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ラウラの森に入るところで、馬車が待機してくれている。カルメロ商会が用意してくれた国境付近の街まで連れて行ってくれる馬車だ。
「待たせたにゃ」
いえ、待ってません。何ならほぼ同時じゃないだろうか。
「ギルドとの契約はちゃんと解約できたんですか?」
「文句言って契約金をつり上げたらすぐに解約されたにゃ。ちょうど他のAランクが戻ってきたところだったから、そっちに再依頼するつもりのようにゃ」
「これから依頼するってことか。なら、しばらくは時間が稼げそうなのかな」
「それはどうだろにゃ。夜にカルデローネが心配して声をあげる可能性もあるにゃ」
「カルデローネさんなら、ありえそうだよねー」
「仕事できる人だもんね」
僕たちのパーティはクエスト受注して報告なしにギルドへ戻らなかったことはない。そうなると、カルデローネさんが心配して相談する可能性は高い。
夜から捜索がはじまることはないと思いたい。宿に戻っていないのを確認して翌朝に騒ぎ出すぐらいだと助かるかな。
その頃には僕たちはかなり遠くの方まで進んでいるだろう。
さて、国境を目指すにあたりどの国へ向かうのかは三人の判断に任せた。そもそも僕はこの世界のことを何も知らないからね。
この国、リメリア王国と領土を接している国は二つ。一番距離が近いのがアルジーラ帝国で、国境の街までは西へ馬車で二十日程度。次が聖イルミナ共和国で東に馬車で三十日程度かかる。
僕たちが向かう場所は聖イルミナ共和国だ。アルベロとキャットアイはこの国で暮らしていたことがあるそうだ。ということで、馬車で進む道すがら話を聞きたいと思う。
「ねぇアルベロ。聖イルミナ共和国ってどんなとこなの?」
「端的に言うと宗教国家ね」
王様がいない代わりに、国民から代表として選ばれた人たちが政治を行うらしい。
「権力が集中しなそうでいい国なんじゃない」
「そうでもないわ」
国民の九十パーセント以上がイルミナ教の信者なので、イルミナ教の教皇が毎回代表に選ばれるらしい。
「権力が一極に集中してるよ!」
「えー、大丈夫なのー?」
僕と同じく心配するのはルイーズだ。彼女も国を出るのは初めてのことなので、この世界の知識を除けば立場は僕と同じになる。
「私利私欲で政治をするほど汚職にまみれてはいないから平気よ」
「そのへんは一応聖職者にゃ。信者が見ている前であまりにもひどい政治はできないにゃ」
それならばやっぱりいい国なのではないかと思うのだけど、異宗教を伝える人や信仰を妨げる人に対しては相当厳しい罰が待っているらしい。
こういった罰に対しては国民も一丸となって賛成してしまうので、聖イルミナ共和国ではイルミナ教に入信しておくのが安全らしい。
「聖イルミナ共和国に入ったら洗礼を受けて十字架のネックレスをもらうにゃ」
「えっ、全員?」
「ルイーズとニールだけにゃ」
どうやら、聖イルミナ共和国に住んでいたアルベロとキャットアイはすでに洗礼を受けているらしい。手元には昔に買ったイルミナ教の十字架のネックレスをじゃらじゃらさせている。
この国、本当に大丈夫なのだろうか。
「イルミナ教信者ならいろいろとお得なのよ」
「割引や特典がすごいにゃ。宿も屋台も冒険者ギルドのクエスト報酬も変わってくるにゃ」
「そんな隅々まで特典が……」
「だから、長く滞在する冒険者や住んでいる人たちは進んで洗礼を受けるにゃ」
それは信仰なのだろうか。でもお得なら入信した方がいいのかもしれない。
でも、本当にいいことだけなのだろうか。
「イルミナ教のデメリットはどうなの?」
「冒険者の場合は毎月お布施が必要になるの」
「お布施ですか」
急に宗教っぽさが出てきた。
「お布施をすることによって街のサービスがさらによくなるにゃ。食堂で一品サービスになったり、ドリンクが付くにゃ」
「ランク分けがあって、お布施をすればするだけ見返りがあるのよ」
「へぇー」
お布施とサービスの見極めは大事な気がする。あまりのめり込むのも危ういよね。つまり、普段のクエストで徴収される税とは別にお布施というものもあると。
「カルメロはお布施によって男爵位を得たにゃ」
カルメロさん、あなたもはまっていたのか。
「わかりやすくお金で爵位を買えるわね」
「男爵になると聖イルミナ共和国で支払う法人税が減額されるにゃ」
「あー、なるほど。それで男爵位を」
「貴族に憧れがあったらしいにゃ」
「……そうですか」
貴族みたいなお屋敷に住んでると思ったけど、本当に貴族だったのか。
「一代限りの男爵位らしいにゃ」
「貴族が増えすぎても困るから一代だけの男爵位を売ってるみたいね」
意外に商売上手な宗教国家なのかもしれない。
「あとね、イルミナ教には聖獣信仰があるの」
「聖獣信仰?」
「アルジーラ帝国ではなく聖イルミナ共和国にした理由の一つにゃ」
聖獣ホワイトドラゴン。
どうやらルリカラのことも国選びに影響があったようだ。
「聖獣信仰のある国なら、何かあった時に守ってもらえる可能性があると思ったの」
「このパーティはリメリア王国を敵に回すことになるにゃ。国を脱出しても何かしらの影響を受ける可能性は否定できないにゃ」
つまり、国を出たからもう大丈夫ということにはならないらしい。それならば、聖獣信仰のある聖イルミナ共和国の庇護を受けようということらしい。
「待たせたにゃ」
いえ、待ってません。何ならほぼ同時じゃないだろうか。
「ギルドとの契約はちゃんと解約できたんですか?」
「文句言って契約金をつり上げたらすぐに解約されたにゃ。ちょうど他のAランクが戻ってきたところだったから、そっちに再依頼するつもりのようにゃ」
「これから依頼するってことか。なら、しばらくは時間が稼げそうなのかな」
「それはどうだろにゃ。夜にカルデローネが心配して声をあげる可能性もあるにゃ」
「カルデローネさんなら、ありえそうだよねー」
「仕事できる人だもんね」
僕たちのパーティはクエスト受注して報告なしにギルドへ戻らなかったことはない。そうなると、カルデローネさんが心配して相談する可能性は高い。
夜から捜索がはじまることはないと思いたい。宿に戻っていないのを確認して翌朝に騒ぎ出すぐらいだと助かるかな。
その頃には僕たちはかなり遠くの方まで進んでいるだろう。
さて、国境を目指すにあたりどの国へ向かうのかは三人の判断に任せた。そもそも僕はこの世界のことを何も知らないからね。
この国、リメリア王国と領土を接している国は二つ。一番距離が近いのがアルジーラ帝国で、国境の街までは西へ馬車で二十日程度。次が聖イルミナ共和国で東に馬車で三十日程度かかる。
僕たちが向かう場所は聖イルミナ共和国だ。アルベロとキャットアイはこの国で暮らしていたことがあるそうだ。ということで、馬車で進む道すがら話を聞きたいと思う。
「ねぇアルベロ。聖イルミナ共和国ってどんなとこなの?」
「端的に言うと宗教国家ね」
王様がいない代わりに、国民から代表として選ばれた人たちが政治を行うらしい。
「権力が集中しなそうでいい国なんじゃない」
「そうでもないわ」
国民の九十パーセント以上がイルミナ教の信者なので、イルミナ教の教皇が毎回代表に選ばれるらしい。
「権力が一極に集中してるよ!」
「えー、大丈夫なのー?」
僕と同じく心配するのはルイーズだ。彼女も国を出るのは初めてのことなので、この世界の知識を除けば立場は僕と同じになる。
「私利私欲で政治をするほど汚職にまみれてはいないから平気よ」
「そのへんは一応聖職者にゃ。信者が見ている前であまりにもひどい政治はできないにゃ」
それならばやっぱりいい国なのではないかと思うのだけど、異宗教を伝える人や信仰を妨げる人に対しては相当厳しい罰が待っているらしい。
こういった罰に対しては国民も一丸となって賛成してしまうので、聖イルミナ共和国ではイルミナ教に入信しておくのが安全らしい。
「聖イルミナ共和国に入ったら洗礼を受けて十字架のネックレスをもらうにゃ」
「えっ、全員?」
「ルイーズとニールだけにゃ」
どうやら、聖イルミナ共和国に住んでいたアルベロとキャットアイはすでに洗礼を受けているらしい。手元には昔に買ったイルミナ教の十字架のネックレスをじゃらじゃらさせている。
この国、本当に大丈夫なのだろうか。
「イルミナ教信者ならいろいろとお得なのよ」
「割引や特典がすごいにゃ。宿も屋台も冒険者ギルドのクエスト報酬も変わってくるにゃ」
「そんな隅々まで特典が……」
「だから、長く滞在する冒険者や住んでいる人たちは進んで洗礼を受けるにゃ」
それは信仰なのだろうか。でもお得なら入信した方がいいのかもしれない。
でも、本当にいいことだけなのだろうか。
「イルミナ教のデメリットはどうなの?」
「冒険者の場合は毎月お布施が必要になるの」
「お布施ですか」
急に宗教っぽさが出てきた。
「お布施をすることによって街のサービスがさらによくなるにゃ。食堂で一品サービスになったり、ドリンクが付くにゃ」
「ランク分けがあって、お布施をすればするだけ見返りがあるのよ」
「へぇー」
お布施とサービスの見極めは大事な気がする。あまりのめり込むのも危ういよね。つまり、普段のクエストで徴収される税とは別にお布施というものもあると。
「カルメロはお布施によって男爵位を得たにゃ」
カルメロさん、あなたもはまっていたのか。
「わかりやすくお金で爵位を買えるわね」
「男爵になると聖イルミナ共和国で支払う法人税が減額されるにゃ」
「あー、なるほど。それで男爵位を」
「貴族に憧れがあったらしいにゃ」
「……そうですか」
貴族みたいなお屋敷に住んでると思ったけど、本当に貴族だったのか。
「一代限りの男爵位らしいにゃ」
「貴族が増えすぎても困るから一代だけの男爵位を売ってるみたいね」
意外に商売上手な宗教国家なのかもしれない。
「あとね、イルミナ教には聖獣信仰があるの」
「聖獣信仰?」
「アルジーラ帝国ではなく聖イルミナ共和国にした理由の一つにゃ」
聖獣ホワイトドラゴン。
どうやらルリカラのことも国選びに影響があったようだ。
「聖獣信仰のある国なら、何かあった時に守ってもらえる可能性があると思ったの」
「このパーティはリメリア王国を敵に回すことになるにゃ。国を脱出しても何かしらの影響を受ける可能性は否定できないにゃ」
つまり、国を出たからもう大丈夫ということにはならないらしい。それならば、聖獣信仰のある聖イルミナ共和国の庇護を受けようということらしい。
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