ですし、すぐに終わらせて祝賀会の準備をしましょう」
村のみんなの憐れみの言葉が心にささる。僕も僕で、そりゃあ、ちょっとは緊張するけども、エリオとは比べるべくもない。何とかして、村で生活を送れる職業を授かりたい。
出来れば農家! あとは、エリオがいなくなってしまうのを考えると次点で武器屋か。もしそうなったらサビオさんもきっと喜んでくれるに違いない。
「レックス」
エリオがわかってるわよね? と言わんばかりの視線を送ってくる。
知っている、あれは戦闘職を引き当てろ的な顔だ。無理なことはわかっているけど、一応軽く手を上げて応えておく。無論、戦闘職を引き当てるつもりは微塵もないのだが。というか、無理だろう。
「では、レックスよ。水晶の前に来なさい」
「は、はい、よろしくお願いします」
神官様の前へと進み、透明な水晶の上に手をかざすように置く。僕はそっと目を瞑って、その瞬間を待った。
少しのざわつき、そして静まり返る広場。
水晶を中心として得体の知れない竜巻のような風が巻き起こっているような気がしないでもない。なんだか怖くて目を開けられない。
「こ、これは……」
エリオの時とは違って、重く息苦しささえ感じさせる空気が辺りを漂っている気がしないでもない。
でも、何故かこの感じは僕にはとっても心地がよくて、心はとても落ち着いている。
自分の中に眠っていた、新しい何かがゆっくりと目を覚ましたような。そして、何者でもなかった自分に何かが授けられた感覚がある。
これが、職業を授かるということなのだろう。
ここで、ようやく僕は目を開けて見た。
目の前には、漆黒に染まった水晶。そして、ピシッとヒビが入っていて、神官様は腰を抜かして地面に尻餅をついている。
ふぉっ!?
漆黒の光は、ブンボッパ村全体を覆うようにして大空に広がり、朝だというのにまるで、昼夜が入れ替わったかのように真っ暗になってしまっている。
「レ、レックスの職業は、一体なんなのだ!?」
みんなの視線が神官様に向かう。
ぼ、僕の職業は何なのか……。
「職業は……まおう。レックスの職業は、魔王です」
職業、魔王……か。
うぇっ? ま、魔王? 魔王って、職業だったの!?
村のみんなも何が起こっているのか理解が追いついていない。祝賀ムード一色だった広場は一瞬にして凍りついていた。
「み、みんな……」
「く、来るな!」
「えっ?」
僕が振り返ると、村のみんなは一歩後ろに下がってしまう。
「トールさん、ミランダおばちゃん」
「レックスちゃん、こ、こっちには来ないで!」
みんな僕を信じたいけど、でも信じられない。そんな迷いのある行動だ。しょうがないこととはいえ、やはり悲しい。
「は、離して、パパっ!」
エリオが心配そうに僕の側に駆け寄ってこようとするが、すぐにサビオさんに止められてしまう。サビオさんも、どうしたらいいのか迷っているような目を僕に向ける。
「レックス……」
まさかの事態に、みんなどうしたらいいのかわからないのだろう。僕だってわからないし、急に魔王とか言われても僕にその自覚はないんだ。
その時、ゆっくりと水晶の側まで歩いてきたのは勇者ドゥマーニ様だった。
「エリクシオ神官長、レックスの職業が、その魔王というのは確かなのですか?」
「は、はい、ドゥマーニ様。まぎれもなく、レックスの職業は魔王でございます。この周辺に漂う禍々しい魔力がその証となりましょう」
「この魔力は、確かに……」
ドゥマーニ様は、呆然と立ち尽くしている僕の目の前まで来ると、何の躊躇もなく、鞘から剣を抜き一刀両断にしようと上段にその剣を構えた。
「えっ、ちょ、ちょっと待ってください! ぼ、僕は違う……」
「い、いやぁぁ!! だ、誰か止めて! レックス!」
エリオの叫び声に村のみんなが目を剃らす。僕は、ここで死んでしまうのか。勇者様を相手に僕が何をしようと助かるとは思えない。
「待てっ! ドゥマーニ。レックスは優しい子だ。村一番の働き者で、誰よりもこの村のために尽くそうとしている若者なのだよ」
「だからなんだ。そこを退け、ギベオン」
「……退かぬ」
「ギベオン、お前だってわかっているはずだ。この禍々しい魔力を知らないとは言わさぬぞ!」
「確かに、この魔力は魔王のものだ。しかし、私にはレックスが、あの魔王と同じとは到底思えぬのだ」
「庇うというのか? 既に勇者を引退したとはいえ、魔の者を放っておくわけにはいかない」
ここで、今まで黙っていた村長が口を開いた。
「ドゥマーニよ、わしからも頼む。我々にも少し考える時間をもらいたいのじゃ。レックスほどの真面目で優しい子を急に魔王と言われてもの……」
「村長……わかった。しかし、一日だけだ」
神官様、気を使っていただきまして、ありがとうございます。なんなら今日は宴会にして、明日、神官様が帰る前にでも占ってもらおうかと少し考えておりました。
「そ、そうだった……そういえば、レックスがまだだったな」
「す、すまんのぉ、レックス」
「順番的にレックスを先に占ってもらった方がよかったんじゃねぇか? いや、その、可哀想だろう」
「とはいっても、みんなエリオの職業を気にしてたじゃねぇかよ!」
「あ、あのー、気にしないでください。今日はめでたい日ですし、すぐに終わらせて祝賀会の準備をしましょう」
村のみんなの憐れみの言葉が心にささる。僕も僕で、そりゃあ、ちょっとは緊張するけども、エリオとは比べるべくもない。何とかして、村で生活を送れる職業を授かりたい。
出来れば農家! あとは、エリオがいなくなってしまうのを考えると次点で武器屋か。もしそうなったらサビオさんもきっと喜んでくれるに違いない。
「レックス」
エリオがわかってるわよね? と言わんばかりの視線を送ってくる。
知っている、あれは戦闘職を引き当てろ的な顔だ。無理なことはわかっているけど、一応軽く手を上げて応えておく。無論、戦闘職を引き当てるつもりは微塵もないのだが。というか、無理だろう。
「では、レックスよ。水晶の前に来なさい」
「は、はい、よろしくお願いします」
神官様の前へと進み、透明な水晶の上に手をかざすように置く。僕はそっと目を瞑って、その瞬間を待った。
少しのざわつき、そして静まり返る広場。
水晶を中心として得体の知れない竜巻のような風が巻き起こっているような気がしないでもない。なんだか怖くて目を開けられない。
「こ、これは……」
エリオの時とは違って、重く息苦しささえ感じさせる空気が辺りを漂っている気がしないでもない。
でも、何故かこの感じは僕にはとっても心地がよくて、心はとても落ち着いている。
自分の中に眠っていた、新しい何かがゆっくりと目を覚ましたような。そして、何者でもなかった自分に何かが授けられた感覚がある。
これが、職業を授かるということなのだろう。
ここで、ようやく僕は目を開けて見た。
目の前には、漆黒に染まった水晶。そして、ピシッとヒビが入っていて、神官様は腰を抜かして地面に尻餅をついている。
ふぉっ!?
漆黒の光は、ブンボッパ村全体を覆うようにして大空に広がり、朝だというのにまるで、昼夜が入れ替わったかのように真っ暗になってしまっている。
「レ、レックスの職業は、一体なんなのだ!?」
みんなの視線が神官様に向かう。
ぼ、僕の職業は何なのか……。
「職業は……まおう。レックスの職業は、魔王です」
職業、魔王……か。
うぇっ? ま、魔王? 魔王って、職業だったの!?
村のみんなも何が起こっているのか理解が追いついていない。祝賀ムード一色だった広場は一瞬にして凍りついていた。
「み、みんな……」
「く、来るな!」
「えっ?」
僕が振り返ると、村のみんなは一歩後ろに下がってしまう。
「トールさん、ミランダおばちゃん」
「レックスちゃん、こ、こっちには来ないで!」
みんな僕を信じたいけど、でも信じられない。そんな迷いのある行動だ。しょうがないこととはいえ、やはり悲しい。
「は、離して、パパっ!」
エリオが心配そうに僕の側に駆け寄ってこようとするが、すぐにサビオさんに止められてしまう。サビオさんも、どうしたらいいのか迷っているような目を僕に向ける。
「レックス……」
まさかの事態に、みんなどうしたらいいのかわからないのだろう。僕だってわからないし、急に魔王とか言われても僕にその自覚はないんだ。
その時、ゆっくりと水晶の側まで歩いてきたのは勇者ドゥマーニ様だった。
「エリクシオ神官長、レックスの職業が、その魔王というのは確かなのですか?」
「は、はい、ドゥマーニ様。まぎれもなく、レックスの職業は魔王でございます。この周辺に漂う禍々しい魔力がその証となりましょう」
「この魔力は、確かに……」
ドゥマーニ様は、呆然と立ち尽くしている僕の目の前まで来ると、何の躊躇もなく、鞘から剣を抜き一刀両断にしようと上段にその剣を構えた。
「えっ、ちょ、ちょっと待ってください! ぼ、僕は違う……」
「い、いやぁぁ!! だ、誰か止めて! レックス!」
エリオの叫び声に村のみんなが目を剃らす。僕は、ここで死んでしまうのか。勇者様を相手に僕が何をしようと助かるとは思えない。
「待てっ! ドゥマーニ。レックスは優しい子だ。村一番の働き者で、誰よりもこの村のために尽くそうとしている若者なのだよ」
「だからなんだ。そこを退け、ギベオン」
「……退かぬ」
「ギベオン、お前だってわかっているはずだ。この禍々しい魔力を知らないとは言わさぬぞ!」
「確かに、この魔力は魔王のものだ。しかし、私にはレックスが、あの魔王と同じとは到底思えぬのだ」
「庇うというのか? 既に勇者を引退したとはいえ、魔の者を放っておくわけにはいかない」
ここで、今まで黙っていた村長が口を開いた。
「ドゥマーニよ、わしからも頼む。我々にも少し考える時間をもらいたいのじゃ。レックスほどの真面目で優しい子を急に魔王と言われてもの……」
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