4 / 71
三話目 勇者誕生
しおりを挟む
ブンボッパ村では珍しく、朝から全ての村民が広場に集まってきている。早朝に神殿から神官様が到着したとの情報が回っていたようだ。すでに神官様も広場で儀式の準備を進めている。あともう少ししたら、僕とエリオの職業が判明することだろう。
「やはり、エリオが勇者なのだろうな」
「女の子の勇者は歴代でもはじめてらしいわ。きっとこれまでとは注目度が違うのでしょうね」
「エリオちゃん……お父さんの武器屋を継ぎたいって言ってたのになー」
小さな村なので、エリオを知らない人なんて誰もいない。小さい頃から知っているし、その女の子が勇者になるかもしれないというのは、もちろん感慨深いものがあるだろうし、また我が子のように接していただけに、やるせない思いの人もいるのだと思う。
驚いたのは神官様の付き添いで、三代目勇者ドゥマーニ様もいらっしゃっていることだ。どうやら、勇者育成のために、しばらくブンボッパ村に滞在することになっているらしい。剣については、剣聖ギベオン様が、魔法については勇者ドゥマーニ様が直々に教えることになっているらしい。
「ど、ど、ど、どうしよう、レックス。これで、私が勇者じゃなかったら、絶対怒られちゃうよ」
「エリオが気にすることじゃないよ。それに、まだこの村からしか勇者が生まれないと、決まったわけではないんだ」
とはいっても、三度あることは四回目もあり得るわけで、ドゥマーニ様が来ているのは、つまり、そういうことなのだと思う。
「うぅー」
エリオが緊張するのも致し方ない。勇者、剣聖が立ち会って、新しい勇者誕生を待ち構えているのだから……。エリオが悪いわけではないけど、僕が同じ立場だったら何度も吐き気をもよおしているに違いない。顔が真っ青だけど、しっかり直立しているだけでも、エリオはえらいと思うんだ。
「ギベオン、勇者候補というのは、この子達なのかい?」
「そうだ。正確には、エリオ。そっちの女の子の方というのが正しい。隣の男の子レックスは、この村の出身ではないからな」
「そうなのか。ということは、はじめて女の子の勇者が誕生するというのか……」
やはり、決定事項のようだ。エリオ、頑張って!
「あっ、あの、はじめまして、エ、エリオです!」
「ああ、どうも。ドゥマーニだ。そっちは?」
「あっ、はい。僕はレックスといいます」
「そうか、エリオ、レックス、今日はよろしくな。二人にイシス様のご加護がありますように」
イシス様というのは、イシス教の女神様のことで、街にあるのもイシス教の神殿だ。この世界の平和を願い、魔王討伐を訴えている教団であり全世界的に多くの信徒がいる。
教団は信徒によるお布施と、聖水やポーション等の販売によって運営されているのだとか。イシス教が職業をチェックするのには、勇者や聖女、賢者等の特別な職業を早期発見をすることと、回復魔法を使える神官候補を広く集めることなのだそうだ。
そして、どうやら準備が整ったらしい神官様が、僕たちのところに来て声を掛けてくれた。
「もしも君の職業が勇者だったら、今日はきっと素晴らしい日になるだろう。なんといっても女の子の勇者様が誕生する日なのですからね」
みんな、エリオにものすごいプレッシャーをかけてくる。これで、勇者じゃなかったらエリオ、しばらく立ち直れないと思うんだけど。
「エリオ、大丈夫?」
「う、うん。だ、大丈夫だよ!?」
全然大丈夫じゃなさそうなエリオだけど、僕には手を握ってあげることぐらいしか出来ない。そんなに時間の掛かる儀式ではないはずなので、早く終わることを願うばかりだ。
「それではエリオ、一歩前へ出なさい。その水晶の上に手をかざすのです」
ぎこちなく緊張した面もちで歩いていき、神官様の前に立つエリオ。ゆっくりと水晶の上に手を置くと、目映い幾つもの虹色の光が溢れだし、やがて一つに収束すると、辺り一面に広がっていった。
「おぉ、こ、これは間違いない」
「やはり、エリオが四代目の勇者なのね!」
「これはめでたい! 今夜は宴会だな」
「よっしゃ、酒の準備じゃー!」
後ろを振り返って、僕の方を見てくるエリオは、何だか照れくさそうにしながらも、僕に小さくピースサインをしていた。少しは緊張がとれたのだろう。とりあえずは一安心といったところか。
「エリオ、職業は勇者です。そして、手にしたスキルは、聖光魔法強化、力の覚醒、集中力の極みです」
聖光魔法、力の覚醒というのは勇者が持つ有名なスキルと言われている。聖光魔法を覚える勇者にとってその魔法が強化されるのは心強い。そして、力の覚醒だ。これはピンチになればなるほど底力を発揮するという、ちょっとチートっぽい勇者ならではのスキルともいえる。
最後の集中力の極みというのは、エリオならではの勇者カラーなのだと思う。聞いたことのない名前だけど、きっとエリオを助けてくれる強力なスキルに違いない。
「お疲れさま、エリオ」
「う、うん。ありがとうレックス! 次は、レックスの番だね」
そう、次は僕の番なのだろうけど、広場はすでに祝賀ムードで、みんなきっと僕のことを忘れているような気がしないでもない。三十年ぶりの勇者誕生にブンボッパ村はとても浮かれていたのだ。
「やはり、エリオが勇者なのだろうな」
「女の子の勇者は歴代でもはじめてらしいわ。きっとこれまでとは注目度が違うのでしょうね」
「エリオちゃん……お父さんの武器屋を継ぎたいって言ってたのになー」
小さな村なので、エリオを知らない人なんて誰もいない。小さい頃から知っているし、その女の子が勇者になるかもしれないというのは、もちろん感慨深いものがあるだろうし、また我が子のように接していただけに、やるせない思いの人もいるのだと思う。
驚いたのは神官様の付き添いで、三代目勇者ドゥマーニ様もいらっしゃっていることだ。どうやら、勇者育成のために、しばらくブンボッパ村に滞在することになっているらしい。剣については、剣聖ギベオン様が、魔法については勇者ドゥマーニ様が直々に教えることになっているらしい。
「ど、ど、ど、どうしよう、レックス。これで、私が勇者じゃなかったら、絶対怒られちゃうよ」
「エリオが気にすることじゃないよ。それに、まだこの村からしか勇者が生まれないと、決まったわけではないんだ」
とはいっても、三度あることは四回目もあり得るわけで、ドゥマーニ様が来ているのは、つまり、そういうことなのだと思う。
「うぅー」
エリオが緊張するのも致し方ない。勇者、剣聖が立ち会って、新しい勇者誕生を待ち構えているのだから……。エリオが悪いわけではないけど、僕が同じ立場だったら何度も吐き気をもよおしているに違いない。顔が真っ青だけど、しっかり直立しているだけでも、エリオはえらいと思うんだ。
「ギベオン、勇者候補というのは、この子達なのかい?」
「そうだ。正確には、エリオ。そっちの女の子の方というのが正しい。隣の男の子レックスは、この村の出身ではないからな」
「そうなのか。ということは、はじめて女の子の勇者が誕生するというのか……」
やはり、決定事項のようだ。エリオ、頑張って!
「あっ、あの、はじめまして、エ、エリオです!」
「ああ、どうも。ドゥマーニだ。そっちは?」
「あっ、はい。僕はレックスといいます」
「そうか、エリオ、レックス、今日はよろしくな。二人にイシス様のご加護がありますように」
イシス様というのは、イシス教の女神様のことで、街にあるのもイシス教の神殿だ。この世界の平和を願い、魔王討伐を訴えている教団であり全世界的に多くの信徒がいる。
教団は信徒によるお布施と、聖水やポーション等の販売によって運営されているのだとか。イシス教が職業をチェックするのには、勇者や聖女、賢者等の特別な職業を早期発見をすることと、回復魔法を使える神官候補を広く集めることなのだそうだ。
そして、どうやら準備が整ったらしい神官様が、僕たちのところに来て声を掛けてくれた。
「もしも君の職業が勇者だったら、今日はきっと素晴らしい日になるだろう。なんといっても女の子の勇者様が誕生する日なのですからね」
みんな、エリオにものすごいプレッシャーをかけてくる。これで、勇者じゃなかったらエリオ、しばらく立ち直れないと思うんだけど。
「エリオ、大丈夫?」
「う、うん。だ、大丈夫だよ!?」
全然大丈夫じゃなさそうなエリオだけど、僕には手を握ってあげることぐらいしか出来ない。そんなに時間の掛かる儀式ではないはずなので、早く終わることを願うばかりだ。
「それではエリオ、一歩前へ出なさい。その水晶の上に手をかざすのです」
ぎこちなく緊張した面もちで歩いていき、神官様の前に立つエリオ。ゆっくりと水晶の上に手を置くと、目映い幾つもの虹色の光が溢れだし、やがて一つに収束すると、辺り一面に広がっていった。
「おぉ、こ、これは間違いない」
「やはり、エリオが四代目の勇者なのね!」
「これはめでたい! 今夜は宴会だな」
「よっしゃ、酒の準備じゃー!」
後ろを振り返って、僕の方を見てくるエリオは、何だか照れくさそうにしながらも、僕に小さくピースサインをしていた。少しは緊張がとれたのだろう。とりあえずは一安心といったところか。
「エリオ、職業は勇者です。そして、手にしたスキルは、聖光魔法強化、力の覚醒、集中力の極みです」
聖光魔法、力の覚醒というのは勇者が持つ有名なスキルと言われている。聖光魔法を覚える勇者にとってその魔法が強化されるのは心強い。そして、力の覚醒だ。これはピンチになればなるほど底力を発揮するという、ちょっとチートっぽい勇者ならではのスキルともいえる。
最後の集中力の極みというのは、エリオならではの勇者カラーなのだと思う。聞いたことのない名前だけど、きっとエリオを助けてくれる強力なスキルに違いない。
「お疲れさま、エリオ」
「う、うん。ありがとうレックス! 次は、レックスの番だね」
そう、次は僕の番なのだろうけど、広場はすでに祝賀ムードで、みんなきっと僕のことを忘れているような気がしないでもない。三十年ぶりの勇者誕生にブンボッパ村はとても浮かれていたのだ。
0
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
おじさんが異世界転移してしまった。
月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
つちねこ
ファンタジー
モンスターが現れるようになってから百年。ドロップアイテムの研究が進んだ結果、抽出された魔法接種薬により世に魔法少女が誕生していた。
魔法少女はモンスターから街の平和を守るため活躍し全ての少女達の憧れとなっている。
そんなある日、最低ランクのFランク魔法少女としてデビューをむかえるエリーゼに緊急の指令が命じられる。それは、政府と距離を置いていた魔法一族との共同事業だった。
この物語は、最強の魔法使いがFランク新人魔法少女をしょうがなく育成していく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる