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44話 精霊ウンディーネ
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一瞬のことに何もできなかった。傷を負ったレッドドラゴンは手段を選ばずに行動に移してきたのだ。その圧倒的な迫力と恐ろしさに身動きすらできなかった。現在は、生臭い唾液に包まれながら、ものすごい速度で空を飛んでいるっぽい。ファイアブレスも吹かれないし、ただ、獲物として狙われただけのこの呪われた鎧がうらめしい。
ルンルンのバカヤロー!
いや、ちょっと待てよ。僕は今レッドドラゴンの口の中にいるのであって、ここで拳銃をぶっ放せば高い確率で攻撃が通るのではないだろうか……でも、その後のことを考えると、とても躊躇わせさせる。何故なら、現在僕のいる場所は街がとても小さく見えていて、人が蟻ぐらいのサイズに映っているわけで。ここで落とされたら即死間違いないことだろう。
となると、攻撃はレッドドラゴンが巣に戻った瞬間を狙うべきだよね。巣が断崖絶壁とかでないことを切に願いたい。あと、帰り道がなるべく分かりやすい場所だとうれしいな……。
レッドドラゴンが欲しいのは僕ではなく鎧のピカピカなのだ。巣に戻ったら間違いなく、鎧だけ飾られて僕は爪で引っ張り出されて食べられてしまうのだろう。巣に到着した段階で、再びサバチャイさんを召喚するしかないか。逃げ切れるイメージは全く無いのだけど、サバチャイさんなら何かやってくれそうな期待感だけはある。さっきだって奇跡とはいえ、レッドドラゴンの尻尾を斬ってみせたのだ。
と、レッドドラゴンとの空の旅については半分諦めかけていた時、背中をツツーと伝うように寒気のような、どこか恐ろしいぐらいに冷たい感覚が包み込もうとしてきた。
その感覚はあっという間に僕の感覚を麻痺させてくる。レッドドラゴンもその異変に気がついたようで、首をキョロキョロとさせては見えない何かを探していた。
あたり一面を包み込むような静寂と凍てつくような寒さ。空を飛んでいるはずなのに、その動きを感じられない。まるで時間が止まってしまったかのような感覚。表現をするのならば、世界から切り取られた異空間に連れてかれてしまったかのように感じられた。
「……ルーク、お待たせしてしまいましたね。今から、お助けしますわ」
こ、これは、シャーロット様の声!?
しかしながら、空にシャーロット様がいる訳がない。
僕の頭がおかしくなってしまったのだろうか。体中の感覚が無くなってしまったかのように冷たく凍え、僕の意識も徐々に薄くなっていく。死を連想させるような冷たい心地よさ。僕はもう死んでしまうのかもしれない。
でも、不思議と嫌な感覚ではない。こんなに気持ちよく死ねるのなら、それはそれで悪くないのかもしれないと思うほどに。
「あぁ、ルーク。そこはとても冷たいのですね。もう少し我慢してください。私もあまり長い時間は、この姿でいられません……」
そんな言葉が聞こえたような気がする……。
少し苦しそうなシャーロット様の声。でもすでに僕の体は、いうことを聞かないようで眠るようにして、その意識を手放してしまった。
※※※
「白い姉ちゃん、ずいぶんでっかくなったね……」
地上にいる全ての人が、その幻想的な姿に釘付けになっていた。何を言っているかわからないと思うが、シャーロット様がレッドドラゴンを両手で包み込むようにして立っているのだ。
それは水色のように透き通った、まるで精霊ウンディーネの姿のように見えた。
「あれが上級召喚獣の力なのか……」
圧倒的かつ荘厳で美しい、周りの空気まで変えてしまうような威厳を感じさせる。これが上級召喚獣、四大精霊の一柱。水のウンディーネ。
「あんなでっかくなれるんなら、最初からドラゴンと戦ってくれればよかったね」
「いや、あれだけのことやるには、それなりに時間とかかかるんじゃねぇの。それに、気のせいか、あの姉ちゃん少し苦しそうにしてないか?」
下から見上げているだけなので、顔の表情までは詳しくわからない。それでも時折り見えるその表情からは、ポリスマンの言うように少し眉間にしわの寄った苦しげな表情に見えなくもない。普段見ていた笑顔のシャーロットとは違うように思える。
「シャーロット……」
娘を心から心配するようにレイモンドも空を見上げていた。これが何の代償も無しに得られる力ではないことを理解していた。ソフィアに続いてシャーロットまで。自分の娘が傷付いて行く姿を、黙って見ているだけしかできない不甲斐なさ。……いや、まだやれることはある。娘やその友人たちがここまでの力を見せてくれたのだ。
「広範囲魔法を準備!!」
レッドドラゴンは現在上空にいる。上空であれば周囲の被害を考えなくてもいい。シャーロットに続く攻撃を準備しておく。
「公爵様、出力は?」
「最大で準備しておけ! これが最後の攻撃のつもりで、全ての魔力を絞り出すのだ。それから、風属性の召喚師は上空のルーク君を救出するように動きなさい」
日々、厳しい訓練を受けている公爵軍の精鋭達も、各々覚悟を決め自身が撃てる最大魔法の準備に取り掛かっている。目の前で少年、そしてシャーロットまでもが、レッドドラゴン相手にあそこまでの力をみせているのだ。彼らは本来であれば自分たちが守らなければならない対象である。
しかもレッドドラゴンは、シャーロット様が両手で押さえているので狙いは定めやすい。シャーロット様の姿が元に戻った瞬間に攻撃を行うことになるのだろう。
ルンルンのバカヤロー!
いや、ちょっと待てよ。僕は今レッドドラゴンの口の中にいるのであって、ここで拳銃をぶっ放せば高い確率で攻撃が通るのではないだろうか……でも、その後のことを考えると、とても躊躇わせさせる。何故なら、現在僕のいる場所は街がとても小さく見えていて、人が蟻ぐらいのサイズに映っているわけで。ここで落とされたら即死間違いないことだろう。
となると、攻撃はレッドドラゴンが巣に戻った瞬間を狙うべきだよね。巣が断崖絶壁とかでないことを切に願いたい。あと、帰り道がなるべく分かりやすい場所だとうれしいな……。
レッドドラゴンが欲しいのは僕ではなく鎧のピカピカなのだ。巣に戻ったら間違いなく、鎧だけ飾られて僕は爪で引っ張り出されて食べられてしまうのだろう。巣に到着した段階で、再びサバチャイさんを召喚するしかないか。逃げ切れるイメージは全く無いのだけど、サバチャイさんなら何かやってくれそうな期待感だけはある。さっきだって奇跡とはいえ、レッドドラゴンの尻尾を斬ってみせたのだ。
と、レッドドラゴンとの空の旅については半分諦めかけていた時、背中をツツーと伝うように寒気のような、どこか恐ろしいぐらいに冷たい感覚が包み込もうとしてきた。
その感覚はあっという間に僕の感覚を麻痺させてくる。レッドドラゴンもその異変に気がついたようで、首をキョロキョロとさせては見えない何かを探していた。
あたり一面を包み込むような静寂と凍てつくような寒さ。空を飛んでいるはずなのに、その動きを感じられない。まるで時間が止まってしまったかのような感覚。表現をするのならば、世界から切り取られた異空間に連れてかれてしまったかのように感じられた。
「……ルーク、お待たせしてしまいましたね。今から、お助けしますわ」
こ、これは、シャーロット様の声!?
しかしながら、空にシャーロット様がいる訳がない。
僕の頭がおかしくなってしまったのだろうか。体中の感覚が無くなってしまったかのように冷たく凍え、僕の意識も徐々に薄くなっていく。死を連想させるような冷たい心地よさ。僕はもう死んでしまうのかもしれない。
でも、不思議と嫌な感覚ではない。こんなに気持ちよく死ねるのなら、それはそれで悪くないのかもしれないと思うほどに。
「あぁ、ルーク。そこはとても冷たいのですね。もう少し我慢してください。私もあまり長い時間は、この姿でいられません……」
そんな言葉が聞こえたような気がする……。
少し苦しそうなシャーロット様の声。でもすでに僕の体は、いうことを聞かないようで眠るようにして、その意識を手放してしまった。
※※※
「白い姉ちゃん、ずいぶんでっかくなったね……」
地上にいる全ての人が、その幻想的な姿に釘付けになっていた。何を言っているかわからないと思うが、シャーロット様がレッドドラゴンを両手で包み込むようにして立っているのだ。
それは水色のように透き通った、まるで精霊ウンディーネの姿のように見えた。
「あれが上級召喚獣の力なのか……」
圧倒的かつ荘厳で美しい、周りの空気まで変えてしまうような威厳を感じさせる。これが上級召喚獣、四大精霊の一柱。水のウンディーネ。
「あんなでっかくなれるんなら、最初からドラゴンと戦ってくれればよかったね」
「いや、あれだけのことやるには、それなりに時間とかかかるんじゃねぇの。それに、気のせいか、あの姉ちゃん少し苦しそうにしてないか?」
下から見上げているだけなので、顔の表情までは詳しくわからない。それでも時折り見えるその表情からは、ポリスマンの言うように少し眉間にしわの寄った苦しげな表情に見えなくもない。普段見ていた笑顔のシャーロットとは違うように思える。
「シャーロット……」
娘を心から心配するようにレイモンドも空を見上げていた。これが何の代償も無しに得られる力ではないことを理解していた。ソフィアに続いてシャーロットまで。自分の娘が傷付いて行く姿を、黙って見ているだけしかできない不甲斐なさ。……いや、まだやれることはある。娘やその友人たちがここまでの力を見せてくれたのだ。
「広範囲魔法を準備!!」
レッドドラゴンは現在上空にいる。上空であれば周囲の被害を考えなくてもいい。シャーロットに続く攻撃を準備しておく。
「公爵様、出力は?」
「最大で準備しておけ! これが最後の攻撃のつもりで、全ての魔力を絞り出すのだ。それから、風属性の召喚師は上空のルーク君を救出するように動きなさい」
日々、厳しい訓練を受けている公爵軍の精鋭達も、各々覚悟を決め自身が撃てる最大魔法の準備に取り掛かっている。目の前で少年、そしてシャーロットまでもが、レッドドラゴン相手にあそこまでの力をみせているのだ。彼らは本来であれば自分たちが守らなければならない対象である。
しかもレッドドラゴンは、シャーロット様が両手で押さえているので狙いは定めやすい。シャーロット様の姿が元に戻った瞬間に攻撃を行うことになるのだろう。
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