65 / 151
64 馬車の旅
しおりを挟む
「馬車の旅は疲れるにゃ」
「そうですね。揺れるし、座りっぱなしだし、あと退屈ですよね」
宵の月亭のおかみさんに相談したところ、塩の味が良く量もかなりもらえたからと、すんなり部屋のキャンセルを了承してくれた。
ということで、アダマンタイトを採取するべくミストマウンテンへと向かうことになったのだ。
「ニールも退屈にゃ?」
「あっ、いえ。僕は見たことのない景色を眺めるのが楽しくて、意外と馬車の旅は嫌いじゃないです」
僕の隣に座っている猫さんは、もちろんキャットアイさんだ。
なんでも亡くなった友人の娘さんが住んでいて、年に一度はミストマウンテンへ行ってお墓に花をたむけるそうだ。今回はこのタイミングで行くことにしたらしい。
意外にも律儀な猫さんだ。
それで、何故一緒に行動しているかというと、ミストマウンテンには普通の宿屋がないからだ。
鉱山は観光地ではないので、基本的にそこに住んで働く人か、鉱山送りにされた者が生活する収容所みたいなものしかないらしい。
しばらくの間ミストマウンテンで生活をする上で拠点をどうするかと悩んでいたところ、キャットアイさんに声をかけられたのだ。
昔の仲間の娘さんがミストマウンテンで暮らしているから、そこを拠点にするといいのではと。しかも採掘に関してもアドバイスがもらえるのではとのことだった。
キャットアイさんの話はまさに渡りに船で、拠点が確保できるのならお願いしようと、トントン拍子に話が進んでしまった。
「でも、急に押しかけて大丈夫なんですかね」
「問題ないにゃ。部屋数もそこそこあるにゃ」
「ねぇ、鉱山の町で部屋がたくさんある家なんてあるの?」
アルベロが不思議に思うのもおかしなことではない。鉱山は暗く狭く、粉塵の影響もあれば、崩落などの危険と隣り合わせの仕事。身を削りミスリルなどの高価な鉱石を掘り当てる。
どの鉱夫も大きなミスリル鉱石を掘り当てて一発逆転を狙っていると思われる。
そんな状況なのだから、住む場所にお金をかけることなど考えられないのだ。なんとなくだけど、掘り当てるまでは慎ましやかに堪え忍ぶイメージしかない。
「旦那はミストマウンテンで罪人を働かせてる商会の会長にゃ」
「えっ、あのカルメロ商会なの」
「アルベロはその商会を知ってるの?」
「最大級のミスリル鉱石を掘り当てた伝説の鉱夫よ」
キャットアイさんの知り合いの旦那さんは伝説の鉱夫らしい。
「つまり伝説の鉱夫にアドバイスをもらえるんですか」
「もっと褒めてくれてもいいにゃ」
これは運がいいというしかない。最近はどこか幸運に恵まれていることも多いけど、それと同じぐらい危険な目にも合っているので一応は注意したい。場所が鉱山だけに。
やはり鉱山ともなると危険はつきものだろうし、カルメロさんにもそのあたりはしっかり教わってから採掘したい。
というか、素人が簡単に採掘とかできるのだろうか。希望を言えばカルメロ商会でアダマンタイトの在庫があることを切に願いたい。
馬車はラウラの森の横を過ぎるようにして山岳地帯へと進んでいく。ここからはゆるやかに登っていく坂道が続いていく。馬にも負担がかかるため、適度に休憩しながら進むことになる。
「そういえば、キャットアイはゴブリンの進化個体について調べていたのよね? 何かわかったの」
「何もわからなかったにゃ。周辺に同様の個体はいなかったし、偶然と思うしかなかったにゃ」
「そうなのね」
あのゴブリンの進化個体がゴブリンファイターだとしたら、そのランクはC+になるとのこと。
王都周辺でそのランクが暴れまわっていたらとんでもない被害が出ていたに違いない。巣もあったことから考えても、気づくのが遅れていたら更に危険度が増したことだろう。
ラウラの森は王都の近くにあるし、ロージー先輩たちのような小さな子供たちが薬草採取を行う場所でもある。そういう場所だけに、調査が無事に終了したことに関しては少しほっとしている。
「そろそろ次の休憩地点みたいだね」
坂道を引っ張ってきたお馬さんたちに水と食事を与えなければならない。僕たちも少し遅めのランチにしようと思う。
「おかみさん、何を包んでくれたのかなー」
ルイーズが宵の月亭のおかみさんが作ってくれたお弁当を開けると、パンに野菜と香ばしく焼いた薄切り肉のサンドが出てきた。
彩りも美しく、パンも焼いてあるようで食感も楽しめそうだ。
「キャットアイさんは……干物ですか」
「最近のお昼はいつもこれにゃ。日持ちがするし、火で炙るといい匂いがするにゃ」
それはそれで美味しそうではあるけど、やはりみずみずしい野菜と香ばしいお肉のサンドには負ける。
「僕のサンドと半分交換しませんか?」
「いいのにゃ?」
「はい、ぜひ。というか、さっきからルリカラが食べたそうにしてまして……」
「なるほどにゃ。では、交換するにゃ」
アルベロはキャットアイさんに慣れてきた気がするけど、ルリカラは未だに慣れないようで警戒感をあらわにしている。やはり人型といっても外見が猫さんだけに警戒してしまうのだろうか。
しかしながら、キャットアイさんが食べていた干物は気にすることもなく美味しそうにパクついている。警戒してるんじゃなかったのか? ルリカラよ。
「そうですね。揺れるし、座りっぱなしだし、あと退屈ですよね」
宵の月亭のおかみさんに相談したところ、塩の味が良く量もかなりもらえたからと、すんなり部屋のキャンセルを了承してくれた。
ということで、アダマンタイトを採取するべくミストマウンテンへと向かうことになったのだ。
「ニールも退屈にゃ?」
「あっ、いえ。僕は見たことのない景色を眺めるのが楽しくて、意外と馬車の旅は嫌いじゃないです」
僕の隣に座っている猫さんは、もちろんキャットアイさんだ。
なんでも亡くなった友人の娘さんが住んでいて、年に一度はミストマウンテンへ行ってお墓に花をたむけるそうだ。今回はこのタイミングで行くことにしたらしい。
意外にも律儀な猫さんだ。
それで、何故一緒に行動しているかというと、ミストマウンテンには普通の宿屋がないからだ。
鉱山は観光地ではないので、基本的にそこに住んで働く人か、鉱山送りにされた者が生活する収容所みたいなものしかないらしい。
しばらくの間ミストマウンテンで生活をする上で拠点をどうするかと悩んでいたところ、キャットアイさんに声をかけられたのだ。
昔の仲間の娘さんがミストマウンテンで暮らしているから、そこを拠点にするといいのではと。しかも採掘に関してもアドバイスがもらえるのではとのことだった。
キャットアイさんの話はまさに渡りに船で、拠点が確保できるのならお願いしようと、トントン拍子に話が進んでしまった。
「でも、急に押しかけて大丈夫なんですかね」
「問題ないにゃ。部屋数もそこそこあるにゃ」
「ねぇ、鉱山の町で部屋がたくさんある家なんてあるの?」
アルベロが不思議に思うのもおかしなことではない。鉱山は暗く狭く、粉塵の影響もあれば、崩落などの危険と隣り合わせの仕事。身を削りミスリルなどの高価な鉱石を掘り当てる。
どの鉱夫も大きなミスリル鉱石を掘り当てて一発逆転を狙っていると思われる。
そんな状況なのだから、住む場所にお金をかけることなど考えられないのだ。なんとなくだけど、掘り当てるまでは慎ましやかに堪え忍ぶイメージしかない。
「旦那はミストマウンテンで罪人を働かせてる商会の会長にゃ」
「えっ、あのカルメロ商会なの」
「アルベロはその商会を知ってるの?」
「最大級のミスリル鉱石を掘り当てた伝説の鉱夫よ」
キャットアイさんの知り合いの旦那さんは伝説の鉱夫らしい。
「つまり伝説の鉱夫にアドバイスをもらえるんですか」
「もっと褒めてくれてもいいにゃ」
これは運がいいというしかない。最近はどこか幸運に恵まれていることも多いけど、それと同じぐらい危険な目にも合っているので一応は注意したい。場所が鉱山だけに。
やはり鉱山ともなると危険はつきものだろうし、カルメロさんにもそのあたりはしっかり教わってから採掘したい。
というか、素人が簡単に採掘とかできるのだろうか。希望を言えばカルメロ商会でアダマンタイトの在庫があることを切に願いたい。
馬車はラウラの森の横を過ぎるようにして山岳地帯へと進んでいく。ここからはゆるやかに登っていく坂道が続いていく。馬にも負担がかかるため、適度に休憩しながら進むことになる。
「そういえば、キャットアイはゴブリンの進化個体について調べていたのよね? 何かわかったの」
「何もわからなかったにゃ。周辺に同様の個体はいなかったし、偶然と思うしかなかったにゃ」
「そうなのね」
あのゴブリンの進化個体がゴブリンファイターだとしたら、そのランクはC+になるとのこと。
王都周辺でそのランクが暴れまわっていたらとんでもない被害が出ていたに違いない。巣もあったことから考えても、気づくのが遅れていたら更に危険度が増したことだろう。
ラウラの森は王都の近くにあるし、ロージー先輩たちのような小さな子供たちが薬草採取を行う場所でもある。そういう場所だけに、調査が無事に終了したことに関しては少しほっとしている。
「そろそろ次の休憩地点みたいだね」
坂道を引っ張ってきたお馬さんたちに水と食事を与えなければならない。僕たちも少し遅めのランチにしようと思う。
「おかみさん、何を包んでくれたのかなー」
ルイーズが宵の月亭のおかみさんが作ってくれたお弁当を開けると、パンに野菜と香ばしく焼いた薄切り肉のサンドが出てきた。
彩りも美しく、パンも焼いてあるようで食感も楽しめそうだ。
「キャットアイさんは……干物ですか」
「最近のお昼はいつもこれにゃ。日持ちがするし、火で炙るといい匂いがするにゃ」
それはそれで美味しそうではあるけど、やはりみずみずしい野菜と香ばしいお肉のサンドには負ける。
「僕のサンドと半分交換しませんか?」
「いいのにゃ?」
「はい、ぜひ。というか、さっきからルリカラが食べたそうにしてまして……」
「なるほどにゃ。では、交換するにゃ」
アルベロはキャットアイさんに慣れてきた気がするけど、ルリカラは未だに慣れないようで警戒感をあらわにしている。やはり人型といっても外見が猫さんだけに警戒してしまうのだろうか。
しかしながら、キャットアイさんが食べていた干物は気にすることもなく美味しそうにパクついている。警戒してるんじゃなかったのか? ルリカラよ。
6
お気に入りに追加
1,821
あなたにおすすめの小説
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。
スキルを極めろ!
アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作
何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める!
神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。
不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。
異世界でジンとして生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる