上 下
127 / 151

126 盗賊制圧ガチャ1

しおりを挟む
 カルメロ商会のリンドンシティ支店では、突然の来客と街を賑わすバルドル事件によって慌ただしくしていた。

「何だか、すまないにゃ」

 謝ってはいるが忙しくさせた張本人である。

「あっ、いえ。みなさんが来られた時には力になるように会長からも言われておりますので問題ございません」

 誤算だったのはバルドル事件と重なったことだろう。まあ、そのバルドル事件に関しても僕たちが持ってきたようなものなんだけどね。

 ちなみに、僕たちパーティの対応をしてくれているのは支店長のジョーカーさん。まさかこの忙しいタイミングにも関わらず支店自ら対応してくれるとは思わなかった。

 できる執事って感じの人だ。こちらもカルメロさん同様に冒険者上がりの方で、信頼もかなり厚いとのこと。

 今夜は商会の集まりがあるとのことで一緒に夕食をとれないことを本当に悲しがっていた。まあ、僕たちも久し振りのベッドでの睡眠になるため少なくともバルドルの件がどうなるのか決まるくらいまでは滞在していると思う。

 僕たちはともかく、少なくとも猫さんは動かなそうだしね。

 まあ、それはそれとして新しいガチャが現れたことを報告しておこう。その名も『盗賊制圧ガチャ』だ。可能性はあるかなとは思っていたけど、そのまま出現してくれた。

 用意してくれた部屋にみんなで集まり、ガチャの会が開催されている。

「盗賊制圧ガチャ、小銀貨一枚だね」

「それって、どのぐらいのレア度だっけー?」

「ジャイアントトードガチャとか採掘ガチャと同じだね」

「えっ、採掘ガチャってマハリトがいっぱい出たあの伝説のガチャ!?」

「違うよルイーズ。それはレア採掘ガチャの方だね。あれは銀貨一枚だけど、今回のは小銀貨一枚なんだ」

 そう考えると少し微妙なガチャになる。バルドルの冒険者ランクがCだっただけに期待をしていたのだけど現れたのは千円ガチャ。まあ、制圧といっても全員を倒しているわけではないし、半分は聖なるブレスで天使にしてるからね。

 それなりに緊張感のある討伐ではあったけど、レア度の判定は厳しいようだ。まあ、そんなこともあるか。

「じゃあ、あんまり期待できないねー」

「そうなんだよね」

 それでもみんなはがっかりした感じではなく、それなりに楽しそうに見守ってくれる。やはり、スキルの珍しさとガチャの意外性に何だかんだ期待しているのだろう。

 僕がガチャを起動させると、はじまったねとルリカラが僕の前の特等席に座る。ガチャは最前列で鑑賞したいタイプのドラゴンだ。

 現れたガチャは、採掘ガチャのようなゴツゴツとした岩肌のガチャだ。これは盗賊団の拠点である洞窟をイメージしているのだろうか。

 僕が小銀貨を握りしめてガチャに近づくと、洞窟の入口から小さな盗賊団が列をつくって現れた。

「現れたか盗賊団め」

「盗賊が出てきたの?」

「うん、三人の盗賊がガチャから出てきてる」

 慣れてきたのか、ルリカラもここは静観の構えだ。微妙にぷるぷると足を出しそうにはなっているもののこらえている。

 いや、例え襲われたとしてもガチャの小さな入口から現れたスケルトンなので、そのサイズは親指程度。全力で叩かれてもきっと何も感じないだろう。

 これは採掘ガチャのスケルトンを想像させるガチャ演出だ。

「まずは一回、回してみようか」

 小銀貨を投入すると、盗賊の肩が上下に揺れまるでその場で動いているかのような演出がはじまる。

 それは、まるで何者かと戦闘しているような感じといったらいいだろうか。RPGゲームの戦闘シーンのように見えなくもない。

 ガチャを一回、ゆっくりと回すとガチャガチャの画面に選択肢が現れる。

 ▶たたかう
 ▶まもる
 ▶にげる

 これは、目の前の盗賊と戦えということなのだろう。ならば、僕の選択肢は『たたかう』だ。当たり前だけど逃げるという選択肢はない。

 ▶たたかう
  ▶武器
  ▶魔法

 『たたかう』を選択すると次に『武器』か『魔法』を選ぶようになる。

 まずは様子見で武器を選択してみよう。

「いけー! えっ、こ、これは……ルイーズだ」

 盗賊の前に現れたのは小さなルイーズ。ガチャガチャの画面には『疾風のレイピア』で攻撃と出ている。

「えっ、なに、なにー。私がどうしたのー?」

 当然のことにルリカラも固まってしまっている。まさか、ガチャ演出で実際の仲間が現れるとは想定外もいいところだ。

「ガチャから現れた盗賊とルイーズが戦ってるんだ」

「わ、わたしー!?」

「僕が攻撃を選んでルイーズを戦わせてる感じ」

「何を言ってるのかよくわからないってー」

 RPGゲームを経験したことがないルイーズにその説明を理解してもらうのは難しい。

「あっ、一人倒した!」

 ルイーズの攻撃により盗賊の数は三人から二人へと減った。

 すると、盗賊の一人が前に出る。次はこちらの攻撃の番とでも言うのだろう。

 しかしながら、ルイーズの巧みなステップが発動してその攻撃はミスとなる。

「やるー! ルイーズ」

「だから、どうなってるのよー!」

「ルイーズが盗賊の攻撃を躱したんだ」

 情報共有がここまで難しいとは、何でガチャ演出をみんなで共有できないのか。

 すると、ルリカラが立ち上がりガチャに向けて偉大な聖なるブレスを吹きつけたのだ。

「えっ、ちょっとルリカラさん?」

「み、見えたー!」
「こ、これが、ガチャなのね」
「すごいにゃ、盗賊とルイーズが戦ってるにゃ」

 なんと、ルリカラの聖なるブレスが奇跡を起こしてしまった。

 アドリーシャにいたっては、突然目の前に現れたガチャガチャの機械に驚いて言葉も出てこない様子。

「ねえ、ニール。次は、どうするの?」

「さっきは武器攻撃を選択したから、今度は魔法攻撃にしてみようと思う」

 再び、たたかうから今度は魔法攻撃を選択する。すると、次に現れたのはルリカラだった。

「きゃー、小さなルリカラちゃん、激かわ!」

「す、すごい、まるで、本物みたいに宙を浮いてるわ」

 この演出にはルリカラも目を大きくして完全に固まってしまっている。まさか、自分が出てくるなんて想像もしてなかったに違いない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーし俺を閉じ込め高見の見物をしている奴を殴り飛ばす~

うみ
ファンタジー
 港で荷物の上げ下ろしをしたり冒険者稼業をして暮らしていたウィレムは、女冒険者の前でいい顔をできなかった仲間の男に嫉妬され突き飛ばされる。  落とし穴に落ちたかと思ったら、彼は見たことのない小屋に転移していた。  そこはとんでもない場所で、強力なモンスターがひしめく魔窟の真っただ中だったのだ。 幸い修行をする時間があったウィレムはそこで出会った火の玉と共に厳しい修行をする。  その結果たった一つの動作をコピーするだけだった外れスキル「トレース」が、とんでもないスキルに変貌したのだった。  どんな動作でも記憶し、実行できるように進化したトレーススキルは、他のスキルの必殺技でさえ記憶し実行することができてしまう。  彼はあれもこれもコピーし、迫りくるモンスターを全て打ち倒していく。  自分をここに送った首謀者を殴り飛ばすと心の中に秘めながら。    脱出して街に戻り、待っている妹と郊外に一軒家を買う。  ささやかな夢を目標にウィレムは進む。   ※以前書いた作品のスキル設定を使った作品となります。内容は全くの別物となっております。

玲眠の真珠姫

紺坂紫乃
ファンタジー
空に神龍族、地上に龍人族、海に龍神族が暮らす『龍』の世界――三龍大戦から約五百年、大戦で最前線に立った海底竜宮の龍王姫・セツカは魂を真珠に封じて眠りについていた。彼女を目覚めさせる為、義弟にして恋人であった若き隻眼の将軍ロン・ツーエンは、セツカの伯父であり、義父でもある龍王の命によって空と地上へと旅立つ――この純愛の先に待ち受けるものとは? ロンの悲願は成就なるか。中華風幻獣冒険大河ファンタジー、開幕!!

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

ハズれギフトの追放冒険者、ワケありハーレムと荷物を運んで国を取る! #ハズワケ!

寝る犬
ファンタジー
【第3回HJ小説大賞後期「ノベルアップ+」部門 最終選考作品】 「ハズワケ!」あらすじ。 ギフト名【運び屋】。 ハズレギフトの烙印を押された主人公は、最高位のパーティをクビになった。 その上悪い噂を流されて、ギルド全員から村八分にされてしまう。 しかし彼のギフトには、使い方次第で無限の可能性があった。 けが人を運んだり、モンスターをリュックに詰めたり、一夜で城を建てたりとやりたい放題。 仲間になったロリっ子、ねこみみ何でもありの可愛い女の子たちと一緒に、ギフトを活かして、デリバリーからモンスター討伐、はては他国との戦争、世界を救う冒険まで、様々な荷物を運ぶ旅が今始まる。 ※ハーレムの女の子が合流するまで、マジメで自己肯定感の低い主人公の一人称はちょい暗めです。 ※明るい女の子たちが重い空気を吹き飛ばしてゆく様をお楽しみください(笑) ※タイトルの画像は「東雲いづる」先生に描いていただきました。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...