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37 ダンパー再び
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しばらく休憩して冒険者ギルドに戻ったのは、もう夕方近くになった頃だった。
王都の冒険者ギルドと比べると少しこじんまりとしているものの、食材が多く追加報酬を得られるとあって、市場の解体業者が隣に買取専用の受付けを設けている。
僕たちは解体済みのソードフィッシュ二十体を荷車に山盛りに詰め込んで他の冒険者から注目を浴びていた。
「どうやったらあんなにソードフィッシュを持って帰れるんだよ」
「腕利きの冒険者か?」
「腕利きの冒険者がソードフィッシュを狩るわけないだろ。ランクEの魔物だぞ」
「それもそうか」
ソードフィッシュは狩るうまみが少ないので冒険者には人気がない。まず船をレンタルしなければならない。そして、ランクEなので討伐報酬も少なめ、お肉は買取りしてもらえるけど、とにかく重い。しかも船でしか狩れないから運べる量も決まってくる。
なのに何でこのパーティはこれだけの量のソードフィッシュを持って帰ってきてるのか。そんな疑問は多少あるものの、それでもバブルクラブ狩りをした方が儲けがいいという判断から、興味は別の方へとシフトしてしまう。
「なんで、買取りできねぇーんだよ!」
冒険者ギルドは夕方の喧騒の時間を向かえてとても混み合っている。
そこで注目を集めているのは、どこかで聞き覚えのある怒鳴り声の冒険者。あの後ろ姿は、あんまり会いたくなかったダンパーだ。
まさか、王都ではなくバブルラグーンで会うとは……。
そう、彼は宵の月亭で僕のことを一方的に殴ってきた冒険者だ。
確かその日の夜に騎士団に連行されて禁固刑になったと後から聞いた。その彼が何でバブルラグーンにいるのだろうか。
「王都の冒険者ギルドから連絡が入っておりますよ。冒険者ギルドで課した一週間の排水路掃除の作業を無視して逃げ出したと」
「ちっ、もう、連絡が入ってるのかよ。そもそも何で俺が無償で働かされなきゃならねぇーんだよ」
「法を犯したのなら罪を償う必要があります。今すぐ戻って排水路掃除をしてください。それが終わらない限り、あなたは冒険者ギルドでクエストを受注することは出来ません」
「ふざけやがって。こっちは金もないのにバブルラグーンまで来てやったんだ。王都にはいずれ戻って排水路でもなんでも掃除してやる。お前はいいから討伐報酬と追加報酬を持って来い!」
「話になりませんね。騎士団を呼びますので大人しくしていてください」
「騎士団だとー! どいつもこいつも騎士団を呼びやがって、それもこれも全部あいつのせいだ」
ダンパーが振り返った視線の先にはソードフィッシュを大量に持ち込んでいる僕の姿が見えた。というか、ばっちり目が合っている。
「て、てめー、ニィィィィール!」
完全に頭に血が登っている状態なのだろう。しかもお金が底をついてギルドでお金を稼ぐことすら拒絶されたばかり。
「お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、俺はこんな惨めな思いをしなければなんねぇーってのに。バブルラグーンに女連れでバカンス気分か? あ、ああん? Fランクのニールさんよー」
君が禁固刑の時に同じEランクに上がっているのだけど、それをダンパーが知る由もないか。
すると、大量のソードフィッシュを見たのか態度が気持ち悪く変わっていく。
「なぁー、ニールよー。俺は今までお前のせいでとーっても大変な目に合ってるんだよ。わかるだろー、冒険者同士、困っている時はお互いに助け合うもんだ。たからよー、そのソードフィッシュを俺にくれよ」
「断ります」
「な、何だと? アルベロとルイーズがいるから強気だなー、おい、ニィィィィール! この間みてぇにまた殴られてぇのか?」
ギルド内で喧嘩をすることはご法度。しかしながら、相手は頭に血が登っているダンパーなので殴りかかってくる可能性は否定できない。というか、今度は僕も気は抜かない。
「やめなさい!」
冒険者ギルドの職員さんが止めに入ろうとした瞬間、ダンパーは僕に向かって殴りかかってきた。
アルベロとルイーズが動こうとしたけど、二人を制するように一歩前に出る。
何も考えずに猪突猛進で走ってくるダンパーは、当たり前だけどソードフィッシュよりも断然遅い。
僕を格下だと思っているからこそ生まれる蔑みの表情。
彼の怒りを何故ここまで受けるのか、理解に苦しむところはあるけど、僕もやられるばかりではいられない。
これが異世界のやり方というのなら、二度と舐められないように前へ出る。
ダンパーの攻撃は力任せの右ストレート。拳を強く握りしめ、腕をめいいっぱい後ろに引いている。相手の攻撃がわかっていれば避けるのは簡単。
ギリギリまで動かずに、攻撃がはじまった瞬間を逃さず軸足の左足を踏み抜く。そして、遅れてやってくる力の抜けた右拳をしっかり目で見てかわす。
驚いているダンパーの表情を見ながら、カウンターの右パンチを顎を目掛けて合わせる。力はいらない。勢いをつけてダメージをもらいに来るのはダンパーなのだから。
顎を打ち抜かれ、ダンパーは気を失ったかのように頭から崩れ落ちた。
「やっるぅー、ニール!」
「私も一発ぐらい殴りたかったのに」
喜ぶルイーズと意外にバイオレンスなアルベロ。
すると、ニコニコ顔の冒険者ギルドの受付嬢さんが目の前にやってきた。
「冒険者ギルド内での暴力は禁止されています。しかしながら、今のはダンパー氏による一方的な暴力から逃れるための正当防衛を私が証人として認めます。ありがとうございました。騎士団が来るまでどうしようかと思っていたのです」
ああ、喧嘩両成敗とかじゃなくってよかった。禁固刑になったら二人にも迷惑を掛けることを失念していたよ。
王都の冒険者ギルドと比べると少しこじんまりとしているものの、食材が多く追加報酬を得られるとあって、市場の解体業者が隣に買取専用の受付けを設けている。
僕たちは解体済みのソードフィッシュ二十体を荷車に山盛りに詰め込んで他の冒険者から注目を浴びていた。
「どうやったらあんなにソードフィッシュを持って帰れるんだよ」
「腕利きの冒険者か?」
「腕利きの冒険者がソードフィッシュを狩るわけないだろ。ランクEの魔物だぞ」
「それもそうか」
ソードフィッシュは狩るうまみが少ないので冒険者には人気がない。まず船をレンタルしなければならない。そして、ランクEなので討伐報酬も少なめ、お肉は買取りしてもらえるけど、とにかく重い。しかも船でしか狩れないから運べる量も決まってくる。
なのに何でこのパーティはこれだけの量のソードフィッシュを持って帰ってきてるのか。そんな疑問は多少あるものの、それでもバブルクラブ狩りをした方が儲けがいいという判断から、興味は別の方へとシフトしてしまう。
「なんで、買取りできねぇーんだよ!」
冒険者ギルドは夕方の喧騒の時間を向かえてとても混み合っている。
そこで注目を集めているのは、どこかで聞き覚えのある怒鳴り声の冒険者。あの後ろ姿は、あんまり会いたくなかったダンパーだ。
まさか、王都ではなくバブルラグーンで会うとは……。
そう、彼は宵の月亭で僕のことを一方的に殴ってきた冒険者だ。
確かその日の夜に騎士団に連行されて禁固刑になったと後から聞いた。その彼が何でバブルラグーンにいるのだろうか。
「王都の冒険者ギルドから連絡が入っておりますよ。冒険者ギルドで課した一週間の排水路掃除の作業を無視して逃げ出したと」
「ちっ、もう、連絡が入ってるのかよ。そもそも何で俺が無償で働かされなきゃならねぇーんだよ」
「法を犯したのなら罪を償う必要があります。今すぐ戻って排水路掃除をしてください。それが終わらない限り、あなたは冒険者ギルドでクエストを受注することは出来ません」
「ふざけやがって。こっちは金もないのにバブルラグーンまで来てやったんだ。王都にはいずれ戻って排水路でもなんでも掃除してやる。お前はいいから討伐報酬と追加報酬を持って来い!」
「話になりませんね。騎士団を呼びますので大人しくしていてください」
「騎士団だとー! どいつもこいつも騎士団を呼びやがって、それもこれも全部あいつのせいだ」
ダンパーが振り返った視線の先にはソードフィッシュを大量に持ち込んでいる僕の姿が見えた。というか、ばっちり目が合っている。
「て、てめー、ニィィィィール!」
完全に頭に血が登っている状態なのだろう。しかもお金が底をついてギルドでお金を稼ぐことすら拒絶されたばかり。
「お前のせいで、お前のせいで、お前のせいで、俺はこんな惨めな思いをしなければなんねぇーってのに。バブルラグーンに女連れでバカンス気分か? あ、ああん? Fランクのニールさんよー」
君が禁固刑の時に同じEランクに上がっているのだけど、それをダンパーが知る由もないか。
すると、大量のソードフィッシュを見たのか態度が気持ち悪く変わっていく。
「なぁー、ニールよー。俺は今までお前のせいでとーっても大変な目に合ってるんだよ。わかるだろー、冒険者同士、困っている時はお互いに助け合うもんだ。たからよー、そのソードフィッシュを俺にくれよ」
「断ります」
「な、何だと? アルベロとルイーズがいるから強気だなー、おい、ニィィィィール! この間みてぇにまた殴られてぇのか?」
ギルド内で喧嘩をすることはご法度。しかしながら、相手は頭に血が登っているダンパーなので殴りかかってくる可能性は否定できない。というか、今度は僕も気は抜かない。
「やめなさい!」
冒険者ギルドの職員さんが止めに入ろうとした瞬間、ダンパーは僕に向かって殴りかかってきた。
アルベロとルイーズが動こうとしたけど、二人を制するように一歩前に出る。
何も考えずに猪突猛進で走ってくるダンパーは、当たり前だけどソードフィッシュよりも断然遅い。
僕を格下だと思っているからこそ生まれる蔑みの表情。
彼の怒りを何故ここまで受けるのか、理解に苦しむところはあるけど、僕もやられるばかりではいられない。
これが異世界のやり方というのなら、二度と舐められないように前へ出る。
ダンパーの攻撃は力任せの右ストレート。拳を強く握りしめ、腕をめいいっぱい後ろに引いている。相手の攻撃がわかっていれば避けるのは簡単。
ギリギリまで動かずに、攻撃がはじまった瞬間を逃さず軸足の左足を踏み抜く。そして、遅れてやってくる力の抜けた右拳をしっかり目で見てかわす。
驚いているダンパーの表情を見ながら、カウンターの右パンチを顎を目掛けて合わせる。力はいらない。勢いをつけてダメージをもらいに来るのはダンパーなのだから。
顎を打ち抜かれ、ダンパーは気を失ったかのように頭から崩れ落ちた。
「やっるぅー、ニール!」
「私も一発ぐらい殴りたかったのに」
喜ぶルイーズと意外にバイオレンスなアルベロ。
すると、ニコニコ顔の冒険者ギルドの受付嬢さんが目の前にやってきた。
「冒険者ギルド内での暴力は禁止されています。しかしながら、今のはダンパー氏による一方的な暴力から逃れるための正当防衛を私が証人として認めます。ありがとうございました。騎士団が来るまでどうしようかと思っていたのです」
ああ、喧嘩両成敗とかじゃなくってよかった。禁固刑になったら二人にも迷惑を掛けることを失念していたよ。
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