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一話目 農家になりたい少年
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「お前の畑はいつ見ても作物が元気だな。レックス、畑仕事はもう終ったか?」
僕は畑仕事が好きだ。日々、手を掛けただけ成長しているのを見ると自分も元気になれる。手先も器用なので、仕事道具も研究したりして、村のみんなにも使ってもらっていて好評だ。この仕事は天職かもしれないな、なんて思っている。
「うん、バッカス兄ちゃん。これからお昼にしようと思ってたとこだよ」
「そうか、お邪魔じゃなければ一緒に食おうか」
バッカス兄ちゃんの視線の先には、お昼ごはんの準備をしているエリオの姿が見えているのだろう。毎度のことではあるが、お昼ごはんを用意してもらえるのは本当にありがたい。
エリオは僕の育ての親であるサビオさんの娘で、僕とはいわゆる幼馴染みの関係だ。でも、小さい頃から兄弟のように育てられてきたので、どちらかというと妹のように大事に思っている。
「お邪魔じゃないですよー。多めに作ってきてるから、バッカス兄ちゃんもどうぞ」
今年は麦が豊作だったこともあって、食糧は全体的に余裕がある。エリオ得意の焼きパンに朝採れた野菜をはさんでサンドイッチにしているのだ。エリオの両手には温めてきた鍋があり、中身は野菜にビーグ鳥の肉が骨ごと煮込んである絶品スープだ。
「お前たちは本当に仲がいいな。実は、エリオにも話があったんだよ。実はな、神官様が村に来る日が決まったらしいんだ」
「神官様……!? ということは、ようやく僕たちも職業を授かれるのですね!」
バッカス兄ちゃんは大きく頷くと、ニカッと白い歯の笑顔をみせた。
「レックスはなりたい職業があるのか?」
「決まってるじゃない。手先の器用なレックスは防具職人になって、私と一緒にサビオ武器店を大きくするのよね?」
「うーん、確かにこの村には防具屋さんがないから喜ばれるかもしれないけど、買ってくれる人も少ないからね……」
寂れた村だけに、冒険者パーティが訪れることなんてめったにない。正直なところサビオさんの武器店だって経営は厳しく、兼業で畑を耕して何とか生計が成り立っているぐらいだ。いくら僕の手先が器用でも本格的な防具とかはそれなりに修業が必要だろう。村から多少の支援はあったものの、僕をここまで育ててくれた恩はいつか返したいと思っている。
そういう意味において、授かる職業には少なからず興味があるのは事実だ。
「何をいってるのレックス。すっごい武器や防具をつくって街に売り出しに行くの! そうしたらいつか街でも商売出来るようになるかもしれないわよ」
「おー、それは楽しみだな。もしそうなったら、うちの道具も街でいっぱい売ってくれよ。あっはっは!」
「あー、バッカス兄ちゃん、私たちが出来ないと思ってるー! もう、レックスも言ってやってよ」
と言われても、僕の職業が防具屋さんになることを前提で話されても困ってしまう。エリオは、かなりの確率で武器屋さんになれるだろう。職業というのは、ある程度血縁に準じて授かることが多いのだ。
一般的に十五歳になると神殿へ行き、自分に適した職業を授かることになる。大抵の場合は、親と同じ職業になることが多い。バッカス兄ちゃんは、親と同じ道具屋だったし、村長の息子であるトールさんの職業はそのまま村長だった。
職業には、勇者とか賢者という凄い職業を授かる場合もあるらしいけど、こんな寂れた村から戦闘職が出ることはないだろう。うちの村では、ギベオンおじさんが唯一の戦闘職で狩人だ。昔は冒険者をやっていたらしいけど、年齢による衰えとともに引退し、街の防衛と近隣のモンスターの間引きをしてくれている。
ということで、特に期待されていない我がブンボッパ村からは街にある神殿に行くこともなく、手の空いている神官様が薬草やポーション、聖水などを売りに来るタイミングに合わせて、ついでに占ってもらうことになっているらしい。
ちなみに、ブンボッパ村から今年十五歳を迎えるのは僕とエリオだけだ。エリオはとても優しい女の子で、お父さんと同じ武器職人になるべく小さい頃からずっと修行してきた。
信じられないほどに熱い高温の火を操るのは、女の子には厳しいかもと思っていた時期もあった。それでもエリオの真剣な眼差しと、挫けない強い気持ちが身になっていったのだろう。最近では仕上げを任せてもらえることも増えてきたとか。きっと凄腕の職人になるに違いない。サビオさんからも筋がいいと褒められているので、かなり期待をしてもいいだろう。
僕に関しては、何かしら職業をもらって村の役に立てれば御の字だ。一応、農家の職業でも授かれれば、村の役に立てるのではと思っている。
実は僕は捨て子であったので、両親のことは知らない。小さい頃はエリオの家で面倒をみてもらっていた。十歳を超えた頃から村の畑の一部を任され、作物の成長を眺めながら少しずつ自分が村の力に成れていることを感じ始めている。畑を耕すことは自然と共に生きていくことでもある。僕はそんな暮らしが嫌いではない。むしろ自分に合っているかもしれないとも思い始めている。だからこそ、エリオには悪いけど、防具屋さんになるよりも農家になりたい。
「それで、バッカス兄ちゃん、神官様はいつ来るの?」
「明日か明後日には来るそうだぞ。村長から仕事が片付いたら二人を呼んできてくれって言われてるんだ。おそらく、儀式の話と今後についての話があるんだと思う」
僕は畑仕事が好きだ。日々、手を掛けただけ成長しているのを見ると自分も元気になれる。手先も器用なので、仕事道具も研究したりして、村のみんなにも使ってもらっていて好評だ。この仕事は天職かもしれないな、なんて思っている。
「うん、バッカス兄ちゃん。これからお昼にしようと思ってたとこだよ」
「そうか、お邪魔じゃなければ一緒に食おうか」
バッカス兄ちゃんの視線の先には、お昼ごはんの準備をしているエリオの姿が見えているのだろう。毎度のことではあるが、お昼ごはんを用意してもらえるのは本当にありがたい。
エリオは僕の育ての親であるサビオさんの娘で、僕とはいわゆる幼馴染みの関係だ。でも、小さい頃から兄弟のように育てられてきたので、どちらかというと妹のように大事に思っている。
「お邪魔じゃないですよー。多めに作ってきてるから、バッカス兄ちゃんもどうぞ」
今年は麦が豊作だったこともあって、食糧は全体的に余裕がある。エリオ得意の焼きパンに朝採れた野菜をはさんでサンドイッチにしているのだ。エリオの両手には温めてきた鍋があり、中身は野菜にビーグ鳥の肉が骨ごと煮込んである絶品スープだ。
「お前たちは本当に仲がいいな。実は、エリオにも話があったんだよ。実はな、神官様が村に来る日が決まったらしいんだ」
「神官様……!? ということは、ようやく僕たちも職業を授かれるのですね!」
バッカス兄ちゃんは大きく頷くと、ニカッと白い歯の笑顔をみせた。
「レックスはなりたい職業があるのか?」
「決まってるじゃない。手先の器用なレックスは防具職人になって、私と一緒にサビオ武器店を大きくするのよね?」
「うーん、確かにこの村には防具屋さんがないから喜ばれるかもしれないけど、買ってくれる人も少ないからね……」
寂れた村だけに、冒険者パーティが訪れることなんてめったにない。正直なところサビオさんの武器店だって経営は厳しく、兼業で畑を耕して何とか生計が成り立っているぐらいだ。いくら僕の手先が器用でも本格的な防具とかはそれなりに修業が必要だろう。村から多少の支援はあったものの、僕をここまで育ててくれた恩はいつか返したいと思っている。
そういう意味において、授かる職業には少なからず興味があるのは事実だ。
「何をいってるのレックス。すっごい武器や防具をつくって街に売り出しに行くの! そうしたらいつか街でも商売出来るようになるかもしれないわよ」
「おー、それは楽しみだな。もしそうなったら、うちの道具も街でいっぱい売ってくれよ。あっはっは!」
「あー、バッカス兄ちゃん、私たちが出来ないと思ってるー! もう、レックスも言ってやってよ」
と言われても、僕の職業が防具屋さんになることを前提で話されても困ってしまう。エリオは、かなりの確率で武器屋さんになれるだろう。職業というのは、ある程度血縁に準じて授かることが多いのだ。
一般的に十五歳になると神殿へ行き、自分に適した職業を授かることになる。大抵の場合は、親と同じ職業になることが多い。バッカス兄ちゃんは、親と同じ道具屋だったし、村長の息子であるトールさんの職業はそのまま村長だった。
職業には、勇者とか賢者という凄い職業を授かる場合もあるらしいけど、こんな寂れた村から戦闘職が出ることはないだろう。うちの村では、ギベオンおじさんが唯一の戦闘職で狩人だ。昔は冒険者をやっていたらしいけど、年齢による衰えとともに引退し、街の防衛と近隣のモンスターの間引きをしてくれている。
ということで、特に期待されていない我がブンボッパ村からは街にある神殿に行くこともなく、手の空いている神官様が薬草やポーション、聖水などを売りに来るタイミングに合わせて、ついでに占ってもらうことになっているらしい。
ちなみに、ブンボッパ村から今年十五歳を迎えるのは僕とエリオだけだ。エリオはとても優しい女の子で、お父さんと同じ武器職人になるべく小さい頃からずっと修行してきた。
信じられないほどに熱い高温の火を操るのは、女の子には厳しいかもと思っていた時期もあった。それでもエリオの真剣な眼差しと、挫けない強い気持ちが身になっていったのだろう。最近では仕上げを任せてもらえることも増えてきたとか。きっと凄腕の職人になるに違いない。サビオさんからも筋がいいと褒められているので、かなり期待をしてもいいだろう。
僕に関しては、何かしら職業をもらって村の役に立てれば御の字だ。一応、農家の職業でも授かれれば、村の役に立てるのではと思っている。
実は僕は捨て子であったので、両親のことは知らない。小さい頃はエリオの家で面倒をみてもらっていた。十歳を超えた頃から村の畑の一部を任され、作物の成長を眺めながら少しずつ自分が村の力に成れていることを感じ始めている。畑を耕すことは自然と共に生きていくことでもある。僕はそんな暮らしが嫌いではない。むしろ自分に合っているかもしれないとも思い始めている。だからこそ、エリオには悪いけど、防具屋さんになるよりも農家になりたい。
「それで、バッカス兄ちゃん、神官様はいつ来るの?」
「明日か明後日には来るそうだぞ。村長から仕事が片付いたら二人を呼んできてくれって言われてるんだ。おそらく、儀式の話と今後についての話があるんだと思う」
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