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65 ミストマウンテンへ

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 三日間の旅を終えてようやく山の中腹にある町ミストマウンテンに到着した。

 山を削って造られた町で、家は平らな場所に集中して建てられている。切り立つように見える壁はここが鉱山として採掘されてきた場所なのだと理解させられた。

「まるで温泉地みたいに煙があがってるね」

「温泉ってなにー?」

 この世界に温泉という習慣はないのだろうか。お風呂自体も無属性魔法の『清浄』があるせいか貴族の家でもない限りないそうだからね。

 冒険者として旅をしていると、どうしても熱いお湯に浸かりたくなるのは仕方のないことだろう。

「地面から熱いお湯が吹き出る場所があるんだ。そのお湯に浸かると疲れがとれたり、元気になるんだよ」

「貴族の入るお風呂みたいなやつだねー」

「ちなみに、あの煙はその温泉ってやつではないにゃ」

「違いましたか」

「あれは鉱石の純度を高めるためにインゴットにする作業所にゃ」

「そんなことまでしているんですね」

「その方が高く売れるし、小さな鉱石も溶かすことで売り物になるとカルメロが考えたにゃ」

 すごいなカルメロ商会。

 ちなみに、ミストマウンテンにやってくる人のほとんどは商人で、食料を持ってきて、代わりにインゴットを王都へ輸送するのだそうだ。

 逆に商人以外の人が行き来するのは稀で、ほとんどの場合は罪人を運ぶ時ぐらいらしい。ダンパー、元気にやってるだろうか。

「着いたにゃ。あそこに見えるのがお世話になる家にゃ」

 見えてきた家はこのあたりで一番大きく、さすがはカルメロ商会のご自宅と一目でわかるものだった。二階建てで庭も広くお手伝いさんと思われる人が何人か働いている姿がある。というか、これは家じゃなくてお屋敷だ。

「この平坦な土地の少ないミストマウンテンで庭まで持てるというのがすごいわね」

 アルベロが驚くのも無理はない。確かにこの家なら何も言わずに僕たちを泊めてくれそうな雰囲気がある。そんな豪華さを感じざるをえない。

「邪魔するにゃ」

「これはキャットアイ様。ようこそおいでくださいました」

「ビビアンはいるにゃ?」

「はい。奥さまは工房で作業中でございます」

「仕事中だったにゃ。なら、先に部屋に行って待たせてもらってもいいにゃ?」

「もちろんでございます。そちらの方々は?」

「連れにゃ。部屋を追加で三つ用意してもらいたいにゃ」

「かしこまりました。アンナ、お客様方を部屋にご案内してちょうだい。私は奥さまへ伝えにいきます」

「は、はい。お客様、こちらへどうぞ」

 アンナと呼ばれた少女は緊張気味に僕たちを屋敷の中へと案内してくれた。

 ちなみにこの少女、猫人族である。黒猫の獣人さんだ。語尾がにゃではないのだが、ひょっとしてキャットアイさんだけの仕様なのだろうか。

「仕事には慣れたにゃ?」

「は、はい。キャットアイ様のおかげでよくしていただいております」

「知り合いなの?」

「鉱山で怪我をしているところを拾ったにゃ」

「あの時は死ぬかと思いました。助けていただき、本当にありがとうございます」

「アンナは鉱山探索者として雇われていたのにゃ」

「はい。大規模な崩落が発生して、かなり深い所まで落ちてしまったのですが、たまたま通りかかったキャットアイ様にお助けいただきました」

「たまたま崩落した深い場所を通りかからないでしょ」

「偶然だったにゃ。いい匂いがしたからつられて迷い込んだところにアンナがいたにゃ」

「お守り兼食料として持っていた、これのおかげです」

 アンナがネックレスのように首から掛けているのは木彫りの魚のように見えるが、それはたぶん鰹節? の、ようなものだった。いつから掛けているのかわからないけど、賞味期限は大丈夫なのだろうか……。

「バブルラグーンに行ったから新しいのを買ってきたにゃ」

 キャットアイさんも賞味期限が気になっていたのかもしれない。

「こ、これはソードフィッシュの五年物! よろしいのですか」

「アンナに買ってきたにゃ」

「ありがとうございます」

 キャットアイさんとアンナは仲が良いのかもしれない。同じ猫人族だしね。

「あっ、こちらがみなさんのお泊りになる部屋でございます。扉近くの鐘を鳴らしていただければ近くの者がご用をお伺いにまいります」

「ありがとうございます」

「荷物を置いたらこの先の応接ルームでゆっくりするにゃ。ビビアンも準備ができたらすぐに来るはずにゃ」

 それではと、お言葉に甘えさせていただき、ゆっくりさせてもらうことにした。

 すると、すぐにアンナがお湯とタオルを持ってきたり、移動した応接ルームにはキャスター付きのワゴンで飲み物と焼き菓子を運んできたりと甲斐甲斐しくお世話をしてくれる。

 特にキャットアイさんに対しては恩義を感じているのか母猫に甘えるがごとく懐いている。

 なかなか可愛らしい猫さんだ。

 すると、そこへ走ってくるように、この家の奥さんであるビビアンさんがやってきた。

「キャットアイ来たの! いつも来る前に手紙を出してって言ってるでしょ。食料を取り寄せないとパーティーができないじゃない」

「そういうのするから手紙は出さないにゃ。普通がいいにゃ」

「もうっ! あ、あれっ、この方々は?」

「連れにゃ。アダマンタイトの採掘に来たにゃ」

「アダマンタイト……ですか」
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