3 / 71
二話目 ブンボッパ村の秘密
しおりを挟む
「村長様、ただいま参りました!」
「おぉ、エリオにレックス。よく来てくれたのぉ。本来なら街へ行き、観光がてら職業を授かるものであるのだが、今年は豊作とはいえ、まだまだ油断はできぬからの。それに、ちょっと今年は例外があるかもしれんので、すまんなぁ」
「いえ、村長様。身寄りのなかった私を育ててくれたご恩は忘れておりません。村の役に立てるようこれからも頑張って参ります」
まるで孫を見るかのように、目を細めて僕たちを見つめる村長様はもうすぐ七十歳になる。まだまだ歳の割には元気ではあるが、そろそろ息子であるトールさんと交代するタイミングに差し掛かっているのだろう。
「レックス。お主はどのような職業を授かるのか皆目見当もつかぬ。もしも良い職業を授かったのなら、街へ出るのもいいかもしれん」
街へ!? 想像もしていなかった村長からの言葉に驚く。少なくとも、身寄りのない自分を育てたのは、村の役に立ってもらうという考えがあるはずだと思っていたのだ。今だって、畑の世話をして作物の収穫をしたりと、小さい頃と比べたら少しだけど村の役に立っていると思っていたのだ。
「い、いいえ、村長様。私はこの村の発展のために、授かった職業を活かしたいと思っております。そ、その、私が村に居続けてはいけないのでしょうか?」
「村長様、レックスは防具屋さんになって私と一緒に父の店を継ぐんです! 追い出すようなことを言わないでください」
「おー、すまんすまん。そういうつもりではなかったのじゃ。この村は少々特殊じゃから、街へ出た方がレックスもいいかと思ったのじゃよ」
「ブンボッパ村が特殊……ですか?」
「そうじゃな。そろそろ二人にも、この村の秘密について話をするとしよう」
「ひ、秘密ですか?」
「実はな、この村って勇者の生まれる村なんじゃよ」
「ふぁっ?」
「ゆ、勇者!?」
「そう、勇者。初代も、二代目も三代目も何故か、このブンボッパ村から出てる」
「三代目って、この前、引退したばかりのドゥマーニ様ですよね!?」
「そうそう、あれ、宿屋のガリウスの息子じゃ」
「ええっ!!!」
「勇者ドゥマーニ様が宿屋の息子……」
「ドゥマーニの護衛をしていたのが、ギベオンじゃ」
「ギベオンおじさんって、えっ、狩人の!?」
「うむ。ギベオンは、あー見えて剣聖などと呼ばれておってな、勇者パーティでも活躍していたのじゃよ。麦農家の次男坊のくせにね」
「で、でもギベオンさんって、弓を使っている所しか見たことないですよ」
「奴も結構な歳じゃからの。足を悪くしてからは弓を使っているそうじゃ。そもそも、この辺りで奴に剣を使わせるような敵はおらんしな」
「ギベオンさん、腕は確かだと思っていたけど、想像以上だったわね……」
そういえば、エリオはギベオンさんが狩った鹿肉や猪肉のおこぼれをよくもらっていたような気がする。弓の名手かと思いきや、まさかの剣聖とは……。
「あ、あれっ? さ、三代目が引退したってことは!?」
「うむ。おそらくではあるが、エリオが次の勇者になる可能性が高いと思っておる」
「えーっ、わ、私なの!?」
「レックスはこの村の出身ではない。それに、お前たちより下の子供らは、まだまだ小さいじゃろ」
「レックス、どうしよう。私、レックスと一緒に武器屋さんやりたかったのに……」
「で、でも、勇者とか、とても栄誉なことなんじゃないかな。僕、エリオを応援するよ」
頑張り屋のエリオなら、きっと大変な試練も乗り越えて、立派な勇者として活躍するのではないかなと思う。
「で、でも、勇者になったら、この村を出ていかなきゃならないんでしょ。レックスとも会えなくなっちゃう……」
「そ、そうだね。多くのモンスターを退治するための旅に出なければならないんだよね。あと、魔王を討伐するんだっけ?」
この世界には勇者と対をなす者として、魔王が生まれるという。勇者の使命は、魔王を倒すこと。三代目勇者のドゥマーニ様が魔王討伐を果たしているので、しばらくは大丈夫だと言われている。それでも、世代交代が行われたのならば、魔王もまた新しく生まれる可能性が高いと言わざるをえない。
「もしも私が勇者で、レックスの職業が戦闘職だったら……そ、その、私についてきてくれないかな」
僕の日頃の運動神経から戦闘職を授かるということはまずないだろう。自分で言うのも悲しいが、どう考えてみても農家一直線だ。作物の成長を見守ったり、新しい農具を作ったりする方が僕の性格にも合っているだろう。
「難しいとは思うけど、もしもギベオンおじさんみたいな、すごい戦闘職だったら……ね」
「う、うん。ありがとう、レックス」
「それでは、話はここまでじゃ。二人とも、明日に備えて今日はゆっくり休むといい。エリオも少しは心構えが出来たであろう」
どうやら、神官様に村に来てもらうのは街で騒ぎにならないようにするためだったのだという。勇者といえども、最初はとても弱い。魔王の手下に見つからないように秘密裏に育てていくのだそうだ。
そうして迎えた翌朝。まさか、こんなことになろうとは誰も予想していなかったに違いない。僕もいまだに信じられないのだから……。
「おぉ、エリオにレックス。よく来てくれたのぉ。本来なら街へ行き、観光がてら職業を授かるものであるのだが、今年は豊作とはいえ、まだまだ油断はできぬからの。それに、ちょっと今年は例外があるかもしれんので、すまんなぁ」
「いえ、村長様。身寄りのなかった私を育ててくれたご恩は忘れておりません。村の役に立てるようこれからも頑張って参ります」
まるで孫を見るかのように、目を細めて僕たちを見つめる村長様はもうすぐ七十歳になる。まだまだ歳の割には元気ではあるが、そろそろ息子であるトールさんと交代するタイミングに差し掛かっているのだろう。
「レックス。お主はどのような職業を授かるのか皆目見当もつかぬ。もしも良い職業を授かったのなら、街へ出るのもいいかもしれん」
街へ!? 想像もしていなかった村長からの言葉に驚く。少なくとも、身寄りのない自分を育てたのは、村の役に立ってもらうという考えがあるはずだと思っていたのだ。今だって、畑の世話をして作物の収穫をしたりと、小さい頃と比べたら少しだけど村の役に立っていると思っていたのだ。
「い、いいえ、村長様。私はこの村の発展のために、授かった職業を活かしたいと思っております。そ、その、私が村に居続けてはいけないのでしょうか?」
「村長様、レックスは防具屋さんになって私と一緒に父の店を継ぐんです! 追い出すようなことを言わないでください」
「おー、すまんすまん。そういうつもりではなかったのじゃ。この村は少々特殊じゃから、街へ出た方がレックスもいいかと思ったのじゃよ」
「ブンボッパ村が特殊……ですか?」
「そうじゃな。そろそろ二人にも、この村の秘密について話をするとしよう」
「ひ、秘密ですか?」
「実はな、この村って勇者の生まれる村なんじゃよ」
「ふぁっ?」
「ゆ、勇者!?」
「そう、勇者。初代も、二代目も三代目も何故か、このブンボッパ村から出てる」
「三代目って、この前、引退したばかりのドゥマーニ様ですよね!?」
「そうそう、あれ、宿屋のガリウスの息子じゃ」
「ええっ!!!」
「勇者ドゥマーニ様が宿屋の息子……」
「ドゥマーニの護衛をしていたのが、ギベオンじゃ」
「ギベオンおじさんって、えっ、狩人の!?」
「うむ。ギベオンは、あー見えて剣聖などと呼ばれておってな、勇者パーティでも活躍していたのじゃよ。麦農家の次男坊のくせにね」
「で、でもギベオンさんって、弓を使っている所しか見たことないですよ」
「奴も結構な歳じゃからの。足を悪くしてからは弓を使っているそうじゃ。そもそも、この辺りで奴に剣を使わせるような敵はおらんしな」
「ギベオンさん、腕は確かだと思っていたけど、想像以上だったわね……」
そういえば、エリオはギベオンさんが狩った鹿肉や猪肉のおこぼれをよくもらっていたような気がする。弓の名手かと思いきや、まさかの剣聖とは……。
「あ、あれっ? さ、三代目が引退したってことは!?」
「うむ。おそらくではあるが、エリオが次の勇者になる可能性が高いと思っておる」
「えーっ、わ、私なの!?」
「レックスはこの村の出身ではない。それに、お前たちより下の子供らは、まだまだ小さいじゃろ」
「レックス、どうしよう。私、レックスと一緒に武器屋さんやりたかったのに……」
「で、でも、勇者とか、とても栄誉なことなんじゃないかな。僕、エリオを応援するよ」
頑張り屋のエリオなら、きっと大変な試練も乗り越えて、立派な勇者として活躍するのではないかなと思う。
「で、でも、勇者になったら、この村を出ていかなきゃならないんでしょ。レックスとも会えなくなっちゃう……」
「そ、そうだね。多くのモンスターを退治するための旅に出なければならないんだよね。あと、魔王を討伐するんだっけ?」
この世界には勇者と対をなす者として、魔王が生まれるという。勇者の使命は、魔王を倒すこと。三代目勇者のドゥマーニ様が魔王討伐を果たしているので、しばらくは大丈夫だと言われている。それでも、世代交代が行われたのならば、魔王もまた新しく生まれる可能性が高いと言わざるをえない。
「もしも私が勇者で、レックスの職業が戦闘職だったら……そ、その、私についてきてくれないかな」
僕の日頃の運動神経から戦闘職を授かるということはまずないだろう。自分で言うのも悲しいが、どう考えてみても農家一直線だ。作物の成長を見守ったり、新しい農具を作ったりする方が僕の性格にも合っているだろう。
「難しいとは思うけど、もしもギベオンおじさんみたいな、すごい戦闘職だったら……ね」
「う、うん。ありがとう、レックス」
「それでは、話はここまでじゃ。二人とも、明日に備えて今日はゆっくり休むといい。エリオも少しは心構えが出来たであろう」
どうやら、神官様に村に来てもらうのは街で騒ぎにならないようにするためだったのだという。勇者といえども、最初はとても弱い。魔王の手下に見つからないように秘密裏に育てていくのだそうだ。
そうして迎えた翌朝。まさか、こんなことになろうとは誰も予想していなかったに違いない。僕もいまだに信じられないのだから……。
0
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
おじさんが異世界転移してしまった。
月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
エビルゲート~最強魔法使いによる魔法少女育成計画~
つちねこ
ファンタジー
モンスターが現れるようになってから百年。ドロップアイテムの研究が進んだ結果、抽出された魔法接種薬により世に魔法少女が誕生していた。
魔法少女はモンスターから街の平和を守るため活躍し全ての少女達の憧れとなっている。
そんなある日、最低ランクのFランク魔法少女としてデビューをむかえるエリーゼに緊急の指令が命じられる。それは、政府と距離を置いていた魔法一族との共同事業だった。
この物語は、最強の魔法使いがFランク新人魔法少女をしょうがなく育成していく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる