120 / 151
119 バルドル盗賊団1
しおりを挟む
風の谷の集落を出てから数日、今日も馬車旅はのんびりと進んでいく。やはり急ぐ旅ではないというのがいい。
あらためて旅の醍醐味というのを感じはじめていた。しかしながら、ならず者というのはどこにでもいるようで、ついに僕も盗賊団というものに出くわしてしまった。
王国と比べると、割りかしのどかな印象な聖イルミナ共和国ではあったのたけど、やはりどこにでも悪い人というのはいるらしい。
その異変を最初に感じとったのはアドリーシャ。うちのパーティにおいて一番感知能力の高い聖女見習いだ。
「前方で馬車が襲われております。盗賊と思われます。盗賊の数は八名程度でございます」
盗賊というと同じ人なわけで、助けるということは、対人戦闘を行なうということになる。
人と人との戦いは王国で追われていたときに経験はしているものの、僕自身は後方支援メインで直接向かい合って戦ったわけではない。
「助けに入りましょう」
アルベロの判断は迷うことなく助けに入るという判断。まあ、そうだよね。
猫さんもいつの間にか、お昼寝から目覚めて戦闘態勢に入っていく。
作戦はいつも通り、アルベロの遠距離攻撃で相手の数を減らしてから、前衛組が制圧にかかる。
僕は御者でアドリーシャは馬車からの後方支援。アルベロは馬車の上に乗り、短弓ハジャーダを準備する。
そうして見えてきた襲われている馬車にはどこか見覚えのある紋章が描かれていた。
「カルメロ商会の馬車にゃ」
あの採掘用のハンマーと宝石のマークは間違いなくカルメロ商会のもの。
これで助けなくてはならない理由もできてしまった。
盗賊団もこちらに気づいたのか、襲った馬車の後に隠れるようにして、こちらの様子を窺っている。
隠れられてしまうと、アルベロも狙いを付けるのが難しくなる。そうなると、前衛組の出番となる。
「行った方がいいでしょうか?」
「アドリーシャは、キャットアイとルイーズにマポーフィックを」
そこの聖女見習いさんよ。毎回僕に指示させるのはそろそろ勘弁願いたい。
アドリーシャはマジカルメイスをぐっと握りしめてマポーフィックを二人に放つ。
やはり気持ち的にはメイスを振り回したいようだ。
魔法の盾がついたキャットアイとルイーズは左右に回り込むように馬車へと向かっていく。そのスピードはいつもよりも速い。
風属性の付与が影響しているのは言うまでもない。
そして、近づけさせまいと弓を構えた盗賊が出てくると、それを狙いすましたかのようにアルベロの矢が命中していく。
どうやら、遠距離攻撃手段を持っていたのは二名だけで、アルベロに既に無力化させてしまった。
残りの六人もキャットアイが三人を、ルイーズが二人を倒しており、残すところ一人のみ。
「く、くそっ! う、動いたらこいつの命はないぞ。は、早く武器を捨てろ!」
こうならないようにスピード重視で攻めたのだけど、あと一歩のところで人質を取られてしまった。
「何で武器を捨てなきゃならないにゃ?」
「ああ? こいつの命がなくなってもいいっていうのか!」
「たった一人の犠牲で積荷と他の乗員が助かるなら商会からは十分に謝礼がもらえるレベルにゃ」
「なっ、お、お前、鬼か?」
鬼ではなく猫である。しかしながら、猫さんがただ時間稼ぎをしていたわけではない。
僕たちが近づいてくるのを待っていたのだ。正確にはアドリーシャのマポーフィックが届く距離になるまで。
「アドリーシャ、人質に魔法を」
「はい。マポーフィック」
僕の後に隠れるようにしてマジカルメイスを抱えていたアドリーシャが魔法を放つと、人質の方と盗賊の間に魔法の盾が形成される。
「なっ、な!」
盗賊が人質に刃を向けるものの、アドリーシャのマポーフィックは見事にその攻撃を弾いてみせる。
弾かれた武器を拾おうとしたその時には、ルイーズとキャットアイの剣先が盗賊の首元にあった。
見事なものである。またしても僕だけ何もやっていないような気がしないでもない。
まあ、無事に解決できたのだからいいんだけどね。
「キャットアイ様、お助け頂き誠にありがとうございます」
「構わないにゃ。こいつらは?」
どうやら、キャットアイの顔見知りだったらしい。
「ミスリル宝石を狙ったバルドル盗賊団のようです」
バルドル盗賊団とは、この地域の山間部を根城にしている有名な盗賊団らしく、商会も困っていたそうだ。
残念なことに、護衛を頼んでいたDランクの冒険者二名がこの戦闘で命を落としていた。
僕たちの到着がもう少し遅かったら商会の方の命も危なかっただろう。
「積み荷と馬車は無事にゃ?」
「はい、おかげさまで大丈夫そうです。あと、こちらをアルベロ様にお届けするようにいわれております」
イルミナ大聖堂から聖都方向に向かったという情報を得て、中継都市のリンドンシティに向かっていたらしい。
僕たちが風の谷の集落で寄り道をしていたあたりで抜かされていたのだろう。
「これって、アダマンタイトの矢じりね? あやうく盗賊団に奪われるところだったのね。ちょっと、滅ぼそうかしら。そのバルドル盗賊団」
アルベロが珍しく怒っている。
「バルドル盗賊団は五十人規模の賊です。山間部の洞窟を根城にして、そこは迷路のように入り組んでいるらしく討伐難易度もかなり高いそうです」
「問題ございません。やりましょう、アルベロさん」
君はいつも乗り気だよねアドリーシャ。
あらためて旅の醍醐味というのを感じはじめていた。しかしながら、ならず者というのはどこにでもいるようで、ついに僕も盗賊団というものに出くわしてしまった。
王国と比べると、割りかしのどかな印象な聖イルミナ共和国ではあったのたけど、やはりどこにでも悪い人というのはいるらしい。
その異変を最初に感じとったのはアドリーシャ。うちのパーティにおいて一番感知能力の高い聖女見習いだ。
「前方で馬車が襲われております。盗賊と思われます。盗賊の数は八名程度でございます」
盗賊というと同じ人なわけで、助けるということは、対人戦闘を行なうということになる。
人と人との戦いは王国で追われていたときに経験はしているものの、僕自身は後方支援メインで直接向かい合って戦ったわけではない。
「助けに入りましょう」
アルベロの判断は迷うことなく助けに入るという判断。まあ、そうだよね。
猫さんもいつの間にか、お昼寝から目覚めて戦闘態勢に入っていく。
作戦はいつも通り、アルベロの遠距離攻撃で相手の数を減らしてから、前衛組が制圧にかかる。
僕は御者でアドリーシャは馬車からの後方支援。アルベロは馬車の上に乗り、短弓ハジャーダを準備する。
そうして見えてきた襲われている馬車にはどこか見覚えのある紋章が描かれていた。
「カルメロ商会の馬車にゃ」
あの採掘用のハンマーと宝石のマークは間違いなくカルメロ商会のもの。
これで助けなくてはならない理由もできてしまった。
盗賊団もこちらに気づいたのか、襲った馬車の後に隠れるようにして、こちらの様子を窺っている。
隠れられてしまうと、アルベロも狙いを付けるのが難しくなる。そうなると、前衛組の出番となる。
「行った方がいいでしょうか?」
「アドリーシャは、キャットアイとルイーズにマポーフィックを」
そこの聖女見習いさんよ。毎回僕に指示させるのはそろそろ勘弁願いたい。
アドリーシャはマジカルメイスをぐっと握りしめてマポーフィックを二人に放つ。
やはり気持ち的にはメイスを振り回したいようだ。
魔法の盾がついたキャットアイとルイーズは左右に回り込むように馬車へと向かっていく。そのスピードはいつもよりも速い。
風属性の付与が影響しているのは言うまでもない。
そして、近づけさせまいと弓を構えた盗賊が出てくると、それを狙いすましたかのようにアルベロの矢が命中していく。
どうやら、遠距離攻撃手段を持っていたのは二名だけで、アルベロに既に無力化させてしまった。
残りの六人もキャットアイが三人を、ルイーズが二人を倒しており、残すところ一人のみ。
「く、くそっ! う、動いたらこいつの命はないぞ。は、早く武器を捨てろ!」
こうならないようにスピード重視で攻めたのだけど、あと一歩のところで人質を取られてしまった。
「何で武器を捨てなきゃならないにゃ?」
「ああ? こいつの命がなくなってもいいっていうのか!」
「たった一人の犠牲で積荷と他の乗員が助かるなら商会からは十分に謝礼がもらえるレベルにゃ」
「なっ、お、お前、鬼か?」
鬼ではなく猫である。しかしながら、猫さんがただ時間稼ぎをしていたわけではない。
僕たちが近づいてくるのを待っていたのだ。正確にはアドリーシャのマポーフィックが届く距離になるまで。
「アドリーシャ、人質に魔法を」
「はい。マポーフィック」
僕の後に隠れるようにしてマジカルメイスを抱えていたアドリーシャが魔法を放つと、人質の方と盗賊の間に魔法の盾が形成される。
「なっ、な!」
盗賊が人質に刃を向けるものの、アドリーシャのマポーフィックは見事にその攻撃を弾いてみせる。
弾かれた武器を拾おうとしたその時には、ルイーズとキャットアイの剣先が盗賊の首元にあった。
見事なものである。またしても僕だけ何もやっていないような気がしないでもない。
まあ、無事に解決できたのだからいいんだけどね。
「キャットアイ様、お助け頂き誠にありがとうございます」
「構わないにゃ。こいつらは?」
どうやら、キャットアイの顔見知りだったらしい。
「ミスリル宝石を狙ったバルドル盗賊団のようです」
バルドル盗賊団とは、この地域の山間部を根城にしている有名な盗賊団らしく、商会も困っていたそうだ。
残念なことに、護衛を頼んでいたDランクの冒険者二名がこの戦闘で命を落としていた。
僕たちの到着がもう少し遅かったら商会の方の命も危なかっただろう。
「積み荷と馬車は無事にゃ?」
「はい、おかげさまで大丈夫そうです。あと、こちらをアルベロ様にお届けするようにいわれております」
イルミナ大聖堂から聖都方向に向かったという情報を得て、中継都市のリンドンシティに向かっていたらしい。
僕たちが風の谷の集落で寄り道をしていたあたりで抜かされていたのだろう。
「これって、アダマンタイトの矢じりね? あやうく盗賊団に奪われるところだったのね。ちょっと、滅ぼそうかしら。そのバルドル盗賊団」
アルベロが珍しく怒っている。
「バルドル盗賊団は五十人規模の賊です。山間部の洞窟を根城にして、そこは迷路のように入り組んでいるらしく討伐難易度もかなり高いそうです」
「問題ございません。やりましょう、アルベロさん」
君はいつも乗り気だよねアドリーシャ。
6
お気に入りに追加
1,825
あなたにおすすめの小説
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜
ばふぉりん
ファンタジー
こんなスキルあったらなぁ〜?
あれ?このスキルって・・・えい〜できた
スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。
いいの?

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる